感想『アイカツスターズ! 14~30話+劇場版』 牙を剥く “アイカツ” の現実と「七倉小春」という重すぎる代償

「『アイカツスターズ!』は、自分の想像を遥かに上回るとんでもない代物だった」ということを、自分はここまで何度感じただろう。  

それを初めて感じたのは、第10話『ゆめのスタートライン!』。たった10話でここまでのものを見せられるなんて……と愕然となってしまったけど、恐るべきことにそれはあくまで氷山の一角。自分は未だ『アイカツスターズ!』の本気を知らなかったのである。

 

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こちらの記事にもあるように、自分は元々「アイドル」という概念と縁のなかったタイプのオタク。そのため、自分がよもや『アイカツスターズ!』にハマるとは思ってもみなかったし、それほどまでにこの作品は(自分にとって予想外なほど深く)「刺さる」ものだった。

 

しかし、ここまで「ハマった」状況だからこそ生まれる不安もある。というのも、自分が視聴したのは100話中たったの13話という序盤も序盤。4クール以上の長寿作品は自分も色々と見ているけれど、それらの作品の1クール目から盛大にハマるなんてことはほぼ例がなく、そのためアイカツスターズ!』へのハマり方は何かイレギュラーなものなんじゃないか、この先、この作品は自分にとって「合わない」ものになっていくんじゃないのか……という不安があった。それは、これまで幾度となく「大好きな作品が後半や続編で急激に失速していく」という事態に心をグチャグチャにされたことへの対策として、自分のオタク心が必死に張っていたある種の予防線だったのかもしれない。

 

 

杞憂でした。  

劇場版と第30話までを見て、今度こそ心の底から確信できた。このアニメは「視聴者の期待を裏切らず、むしろそれを軽々と越え続けていく」ものだと。

 

とうとう、この作品の持つ「魔性の魅力」に本格的に飲み込まれてしまった自分。これから訪れるであろう更なる地獄で人の形を失ってしまう前に、七倉小春の今後を気にかけ続けてきた初見オタクの断末魔を残しておきたい。

 

スタートライン!(TV Size)

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今回自分が鑑賞した『アイカツスターズ!』は、香澄姉妹のバックボーンが明かされ始める第14話『真昼の決闘!』から、小春とゆめに降りかかる悲劇が描かれた第30話『七色のキャンディ』までの範囲に『劇場版アイカツスターズ!』を加えた、おおよそ2クール目+αと言える範囲。1クール目が「アイドル候補生編」だったとするならば、この2クール目+αは彼女たちがアイドルとしてのスタートを踏み出したその後=「駆け出しアイドル編」と言えるだろうか。 

そんな駆け出しアイドル編においてスポットが当てられていたのは、特に「ゆめたちの友情」そして「アイドルとして越えなければならない壁」の2つ。見るだけで胸がざわつく字面だけれど、実際に本期は突入早々にいくつもの爆弾を放り込んできた。その一つが、傑作と名高い劇場用作品『劇場版アイカツスターズ!』だ。

 

 

全100話中の「18.5話」にあたる本作。夏休み期間の一大イベント『アイカツ☆アイランド』を舞台に、冒頭からゆめ、ローラ、香澄真昼 (CV.宮本侑芽) 、早乙女あこ (CV.村上奈津実) の4人による『アイカツ☆ステップ』が流れる……など、どことなく仮面ライダースーパー戦隊の夏期映画を思い出すスペシャル感満載の本作。しかし、本作における最大の目玉は4人の共演でもS4勢揃いでのライブでもなく「ゆめとローラ」の絆の行く末だった。 

諸星学園長のプラン通り「ひめとゆめにユニットを組ませる」為に、自ら彼女とのユニットを辞退、ゆめを冷たく突き放すローラと、彼女の真意を知らず悲しみに暮れるゆめ……。「互いへの愛情故に」すれ違ってしまい、しかもそのくだりが「ゆめから贈られたプレゼントを落としてしまったのに、それを敢えて拾わずに去るローラ」「衆目に晒され、雨の中で一人立ち去るゆめ」というあまりにも悲痛な画で〆られることには  (異様に凝った演出・作画もあって) 思わず言葉を失ってしまった。

