感想『アイカツスターズ! 31~50話 (1年目最終回) 』早乙女あこ編 - アイドルとして、ファンとして。あこの掴んだ “譲れないもの”

まず最初に、この場を借りてお詫びしたいことが一つ。  アイカツスターズ!』の話数が100話だと聞いた時は、正直「100話も何やるんだ!?」と思っていたし、少なからず「持て余す」だろうと思っていました。 

しかし、いざ前半50話=1年目を駆け抜けてみると、そこにあったのはむしろ「尺が足りない」とさえ思える圧倒的な密度。まるで100話を50話に凝縮したかのような、パンク寸前まで魅力と見所が詰め込まれた最高の50話……。中でも今回自分が鑑賞した31話~50話は、ゆめたちそれぞれの「決着編」や、毎話が最終回のようなテンションで繰り広げられる「S4決定戦」の盛り上がりもあって、本当に、本当に素晴らしかったです……!  素晴らしすぎたので、感想記事が4本になりました。

 

という訳で、今回の『アイカツスターズ!』31~50話 (1年目最終回) 感想記事は、S4決定戦に合わせて「早乙女あこ編」「香澄真昼編」「桜庭ローラ&白銀リリィ編」「虹野ゆめ編」の4本立て。 

この作品がなぜ自分にとって「特別なもの」になったのか、合計40000字を越える一オタクの思いの丈に是非お付き合いください。

 

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(これまでの『アイカツスターズ!』感想は上記からどうぞ!)

 

今回鑑賞した『アイカツスターズ!』は、四ツ星学園の秋フェスを舞台に「ツバサ&真昼&夜空」という驚愕のユニットが披露された第31話『はばたけ、SKY-GIRL!』から、1年目の最終回である第50話『最強のLIVE☆』までの計20話。「アイドル候補生」として走り出した1クール目、「駆け出しアイドル」として試練を迎える2クール目+αを踏まえて始まる、1年目の決戦編と言えるクライマックスパートだ。 

これまでは、ゆめたちだけでなく様々なキャラクターが主役となってバラエティ豊かなエピソードを展開してきた『アイカツスターズ!』だけれど、この決戦編については、物語のトリを飾るS4決定戦に向けてメインの4人=ゆめ、ローラ、あこ、真昼に白銀リリィを加えた5人が集中的に描かれていくことになる。 

そんな彼女たちの軌跡を、まずはS4戦でトップバッターを飾った早乙女あこから振り返ってみたい。

 

 

 

1年間の中で大きく成長・変化してきたゆめたち4人。その中でも特に「変わった」と言えるのが彼女=早乙女あこだろう。

 

文字通り「愛するすばる」のことしか見えていなかったあこが「気付き」を得たのが、第17話『本気のスイッチ!』。 

アイドルという立場を手段にするのではなく、まずは自分自身が輝かしいアイドルになること。そんな新たな目標を掲げて踏み出し (同話でゆめの努力を目の当たりにして、自身の未熟さを思い知ったこともあってか) その視野を大きく広げた彼女は、特に小春との交流からゆめたちと親交を深めていく。その中で露になっていった彼女の素顔は、普段の「斜に構えたお嬢様」とは程遠い「不器用だけど面倒見の良い、ごく普通の女の子」というものだった。

 

 

普段のキャラクター性のためか照れのためか、当初こそゆめたちと素直に仲良くできなかったあこ。しかし、いざ馴染んで日が経ってからは、むしろ奇想天外なことをしがちな彼女たちのツッコミ役に回ったり、口では文句を言いながらそのサポートに入ったり、逆に彼女たちを引っ張ってみせたり……と、まるで彼女たちの世話を焼くお姉さんのような優しい一面を見せていった。 

そんな彼女の優しさが顕著に現れたのが第32話『進め! ゆずこしょう!』の一幕だ。

 

 

