感想『アイカツスターズ! 99話』 白鳥ひめという偶像、桜庭ローラというライバル。“ふたりの忘れ物” が導く、それぞれの原点と未来図

それは、3ヶ月前のことだった。

 

 

第86話『涙の数だけ』視聴後、情緒不安定な状態でぬけぬけとこんなことを呟いていた矢先、続く第89話でひめから衝撃的な発言が飛び出した。

 

「ドレスを制する者が、アイカツを制す……。これが、世界を巡った私の答え」

-「アイカツスターズ!」 第89話『星々のダイアリー』より

 

このタイミングでこの発言、自分はひめが何らかの形でアイカツ!ランキングに乱入するものとばかり思っていたのだけれど、その予想は根本的な所で間違っていた。そもそも、白鳥ひめとは『アイカツスターズ!』における頂点そのもの。作中においてアイカツ!ランキングは「世界一のアイドルを決める戦い」と言われていたけれど、その正体は「白鳥ひめへの挑戦権を懸けた戦い」に他ならなかったのだ。  

かくして、決勝を制したゆめに与えられた最終決戦の切符。しかし、第99話『ふたりの忘れ物』というサブタイトルが指すのは「ゆめとひめ」の2人ではなかった。 

続く第100話の内容を踏まえると、今回こそが本当の「実質的な最終回」。そんな第99話の主役となった “彼女” は、一体何を忘れており、ひめとゆめの戦いに何を見出したのか。第49話『一番星になれ!』から一年を経て改めて描かれた、ゆめたち3人それぞれの物語を振り返ってみたい。

 

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(第98話以前の感想は、こちらの記事か『アイカツスターズ!』タグからどうぞ!)


《目次》

 

 

「M4」が辿り着いた場所

 

ヴィーナスアークとの別れ、そして上級生組=ゆず&リリィのラストエピソードが描かれた97・98話。S4戦が描かれなかったことでいよいよ内容が予想できなくなってしまった99話だけれど、ゆめとローラがフィーチャーされたアバンと『ふたりの忘れ物』というサブタイトルに思わずグッと拳を握り、そのままスン……と力が抜けてしまった。当然と言えば当然なのだけれど、ここでゆめとローラの物語が描かれるということは、ローラ自身は勿論、小春、真昼、あこもこれ以上の単独主役エピソードは描かれないということ。これまで誤魔化し続けてきた『アイカツスターズ!』との別れにいよいよ覚悟を決めなければならない時が来たのだ。  

……と、そんなこちらの寂しくも感慨深い気持ちを最初に代弁してくれるのが「アンナと諸星学園長」であるところに『アイカツスターズ!』という作品の誠実さを感じて熱いものが込み上げてきてしまった。

 

「似た者同士ですね、あの子たち」
「というと?」
「虹野はああやって桜庭のために、仕事の合間に走り回っている。桜庭も時間がない中、虹野のために幹部とミーティングを重ねている……。初日から遅刻したり、ステージで倒れたり……色々ありましたけど」
「成長したな、2人とも」

-「アイカツスターズ!」 第99話『ふたりの忘れ物』より

 

アイカツスターズ!』には様々な大人たちが登場するけれど、ゆめ・ローラを見守ってきた存在と言えばやはりこの2人。自分は年齢的に先生側の人間なので、彼女たちの成長に目を細める2人の姿に深々と感情移入してしまうし、彼らもまた「ゆめ・ローラの成長によって報われた」のだろうと思うと、まるで自分のことのように嬉しくなってしまう。  

(ひめ&ゆめのエキシビジョンステージを “諸星姉弟が揃って見守る” 姿に涙してしまったのは自分だけではないはず……!)

 

思えば、彼ら以外にも『アイカツスターズ!』には「子どもを見守る大人たち」が数多く登場していた。八千草・デーブ・玉五郎の先生チームやヴィーナスアークのじいや、ベリーパルフェのプロデューサー・デザイナーたちに、内田永吉を初めとする様々なゲストキャラクターたち……。出番は少なくても、彼ら大人たちの言葉にはそのことを忘れさせるほどの説得力があり、ここぞという時に「大人の視点」からゆめたちを導く彼らの背中が、ゆめたちアイドルの成長……転じて「物語の説得力」に繋がり、作品全体をグッと引き締めてくれていたように思う。  

そして、そんな大人たちよりも近い立場からゆめたちを導いていたのが、ひめたちS4、そしてすばるたちM4だ。

 

 

四ツ星学園男子寮のトップスターであるアイドルグループ=M4。女児向けアニメ作品とはあまり縁のない人生を送ってきた自分からすると、彼らは所謂「学園のプリンス」枠にしか見えなくて、『アイカツスターズ!』という作品の力を知らなかった当初は「あまり見せ場もなくフェードアウトしそうだな」という先入観さえ持っていた。 

しかし、程なくして彼らは「そんな枠に留まる存在じゃない」ことをストーリー上ではっきりと示してくれた。

 

「少なくとも、あの2人はお前のライブを楽しみにしてるんだ。……ちなみに、俺なんて1枚だ」
「え?」
「初ライブで売れたチケット」
「たった1枚!?」
「数なんて関係ねぇだろ。目の前の1人のファンを満足させれば、それは10人になって、100人になって……いつか1000人になるんじゃねぇの?」

-「アイカツスターズ!」 第10話『ゆめのスタートライン!』より

 