 

 

「幼い頃からプロを目指してきた、誇り高き努力家」のローラと、「稀有な才能を持ちながら、それを扱いきれない素人」のゆめ。こうして見ると当初2人が相容れなかったことには納得せざるを得ないのだけれど、「周囲からの期待に押し潰されそうになりながら懸命に努力するゆめ」がローラを動かし、「ステージの上の自分でなく、ありのままの自分を認めてくれたローラ」がゆめを動かし、その結果2人が和解、程なくして親友になる……という展開にはそれ以上の納得感があった。 

その後も2人が親友として絆を深め、ライバルとして高め合っていく様は実に自然に、かつ印象的に紡がれており、だからこそ輝いたのが第16話『ミラクル☆バトンタッチ』。

 

 

ひめとのタッグステージという絶好の舞台に参加できなくなったローラ。そんな彼女の代役を命じられた (誰より「ひめとのタッグステージ」を望んでいるであろう) ゆめが「ローラの頑張りを知っているからこそ、引き継げない」と拒絶することも、ローラが「ゆめの頑張りを知っているからこそ、託せる」とゆめに自ら頼み込むのも、100話中16話という話数からすれば「まだ早い」と思えてしまうものかもしれない。 

しかし、こと本作においては、そんな2人の在り方に何の違和感もないどころか渾身のエアハイタッチでこちらの涙腺を木っ端微塵にして来る始末。それはまさしく、このエピソードを含めたこれまでの「ゆめとローラの関係性」が非常に丁寧に積み上げられてきたからこその感動なのだろう。  

(実際、ローラにとってはゆめの天真爛漫で純粋な「アイドルへの想い」が、ゆめにとってはローラの「ストイックな情熱」がそれぞれの背中を強く優しく押してくれていたのだろう……と、2人がお互いのアイカツに欠かせない存在になっていたことはこの時点で自然と理解させられてしまう)

 

と、そんな「相手の為に自分を切れてしまうほどの愛情」が火を噴いてしまったのが問題の劇場版であり、彼女たちの絆が克明に描写されきったこのタイミングだからこそ、2人が一体どうすれば「親友」に戻れるのか全く想像できなかった。第10話『ゆめのスタートライン!』同様、それは「あまりにも現実的で生々しい問題だからこそ、その解決法が見ているこちらも思い付けない」という難題になっていたのだ。  

しかし、そんな我々視聴者の想像も不安も美しく飛び越えていくからこその『アイカツスターズ!』。この過酷な展開に対し、本作はあまりにも痛快かつ頼もしい回答を打ち出してくれた。

 

「今、ローラが一番必要としているのはゆめのはず。私と組むより、ゆめと組んだ方がいいステージになると思う」

「でも……今更絶対無理。ゆめとは派手にケンカしちゃったし、今私と組むより、この先のことも……」

「そんなの言い訳でしょ?」

「……!?」

「自分に嘘をつくなんて、らしくないんじゃない? あなたの本当の気持ちはどうなの!?」

「私の気持ち……私の、望みは……。そうだ、私はゆめと一緒に歌いたい。ただそれだけ!」

  

「アイドルの仕事は、みんなに笑顔を届けること」

「そのためには、まずあなたに笑顔になって貰わないとね」

「ありがとうございます……こんな大切なもの、私……私の、笑顔のために……! 私、最高の笑顔で歌えると思います! ローラと一緒に!」

 

ローラは真昼から「自分の本当の気持ちから逃げない」ことに、ゆめは島の少女=マオリ(CV.日高里菜) とその祖母たちから「自分自身が笑顔でなければ、誰かを笑顔にすることなんてできない」ことにそれぞれ気付かされる。それは、ゆめたちがこれまで紡いできた在り方=「“少女たちの純真と、仲間やファンを交えた絆の結晶” としてのアイドル」を改めて肯定しつつ、同時に「ステージに立つ彼女たち自身が、心からの笑顔でいなければならない」とする、熱く真っ直ぐ、かつどこか製作陣の「祈り」のようにも思える決意表明だった。  

(このメッセージを、「自分の本当の気持ちから目を避け続けていたが、夜空とのユニットで大切なものを取り戻せた」真昼がローラに伝えるのがあまりにも「粋」……!)

