感想『アイカツスターズ! 64~77話』 星のツバサと運命のドレスが導く、虹の向こうの「二人の一番星」

「リフレイン病」という病がある。「このシーンは〇〇のリフレインだ!!!!!!」というアレだ。  

往々にして「製作陣は別にそこまで考えてない」「オタクの深読み」に終わることが多いこの病だけれど、稀に「本当の ”リフレイン” 演出」が現れては、オタク諸兄の涙腺を木っ端微塵に粉砕してきた。 

かくいう自分も『蒼穹のファフナー EXODUS』第19話の「確かに助けたぞ、一騎」や『機動戦士ガンダム00』2ndシーズン最終回の「右目を負傷しながらも勝利・生還するロックオン」にギャン泣きさせられてしまったオタクの一人なのだけれど、それらと同じものが『アイカツスターズ!』2年目にも度々感じられていた。

 

「幸花堂のオーディション」「アイカツアイランド」などは、あくまで「季節の行事だから繰り返されている」ものだろうし、「7話と57話がどちらもローラ回」「ゆめのターニングポイント的エピソードの次が “密着” 系エピソード」……というのはおそらく偶然なのだろうけど、第2話『ふたりはライバル!』同様に「ゆめとローラがタッグで歌う」というシチュエーションが用意された2年目2話=第52話『狙われたアイドル!?』や、第14話『真昼の決闘!』同様に、同じ七夕を舞台に描かれる真昼の主役回=2年目14話『星に願いを』等は、まさに「1年目と同じシチュエーションだからこそ輝く」作劇になっており、これらは明らかに「仕込まれた」リフレインなのだろうと思う。  

しかし、それらは同時に「ある不安」を積み上げていくものでもあった。

 

 

上記以外にも、様々な形で1年目のリフレインを見せてくれた2年目。ともなれば、1年目最大のターニングポイントにして個人的なトラウマ=第30話『七色のキャンディ』のリフレイン、つまりは「ゆめと小春が、あの時と同じか、それ以上の悲劇に見舞われてしまう」可能性が否定できなかったのだ。  

そんな恐怖に怯え、「誰が星のツバサを手に入れるのか」という予測不能の展開に魅せられ、ひめのブランドを継ぐ双葉アリア (CV.前田佳織里) の参戦に驚かされた『アイカツスターズ!』2年目。 

これから訪れるであろう怒涛のクライマックスに備えて、衝撃的な展開ばかりだった2年目第2クールの物語、そして、ゆめと小春が共に辿り着いた「到達点」の輝きを振り返っていきたい。

 

《目次》


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引用:TVアニメ『アイカツスターズ!』OPテーマ「STARDOM!」ノンクレジット映像 - YouTube

 

「2年目の香澄真昼」と「2年目のまひロラ」

 

アイカツスターズ!6クール目(2年目の第2クール)の先陣を切るエピソード=第64話『星に願いを』の主役は、2年目ではここまで(第56話『キャッ! と注意報』が主役回のようだったがそんなこともなかったので)実質的に主役回がなかった真昼。
メインの一人ながら主役回がここまでなかった……というのは当然驚きではあるのだけれど、その実少しばかり納得してしまっている自分もいた。というのも、真昼はそのキャラクターが既に「完成」してしまっている節があるからだ。

 

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本エピソードの1年前(50話前)にあたる第14話『真昼の決闘!』で本格参戦となった真昼。彼女は当初こそ姉である夜空への愛憎に囚われていたものの、彼女と本気でぶつかり合い、本音を伝え合ったことでしがらみから抜け出し、一人の新人アイドルとして本当のスタートラインに立つことができた。 

それからというもの、真昼は生真面目な努力家らしいアイカツや、夜空という目標の存在が功を奏してか圧倒的なスピードで成長。S4決定戦において唯一「第25代S4を超える」という偉業を成し遂げただけでなく、彼女が育て上げたブランド=ロマンスキスを託されることとなった。

 


自分は、この「ロマンスキスというブランドを受け継いだ」ことや「S4として姉と比較される」ことが2年目の真昼における重要なファクターになる……とばかり思っていたのだけれど、真昼の新ロマンスキスは既に広く受け入れられており、取り立てて真昼が夜空と比較されるようなこともない。 

これは真昼の描写がおざなりなのではなく、真昼が1年生の頃から「お姉ちゃんとは違うタイプのアイドル」を目指してきたことによる成果なのだろうし、「真昼と夜空のファンの対立」についても、前述のS4戦=第47話『香澄姉妹、対決!』において「夜空と真昼の戦いを見届けて、ファン同士も和解する」様が描かれていた。つまるところ、香澄真昼というアイドルも、彼女と夜空の物語も、もう既に描かれきった=完成してしまっていたのではないだろうか。  

しかし、だからといって「影が薄くなる」といった事態には決してならないし “させない” のが『アイカツスターズ!』というアニメの魅力。この事態に対し本作が切ったカードは、香澄家の旨味と真昼の魅力とスタッフの趣味嗜好とをごった煮にしたキメラのようなトンデモ事案エピソード=第75話『香澄家の休日』であった。

 

 

両親が久々に帰ってくるとあって、それぞれのオフを合わせた真昼、夜空、朝陽。しかし、夜空や朝陽には次々仕事が入ってしまい……という本エピソードは、異様に可愛い作画だったり、作中初めて一堂に介する香澄家であったり、姉と兄にイジられ倒す「妹」っぽさ全開の真昼だったり (それに対し照れたり膨れっ面になる真昼の破壊力ゥ!!) 、クッションやハリネズミのぬいぐるみを抱き締める真昼の可愛さだったり、貴重な真昼×あこ (特別な文脈を持っていないが、それだけに“実力を認め合った仲間”という爽やかな友情が感じられるのが良い……!) だったりと、一から十まで見所満載の壮絶な30分。しかし、これだけなら本話はタイトル通りの「素敵な “香澄家の休日” 」で済む話。勿論それだけでも大満足の3000億点なのだけれど、このエピソードの「真髄」はそこではなかったのだ。

 

「小春はこの後、ゆめと一緒でしたっけ?」
「うん、あこちゃんは?」
「……うん? どうしたの、ローラ?」
「やっぱり、アイカツモバイルがない……。ごめん、先行ってて。探してくる!」
「うん、分かった!」 

「また、一人になっちゃった……えっ?」
「ごめん、私のアイカツモバイル見なかった!?」
「うぇっ!?」
「……どうしたの……?