「3人1組でユニットを組む」というコンセプトで行われる四ツ星学園の秋フェス。小春との離別、そして「声を失ってしまうかもしれない」という恐怖から立ち直れずにいるゆめは、舞組S4=ゆず、そしてあこによって半ば強引にユニット「ゆずこしょう」を結成することになるも、その表情は沈んだまま一向に変わる気配がなかった。

 

「本当に食べないんですの?」
「ごめん、あんまり……食欲なくて」
「シャーーーーーっ!!」
「うわわぁぁっ! どうしてぇ!? 」
「腹が立つからに決まってるでしょ! あなた、いつだって食べ過ぎなくらい食べてたクセに……なんで食べないんですの!?」
「だって、不安で……。もしまた失敗しちゃったら、応援してくれる人も、友だちもいなくなっちゃうかもしれない。そうなっちゃったら、私……」
「だからフェスに出ないつもりでしたの?」
「っ……」
「ゆず先輩に誘われなかったら出なかったんでしょう? 一人でウジウジしているあなたを見て、小春が喜ぶと思いますの!?」

-「アイカツスターズ!」 第32話『進め! ゆずこしょう!』より

 

ユニットに参加したのは「ゆずの出した交換条件=すばるの情報を得る為」と豪語するあこ。しかし、彼女の真意はゆめを元気付けることにあった。 

すばるの言葉から、自分の気持ちが「 “らしくない” ゆめへの心配と苛立ち」だと気付いたり、落ち込んでいるゆめを小春の真似で励ましたり……。上手く言葉にできていなかったり、一歩間違えれば傷を抉りかねない行為だったりはするけれど、そこにかえって彼女の健気さを感じてしまうのは自分だけではないだろう。 

(ゆずは、2人を誘う前に「あこがゆめを誘おうとするも、上手く切り出せずに失敗する」姿を見ていたため、すばるの情報をダシに2人を引き合わせようとしたとも考えられる。そういうとこですよゆず様……!!)

 

ゆめ、ローラ、真昼といった面々に比べ、自分勝手でワガママ、不器用で素直になれない……といった「毒っ気」があるあこだけれど、根が至って善良な彼女は決して人に危害を加えないため、その「毒っ気」はむしろ魅力でありチャームポイント。 

ある意味「キレイすぎる」ゆめたちの中において、毒っ気のある=「現実にもいる、普通の人間らしい」あこは『アイカツスターズ!』という作品に感情移入する取っ掛かりになってくれるし、普段の態度が跳ねっ返りだからこそ、上記のような優しさや精神的な成長が際立ってもいる。彼女はその毒っ気が抜けるのではなく、毒っ気を保ちながらも成長してみせたからこそ、ここまで愛らしいキャラクターになったと言えるだろう。 

そして、そんな彼女の魅力と成長に貢献した人物がもう一人。

 

「あなた、何しに来たんですの?」
「仕事が早く終わったからさ。そんなことより、フェスに出たのって、やっぱすばるに近付きたいから?」
「……それだけじゃありませんわ」
「ふぅん。俺の分析によると…… “あの子を元気付ける為にユニットを組んだ” 」
「っ!」
「当たり?」
「そっ、そんなことある訳ないでしょう!?」

-「アイカツスターズ!」 第32話『進め! ゆずこしょう!』より

 

M4の一人=吉良かなた。彼は第17話『本気のスイッチ!』以降何かとあこを気にかけており、このように彼のツッコミからあこの真意が明らかになるというくだりが作中何度も見られていた。「かなたがなぜあこを気にかけるのか」は未だ明言されていないけれど、ひょっとすると彼は「自分と似ているあこが放っておけない」のではないだろうか。 

まずもって、2人はどちらも「お互いの気持ちを素直に口にしないorできない」タイプ。器用か不器用かで言えば、間違いなく「不器用」な方だろう。 

加えて、かなたは「俺の分析(データ)によると」が口癖で、あこも「脳内データベース」で度々、カタカタカタ……ピン☆ポン! (これすき) とアイデアを閃いている。「脳内データ」とは、当然ながら最初から備わっているだけでなく、類い希な努力の結果として形作られたもの。これはどちらも「不器用」という自身の欠点をカバーするために2人が積み重ねた努力の結実なのかもしれない。