「あのさ……。お前、何のためにアイドルやってんの? すばるのためにアイドルやってんの? 本当に、それでいいの?」

-「アイカツスターズ!」 第17話『本気のスイッチ!』より

 

ゆめとあこの2人に「過去の自分」を見てしまったからなのか、すばるとかなたは何かと2人を気にかけつつ、それぞれのやり方で道を指し示していく。その誠実でストレートな言葉は、先生よりも近く、しかしS4よりも隔たりがある……という独自の距離感を持つM4だからこそ示すことができた、文字通りの「道標」であったように思う。

 

 

この時点で「あまり見せ場もなくフェードアウトしそうだな」という自分の先入観を覆してくれたM4だけれど、ここから彼らはより踏み込んだ関係性の変化、有り体に言うなら「恋愛」の色を漂わせ始める。 

自分は、性別問わず恋愛描写の好き好みが激しくて、歯に衣着せず言うなら「とりあえずくっつけました」的な恋愛 (のような何か) をお出しされると一気に醒めてしまう面倒くさいオタク。なので、当初M4が出てきた時もそこが懸念点だったのだけれど、幸い本作の恋愛描写はその真逆=とても丁寧かつ「アアアアァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」 (良い意味で) 悶えたくなってしまうような代物ばかりだった。

 

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あことかなたの関係性については、これまでもこちらの記事などで触れてきた通り。かなたの不器用ながら実直な「無償の愛」が徐々にあこの心を動かしていく様には見ているこちらもドキドキさせられてしまったし、溜めに溜めた88話で、遂にあこの口から「吉良かなた」の名前と「ありがとう」が飛び出した瞬間には頭をゴンゴン打ち鳴らさずにはいられなかった。 

一方、これまで記事で触れる機会はなかったけど、ゆめ×すばるの関係性も自分にとっては十分すぎる特大事案。未熟でひたむき、かつ「M4・結城すばるを何とも思っていない」稀有な存在であるゆめに対し、かつての自分を重ねてか「良き先輩」として接し続けていたすばる。ゆめの成長につれて2人はいつしか「良き友人」になっていき――と、この1年目序~中盤の展開だけでも自分は大好きだったのだけれど、2人の関係性に叩きのめされてしまったのは第37話『トキメキ!クリスマス』でのこと。

 

「なんだ? うまくいかなかったのか?」
「ううん、ライブは大成功だったよ。私も全力でやったし、皆も喜んでくれた。でも、もっと何かできたんじゃないかな~って思っちゃうんだよね!」
「……! 俺も同じこと考えてた」
「えっ?」
「ファンも仲間も “良かった” って言うけど、俺は満足できない。もっと凄い、もっと良いステージにしたいって思っちまう」
「だよね! ……あんな風になりたいな。誰よりも高いところで、誰よりもキラキラ輝く、一番星みたいに!」
「……一番星、か。道のりは長くなりそうだな」
「分かってるよぅ! でも、絶対なるんだから!」 

(中略) 

「ちょっと、どいてくれるかな……!」
「んっ?」
「重いんですけどぉ……」
「ご、ごめん!」
「ふぅ……」
「ありがとう、すばるくん! ……あれ、どうしたの? 顔真っ赤だよ?」
「えっ、うおあぁぁっ!?」
「ふふっ、ゆでタコ……」
「う、うっせ……」
「じゃあねっ!メリークリスマ~ス!!」

-「アイカツスターズ!」 第37話『トキメキ!クリスマス』より

 

こんなん!!!!!!!惚れるに!!!!!!!!!!!!!!決まっとるやろがい!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!  

最初はゆめを妹のような気持ちで見守っていたものの、徐々に彼女に肩入れしてしまい、第36話で彼女の克己を見届け、トドメとばかりにここで初の「すばるくん」呼び。ホラー映画の王道として「観客が “これは何だろう?” と身を乗り出したタイミングにホラー演出を叩き込む」というものがあるけれど、これも実質的には同じもの。数ヶ月もの時間をかけて、すばるからゆめに「大丈夫か?」「心配だな」と歩み寄らせたところに、36・37話で特大のキラめきを叩き込む必殺のカウンターパンチ。こんなん胸を撃ち抜かれないハズがないし、少なくとも自分は引くほどすばるに感情移入してダメになってしまった。  

第37話『トキメキ!クリスマス』は、第36話『虹の向こうへ』での克己を経たゆめがセルフプロデュースの権化と化す=本格的に輝き始めるエピソードでもあるので、この回ですばる同様ゆめにハートを握り潰されたのは自分だけではないはず。これが……これが「胸がキュンキュンする」ってヤツ……!?

 

 

こうして、ゆめに「すばるくん」呼びをされたことですばるは見事陥落。続く第43話『チョコっと歌にこめる想い☆』ではとうとう「ライバル」として認め合う (こちらまで変な汗をかいてしまう「ゆめからすばるへのチョコ」のくだりも大好きだけど、ここでゆめが「M4の輝きを知る」過程を入れてくれたのが素晴らしかった……!) に至り、あことかなたも前述の第87話で「あこがかなたを意識してしまうようになる」と、この上ないフラグを立てた2組だけれど、悲しいかな、この4人での具体的な「進展」はそれ以上描かれることはなかった。……けれど、それは考えれば考えるほど「仕方のないこと」だと思えてならない。 