-「アイカツスターズ!」 第75話『香澄家の休日』より

 

\テテテテーン☆ テテテーン☆ テテテーン☆ テテテーン☆ ッテテーン☆ (アイキャッチ) / じゃないが???????  

香澄家に遊びに来たあこ、小春、ゆめ、ローラ。その帰り際、ローラがアイカツモバイルを忘れたことに気付き慌てて戻ると、そこには寂しさからクッションを抱き締める真昼の姿が――えっ、この話って『香澄家の休日』で合ってる???????

と、笑ってしまうくらい唐突に生えてくる真昼×ローラ。「まひロラは製作陣の推しカプ説」が自分の中で確信に変わった瞬間だった。
(「『香澄家の休日』なのにサムネが真昼とローラ」という時点で違和感に気付くべきだった……!)

 

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詳しくはこの記事に譲るけれど、真昼×ローラの関係性はどことなく不可思議で、けれどこの上なく「説得力」のあるものだった。お互いに似た背景を持つだけでなく、真昼には夜空、ローラにはゆめという「一番大切な相手」がおり、互いにそれを分かっているからこそ、かえって遠慮なく本心を晒け出せる……という、まさしく「親友」という言葉が相応しい間柄。 

――だったはずなのだけれど、(製作陣が「癖」を抑えきれなかったのか) 2年目からはどうも「2人の温度感が上がっている」ようにしか見えない描写が散見されてくる。

 

「いよいよだね!」
「真昼には、S4として恥じないステージをやって貰わないと、ですわね!」
「真昼なら大丈夫だよ……!」

-「アイカツスターズ!」 第64話『星に願いを』より

 

この「真昼なら大丈夫だよ……!」を「ゆめ(主人公)ではなくローラが言う」点などはまさにそれで、2人の間にある特別な絆・信頼が第44話『春の予感♪』以来ずっと続いていることが明示された瞬間だった。 

……と、そんな流れからの『香澄家の休日』である。わざわざ2人っきりになるシチュエーションが用意される……って、何、「そういう」コト!? と思っていたら、帰り際のローラから更なる爆弾発言が飛び出した。

 

「ま、今日は残り少ない静かなオフを楽しみなよ。明日からは、嫌でも一人にはさせないからさっ」
「ローラ……。 あ、時間大丈夫?」
「うわぁっ、そうだった! ……じゃあ ”真昼ママ" も、家族の団欒楽しんでね!」
「はいはい。行ってらっしゃい」

-「アイカツスターズ!」 第75話『香澄家の休日』より

 

ろ、ローラパパ……!?!?

ちなみに、本話ラストで父親に「寂しくはないか?」と訊かれた真昼は「お姉ちゃんも兄さんも、友達もいるから」と答えており、加えて本エピソードの脚本を担当されたのは、第33話『迷子のローラ!?』や第62話『ゴーイングマイ・ウェイで♪』などローラの主役回を数多く執筆されている山口宏氏だったりする。え、それってつまり「公認」!?!?  やったぜ!! (?)

 

 

話が逸れすぎた。 

実際問題、この『香澄家の休日』も別に「真昼の成長」を描くエピソード……という訳ではない。アイドルとして、人間として、キャラクターとしても完成されてしまった真昼。そんな彼女が2年目で見せてくれる物語とは、彼女がその在り方で「誰かを導く」こと。  

そんな彼女の今後が示されたのが、件の第64話『星に願いを』であった。

 

 

本エピソードのちょうど1年前(50話前)と言えば、劇中でも語られている通り、ゆめたちと真昼が初めて本格的に合流したエピソード=第14話『真昼の決闘!』。本話は、そんな『真昼の決闘!』と同じ「七夕を舞台にした真昼の主役回」であり、同じ「第14話」でもあり、なんと2年目において夜空が初めて顔を見せてくれるエピソードでもある。 

第14話『真昼の決闘!』と、続く第15話『月と太陽』においても真昼と夜空の関係は「彦星と織姫」になぞらえられていたが、当時の2人が「天の川で隔たれた想い人同士」であったのに対し、今の2人は「会える機会は限られていても、心はずっと繋がっているパートナー」。1年前の展開をリフレインさせることで、この1年での成長を浮き彫りにする……という、続編ものの醍醐味が詰まった名編と言えるし、真昼の成長を裏付けるものとして彼女が星のツバサを手にする展開には、「こんなに早くツバサを入手するの!?」という驚きと「リリィに次ぐ四ツ星のツバサ所持者が真昼」ということへの納得とが合わさって思わず声を上げてしまった。カッコよすぎるよ、香澄真昼……!

 

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騎咲レイは騎士かエゴイストか

 

こうして、2年目初の主役回で華々しい活躍を見せてくれた真昼――だったけれど、第64話『星に願いを』の真の主役と言えるのは、真昼よりもむしろ、2年目における彼女のライバル枠 (?) =騎咲レイの方だった。

 

 

幼少期より「何事も努力せずに成し遂げてしまう」という生粋の天才であり、「シューティングスター」という名の大人気モデルでもあったレイ。そんな彼女の転機となったのは、自身に「欠落」があると見抜いたトップアイドル=エルザとの出会いだった。 

レイは彼女の手を掴み、ヴィーナスアークで自身に欠けている「情熱」と「志」を手に入れようと苦心するが、ある日、彼女はそれまでの自分を変えてしまう運命の舞台=エルザのライブを目にしてしまう――。

 

「モデルはエルザという眩い光に魅了され、虜になった。それからは、エルザを輝かせることに喜びを見出だし……遂には、自分自身が輝くことを諦めたんだ」
「……それって」
「そう。それは私だよ」
「レイさん……」

-「アイカツスターズ!」 第64話『星に願いを』より

 

こうして、アイドルとしての道を自ら捨てて「エルザの付き人」となったレイ。彼女が王子様、エルザが女王然とした人物像なことも相まって一見するとロマンチックなこの献身――を、しかしエルザは迷わず突き放したばかりか、レイをモデル業へと半ば強制的に復帰させる。 

その目的は、おそらく「才を持ったアイドルを最大限輝かせる」ないし「自身の選び出したアイドルに星のツバサを手に入れさせる」こと。「自分が輝くことを諦め、エルザを輝かせることに尽力する」というレイの献身は、その実他ならぬエルザの望みに反した、献身というには歪で矛盾したものだったのだ。

 

自らを「エルザのために在る」とまで語りながら、その実「自身の献身がエルザの意に反している」と気付けなかったレイの姿は、見ているこちらにとってもショッキングなものだった……のだけれど、彼女の動向を見進めているうちに、心なしかその行動に違和感を覚えてきた。  