……と、一見水と油のようでありながら、その実似た者同士のようでもあるかなたとあこ。そう考えると、M4であるかなたから見たあことは「上手くいっていない、過去の自分自身」のように見えるのかもしれないし、そう思うと彼があこを「放っておけない」と思うのも納得だ。   

一方、あこはそんなかなたにいつも食ってかかっているけれど、第37話『トキメキ! クリスマス』では「ゆめがすばると仲良く話しているのを尻目に、かなたとやいのやいのと夫婦漫才 (?) を繰り広げて」いたりと、あこ自身もかなたのことが嫌いではない=彼の振る舞いの根底にあるのが善意であると(意識的にせよ無意識的にせよ)理解している様子。 

すばる一筋でここまで来たあこにはかなたのことなど眼中にないのだろうけれど、第三者視点で見ていると「素直に振る舞えない」けれど「根は純粋で善良」なあこに対し、かなたはその良き理解者。どう考えてもあこにはかなたが必要だし、かなたもあことのやり取りを楽しんでいる / 彼女の成長を喜んでいる節がある。その上2人は「似た者同士」と来ているし、あこには悪いけど正直2人で幸せになってほしい……!! などと思っていた矢先に、またしてもかなたとあこの絡みを見れる良い機会が訪れた。しかし、それはあこにとっての「重大なターニングポイント」でもあり……。

 


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S4決定戦を翌週に控えたゆめ、ローラ、真昼は、それぞれ大きなライブを成功させたことで「特別なグレードアップグリッター」を入手、自分だけのドレスが作れるようになっていた……が、あこは未だにそれを入手できずにいた。それは単なる「運」や「タイミング」の問題ではなかったように思う。

 

「劇組のS4候補か……」
「そう。誰かいる?」
「候補と呼ぶにはまだまだだが……1年生の早乙女あこには注目している」

-「アイカツスターズ!」 第38話『アイカツニューイヤー!』より

 

第38話『アイカツニューイヤー!』では、ひめたちS4が次期S4候補について論じるくだりがあるが、ひめや夜空がゆめたちを「自分についてこれる存在」と評する中、ツバサが口にしたのが上記の台詞。劇組トップの実力者であるあこをツバサは高く評価していたが、同時に「彼女には何かが欠けている」とも感じているからこそのこの評価なのだろうし、あこが特別なグレードアップグリッターを手にできていないのも、彼女がまだ「S4の器」足り得ていないという作品からの示唆だったのだろう。 

第45話では、そんなあこに与えられた最後のチャンスが、そして「彼女に足りないものは一体何なのか」という命題への答えが描かれることになる。

 

「実は、今度の私のステージにゲスト出演してほしい」
「ゲスト出演……? 私が?」
「劇組から何名か出て貰うんだが、早乙女も是非に、と思ってね。桃子先生にも許可は取ってある」
「もちろん出演させて頂きますわ!いつですか?」
「土曜の正午からだ」
「土曜日の、正午……あっ」
「都合が悪いのか……?」
「あっ、いえ……」

-「アイカツスターズ!」 第45話『あこ、まっしぐら!』より

 

劇組のS4であり、尊敬する一人の女優でもあるツバサとの共演ステージ。それはあこにとって、大きなステージを成功させる=特別なグレードアップグリッターを入手する最後のチャンス。しかし、土曜日の正午とは「自身を慕う子どもたちの集まるステージで、あこがライブを披露する」というまさにその時間。どちらかのライブを諦めなければならないという状況を前にして、あこは一体どんな決断を下すのか――。
思えば、「このエピソードが成り立ってしまう」ことそのものが、早乙女あこというキャラクターの個性なのだろう。なにせ、もしこの話の主役がゆめやローラ、真昼であれば前述の「決断」にさほどのカタルシスが生まれることはない。彼女たちなら、間違いなく「子どもたちを優先する」ことが目に見えているからだ。 