まずはあことかなた。お互いに真意を口に出さない2人だけれど、第87話時点で2人が互いに特別な感情を持っているのは明らか。後はもう一押し――なのだけれど、如何せんそのもう一押しに問題がありすぎる。というのも、あこはすばるという「憧れの王子様」もいれば、きららという「相思相愛の相手」もいる。もしこれ以上あこ×かなたの関係性を進めようとするなら、きららとの間に「優劣」をつけることになってしまうし、あこの中で「すばるへの憧れ」に引導を渡す為のエピソードも必要になってしまうだろう。  

そこまで「恋愛」という概念やジェンダー的な問題に踏み込んでしまうのは『アイカツスターズ!』の本題から逸れてしまうし、本作の「1話辺り約15分」という尺で消化するには無理があるだろう。かといって、この問題に数話かけるには話数が足りないのもまた事実……と、考えれば考えるほどがんじからめ。その先へ無理に突っ込むのではなく「あこがかなたに振り向いた」という一番美味しいタイミングで2人の物語を終えたことはまさに英断だったと言えるし、ファン、きらら、そしてかなたといった「自分を見てくれる人」にどう向き合うかが成長の肝だったあこにとって、それは何より美しいエンディングだったように思えてならないのだ。

 

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こうして、まさに「やれるところまでやりきった」感のあったあことかなた……に対して、件の第43話以降大きな進展を見せることがなかったゆめとすばるの物語。けれど、それこそ考えるまでもなく「仕方のない」ことだと思う。何せ、ゆめには桜庭ローラと七倉小春という最高のパートナーたちがいる。残酷な話だけれど、ゆめの中には「すばるが入ることのできる余地」が最初から存在しなかったのだ。

 

 

片や『劇場版アイカツスターズ!』、片や第72話『二人の一番星☆』で実質的な告白ないしプロポーズに至っており、作品が作品なら間違いなく手を繋いだりおでこをくっつけたりでは済まなかったであろうゆめとローラ / 小春の関係性。「同性かつ相思相愛のパートナーがいる」という点ではあこ&きららも同じなのだけれど、 

・あこの物語には最初から「男女恋愛」の前提があった (すばる絡み)  

・あこときららの関係は「2年目」から 

・あことかなたの関係は「1年目」から 

といった前提条件を考えると、あこの物語においてはむしろ「あこ×かなた」の方が先に発生していたもの。結果的に、描写の多い「あこ×きらら」と、長く積み上げられてきた「あこ×かなた」で、丁度良い塩梅に釣り合いが取れているように思えるのだ。  

対して、ゆめ×すばるの場合は 

・ゆめの物語には「恋愛」の前提がない (当初はM4に対して興味ゼロ)  

・ゆめとローラ、ゆめとすばるの関係はどちらも「1年目」から 

・ゆめと小春の関係は「入学以前」から 

……と、その前提条件は概ね「ローラと同程度かつ小春未満」というもの。これに加えて、作中では当然「ゆめ×ローラ」「ゆめ×小春」に比重が置かれる為、ゆめにとってのすばるがローラや小春よりも重要な存在になる理由がなく、すばるがゆめに告白したとしても結果は見えてしまっているのだ。 

結果、ゆめ×すばるの関係は、あこ×かなたとは違った意味で「これ以上進められない」ものであり、第43話以降進展がなかったのも仕方がないと言えるのではないだろうか。  

(仮にすばるが告白→ゆめが振る、といったシナリオがあった場合、ゆめにもすばるにも遺恨が残ってしまうだろうし、それを解消する為には相応の尺が必要になってしまうが、前述の通りアイカツスターズ!にそんな尺の余裕はないし、あこが関係せざるを得なくなるので尚更だろう)

 

 

アイカツスターズ!』は全100話という長期作品。最初から全ての話数にプロットが立っていた訳ではないだろうし、むしろ全100話でありながら「中だるみがなく、最初から最後までずっと面白い」「レギュラーキャラクター全員の物語が美しく完結している」時点で破格の完成度と言えるだろう。 

このことを踏まえると、あくまで準レギュラーでありながら一貫した物語を持ち、綺麗に締めてくれたかなたの物語こそがイレギュラーと言えるだろうし、すばるの物語がにっちもさっちも行かなくなってしまったのは殊更に「仕方のない」こと。ましてあさひと小春、のぞむとアリアの件にツッコミを入れるのはそれこそ野暮だろう……と、そんな予防線を張っていたので、第99話ですばるが――それも「ゆめが男子寮に迷い込む」という第1話そっくりなシチュエーションを経て――登場した時は変な声が出そうになってしまったし、こちらが想像していたよりもずっと潔く、誠実な「決着」ぶりには内心頭を下げずにはいられなかった。

 

「丁度良かった。言いたいことがあったんだ」
「言いたいこと?」
アイカツ!ランキングの優勝とS4決定戦の連覇、おめでとう」
「ありがとう!」
「それと……」
「んっ?」
「お別れだ」
「えっ、何で!?」
「いやっ、別に会えなくなる訳じゃないんだけど……俺の、気持ちの問題」
「気持ち?」
「お前のステージを見て、俺ももっともっと世界で勝負しなきゃって思った。だから、ちゃんと肩を並べられるアイドルでいたいから……それまでは、アイカツに集中する」
「分かった、ライバルだもんね!」
「ライバルぅ!?」
「え、違った!? 同じアイドルとして、そのっ……」
「……ふんっ」
「ひっ!? あ……すばるくんも頑張ってるし、私も負けてられな――痛ったぁ~~っ!!」
「続きは、俺が世界一になってから!」
「もう~っ!」
「じゃあな、虹野ゆめ」
「……気持ちの問題、かぁ」 