 

かくして答えを掴んだゆめたちは、各々の「素直な気持ち」を伝え合うために再会する。

 

「ゆめ、私……ゆめに嘘ついてた!」

「えっ」

「余計なこと考えすぎて、寄り道しちゃったけど……やっと分かったんだ。自分の、素直なホントの気持ちが!」

「ローラ……」

「私はゆめと一緒に歌いたい! 絶対絶対、2人がいいじゃん!」

「私も分かった、自分の気持ち……! 私もローラと一緒に歌いたい! だって、ローラのことが好きなんだもん……大好きなんだもん。喧嘩して、寂しかった」

「ゆめ……」

「今の私があるのはローラのおかげ。一緒にアイカツしてきた大事な仲間で、親友で、ライバルで……とっても、とっても、大切な――大切な、ともだち」

「ごめん、ゆめ……。もう一度お願い、私とユニット組んでくれる?」

「私で、いいの?」

「ゆめがいいのッ!!」

「っ……」

「本当に、私でいいの?」

「ローラがいいのっ!!」

 

「ここが2人の再出発地点」と示すかのように流れる『スタートライン!』のアレンジBGM、そしてアニメ史に爪痕を刻んだとさえ言えそうな程の、常軌を逸する作画で描かれる2人の「仲直り」。 

不安がるゆめを「ゆめがいいのッ!!」と叱咤しつつも「本当に、私でいいの?」と訊ね返し、「ローラがいいのっ!!」と叫ばれるや悪戯っぽい笑みを浮かべるローラ……。お互いにあの場で立ち会った時点で気持ちは通じ合っているのに、彼女たちはその上で自身の想いを言葉にしてみせる。それは「言葉にする」ことには「想いを伝える」以上の意味があるからだろう。

 

 

「気持ちを言葉にする」のは怖いことだ。自分の気持ちが相手とは違うかもしれない、相手から望まない言葉を引き出してしまうかもしれない、拒絶されてしまうかもしれない。だからこそ、人は意識的にせよ無意識的にせよ、その気持ちを敢えて口にしないのだろう。 

そんな「言葉にしない関係性」は、事実とても気楽で居心地が良い。相手にどう思われているのか。好かれているのか、嫌われているのか……それらが「可能性」であるうちは、自分の想像次第で良いようにも悪いようにも解釈できる「余地」があるからだ。 

しかし、それは一方で「相手との100%の繋がりにはなり得ない」ということでもある。人と人とはどうあっても他人、相手の気持ちは言葉で聞かないことには知りようがなく、だからこそ、相手とどんなに仲良しでも「すれ違ってしまう可能性」が残る。解釈の余地はそっくりそのまま相手との「溝」として残り続けてしまうのだ。

 

ならば、その「溝」を埋めるために必要なものは何なのか――と言えば、それがきっと「言葉」なのだろう。 

気持ちを言葉にして伝えることの恐怖、関係性を崩しかねないリスクを取って想いを鞘に納めるか、それを押してでも相手との「より深い繋がり」を取るか……。そんな究極の選択において、ゆめとローラは後者を選んだ。仲直りするだけであれば、あの夕焼けの中で再会し、ただ一言謝るだけで良かったのだろうけれど、2人は「もう2度と、ゆめ/ローラを失わない」ために、その気持ち=愛も不安も、感じているもの全てを真正面から言葉にしてみせた。このシーンが息を呑んでしまうほど美しいのは、きっと作画や演技・演出は勿論、彼女たちの「勇気を振り絞って己の全てを晒け出し、ぶつかり合いながら (=忖度なく、心の底から) お互いの存在を受け入れ合っていく」という姿が、人と人との繋がりにおけるプリミティブな美しさ=「人と人とは同じにはなれないし、ぶつかり合う・すれ違うこともあるけれど、だからこそ、その ”分かり合い” が尊く美しい」ということをこれ以上なく真っ直ぐに謳い上げているからではないだろうか。  