レイは確かに「星のツバサを全て集めることで、太陽のドレスを手に入れる」というエルザの最終目的こそ知らなかったけれど、エルザが自分をなぜスカウトしたのか、彼女が自身の振る舞いについてどう思っているのか、そのどちらも分からないような鈍感な女性ではないハズだ。もしかすると、レイはエルザの心境に「気付けなかった」のではなく、敢えて「気付かなかった」のかもしれない。  

そう考えると、レイの本当の思惑も見えてくる。「志と情熱を手に入れる」ことを目指しながらも上手くいかず、そんな中でエルザに魅了され、以来エルザに全てを捧げてきた……というこの行動は、他ならぬレイ自身が「自分自身が満たされたいがために選んだ」道であり、志と情熱に満ちた存在=エルザに奉仕し、擬似的にその一部となることで、自身の欠落を埋め合わせようとしたのではないだろうか。

 

このレイの行動・心情は、現実における恋愛や憧れの感情、もっと言うなら「推し」の概念に近いかもしれない。アイドルやキャラクターを「推す」ことで自分と人物を紐付け、その人生や喜怒哀楽を「自分の人生の一部」にする……。自分もその感覚には少なからず覚えがある。 

私事になってしまうけれど、自分は「創作」に励み、夢を追う友人に憧れがちだ。それは純粋な友情や誇らしさ、憧れにファンとしての気持ち……と様々な感情が入り交じっているけれど、その中に「自分が創作で夢を追えていないもどかしさを昇華させる」意味合いがあることも否定できない。夢を追う友人を「応援する存在」になることで、自分も夢を追っているかのような感覚を味わっている訳だ。ある種の「代償行為」とも言えるこの感覚は、烏滸がましいとは思うけれど、レイがエルザの付き人を買って出ているその真意と非常に近いように思えてならないのだ。


もし、レイの「付き人」という選択が本当に代償行為であるなら、その根底には「甘え」や「諦め」がある。 

眩しい輝きを前にして燻っている / 諦めているレイの姿は、同じように「眩しい輝き」を前にしながらも、諦めずに進むことで未来を勝ち取ったゆめや真昼にとっては「追い付くことを諦めてしまった、ifの自分」に他ならないだろう。

 

「そんなの勿体無い!」
「えっ?」
「誰かを輝かすために、自分を犠牲にする必要なんてない! 強い光を放つ星があるなら、その星に負けないくらい輝けばいい!」 

 (中略) 

「私たちは、輝く星を見たら “みんなで努力して高め合う” んです。そしたら、いつの間にか自分もきらきら輝いているから!」
「……なるほど。それが、四ツ星のやり方なんだね」

-「アイカツスターズ!」 第64話『星に願いを』より

 

であればこそ、2人がそんなレイを見過ごせるはずがない。結果的に2人の思いはレイを動かし、真昼のステージを見たレイは「私も、輝くことができるかな」と大きな感銘を受けていた。 

77話に至って尚ステージに上がらない彼女は、真昼のようにエルザと肩を並べたり、正面から想いをぶつけ合ったり、その果てに「ライバル」になることができるのだろうか。彼女の物語が愛に向かうのか、それとも克己に向かうのかはまだ分からないけれど、今は彼女がエルザや真昼から受け取った輝きを形にできるその瞬間を楽しみに待っていたい。

 

Bon Bon Voyage!

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予測不能の「星のツバサ」争奪戦

 

様々な面でパワーアップを遂げている『アイカツスターズ!』2年目だけれど、この2クール目から顕著になっていくのがその「予測不能ぶり。鍵となるのは、エルザ、リリィ、きららに次いで真昼が手に入れた「星のツバサ」だ。  

未だ「アイカツシステムに与えられたスペシャルコーデ」という点以外の全てが謎に包まれた「スタープレミアムレアコーデ」こと星のツバサ。その条件は、おそらく「高い完成度のプレミアムレアドレスを纏い、大きなステージで高い観客満足度を叩き出す」こと……とかなり曖昧で、だからこそ「誰が、いつ星のツバサを手にするか」が分からないし、2年目1クールでは実際に「1年目で辛酸を舐めたリリィが “四ツ星学園生で初めてツバサを手に入れる” という形で面目躍如を成し遂げる」という、予想だにしなかった熱い展開が実現していた。

 

 

そんなリリィに続く形で、きらら、そして真昼がツバサを獲得。前述の通り、真昼がこの早期にツバサを手に入れるのは納得こそあれ予想外のことで、この「星のツバサ」はただでさえ凝っていた本作の「ライブシーン」をより一層見逃せないものにする、『アイカツスターズ!』2年目の大発明と言えるだろう。  

そんな「星のツバサ」の魅力はただでさえ面白い2年目の物語を右肩上がりに牽引し続けていき、特に第65話『乗ってこ♪ ヴィーナスウェーブ』でローラがツバサを獲得した瞬間には、自分は驚きを通り越してボロボロに大泣きしてしまった。

 

 

スパイスコードを正式に継承し、小春と共にプレミアムレアドレス=ロックマイハートコーデを完成させたローラの下に舞い込んだのは、ヴィーナスアーク主催の一大イベント=ヴィーナスウェーブへの招待状。四ツ星学園からの参加は初というアウェーなイベントで、ローラは世界クラスのアイドルであるきらら、そして、第21話『勝ちたいキモチ』以降 (作中で描かれた限りでは) 一度も勝てずにいたゆめとの勝負に挑む――。 ……という、この流れに「1年目のトラウマ」を刺激されたのは自分だけではないはずだ。 

どれだけ勝利フラグを積み重ねても、作劇上これは勝つだろ! とこちらがどれだけ確信できる展開であっても、それでも勝利に届かないジンクス、ないし呪いを背負っていた1年目のローラ。彼女は既に「勝ち負け」からは解放されてこそいたけれど、それでももう負ける彼女は見たくないし、そのドレスが小春との友情の結晶=ロックマイハートであれば尚のこと……と、そう思っていた矢先のことだった。

 

 

ローラはなんとステージで「火星」の星のツバサを発現! しかもきららやゆめを抑えての優勝という大金星……! スパイスコードを継承する一連で「実質的なS4越え」を見せてくれたローラだけど、ゆめときららを実力で越えただけでなく、ゆめ、あこに先駆ける形で星のツバサを獲得するというのは、実質的も何もない、正真正銘の「S4越え」と言えるのではないだろうか。  

誰より悩み、迷い苦しんでいた彼女がステージ上で「ブレてもいいじゃないですか」と「悩み」と「迷い」を堂々と肯定する姿も相まって、このエピソードでのローラはこれまで以上に眩しい「ずっと見たかった桜庭ローラ」だった。本当に、本当に良かった……!