「見ーちゃった!」
「うぉあっ!?」
「ほぼ告白、みたいな?」
「うっ」
「完全にスルーされたけどな」
「お前ら……!」
「いいなぁ~、青春だよねぇ」
「あはははっ!」
「やめろぉぉ~~~っ!!」

-「アイカツスターズ!」 第99話『ふたりの忘れ物』より

 

いつか世界一になり、ゆめに正面から想いを伝えられるよう、ひとまず自分の気持ちに「決着」を付けるという潔さ。そして、そんな彼の行動こそが、ゆめが「忘れ物」を見付けるヒントになる――。第87話のあこ×かなたよろしく「このがんじがらめの状況下で、こんなにもピンポイントな “正解” を叩き出せるものなのか」と感動してしまったし、彼のゴールが「ゆめの歩みを受けて、自分も “世界一” を目指して新たな一歩を踏み出す」であることには特別な感慨もあった。 

というのも、すばるとは「ゆめと共に走る訳ではないが、その歩みを最初から見守り、やがて魅了された」人物。則ち、ある意味作中で最も「我々視聴者の目線を代弁している」キャラクターとも言える。  

アイカツスターズ!』を最終回まで見届けて、自分も「本気で夢を追ってみたい」と思わされた身としては、そんなすばるが最終的に「夢に向かって新しい一歩を踏み出す」という爽やかなゴールを見せてくれたことには、まるで作品を見ている自分まで背中を押して貰えたような頼もしさがあった。観客として競い合うゆめたちを見ていたところに「俺たちも頑張ってみようぜ」と肩を叩いてくれる――あるいは『アイカツスターズ!』という作品とこちら側の架け橋になってくれる存在。それこそが「結城すばる」だったのかもしれない。

 

 

虹野ゆめの “忘れ物”

 

すばると会った翌朝、ゆめはローラから「一緒に忘れ物を探さない?」と持ちかけられ、彼女と共にこれまでの思い出を辿ることになる。  

(すばるが玉砕した直後に “これ” をお出しするの、作品の思想が露骨すぎやしません!?)

 

この時点での自分は (次回予告を見てないので)「ふたりの忘れ物=もう一度ステージで競い合うこと」だろうと思っていたのだけれど、2人が1年目の印象的なスポットを巡り、やがて「例の海岸」に辿り着いたことで「あっ………………」と声が出てしまったし、その答え合わせをするかのように現れたひめの姿には思わず息を呑んでしまった。 

1年目で2人が戦ったのは第49話、そして今回は第99話。自分は第100話でひめとゆめの戦いが描かれるだろうと予想していたのだけれど、思えばこの第99話ほど2人の再戦に相応しい話数もない。そんなことを考えつつ、真っ直ぐに “気持ち” をぶつけるゆめと目を細めるひめの姿で涙腺を緩ませながらも、この時の自分は「ひめの “切り札” 」のことで頭が一杯になっていた。

 

「ゆめちゃんとの勝負、どうだった?」
「私は、世界で最も強い光は太陽だと思っていた。でも “一つの星の輝きに照らされて、周りの星々も輝き、空全体が光に満ちる” ……あんな輝き方があるなんて知らなかったわ」
「そうね。世界には知らないことや、驚くことがまだまだたくさんあるわよ!」
「それは……!?」
「ふふっ、私の切り札よ。これを見たら、ゆめちゃんもとっても驚くでしょうね」
「ヒメ シラトリ……。貴女という人は」
「勝負もアイカツもどうなるか分からない、だから面白い。そう思わない?」

-「アイカツスターズ!」 第97話『Bon Bon Voyage!』より

 

ヴィーナスアークを解散しようとするエルザを、ひめが言葉巧みに (ポーカーの勝敗まで逆手に取って) 説得するという、グッと来る一方で彼女の底知れない強かさに変な笑いが漏れてしまうこのシーン。ここでひめが明かした切り札=「月」のアイカツカードの衝撃たるや凄まじいものだった。 

ひめの切り札が「エルザさえ存在を知らなかった、10番目の星のツバサ」というところまでは予想できていたけれど、その天体はなんと太陽と対になる「月」。『MUSIC of DREAM!!!』OP映像でひめが月を見上げてたのってそういうことだったのか――! と、ここで「やられた」と感じている自分はまだまだ『アイカツスターズ!』素人だった。

 

「永遠の輝きを放つ “月のドレス” 。しなやかな美しさと真の強さを秘めた、エターナルプリンセスコーデ……。金色に輝く羽が、私を未来へと導いてくれる」

-「アイカツスターズ!」 第99話『ふたりの忘れ物』より

 

月の「星のツバサ」じゃなくて「月のドレス」!?!?!?!?  

確かに、第89話時点での自分は「これ銀河のドレスだろ!!」などと騒いでいたけれど、ひめがエルザに見せたカードがツバサのカード1枚だったことで (第89話でひめが持っていたカードの枚数を忘れて) ひめの切り札=月のツバサだと思い込んでいたし、ひめの口から「エターナル」の文字が出てきてひっくり返ってしまった。「太陽のドレス」が複数存在することのサプライズが第96話の肝だったのに、そこから更に「月のドレス」を出してくる『アイカツスターズ!』、そういうところ (が大好き) だぞ!!  