(この2人の関係は言葉にできないものだけれど、ゆめの台詞から少なくとも “親友” を越えた何かだということは分かるし、映画を見るだけでその強い想いが伝わってくる。それを敢えて言葉にするのは野暮というものだろう)

 

POPCORN DREAMING♪

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こうして、これまでのゆめたちの歩みが力の限り肯定され、ゆめとローラの絆が「100%」の先へと踏み出した瞬間が描かれた『劇場版 アイカツスターズ!』。見終わった時は、もうこれが最終回でいいんじゃないの……? という多幸感は勿論、同時にどうして18.5話という早期にこんな実質最終回を……? という疑問も生まれていた。 

その疑問への回答が最初に描かれたのは、本作2度目の前後編シナリオ=第21話『勝ちたいキモチ』、そして第22話『憧れへ続く道』。結論から言うなら、この早期にゆめとローラの絆の到達点が描かれたのは、それ以降に待ち受ける怒濤の「試練」への布石/前準備だったのだろうと思う。

 

 

本作の2クール目+αにおいて、「ゆめたちの友情」と共にスポットが当たるのが「アイドルとして越えなければならない壁」という概念。アイドルとして走り出した者がぶつかる「壁」を前にしたゆめとローラの苦悩が、それぞれの大きなターニングポイントとして描かれる……のだけれど、本作では彼女たちに先立ち、劇組のエース=早乙女あこが壁に当たる姿が描かれる。

 

事実上劇組トップの実力を持つあこ。そんな彼女の「未熟さ」が明確に示されたのは第17話……の1話前、第16話『ミラクル☆バトンタッチ』で描かれた夏フェスだ。 

ゆめがひめと組んだように、ツバサと組んで意気揚々とステージに挑んだあこだったが、その得点は4組中の最低点。この結果は、勿論「他の組が素晴らしかった」というのはあるだろうけれど、それ以上にあこ自身の問題が大きかったことが、続く第17話『本気のスイッチ!』にて暗に証明されてしまう。

 

 

M4の冠番組『Fun! Fun! 君のハートをフルスロットル!』にゲスト出演することになったものの、すばるにしか目が向かないせいで周囲を巻き込み放送事故寸前に追い込んでしまうあこ。そんな有り様を見かねてか、M4の一人=吉良かなた (CV.ランズベリー・アーサー) が彼女に問いかける。

 

「あのさ……。お前、何のためにアイドルやってんの? すばるのためにアイドルやってんの? 本当に、それでいいの?」

 

「すばるへの愛をモチベーションに、劇組のトップへ登り詰めた」というあこ。「愛する人に近付きたい」という一点でここまで登り詰めることは常人にはできないだろうし、その背景に想像を絶する努力があったであろうことは想像に難くない。彼女もまた、十分に「トップスターの資質」を秘めたアイドルだと言えるだろう。 

しかし、本作におけるアイドルとは皆で作り上げる輝きの結晶。すばるしか見えておらず、仲間たちやファンのことが見えていない状況=ただ「実力がある」というだけのアイドルでは、ステージに立てたとしても、その先の世界で戦っていくことはできない。その証左が夏フェスでの大敗であり、『Fun! Fun! 君のハートをフルスロットル!』での失敗と敗北だった。 

よりによって愛するすばるの前で醜態を晒し、彼の心を掴む一世一代の機会さえ逃してしまったあこ。心折れても仕方ないような状況下で彼女を救ったのは、よりにもよって恋敵=ゆめが楽屋に置いていった台本――に記された、ゆめの無数の書き込みだった。

 

(あの子、ちゃんと準備してたんだ……。それに比べて、私は……私は何をやってたんですの?)