 

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この時点で解禁された星のツバサは「水星」「金星」「海王星」「火星」「冥王星」。残りは「地球」「木星」「土星」「天王星」の4つ。メタ読みにはなるけれど、この残り4枠を手にするのは「ゆめ、あこ、レイ」の3人と、「ヴィーナスアークの、ローラと対峙する枠」のキャラクターだと思っていた。ゆめに対してのエルザ、あこに対してのきらら、真昼に対してのレイ……と考えると、ローラのみ「ライバル枠」がいないからだ。 

しかし、この予想はローラのツバサ獲得から程なくして盛大にひっくり返されることとなった。

 

 

第67話『夏だ!プールだ!宝探しだゾ!』において、なんとゆずが「土星」のツバサを発現。自分は、作劇上の都合から第25代S4の面々はツバサを手にしないものだと思っていた……のだけれど、本作はそんな「都合」に妥協する作品ではなかった。 

ひめは旅に出ており、ツバサ (星のツバサの話をしてる時に如月ツバサの名前が出るとややこしいんですよね……) はハリウッドに進出中、夜空は留学中なので、この3人はツバサを手に入れる以前にそもそも「ステージに立っていない」状況。このように、彼女たちにわざわざ「ツバサを手にできない理由」が設定されているということは、即ち「そのような枷のない第25代S4=ゆずが星のツバサを手に入れないはずがない」と気付くべきだったのだ。  

そうなると、先の自分の予想は根底からひっくり返されてしまう。ツバサは残り3つ、ツバサを手に入れそうなキャラクターは「ゆめ、あこ、レイ、ヴィーナスアークのローラと対峙する枠」の4人。このうち、誰か一人はツバサを手にできないということになる……と、この時点で自分はゾッとしてしまった。「ツバサを手にできないのはゆめなのでは……?」と。

 

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小春の勇気と “プロポーズ”

 

ローラの成長、真昼の成功、あこの葛藤が描かれてきた『アイカツスターズ!』2年目。その傍らで、我らが主人公=虹野ゆめは「ドレスのデザイン」という大きな壁に当たっていた。    

自らのプレミアムレアドレスのデザインに苦戦するゆめ。いくらオーナーやデザイナーのサポートがあるからといって、「服のデザイン作業」と無縁だったゆめにとってそれが困難であるのは想像に難くないし、答えを出せず悩む彼女の姿、見ているこちらもその「答え」が分からないことから来る陰鬱とした不安感は、どことなく第10話『ゆめのスタートライン!』を思い出すもの。 

そんな彼女にとって2年目初の転機となったエピソードが、2年目の第9話 (ニアミス……!) こと第59話『あなたにも輝きを』だった。

 

 

「私、思い出したんだ。アイドルになって、初めてドレスを着た時のキラキラした気持ち……。もっともっと、素敵な自分になれる、輝ける……って、心から思えた」
「うん……!」
「私が一番大切にしたいこと……。私だけじゃなくて、皆にももっともっと輝いてもらいたい。”皆をキラキラ輝かせる” それがベリーパルフェ!」

-「アイカツスターズ!」 第59話『あなたにも輝きを』より

 

プレミアムレアドレスが体現するのは、アイドルがブランドに託す「一番大切なこと」――。ゆめが本エピソードで見付けたその答えは、自分だけではなく「皆も輝かせる」こと。それは、第49話『一番星になれ!』でゆめが辿り着いた「 “ありがとう” を原動力に、“ありがとう” を届ける」という在り方の向こう側にあるものだった。

 

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ドレスに込める想いには辿り着いたものの、しかし、それでも星のツバサを手に入れることができなかったゆめ。 

エルザ曰く、ゆめに欠けている最後のピースは「デザイン力」。ベリーパルフェにはプロのデザイナーがいるけれど、彼女たちが行うのはあくまで「ミューズの作ったデザインを形にする」こと。いくら彼女たちの腕が優れていても、元となるデザインを大きく逸脱することは立場上許されないため、最終的な出来栄えはどうあっても「ミューズ自身のデザイン力」=イメージ力やその的確なアウトプット、デザインセンスにコンセプトデザインのクオリティといったものに左右されてしまう。エルザがゆめに「足りない」と指摘した「デザイン力」とは、それら全てを指しての言葉だったのではないだろうか。 

しかし、デザイン力とは歌唱力やプロデュース力以上に「感性」や「センス」といった「生まれ持ったもの」に左右されてしまうもので、努力や成長である程度補うことこそできても、そこにはどうしても「天井」がある。そのことを実証してしまったのが、ゆめの初めてのプレミアムレアドレス=プリミエールベリーコーデがアイカツシステムに認められなかった事実であり、結果として「ゆめのデザイン力」問題は文字通りの「詰み」状態となってしまったようにも思える。 

……だからこそ、その窮地を「彼女」が切り拓くという展開には納得と感動と喜びとで思わず悲鳴のような奇声のような何かを上げてしまった。

 

「ねぇ、ゆめちゃん。私の今の夢、聞いて?」
「なになに?」
「私のデザインしたドレスを着た、一番星のゆめちゃんと……一緒にステージに立つこと!」

-「アイカツスターズ!」 第71話『さよなら、小春ちゃん!?』より

 

こ、小春がデザイナーとしての才を開花させたのって「そういう」ことだったのか……!!  

『さよなら、小春ちゃん!?』というタイトルとサムネイルを見た時は「 (『七色のキャンディ』の再来が)  来ちゃったか…………」と項垂れたけど、その実態は小春への愛と「おかえり」が満杯に詰まったエピソード。ヴィーナスアークでの再会を経た上でも、こうして小春の「復学」を特別なものとしてきちんと描いてくれる優しさが本当に嬉しかったし、ゆめが素直にローラに「頼る」ことで今度こそパーティーを成功させるというシチュエーションは「『七色のキャンディ』の悲劇が繰り返されるのではないか」という懸念を吹き飛ばして余りあるものだった。  

という、この「最高」の流れを受けてからの問題の台詞。これはもう、感極まるなと言う方が無理な話でしょうよ……!