(「月のドレスを誰にも知られることなく手に入れ、今の今まで隠し通してきた」ひめの物語はそれだけで優にアニメ1クールが作れる内容だし、『アイカツスターズ!』は本当に最後まで第25代S4の「敢えて語らないからこそ作品に深みが出ているのはとても分かるけど、それはそれとして見せてくれ!!」案件が盛り沢山だった……)

 

 

しかし、ここでひめが明かした切り札が星のツバサではなく「月のドレス」であったことは、則ち太陽のドレスを手にしたゆめと対等に戦う条件が揃ったということ。そんな2人の純然たる「実力勝負」に相応しく、ゆめとひめが共に歌い上げるのは『スタートライン!』

 

スタートライン!

スタートライン!

  • せな・りえ from AIKATSU☆STARS!
  • アニメ
  • ¥255

 

これまでも数度同じステージで並び立ち、第16話『ミラクル☆バトンタッチ』では『スタートライン!』を共に唄っていたゆめとひめ。けれど、今ここで同格のドレスを纏い、同じステージで同じ歌を唄う2人の姿を見ていると、不思議とそれが「初めて2人が並び立った瞬間」のように見えてしまう。そう思わせてくれる程に成長したゆめの姿が、一見実力差のあるこの戦いを「どちらが勝つのか分からない」もの=文字通りの “決戦” へと昇華させていた。 

白鳥ひめというアイドル=1年目における「越えられなかった壁」の象徴であると同時に、第10話では真の「ゆめのはじまり」を彩ってもいた『スタートライン!』。そんな前提に加えて「アイカツスターズ!にハマったきっかけの一つ」という個人的な文脈まで乗っているこの歌が (本作の、事実上の) 最終決戦を飾る……というのは、半ば予想していたとしても涙せずにはいられなかった。むしろ、展開を予想できていたからこそ「予想以上の感動が押し寄せてくる」事実に尚更胸を打たれてしまったのかもしれない。  

そして、そんな『スタートライン!』の一節――「輝きたい衝動に素直でいよう」というフレーズこそが、この戦いの命運を分けたものだったように思う。

 

「それでは、結果発表です!」
「よりステージで輝いていたアイドルが、勝者となる。勝ったのは――虹野ゆめ!」
「……!」
「おめでとう、ゆめちゃん! 素晴らしいステージだったわ……!」
「ひめ先輩……」

-「アイカツスターズ!」 第99話『ふたりの忘れ物』より

 

ドレス、ステージ、そして歌。同じ条件下での戦いだったからこそ、それは紛れもないゆめの勝利。しかし、技術などで周囲に劣る面もあるゆめが、長らく絶対王者として君臨してきた最強のアイドル=ひめを上回ることができた「決め手」とは何だったのだろう。 

この勝敗について考えていくには、このステージから更に遡り、2人それぞれの「在り方」について振り返っていかなければならない。

 

 

 

ひめのスタートライン!

 

歴代S4屈指の実力者、そして世界レベルの歌姫であり、S4決定戦を待たずしてS4の座に就いたという特異な経歴を持つ「アイドルすぎるアイドル」=白鳥ひめ。彼女は人格面でも確かな強さと優しさを持ち合わせており、まさに非の打ち所がないトップスターそのもの。 

アイカツスターズ!』を見始めて間もない自分にとっては (諸星学園長とのやり取りなどもあって) その完璧ぶりがかえって「裏があるのでは」と怪しく見えたのだけれど、程なくしてそれが勘違いだったこと、そして彼女には全く別種の「危うさ」があることを思い知らされてしまった。

 

 

その嚆矢となったのが、第11話『密着!白鳥ひめの一日』。タイトル通りひめの一日に密着するエピソードなのだけれど、そこで明かされたのは「起きている時間の大半を “アイドルとしての在り方” に捧げているため、休息であるはずの昼寝が趣味/娯楽になってしまっている」という衝撃的な事実。  

一体何がそこまで彼女を駆り立てるのか、彼女は何を求めてアイカツをしているのか――。「不思議な力」と戦った過去などが明かされ、その強さの裏にあるものが語られていく中、第49話『一番星になれ!』において、遂にひめ自身の口から「アイカツの中で求めるもの」が明かされた。

 

「私ね、S4としてアイカツしていて、分かったことがあるの」
「なあに?」
「それはね、“一人で輝くよりも、みんなで輝いた方がずっと素敵だ” ……ってこと。これからも、たくさんのアイドルにもっともっと輝いてほしい。だから、みんなの光になれるように……みんなに道を示せるように、今日は私が一番輝く星になる!」

-「アイカツスターズ!」 第49話『一番星になれ!』より

 

ひめがアイカツの中で求めるのは、ひたすらに純粋な「アイドルが放つ輝き」。みんなを輝かせる為に、みんなが輝く為に、みんなを導く一番星になる。それこそが、彼女のアイカツの根底にあるものだったのだ。  

しかし、この崇高で純粋な想いには、同時にそれ故の「危うさ」も隠されていた。

 

「今回はゆめちゃんが勝ちましたが……その姿を見て “頑張ろう” って思う人たちがいっぱい出てきたはずです。だから次は……ふふっ、誰が勝つんでしょうか?」

-「アイカツスターズ!」 第96話『みんなで輝く!』より

 