しかし、あこの場合は、最後の瞬間までどちらを優先するか分からない。それは、あこという少女がゆめたちに比べて (すばるが絡むことを除けば) リアリストであると同時に、彼女にとって「アイドル」とは少なからず「目的」ではなく「手段」であったから。あこは確かにアイドルとして / 人間として成長していたけれど、それでも彼女の中での「夢>アイカツ」という優先順位は変わっていないのではないか、あこは「ツバサのライブを優先してしまう」のではないか……と、私たちにそう思わせてしまう事実こそが「早乙女あこ」というアイドルの欠落なのかもしれない。実力も十分、仲間を受け入れ、人間的に成長していた彼女は、しかし『アイカツスターズ!』という作品における「 “みんなで紡ぐ輝き” こそがアイドル」という真理に未だ辿り着けずにいたのだ。  

(その真理を知るところから始まったゆめとは、ある意味正反対と言えるかもしれない)

 

そして、あこはそんな懸念の通りツバサとのステージを優先すると決意。断りを入れるために、会場であるデパートに向かったが――。

 

「約束を破るのは心苦しいけど、事情を話せば分かってくれますわ。だって、あの子達は私のファンですもの……っ?」
「あ、こねこちゃんだー!」
「いいでしょう、これ!」
「きにいったー!?」
「どうして……」
「 “ステージが寂しいから飾り付けするんだ” って言い出して……。よほどあなたのこと好きみたい」
「だってファンなんだもん!」
「ファンじゃないよ! だい、ファンだよっ!」
「うん……そうですわね」
(私が……すぱるきゅんファンの私が、ファンの気持ちを一番分かってたはずなのに……)
「ありがとう!」
「へへへ~!!」

-「アイカツスターズ!」 第45話『あこ、まっしぐら!』より

 

「あこ自身がアイドルを愛する大ファンだからこそ、ファンの気持ちが一番分かる」……あこの欠落を埋めるロジックが彼女のすぐ側に最初から眠っていただなんて、こんなにも美しい「解決編」が他にあるだろうか。  

確かに、アイドルとして夢を掴む道程は何もかもが綺麗に行く訳ではない。S4になるためには相手が誰であろうと蹴落とさなければならないように、時には非情になって何かを切り捨てなければならないこともある。 

ゆりが語った通り、あこの抱えたライブはどちらも大切なものであり、デパートのライブを切り捨てようとしたあこの決断そのものは「一人のアイドルの選択」として仕方のないこと、決して間違いではない。しかし、その選択は「早乙女あこ」にとって到底看過できるものではなかったのだ。

 

 

なぜすばるに惚れ込んだのか、1年目時点ではその詳細が語られることのなかったあこ。現状、その唯一の手がかりとなるのは第17話『本気のスイッチ!』で一瞬映る「過去のあこ」と思われる回想シーンだ。 

あこの「私がこの学園に入ったのは、すばるきゅん……あなたに会いたかったから」という台詞をバックに映る彼女の部屋。が、なぜかその部屋はすばるを映すモニターを除いて真っ暗。それは単純に「すばる以外何も見えていない」というメタファーなのかもしれないけれど、この作品が『アイカツスターズ!』であることに鑑みるなら、この異様な絵面に何の意味もないとは思えない。ひょっとすると、あこは誇張でなく、本当に「すばるに人生を救われた」のではないだろうか。そう思える根拠は、決してその「暗い部屋」から受ける印象だけではない。 

ゆめ、ローラ、真昼、そして小春というレギュラーメンバーはいずれも「家族」が描かれている一方で、あこだけは「家族」についての情報が一切描かれていないこと。 

秋フェス (第31話『はばたけ! SKY-GIRL』) において彼女は真っ先にゆめに声をかけ、その誘いが上手くいかなかった途端に「秋フェスどうしよう」と肩を落としていること。 