 

 

これまで「アイカツを通して “自分らしさ” を探していた」小春が、遂に自分だけの夢を見付けたこと。その夢が「ゆめのドレスをデザインすること」=小春の様々なアイカツの集大成と言えるものだったこと。夢の中には、ゆめのドレスをデザインすることだけでなく「そんなゆめの隣に自分自身も立つ」という決意も含まれていること……。 

小春が語る夢には、これまでの彼女の成長と、育まれてきた「勇気」が目一杯に満ち溢れていた。そんな「勇気」が大きく花開いたのが、続くエピソード=第72話『二人の一番星☆』におけるこのやり取り。

 

「私、本当に良かった。S4になりたいっていう夢を持って……。それに挑戦して、今こうしてここに居られて」
「素敵になったよ……。離れていた間に、とっても眩しくなった。この手を伸ばしても、もう届かない――そう思うくらい。私、怖かった。ゆめちゃんと再会してから、とっても頑張ってるゆめちゃんを見てから。あの日四ツ星学園を離れたのは私の方だけど、気が付いたら “ゆめちゃんの方が私から離れていったんじゃないか” って」
「……」
「あったかい……」
「教えて。あのカフェで、何を言おうとしてたの?」
「うん。あのね、私ね。私……ゆめちゃんが、好き」
「えっ?」
「大好き。とっても好き、いっぱい好き。だから、私もこの足で一歩を踏み出して、夢を掴むよ。夢に近付くよ……。ベリーパルフェのデザインをお手伝いしたい、一緒に歩きたい! ゆめちゃんのブランドを、星たちの空へと羽ばたかせる道……!」
「全部、私の言葉だよ!」
「……!」
「行こう、一緒に。ずっと、どこまでも。思いっきり羽ばたかせよう!二人のベリーパルフェの翼……! 小春ちゃんと一緒に!」
「ゆめちゃんと一緒に!」
「「二人の一番星に、辿り着くまで!」」

-「アイカツスターズ!」 第72話『二人の一番星☆』より

 

「ゆめの服 (プレミアムレアドレス) をデザインし、そのゆめと一緒にステージに立つ」という夢を叶えるための最初の一歩。それは「ベリーパルフェのデザインをお手伝いする」=ゆめのアイカツを一番側で支える "パートナー" になること。 

ローラ、真昼、あこ。皆が「仲間」であり「ライバル」でもある『アイカツスターズ!』において、小春がどこか一歩引いた独自のポジションであった理由。それは、彼女だけは「ライバル」ではなく「パートナー」になるからだったのだ。

 

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ゆめと告白、と言えば、やはり外せないのが『劇場版アイカツスターズ!』でのゆめとローラ。その美しさについては上記の記事に譲るけれど、今回の小春の告白は「喧嘩からの仲直り」であった『劇場版アイカツスターズ!』とは似て非なるもの。名実ともに「あなたのパートナーにしてほしい」という、冗談でも何でもなく、実質的な「プロポーズ」だったように思う。 

というのも、アイドルにとってアイカツとは人生そのもの。そんなゆめのアイカツと切っても切れない「ブランド運営」に、スタッフではなく個人として、それも、単なるデザイナーとしてではなく (作中の描写から察するに) ゆめと並ぶポジションとして、アイデアスケッチやコンセプトデザインは勿論、プロデュースも含めた全てに関わる……というのは、一介のデザイナーを超えた「パートナー」の域。だからこそ、その申し出は実質的な「あなたと一緒に生きていきたい」というプロポーズも同然であったし、あの控え目な小春がそんな大胆な決断と勇気を見せてくれたこと、それほどの成長を果たしたこと、そして、小春の背中を押し、これまでも彼女をを支え続けていたであろう「ゆめへの愛」がこうして最上の形で実を結んだことが、彼女を応援し続けてきた一ファンとしてたまらなく嬉しかった。

 

 

思えば、「ひめとゆめ」だけでなく「ゆめと小春」から始まった物語でもあった『アイカツスターズ!』。 

アイドルの輝きに魅せられ、それまで通り「一緒」に四ツ星学園に入学した2人は、しかしアイカツの中でそれぞれの道を行き、ゆめはたくさんの仲間を得て「S4になる」という夢を叶えた。小春はデザイナーとしての才能を開花させ、ずっと探していた「自分らしさ」を見付けることができた。いつでも一緒だった2人は、お互いが側にいなくても生きていける / 戦っていけるだけの強さを手に入れた=「自立」を果たしたのである。 

だからこそ、2人がもう一度、自らの意思で「いつでも一緒」を選ぶことに意味がある。たくさんの仲間に囲まれたゆめにとって、それでも「小春こそが特別」であり、自分らしさを見付けた小春にとって、それでも「ゆめの隣こそが、一番自分らしく居られる場所」だった。「幼なじみだから」を越える「あなただから」という愛情の深さと、混じり気のない澄み切った美しさに圧倒されてしまうからこそ、件のシーンは文字通り「涙なしには見られない」ものになっているのだろうと思う。

 

 

アイカツ!』組とのファーストコンタクト

 

こうして、様々な苦難を乗り越えた果てに結ばれたゆめと小春。一連のシーンの(作画と物語両面の)美しさ、特別な才能に恵まれた訳ではない「普通の女の子」である2人が、それぞれの道の果てに「支え合うことで ”一番星" を目指す」という展開への感動と納得……。まだ3/4も行ってないのに「これが最終回です」と言われても泣きながらサムズアップしてしまいそうな「純真への祝福」に満ちた最高の展開だったけれど、実のところ、ほんの少しだけ疑問を感じる自分もいた。「これってアリなんだ」と。 

というのも、自分は(アイドル文化に非常に疎いため、誤った認識かもしれないけれど)ラブライブ!』や『ゾンビランドサガ』といったアニメの影響もあってか「アイドル=グループ」が基本的な図式だと思い込んでいて、そういった意味でも『アイカツスターズ!』は新鮮な作品に映っていた。 

ゆめもローラも、真昼もあこも特定のグループを組むことは(ゆずこしょうなどの例外を除くと)滅多になく、第26代S4も「グループ」としての活動はほとんど描かれず、数少ない例外であるM4と第25代S4は色々と別格の存在。そのため「『アイカツ!』はソロアイドルを描く作品なんだな」と思っていた……のだけれど、どうやらそうではないことが突如、全く想像していない方向から発覚した。第69話『広げよう、アイカツの「WA」!』そして続く第70話『ジャングルカツドウ!』の2編=前作『アイカツ!』客演編である。

 

 

自分は『アイカツスターズ!』を見るまで、アイカツ!シリーズには全くと言っていいほど触れてこなかった人間なので、知っているのは 

・メイン3人を担当のCVを担当されるのが「ツバサ役・諸星すみれ氏」、「夜空役・大橋彩香氏」、「ゆず役・田所あずさ氏」であること (アイカツ!未視聴でも、この強すぎる文脈には流石に感じ入るものがある) 

星宮いちごが「うんうん、それもまたアイカツだね!」という台詞の主であること 

・紫吹蘭がポニーテールの似合う女性だということ 

霧矢あおいは別に22歳ではないということ (星宮いちご22歳と紫吹蘭22歳は見たことないのに “霧矢あおい22歳” 概念はこれでもかというくらいTwitter受動喫煙してしまった。なんで???) 