これまでの彼女の発言にあった違和感の正体。それはおそらく、「ひめ自身が “みんな” の中に入っていない」こと。 

みんなの為に自分の時間を使いきり、みんなの為に一番星で在り続け、競い合うみんなの姿に優しく微笑む。こうして振り返ると、彼女が夢見る景色の中にはいつも「ひめ自身」がいない。自分には、そんな彼女の姿がまるで「人としての在り方を捨てた神様」=文字通りの「偶像 (アイドル) 」に見えてしょうがないし、若干15.6才の少女がそんな在り方を自ら望み、当たり前のように受け入れている姿には、どこか恐怖さえ感じてしまう。「アイドルすぎるアイドル」という一見ユニークなキャッチフレーズは、その実彼女の特異性を的確に捉えた、皮肉で残酷な名フレーズだと言えるかもしれない。  

(ひめは0才で赤ちゃんモデルとして芸能界デビューを果たし、以降子役、アイドルと、生まれてこの方ずっと「カメラ」を意識する人生を送ってきた。「他人のための自分」であることの方が多く、かつその生き方を愛してしまった彼女が「偶像」になってしまうのは、自身が望むと望まざるとに関わらず避けられないことだったのかもしれない)

 

 

一方、そんな白鳥ひめの輝きに魅せられたのが虹野ゆめ。彼女は当初こそ「ひめ先輩のようなS4になりたい」と豪語していたものの、当のひめ本人、そしてリリィの言葉を受けて考えを改め、自分自身の夢を追い求める本当の第一歩を踏み出すことができた。 

そして、その道でゆめが見付けた「自分自身の願い」こそが、彼女をひめと同じステージへと導いていくこととなる。

 

「今の私には一つだけ、エルザさんに負けないものがあります」
「負けないもの?」
「想いです。私、今まで一緒にアイカツを頑張ってきたみんなと、一緒に輝きたいって思ってきました」
「……フッ、貴女らしいわね。だけど一つだけ言っておくわ。パーフェクトなアイドルは、決して他人と一緒に輝いたりしない。たった一人でキラめくの」
「私の想いは、それだけじゃありません」
「?」
「アイドルみんなで光り輝いて、周りの人全ての心を輝かせたい、って思ってるんです。いつも私たちアイドルを導いてくれる先生たち。いつも私を応援してくれているファンのみんな。今日のステージは、そんなたくさんの仲間が一緒に作り上げてくれたんです。だから私は、今日ここにいる全ての人の心を輝かせたいって思っています。その強い想いだけは、エルザさんには負けません! ……それが、私の想いです」

-「アイカツスターズ!」 第96話『みんなで輝く!』より

 

一人で輝くのではなく、みんなで輝くこと。奇しくも「ひめを目指さない」ことによって、それまでよりもずっとひめの本質に近付いたゆめは、しかし、ひめのような偶像=他人の為に自らを捧げる存在にはならなかった。それはきっと、生まれながらにしてカメラに囲まれ、「不思議な力」も諸星の指導と己の努力で克服してしまい、第25代S4という仲間を得た頃には「完成」してしまっていたひめに対し、ゆめは「仲間と手を取り合い、弱い自分を受け入れて前に進んできた」……という、この違いによるものだったのではないだろうか。  

(そして、そんなゆめの仲間の一人こそが他ならぬひめ。どこまで意識していたかは分からないけれど、ひめ自身こそが、ゆめが「第二の白鳥ひめ (偶像) 」と化してしまうことを食い止めるセーフティラインになっていたと言える)

 

 

仲間の支えによって、ひめと近い道を歩きつつも「人」として踏み留まることができていたゆめ。そんな彼女の有り様は、第99話におけるこのやり取りで顕著に示されていた。

 

「ひめ先輩に、お返ししたいんでしょ?」
「でも……何をすればいいんだろう?」
「ゆめは?」
「え?」
「ゆめはどうしたいの? 大事なのは、ゆめの気持ちじゃない?」
「私は……去年ひめ先輩に負けて、ここでたくさん泣いた。次こそ勝つって誓った。その時の約束を果たしたい」
「うん」
「確かに……約束したわね、ゆめちゃん」
「ひめ先輩!?」
「私も、ここに来る度思い出していたのよ」
「私、ひめ先輩ともう一度ステージで勝負したいです。私の……気持ちの問題です! 去年のS4戦でのステージ、あれから私、いろんな経験をして、たくさん成長しました。だから、今度は負けません!」

-「アイカツスターズ!」 第99話『ふたりの忘れ物』より

 

2年に渡る戦いで大きく成長し、アイカツ!ランキング決勝にも「エルザさんにアイドルを辞めてほしくない」「エルザさんにも輝いてほしい」の一心で臨んでいたゆめ。それはまさに、アイドル・虹野ゆめの「みんなで輝く」という想いを体現するものだった。 

しかし、ゆめがひめに叩き付けた想いはそれらとは異なるもの=白鳥ひめに憧れ、負けて涙し、次は必ず勝つと誓った、ただの人間・虹野ゆめの個人的な「気持ち」。それこそが、ゆめが2年間の成長の中で置き去りにしてしまった「原点」であり、彼女が取り戻した「忘れ物」だったのではないかと思う。

 

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「アイドル論」というと大袈裟かもしれないけれど、『アイカツスターズ!』という作品は、アイドルたちに「自分の為にアイカツすること」と「ファン (他人) の為にアイカツすること」の双方を願って / 託していた。自分勝手なアイドルに本当の輝きは宿らない。けれど、他人の為に自身を犠牲にしてはいけない / アイドル自身が笑顔でなければならない――と。  