「わぁっ! それ見た!? 恥ずかしい~! 色々へんてこな書き込みや、漢字のフリガナとか書いてあったでしょ!?」

「ええ、びっくりしましたわ」

「あちゃ~!」

(びっくりしたのは、そのことじゃなくって…… “あなたがちゃんと準備していたこと” ですわ)

「いよいよ、歌のコーナーですわね」

「えっ? うん、頑張ろうね!」

(そう、私は私のために歌いますわ。アイドルとして、ステージに立つ!)

 

番組を盛り上げること、視聴者に楽しんで貰うことを第一に考えていたことが伝わる、ゆめの懸命で的確な書き込み……。それを目の当たりにしたことで自身の至らなさを痛感、すばるではなく自分のため、まずは誰より自分自身が輝くアイドルになることを決断したあこ。その決断が「壁」を越えさせたのか、彼女が披露したステージはあさひやすばるも一目置くものに仕上がっていた。 それは、これまで「なまじ高い技量によって、心の未熟さを克服する機会を失ってしまっていた」あこにとって真の「スタートライン」であり、彼女がアイドルとして次のステージに踏み出した瞬間でもあったのだろう。 

(アイドルとして真に歩み出したことで、彼女がようやくすばる “から” 声をかけられるラストシーンの感動も大きかったけれど、やはり見逃せないのは彼女とかなたの顛末。この2人の関係性が好きすぎる……何かしらあってくれ……頼む……)

 

8月のマリーナ 〜あこ ver.〜

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そんなあこの「壁越え」が描かれてから劇場版を挟んで迎えた運命のエピソード、第21話『勝ちたいキモチ』。このエピソードが、ゆめとローラの関係性を変化させていく大きな分岐点になっていた。

 

 

四ツ星レーベルプロデュースによる「1年生のCDデビュー」企画。しかし、当然ながらデビューできるのはたった一人……。その座をかけて火花を散らすゆめとローラだったが、その勝者となったのはなんとゆめ! 

「実質的な出来レース」という前評判を覆す衝撃の結末には自分も思わず声を上げてしまったけれど、その直後に映されたローラの「茫然自失一歩手前」の表情と、祝福に包まれるゆめに背を向けて一人立ち去る背中には、数秒前とは全く異なる意味で言葉を失ってしまうと同時に深い納得も感じた。「だから、事前に劇場版で2人の仲を完成させていたんだ」と。  

(でないと、以降の展開で2人が目も当てられないほど剣呑としてしまい、およそ女児向けアニメとして放送できない代物になってしまったのではないだろうか)

 

「この間の負けは……大きな課題になったな」

「正直、私が負けるなんて思いませんでした。でも、二度は負けません!もう、誰にも!」

 

続く第22話『憧れへ続く道』において、アンナに「もう負けない」と力強く答えるローラ。このエピソードのラストでは、ゆめがローラに勝ったことでようやく2人が「対等な関係になった」と伝わるやり取りもあり、「ローラがゆめのCDを買ったことがバレる」という微笑ましさ限界突破の演出も手伝って2人のギクシャクも解消。これで、2人は新しいステージに進む――のだと、そう思っていた自分が馬鹿だった。 

自分はまだ『アイカツスターズ!』を分かっていなかった。その本気を見くびっていたのだ。

 

 

第22話から更に2ヶ月が経過した第29話『本当のライバル』。サッカーワールドトーナメントのハーフタイムショーを担当することになった四ツ星学園一年生は、各組でセンターを決めるオーディションを行うことに。ローラは「ゆめへのリターンマッチ」という絶好の機会をものにすべく、彼女の誘いを断ってトレーニングに打ち込むが――。

 

「出ましたぁ! 歌組のセンターは、虹野ゆめさんに決定です!」

 