……といったぐらいで、そもそも彼女たち3人が「ソレイユ」というユニットを組んでいることも知らなかった。アイカツスターズ!』しか知らないので、彼女たちもソロアイドル×3だと思い込んでしまっていたのだ。 

(もう1つの主人公チームらしき「ルミナス」についてはソレイユ以上に知識がなく、大空あかりの名前と見た目を知っていた程度。氷上スミレと新条ひなきについては今回の客演編で初めて知った……という、あまりにも露骨な『アイカツ!10th STORY~未来へのSTARWAY~』受動喫煙マン状態……!)

 

 

このような状況だったので、件の2エピソードは自分にとって「ほぼ知らない作品の客演回を見る」という中々にレアな機会。けれど、「クロスオーバー」概念それそのものが大好きな自分にとっては、これが中々どうして想像以上に楽しいものだった。 

聞いたことのないBGMに「アッこれ『アイカツ!』の曲じゃないの!?」と盛り上がったり、大空あかりとゆめの「どうやら似た背景を持つ者同士らしい」共演に震えたり、「ルミナスの3人と第25代S4の対面」をしっかり描いてくれたり、小春が蘭に「夜空先輩と同じ香り」と呟くくだりで「う、巧すぎッッッッ……!!」と舌を巻いたり (小春や夜空たちにとって “香り” とはその人の人間性を表すもの。ここで “声” でなく “香り” に触れるのが巧すぎる……!) 、意識して聞いてもゆずと同じ声とは思えない田所あずさ氏の演技力に驚かされたり、いちごとゆめが並んだシーンで「『アイカツ!』における赤リボンってもしかして『デジモン』シリーズのゴーグルみたいなものなんですかッ!?」と答えに辿り着くのが随分先になりそうな推論を立てたり、ソレイユの歌や変身バンクを初めて見ることができたり……。 

自分は『ウルトラマンジード』や『機動戦士ガンダムUC』のような「過去作を踏まえた作品」に、それらを未見の状態で臨むとどうなるのか……ということが常々気になっていたのだけれど、このエピソードを見て「確かに分からないことや取り零してしまう点はたくさんあるけれど、ハイクオリティな作品はそういった前提がなくても楽しめる」と知ることができた。ありがとう、『アイカツ!』レジェンドの皆さん……!!

 

 

「2人でのアイカツ」という難題、「虹のドレス」という回答

 

話が逸れすぎた。(2回目) 

要は何が言いたいのかというと、自分は『アイカツ!』シリーズにおけるアイドルは基本的に「ソロアイドル」なのかと思っていたら、別にそういう訳ではなかった……ということ。 

アイカツランキング」のことを考えると、『アイカツスターズ!』の世界は前作『アイカツ!』とは繋がっているようで繋がっていない、昭和ウルトラシリーズスーパー戦隊シリーズのようなものだと考えることができるけれど、世界観をある程度共有しており、劇中で特に言及もされていないということは『アイカツスターズ!』世界においても「グループアイドル」は存在しており、ただし、何らかの理由でソロアイドルの方が主流となっている……と考えられる。 

それは、身も蓋もないことを言ってしまえば「前作との差別化」の為なのだろうけれど、そういった「作劇上の都合」にしっかりメスを入れるのが『アイカツスターズ!』という作品。つまり、作中でゆめと小春のような「アイドル同士のタッグやパートナーシップ」が他に描かれない=そこまでメジャーとされていないことにも、裏設定にしろ何にしろ何らかの「理由」があるはずなのだ。 

そして、本作は自分が思ったより遥かに早く、的確にそんな疑問への回答を用意してくれていた。

 

「ゆめと小春が喧嘩してるぅ!?」
「「もう、そんなんじゃないってば!」」
「喧嘩するほど仲が良い、って言うよね。次回、アイカツスターズ!『虹のドレス』掴め、アイドル一番星!」

-「アイカツスターズ!」 第72話『二人の一番星☆』より

 

あの流れから喧嘩!? ナンデ!? いや確かにプロポーズが受理されたので実質的に結婚したようなものだけれど、だからといって倦怠期まで律儀にやらんでも良くない??? せっかく結ばれたゆめと小春にそんな雑な喧嘩してほしくないんだが!?!?!?!? 

……と、最高のテンションから急転直下で不安にさせられてしまった『虹のドレス』次回予告。『アイカツスターズ!』に限ってそんなことはしないだろうとは思ったものの、本作も結局は人間が作るもの。まあ、そういうこともあるよね……と、極力ハードルを下げに下げていたのだけれども。

 

「どうかな、私のデザイン?」
「うーん……ちょっとベリーパルフェのイメージから離れすぎてないかな? 色も形も、別のブランドみたい」
インパクトって大事だよ、みんなに驚きや感動を与えるくらいじゃないと」
「でも、今までのドレスと違いすぎる気がする。ファンの子たちが戸惑うかも……」
「ゆめちゃんは、新しいドレスを創りたいんじゃないの?」
「そうだけど……ベリーパルフェのファンの気持ちも大事にしたいんだよ。私には、ファンを守る義務があるから!」
「守るだけじゃ、新しいものは生まれないと思う!」

-「アイカツスターズ!」 第73話『虹のドレス』より

 

ものの数秒で「納得」させられてしまった。 

お互いに依存することなく、一人の人間として、アイドルとして、デザイナーとして自立した上でお互いを求め合ったゆめと小春。それは即ち、彼女たち2人が「それぞれの考え」をしっかり持っているということ。仲良しではあれど性格は正反対の彼女たちが「本気 / 全力で同じ目標を目指す」のなら、むしろそこで意見の対立が起こらない方がおかしいのだ。 