事実、本作を通してゆめたちはその「両立」を各々のやり方で成し遂げていき、それこそが彼女たちの大きなターニングポイントとなっていった。自分を支えてくれる人々の大切さを知り、アイドルとして大きく成長したゆめたちが、その上で「人」としての夢に手を伸ばし、情熱を燃やし、何度挫けても諦めないからこそ、その姿に私たちは魅了され、背中を押され、彼女たちを応援せずにはいられなくなる。  

そして、そんな「人間らしさ」という輝きこそが、ひめという絶対的なアイドルが唯一取り零していた忘れ物。この時、誰よりも「輝きたい衝動に素直でいよう」というメッセージを受け取らなければならなかったのは他ならぬ「ひめ自身」であり、彼女を象徴する歌=『スタートライン!』こそが、皮肉にも白鳥ひめを “偶像” から解き放つに最も相応しい歌だったのだ。

敗北後も、勝者となったゆめを「おめでとう、ゆめちゃん!」と迷いなく抱き締めたり、エルザからの誘いを笑顔で躱したりと相変わらずの底知れなさを見せていたひめ。しかし、もし彼女の中で密かに「越えるべき目標」が生まれていたのなら、ゆめの存在がひめにとっての新たな「原点 (スタートライン) 」となっていたのなら、それはこの上なく『アイカツスターズ!』最後の戦いに相応しい結末ではないだろうか。

 

 

桜庭ローラの “忘れ物”

 

月のドレスを手にしたひめと、自身の「忘れ物」を思い出したゆめによる最高のステージ。その眩しい輝きに照らされて、ローラもまた自らの「忘れ物」に辿り着いていた。

 

「ホントだ……。ゆめ、ワクワクして、大事なこと……思い出したよ。凄く、凄く面白いじゃないっ!」

-「アイカツスターズ!」 第99話『ふたりの忘れ物』より

 

ゆめに「忘れ物を一緒に探しに行かないか」と持ちかけるも、自分自身は一向に「忘れ物」に辿り着けていなかったローラ。 

前述の通り、自分は「ステージでの再戦」こそが2人の忘れ物だろうと思っていたので、ゆめの忘れ物が明かされる一方で「じゃあ、ローラの忘れ物って何なんだ……?」と首を傾げずにはいられなかった。が、その回答はステージ後、他ならぬローラ自身の口から明かされることになる。

 

「見付けたよ」
「えっ?」
「私の忘れ物。伝え忘れてた、私の気持ち。……おめでとうーーっ! ゆめーーーっ!!」
「!」
「間違いなく、一番星だーーーーっ!! ……だけど、次に勝つのは私。私の原点は、ゆめだから」 

 

「一人じゃ、きっとここまで来れなかった。近くでゆめが走り続けてくれたから、“どんなに悔しくても、自分に負けない” って、“また次に向かって頑張ろう” って、そう思えた。私もずっと、一番になったゆめを越えたいって思ってきたから……今、ワクワクが止まんないよ! もっともっと凄い自分になって戻ってくるから……! 未来の私は、絶対負けない!」

-「アイカツスターズ!」 第99話『ふたりの忘れ物』より

 

ローラの忘れ物=「伝え忘れていた気持ち」とは、この台詞のどこかの部分ではなく、一連の言葉全てなのだろうと思う。 

ゆめへの「おめでとう」は第96話でも伝えていたけれど、ここでの「おめでとう」「間違いなく一番星だ」は少し意味合いが異なるもの。それは文字通りの祝福であると同時に、ローラ自身の「私の負けだよ」という敗北宣言。ライバルであるゆめが、自分よりもずっと高いステージに登ってしまったことを認める叫びであり、その意味合いを察しているからこそ、この時のゆめはどこか複雑そうな表情を浮かべていたのかもしれない。 

けれど、それをローラが思い切り口に出し、その上で心からの笑顔を浮かべられたのは、きっと「ゆめがひめを越える姿」を目にできたから。相手がどんなに眩しい星であっても、それは “絶対の一番星” じゃない。そのことを自分自身の目で確かめられたからこそ、ローラは「ゆめに勝ちたい」という情熱=自分のアイカツの原点がゆめであると思い出すことができた。奇しくも、ゆめとローラの忘れ物とは「あの星を越えたい」という同じ想いだったのだ。

 

「ゆめに、休む暇なんてあげないんだからね」
「……うんっ、私だって!」

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「「 痛ったぁぁ~~~っ!」」
「あ~、スッキリしたっ! これで私も、新しいスタートラインに立てるよ。次はふたりで勝負ね!」
「約束だよ、ローラ!」
「お互いの、全てを懸けて……!」

-「アイカツスターズ!」 第99話『ふたりの忘れ物』より

 

夕景で向かい合うゆめとローラ。この構図はおそらく『劇場版アイカツスターズ!』のオマージュなのだろうけれど、2人はあの時のように額を重ねることもせず、「一緒に歌いたい」と望むこともしない。それぞれに進むべき道があり、それぞれの「叶えたい夢」がある2人は、もうずっと一緒にはいられない。 

だからこそ、ここでローラが告げるべきは永遠のライバル宣言。居場所こそ離れてしまうけれど、それでも自分の中にはずっとゆめがいる。そして、ゆめにも自分をずっと忘れさせない。それは、今の彼女に伝えられる最大の「ありがとう」であり「大好き」のメッセージ。  

そんなローラの気持ちを受け取ったからこそ、ゆめもここでようやく満面の笑顔を浮かべられた。向き合う2人の画は、構図こそ『劇場版アイカツスターズ!』とは似て非なる (ゆめの方が “上” にいる) ものだけれど、その笑顔はあの時――まだ現実の残酷さや世界の広さを知らなかったあの頃同様に、あるいはそれ以上に晴れ晴れとしたもの。そんな2人が「額をぶつけ合い、その上でお互いの肩を寄り添わせる」姿は、本作が描いてきた絆の在り方そのものであると同時に、『アイカツスターズ!』という作品における、ある種の「トゥルーエンド」に思えてならない。

 

 

桜庭ローラと『アイカツスターズ!