第28話『ハロウィン☆マジック』において、自分を慕ってくれるが、そう多く交流を持った訳ではない小春のことを「親友」と呼んでいること。 

第32話『進め!ゆずこしょう!』でゆめに「心配かけてごめん」と言われた折、そしらぬ顔で「なんのことですの?」と答えたシーンに代表されるように、日常的につく「嘘(演技)」が非常に上手いこと。 

これらの描写に、日頃から「素直な気持ちを口にすることに不慣れ」なことや、「ゆめたちの輪に入りたい素振りこそ見せつつ、中々入れなかったこと」なども加味すると、彼女は少なからず「友達に恵まれなかった」ないし「家族と上手くいっていない」のでは? という風に考えると筋が通ってしまうし、彼女の演技=「猫を被る」上手さも、それらに起因したものなのでは……と読めてしまう。 

そして、もしそんな状況に苦しんでいるあこを救ったのがすばるであり、その背景を画にしたのが「真っ暗な部屋に灯るすばるの姿」だというなら、彼女が誰よりファンの気持ち=ファンにとって「アイドル」がいかに大きな存在であるかを分かっている、ということにも納得がいく。自分自身がアイドルに救われた存在だからこそ、アイドルに憧れるファンの眼差しを裏切ることは、早乙女あこにとって何より許せない「譲れないもの」だったのではないだろうか。

 

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子どもたちの言葉から「早乙女あこというアイドルにとって、本当に大切なもの」に気付き、子どもたちが飾り付けてくれたデパート屋上のスペシャルステージに立ったあこ。結果、彼女は特別なグレードアップグリッターこそ手にできなかったけれど、この第45話はそのことを押しても余りあるほどに暖かく、幸せな後味のエピソードになっていた。 

その後味を作ってくれたのは、あこが大きな精神的成長を遂げたこと。その成長によって、彼女が遂に「S4の器」たる存在になったこと。自身の選択の是非に思い悩むあこにゆめがかけた「特別なグレードアップグリッターより、もっと大事なものがあるもん。だから、あこちゃんは間違ってないよ!」という言葉……。そして、もう一つ大きなものとして「あこのすばるへの想いがようやく “報われた” こと」があるだろう。
 

『 “On the Radio Music” 。今宵は、吉良かなたと』
『結城すばるがお送り致します』
「すばるきゅん! さぁ、レッスンですわ」
『早速だけど、今日はとあるアイドルの話をしたいと思います』
『へぇ、かなたが珍しいな?』
『その子は、夢に近付く為の大チャンスを蹴ってまで、ファンの為にステージをしたんだ』
『へぇ、カッコいいじゃん!』
『ああ、凄くいいステージだった』
「んっ……えっ?」
『第一、ファンを裏切るなんてアイドル失格だからな。その子はアイドル合格だな!』

-「アイカツスターズ!」 第45話『あこ、まっしぐら!』より
 
「敢えてあこの名前を出さずにその行動を伝える」というかなたの粋な計らいによって、愛するすばるその人から「アイドル合格」の勲章を貰ったあこは間違いなく『アイカツスターズ!』1年目で最高の笑顔を浮かべていた(このあこの笑顔が本ッッッ当に可愛い……!!)し、あこの1年を見届けてきたファンとしてはこの上なく感慨深い、それこそこちらも「報われた」思いになる素晴らしいシーンだった。 

……しかし、それはそれとして、どんなにあこがすばるから賞賛されても、どんなに友人として交流する機会を得たとしても、悲しいことにあこの想いが成就するビジョンは一向に見えてこない。 

さっぱりした性格のすばるは、自分に理想を見すぎているあこからの想いには応えあぐねてしまうだろうし、そもそも当のすばるは明らかにゆめに惹かれているし、そのまま2人がパートナー関係になったらあこの理想はご破算だ。 

とはいえ、仮にすばるがゆめに振られた上であこと付き合うようなことがあったとしても、生真面目で優しいあこはゆめへの想いを引きずってしまうすばるの姿に「自分ではすばるを幸せにできない」という現実を悟って自ら身を引いてしまいそうでさえある。結果、少なくとも自分には、あこの理想は現時点で完璧に「詰んでいる」ようにしか見えないのだ。 