思えば、四ツ星学園は生徒たちの自主性を重んじ、セルフプロデュースを必定とする校風。その校風で「グループアイドル」を育成しようものなら、(ゆめと小春でさえこうなので) 生徒間で対立が頻発し、有望なアイドル候補生の芽を摘み取ってしまいかねない。大人気アイドルを数多く輩出する名門=四ツ星学園がこのような状況であることに加え、世界的なトップアイドルスクール=ヴィーナスアークもまた個人主義であることに鑑みると、アイカツスターズ!』において「グループアイドル」が鳴りを潜めている(ように見える)のは、これらの理由から「人気アイドルが軒並みソロアイドルだから」なのかもしれない。

 

 

あまりにも「納得」せざるを得ない内容だったゆめと小春の喧嘩。しかし、納得度が高すぎるあまり『アイカツスターズ!』あるあるの「この事態はどうすれば解決できるのか、視聴者にも分からない」がここでも発生してしまうのは流石に顔面蒼白もの。作劇の都合上仲直りするとは分かっていても、どう仲直りするのか読めない状態で仲違いしている2人を見るのはあまりにも辛いし、それが「2人とも間違っていないが、だからこそぶつかってしまう」という喧嘩なら尚更だった。

 

第一に「ゆめの望むドレスを作るため、これまでのベリーパルフェとは異なる方向性を提案する」という小春の意見は、非常に的確で正しいように思う。 

ゆめの願いが込められた、これまでのベリーパルフェの集大成と言うべきプレミアムレアドレス=プリミエールベリーコーデが星のツバサに届かなかった以上「これまでとは異なる方向性を模索する」ことは急務であるし、他のドレスとは一線を画するブランドの顔であれば「みんなに驚きや感動を与える」だけのインパクトを持つこともまさしく必須項目だろう。 

しかし、その一方で「色や形がベリーパルフェのイメージから離れすぎると、ファンの子たちが戸惑うかも」というゆめの懸念もまた正しい。斬新なインパクトを持つ新たなドレスで星のツバサを手に入れたいのは勿論だけれど、それが「ベリーパルフェのファンを傷付ける」ことになってしまったら、ファンを第一に考えるゆめにとってはまさに本末転倒だからだ。 

小春もゆめも真剣だからこそ譲れないし、かといって「片方を立てれば片方が損なわれてしまう」この二律背反の落とし所は一体どこにあるのだろうか。本エピソードの妙は、そんな2人をローラたちが「仲直りさせようと奔走する」が、それらは「後押し / きっかけ」に留まり、仲直りするのも、この問題の答えを見付けるのもゆめと小春の2人自身だということ。  

仲間に言われたから仲直りするのでも、仲間たちが答えを教えてくれるのでもなく、あくまで「ゆめと小春が、自分たちの意志で仲直りをし」「自分たち自身で答えを見付ける」というシチュエーションを用意してくれたのが何より嬉しかった。 

(ローラや真昼たちが “後押し” “きっかけ作り” に留まったのも、おそらく自分たちの経験則から “第三者が無理やり仲直りさせても意味がないし、この問題の答えは2人で見付けるべき”だと分かっていたからなのだろうと思う)

 

「うぅ~、本降りになってきちゃったね」
「ふふっ」
「小春ちゃん?」
「昔もこんなことあったなぁ、って……。覚えてる? 小学生の頃、遊んでる時に雨が降ってきて、雨は強くなってくるし、暗くなってくるし、心細かったんだけど……。でも、ゆめちゃんが一緒だったから全然怖くなかったな」
「私もだよ」
「え?」
「一人じゃきっと泣いてたと思う。小春ちゃんが一緒だったから、楽しくて、何も怖くなかった」
「ゆめちゃん……」
「ごめんね、せっかく小春ちゃんがたくさんデザインを考えてくれたのに」
「……ううん、私の方こそ、ゆめちゃんが大事にしてるものを、私も大事にしなきゃいけなかったと思う」
「「ごめんなさいっ。……ふふっ」」

-「アイカツスターズ!」 第73話『虹のドレス』より

 

お互いに正しいが故にぶつかってしまったゆめと小春に足りなかったのは「自分だけでなく、相手も正しいことを認め、尊重する」こと。2人は「お互いが、どちらも正しい」というその前提を見落としており、だからこそここまでの亀裂が入ってしまったのだろう。 

「誰かと一緒に何かをするなら、大切なのは息を合わせること」 

「相手も自分も、”良いものを作ろうとしている” 想いは同じ」 

「根底にあるのは ”相手のために” という気持ち」 

ローラたちが教えてくれたアドバイスを受けて自分たちの心を見つめ直し、互いの想いを尊重することでようやく本当のスタートラインに立つことができた2人。『月と太陽』が流れる中での回想と和解、息ピッタリの「ごめんなさい」からの笑顔で描かれる納得の「仲直り」、そして、小春が「紫色のキャンディに ”ゆめちゃんと一緒に夢を叶えたい” という想いを託していた (小春のパーソナルカラー=紫にだけは「ゆめに伝えたい、自分自身の願い」を書いた、ってこと……!?) 」という事実。どれもこれもが第72話の告白シーンに勝るとも劣らない、このままエンディングに入っても良さそうな美しさだったし、その上で2人が掴んだ「答え」は、思わず声が漏れてしまう程には衝撃的なものだった。

 

「それは本気で言ってるの?」
「はい、ベリーパルフェというブランド名を変えたいんです」
「ブランドの名前を変える……それがどういうことか分かってるの? 貴女、今まで築き上げてきたものを全て捨てるつもり?」
「いえ。捨てるんじゃありません、重ねるんです」
「重ねる……?」
「私にはデザインの実力が足りません。だから、小春ちゃんの力を借りて、一緒に皆を輝かせたい……。その想いを込める為に、ブランド名を変えたいんです!」

-「アイカツスターズ!」 第73話『虹のドレス』より

 

ゆめと小春がどちらも正しいなら、その正しさを「ぶつけ合う」のではなく、異なる色が共存することで、唯一無二の特別な輝きになる虹のように「重ねれば」いい。そんな想いで生まれた新ブランドの名前が「レインボーペリーパルフェであること、そして、そのプレミアムレアドレス=レインボーエトワールコーデが「 “インパクトのある” 虹色で彩られた、“ベリーパルフェを踏襲するシルエットの” ドレス」という、まさに「ゆめと小春の想いを重ね合った」ものであることに思わず涙してしまった。

 

 

新たに「虹」の名を冠したブランド名=レインボーベリーパルフェ。一言加わっただけなのに、その変化にどうしようもなく感動させられてしまうのは「虹」という言葉に単なる「ゆめの名前」以上の意味が詰まっているからだろう。