 

アイカツスターズ!』という作品の好きなところは数あれど、この作品がここまで「響く」ものになった最大の理由は何かと訊かれれば、それは間違いなく彼女=桜庭ローラの存在だ。 

「勝負」がテーマの作品とはいえ、ターゲット層からして本作はあくまで明るく真っ直ぐなサクセスストーリー……と、そんな予想を覆すかのように、ローラはゆめに敗北し、また敗北し、そのドン底で「答え」を見付けて這い上がってみせた。結果、彼女はS4決定戦でゆめへのリベンジを果たすことこそ叶わなかったけれど、勝ち負け以上に大切なこと=「自分らしく輝くことができれば、誰もが誰かの “一番星” になれる」ことを知り、スパイスコードのミューズを継承し、S4さえも越えて星のツバサを獲得。遂にはその歌で世界への道を切り拓いてみせた。 

主人公=ゆめのライバルという「敗北が運命付けられた」キャラクターであるローラだからこそ紡ぎ出せた、この生々しく / 泥臭く / 切なく、そして情熱的な物語。その (ひとまずの) エンドマークを飾った彼女の「心からの笑顔」には、きっと自分だけでなく、当時から数多くの視聴者が救われたのだろうと思う。 

 

 

人間、誰しも失敗や敗北は怖いもの。勇気を出して踏み出しても勝ち残れるのはほんの一握りだし、それなら最初から踏み出さなければいい――と、そんな選択をしてしまう「閉じた人間」である自分にとって、何度負けても諦めずに立ち上がり、勝ち負けを越えた「かけがえのないもの」を手に入れていくローラの姿はまるで篝火のよう。だからこそ、第86話『涙の数だけ』でローラが出会ったマラソンランナー=前川綾乃の「彼女の歌にいつも励まされています」という言葉は、自分自身の思いが『アイカツスターズ!』作中で代弁された瞬間でもあった。ローラの苦痛や葛藤、そこからの克己がいずれも「ホンモノ」だったからこそ、自分はこの作品をフィクションと割り切らずに見ることができたし、そんな彼女がいたからこそ、自分はこの作品にのめり込み「自分も頑張ってみたい、本気で夢に向かってみたい」と思うことができたのだ。  

そして、「勝負」というテーマを残酷なくらい真摯に描いた本作が、それでも「爽やかで前向きな作品」という根幹を貫くことができたのもまた、勝負の “負の側面” を背負ったローラの物語が深く描かれ「競うことは争うこととは違う」と示されてきたから。きっと、彼女なしでは『アイカツスターズ!』は成立しないのだろうし、『アイカツスターズ!』以外の作品において、桜庭ローラという存在が生まれることはないのだろう。  

なればこそ、桜庭ローラとはこの作品における正真正銘の「もう一人の主人公」。実質的な最終回と言える第99話の主役が「ゆめとローラ」であったことが、その何よりの証明になっていたと言えるのではないだろうか。

 

……しかし、本当にローラが『アイカツスターズ!』の主人公であるなら、彼女がもう一人の主人公=ゆめに「負けた」状態で終わって良いはずがない。

 

 

第100話『まだ見ぬ未来へ☆』ラストシーンで前触れもなく現れた謎のコーデ。後追い勢かつデータカードダスの情報をほぼ仕入れていない自分にとって、文字通りの幻覚か何かにしか見えなかったそのドレスの正体は、なんと「火星の “太陽のドレス” 」ことエターナルスパイスコーデだった。  

振り返ってみれば、『劇場版アイカツスターズ!』におけるゆめの妄想シーンでしかS4服に袖を通せなかったローラ。そんな彼女が最後の最後で太陽のドレスを纏い、ゆめと文字通り「並び立って」みせたのは、ゆめ&ローラというW主人公に対する最大のリスペクトであると同時に、「作品としては2人のライバル関係に一区切りを付けなければならないけれど、『アイカツスターズ!』のフィナーレは、そうした “閉じた” ものではなく “未来に開かれた” ものでなければならない」……という、作品としての「矜持」そのものだったようにも思う。  

そんなラストシーンのサプライズを含めて、こちらの予想を遥かに越える「最上」を次々に見せてくれた第100話。その内容は、自分にとっても一区切りとなる次回=『アイカツスターズ!』最後の感想記事で向き合っていきたい。

 

 

「この2年間、いろんなことがあったよね」
「私たちのアイカツは、未来へ進んでいく!」
「これは、さよならじゃなくて……!」
「次回、アイカツスターズ!『まだ見ぬ未来へ☆』掴め、アイドル一番星!」

-「アイカツスターズ!」 第99話『ふたりの忘れ物』より