そのこと=あこの想いが最終的に報われないであろうことを踏まえると、前述のラジオのようにあこ(の行い)がすばるにアイドルとして認められたことは素直に嬉しい / 喜ばしいと思えるものの、それをして彼女が「報われた」とはどうにも言い淀む自分がいるのもまた事実。 

勿論、すばるに想いが届かなかったことが即ち「あこの恋には意味がなかった」となる訳ではないし、あこがすばるを好きになったことを後悔する……だなんて、それこそ絶対にありえないだろう。だとしても、だからこそどこかしらで彼女に「報い」があってほしかった。すばるをひたむきに愛し続けた彼女の健気な純真や、ここまで人を好きになれるという才能が、彼女に何かしらの大きな褒章をもたらしてやくれないか……と、そういったことを感じていた上での第45話である。
 

 
あこが自身に足りなかった最後のピースに気付くことができたのは、彼女自身が「すばるの大ファン」であったから。 

また、彼女が本エピソードで描かれたように「子どもたちの人気者」になれたのは、彼女がアイドルになったから=彼女が「すばるを愛していた」から。 

確かに、あこにはこの先も「すばるからの愛」という、彼女が最も欲したものは与えられないのかもしれない。けれども、彼女はすばるへのひたむきな愛によってアイドルとなり、ゆめのような仲間たちと、かなたのような理解者と、子どもたちをはじめとするたくさんのファンと出会うことができたし、アイドルとしての高みへ達することもできた。すばるへの愛は、既に彼女へたくさんの「報い」をもたらしてくれていたと言えるし、 (おそらくこれまで人間関係に恵まれてこなかったであろう) 彼女にとって、それらは何者にも代え難い宝物なのではないだろうか。 

(それに「すばるに魅せられてアイドルになった」あこが、 “子どもたち” という次世代のアイドルたちに最高のステージを見せたのは、他ならぬすばるにとって最も喜ばしいことなんじゃないか、とも思う)

 

 

こうして、特別なグレードアップグリッターの代わりに「アイドルとして大切なもの」を手に入れたあこ。そんな彼女の成長が裏付けられたのが、続く第46話『炎のS4決定戦!』におけるツバサのこの台詞だ。

 

「先輩、私、絶対にS4になりたいと思ってますの」
「なれるんじゃないか?」
「えっ?」
「今の早乙女なら」
「……それだけじゃなくって。明日はツバサ先輩を倒して、トップを獲りたいと思ってますわ!」

-「アイカツスターズ!」 第46話『炎のS4決定戦!』より

 

かつては、あこを「候補と呼ぶにはまだまだ」と評していたツバサ。彼女の評価が変わったのは、間違いなく第45話での一件が大きな要因。彼女は子どもたち=ファンの想いに応えることで、心身揃った、本物の「次期S4候補」になることができたのだ。 

しかし、この作品は『アイカツスターズ!』。彼女がS4としての器を手に入れたからといって、易々と「劇組トップ」の座を明け渡してはくれなかった。

 

 

学園に入ったのも、S4を目指したのも、全てはすばるのため――。であれば極端な話、あこが夢を叶えるには「S4になる」だけで良かった……にも関わらず、彼女は前述のやり取りで「ツバサに勝ちたい」と豪語してみせた。それはきっと、あこの中に「すばるに近付きたい」という恋する乙女の夢とは別に、「アイドル・早乙女あこ」としての夢ができた、ということなのだろう。 

初登場時は、正直なところ「ベタで浮いたキャラクター」だと思ったし、この作品のノイズになるんじゃないか、彼女だけは好きになれなそうだ……などと我ながら散々な感想を抱いていたあこ。彼女が如月ツバサの跡を継ぐS4になるだなんて到底考えられなかったし、考えもしていなかった。 