 

一つは、そこにゆめが見付けた「一番大切にしたいこと」=「皆をキラキラ輝かせる」という願いが込められていること。

 

「ファンの皆も最初は戸惑うかもしれません。でも、新しいドレスを見たら、きっと皆言うと思うんです。こんな色も良いね、こんな形もあるんだ、面白ーい、って! そして街には、私たちのドレスを着ている人がいっぱい! 私も皆も、ハッピーハッピー! ……きっと、そうなります!」

-「アイカツスターズ!」 第73話『虹のドレス』より

 

虹とは「多様性」の象徴。その名を冠するドレスの自由なデザインが、新しい色使いが、皆の個性を輝かせて「それもいいね」と言い合える世界を作っていく……。ゆめの描くそんな華やかな未来図は、人の「個性」を尊重し、育てていくことを本懐とする『アイカツスターズ!』の主人公であり、初めはごく普通の少女だったゆめの願いの辿り着く場所として、この上ない「答え」そのものだろう。 

そしてもう一つは「虹」という言葉が「虹色のアイドル」=虹野ゆめを象徴する言葉であり、レインボーベリーパルフェがそんな「虹色のアイドル」という在り方を具現化したものであること。

 

「本当に成長したわね……。ゆめちゃんって、ずっと放っておけないアイドルだと思ってたけど」
「え?」
「だって、入学してからこれまで、誰よりも泣いたり笑ったり、いろんなことがあったでしょ? その度に、ゆめちゃんは強くなった。今までの経験が、全部ゆめちゃんの輝きに繋がっているの」
「……!」
「泣いても笑ってもいい。たくさんの経験をして、もっともっと輝いてね。大丈夫! 頑張るゆめちゃんを見て、きっといろんな人が元気を貰えるわ。それがゆめちゃんという “虹色のアイドル” 」
「虹色の、アイドル……」

-「アイカツスターズ!」 第49話『一番星になれ!』より

 

決して「特別」ではなく、だからこそ目の前のことに一生懸命立ち向かい、辛いことや悲しいこと、嬉しいことに楽しいことを全て受け止め、自らの輝きに変えることでS4という頂にまで辿り着いたゆめ。さながら一つ一つの「普通の色」が集まって「特別」を作り出す奇跡=虹のような彼女の在り方にひめが贈ったのが「虹色のアイドル」という言葉だった。 

レインボーベリーパルフェは、「デザイン力が足りない」というゆめの苦悩と、その中で見付けた「皆をキラキラ輝かせる」という願い、ゆめと小春の喧嘩という悲劇、そして何より、ゆめと小春という「ごく普通の女の子同士」の努力と絆が生み出した奇跡の結晶。辛いことや悲しいこと、嬉しいことに楽しいこと……。その全てが糧になったからこそ辿り着けたのが「虹色のブランド」=レインボーベリーパルフェであり、ゆめが手にした星のツバサが、太陽系で最も「多様性」に満ちた色鮮やかな惑星=「地球」であったことは、彼女がひめやエルザと同じ「この作品を背負うアイドル」になったことの証明であるように思えてならない。

 

Message of a Rainbow

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アイカツスターズ!』最終章へ

 

ゆめが星のツバサを手に入れたことで、残り2つとなった星のツバサ。なるほど、こうなるともうツバサを手に入れるのはあことレイで間違いないだろうな――と、そんな自分の甘っちょろい予想をまたもひっくり返したのが、第76話『妖精アイドル 双葉アリア♪』だった。

 

 

このエピソードで登場した、リリィ以来となる明確な「異能」持ちアイドルであり、ヴィーナスアークのメンバーにもなった(おそらく)本作最後の追加レギュラー、双葉アリア。
彼女が「ひめと旧知の仲」であるということには驚かされたし、ひめが「(ゆめが自身のブランドを持っているので当然と言えば当然なのだけれど)ゆめ以外のアイドルに自らのブランドを託す」という展開は少なからずショッキングだった(し、ゆめも第76話ではアリアに対し戸惑っている様子が見られた。こちらの考え過ぎ……?)のだけれど、それ以上に衝撃的だったのは彼女が「木星」の星のツバサを手に入れてしまったこと。

 

森のひかりのピルエット 〜アリア ver.〜

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残るツバサはたった一枠。レイはこのままツバサを手にすることなく、エルザの期待に応えることなく終わってしまうのか、それとも、1年目で「特別なグレードアップグリッター」を手にできなかったように、あこが第26代S4で唯一ツバサを手に入れずに終わってしまうのか……。そして、シャレにならない「事案」だった新OP=『MUSIC of DREAM!!!』(文字数がとんでもないことになってしまうので、この歌についての思いの丈はまた次回……!)からして太陽のドレスを獲得するであろうエルザは、果たしてこの先どのような運命を辿ることになるのか。

 

「真昼にとっての君は、私にとってのエルザだって訳だよ。君もエルザも、絶対的な輝きを持つ道標……」
「うーん、それは少し違うかな」
「え?」
「私と真昼はライバルでもあるの。でも、エルザちゃんにはライバルはいないでしょ?」
「当然だよ」
「そう……。だとすると、エルザちゃんって少しだけ孤独かもね」
「……! 孤独? エルザが?」

-「アイカツスターズ!」 第64話『星に願いを』より

 

一見完璧なようでいて、その実「完璧であるが故に、高め合える存在を持てない」という、ある種の「アンチ・アイカツスターズ!」的存在でもあることが明かされたパーフェクトアイドル・エルザ。 

自分は『アイカツスターズ!』を見始めたばかりの頃、本作を「完璧なアイドルである白鳥ひめをゆめが打倒し、開放する物語」なのかと予想していたけれど、この2年目は本当に「孤独な絶対女王」であるエルザを、「多様性の輝き」=ライバルと高め合う四ツ星学園の面々が越えることで、彼女を救う物語となっていくのだろうか。 

レイが星のツバサを手にし、いつしかエルザの「ライバル」として立ってくれること、それはそれとして、ダブルミューズとして出発したあこも星のツバサを手にしてくれること……。誰も不幸にならない結末を祈りつつ、しっかりと覚悟を決めて『アイカツスターズ!』最終章に臨んでいきたい。

 

「私たちは、輝く星を見たら “みんなで努力して高め合う” んです。そしたら、いつの間にか自分もきらきら輝いているから!」
「……なるほど。それが、四ツ星のやり方なんだね」

-「アイカツスターズ!」 第64話『星に願いを』より