しかし、彼女に宣戦布告したあこにはツバサを越えてほしいと心底思ったし、すばるの人形ではなく、子どもたちやファンとの絆の象徴の「勝負ドレス」=デイサファリコーデに勝利を誓う彼女には、十分にその可能性が宿っているように見えた。 

しかし――。

 

Dancing Days

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如月ツバサには、届かなかった。 

「特別なグレードアップグリッター」を使わずに1位を獲るという偉業を成し遂げたものの、続いてステージを披露したツバサとの点差は3000点以上。仮に特別なグレードアップグリッターを獲得、専用ドレスを使うことで得点が増加していたとしても、あこの順位は変わらなかったのである。 

(第45話のエピソードを尊重したきめ細かい采配だけれど、初見時はそんなことに感心できる心理的な余裕がなかった)

 

あこはなぜツバサに届かなかったのだろう。何が彼女にはまだ足りなかったのだろう。明言こそされなかったが、その理由の一端を感じさせたのが下記のやり取りだった。

 

「もう二度と戦えないからこそ、私」
「今日勝ったのは私だが、次は分からない」
「え……。次?」
「ああ。もう二度と勝負できない訳ではない、S4戦だけが勝負ではないからな」
「……!」
「私たちは卒業するが、アイドルを卒業する訳ではない。きっと、また同じステージで戦う時があるはずだ」
「先輩、次に同じステージに立つ時は……」
「楽しみにしている。また全力で戦おう」
「はい!」

-「アイカツスターズ!」 第46話『炎のS4決定戦!』より

 

あこに足りなかったのは、きっと「未来を見据える視野の広さ」。技量ではなく、精神的な面でゆめたちに一歩出遅れてしまったからこそ、彼女はその面でまだまだツバサには及ばなかったのだろう。 

けれど、それは裏を返せば「まだまだ成長する余地がある」ということ。新生S4となったあこがツバサと再会し、再び相見えるその時を、一人のファンとして楽しみに待っていたい。

 

So Beautiful Story

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「4人の中で一番変わった」のがあこだと評したけれど、その「一番変わった」点はどこだろう……と問われれば、それはきっとこのシーンに尽きるだろう。

 

「すばるきゅん……。負けちゃいましたわ、私」
『うん、知ってる。でも、S4にはなれるんだろ?』
「ええ、勿論ですわ!……でも、本当は、本当は……勝ちたかったんですわ……!!」

-「アイカツスターズ!」 第46話『炎のS4決定戦!』より

 

すばるに近付ければそれで良かった、S4になれればそれで良かったあこ。彼女はこの1年間で、仲間やファンとの絆を知り、アイドルとしての「譲れないもの」を知り、そして「本気で戦ったからこそ感じる悔しさ」があることを知った。

 

「でも、悔しいって思うのは “頑張ったから” でしょ?」

-「アイカツスターズ!」 第22話『憧れへ続く道』より

 

あこが流した涙は、彼女自身の成長の何よりの証。S4になれた=すばると同じ場所に辿り着けた喜びを、彼女のアイドルとしての矜持、ないし「輝きたい衝動」が上回ったという証。 

ここから始まる、アイドル「早乙女あこ」の本当のアイカツ。彼女の成長に心打たれた一人のファンとして、その姿を心して見守っていきたい。

 

「あこちゃんサイコー!」
「またあの台詞ききたーい!」
「ええ、勿論!……私、何がなんでも、夢を叶えてみせます!」
「もう一回おねがーい!」
「私……何がなんでも、夢を叶えてみせます!
「「もう一回、もう一回!」」
「私は何がなんでも……夢を叶えてみせますわ!」

-「アイカツスターズ!」 第45話『あこ、まっしぐら!』より

 

 

「やっぱり、S4の先輩たち……強い!」
「今度は私の番。お姉ちゃんに、勝ってみせる!」
「次回、アイカツスターズ!『香澄姉妹、対決!』掴め、アイドル一番星!」

-「アイカツスターズ!」 第46話『炎のS4決定戦!』より