絶句。  

いや、多分何かしら変な声を上げていたと思う。第10話『ゆめのスタートライン!』でゆめのチケットが一枚も売れていなかった時かそれ以上の衝撃だったし、ゆめに声すらかけず、今度は文字通り「茫然自失」の表情で去っていくローラを見て平静を保てる人間が果たしてどれほどいるのだろうか。  

しかし、そんなローラの姿に愕然となる一方で、この『アイカツスターズ!』という作品の異様な「巧さ」に感嘆する自分がいたのもまた事実。この作品の製作陣は、本物の「敗北」を知っている。一度負けただけなら (自分への) 言い訳もできるし、ローラのように次は負けない! と立ち上がることもできるだろう。けれど、二度目の敗北に「偶然」はない。ローラは、二度負けたことで正真正銘「ゆめに負けた自分」を直視し、作中初めて立ち上がれないほどのショック=「挫折」を味わうことになってしまったのだ。

 

あまりにも……むしろ過剰なくらい説得力のあるローラの挫折。更に、このシチュエーションが『ゆめのスタートライン!』以上に残酷なのは「彼女がどうしてゆめに勝てなかったのか」が、見ているこちらにもはっきりと分からないということ。  

彼女がどうすればゆめに勝てるのか、行き詰まり、追い詰められたローラはそもそももう一度立ち上がることができるのか……。そんな「希望があるのかどうかさえ分からない」という状況は、ともすればこの作品を見ていて最も胸が苦しい場面だったかもしれないとさえ思う。 

けれど、だからこそここで現れたアンナの言葉が「刺さる」。

 

「桜庭は虹野とは違う。いつも言っているだろう、“個性が大事” だと」

「じゃあ、ゆめの個性には……私はどんなに頑張っても勝てないってことですか!?」

「そんなことは言っていない。個性は人それぞれ……。全く同じものはこの世にはない。虹野には虹野の個性、そして桜庭には桜庭の個性がある、と言っているんだ」

「アンナ先生……」

「虹野と比較して、同じことをして、勝った負けたなんて思う必要はない。ましてや “もう勝てない” なんて思うのはナンセンスだ、お前はお前のやり方で光輝けばいい」

「っ……!」

「自分達のやり方を見付けた上で競い合う。それが、本当の意味でのライバルだ」

 

勝ち負けにこだわるあまり、以前ローラ自身が見付けた答え=「個性」の大切さを見失い、コーデなども「自分らしさ」を二の次にしてしまったローラ。そんな彼女に「個性の大切さ」を思い出させ、その上で「勝ち負けに囚われるのではなく、あくまでそれぞれのやり方を認め合い、切磋琢磨するのがライバル」だと教える……。 

初めて挫折を味わったローラを「励ます」のでも「慰める」のでもなく、彼女を「導く」アンナ。セルフプロデュースに職務を越えたこだわりを持ち、常に我が道を行くアンナが、この時だけは「ローラの手を自ら引いた」こと。彼女の声がこれまでと異なる「母」のような慈愛に満ちたものであったこと。そして、誰もがゆめのシンデレラストーリーに湧き上がる中で、彼女だけは第22話からずっとローラを気にかけてきたということ……。この一連で泣かされてしまうのは、アンナの諭しそのものの素晴らしさは勿論だけれど、何よりローラへの「接し方」が大きいように思う。

 

 

その血筋から、常に「勝つ」こと、ないし「優秀であること」を求められ続けてきたであろうローラ。才能以上に己の努力でそのプレッシャーを乗り越え続けてきた彼女は、だからこそ「自分が負けるとは思っていなかった」のだろうし、それは裏を返せば「負ける自分」には価値がないと感じているようでさえある。彼女がゆめへの「勝ち」に囚われてしまったのは、そんな彼女の「恐怖」の表れでもあったのではないだろうか。 

おそらく、アンナはそんなローラの崩れ落ちそうな心を理解していた。だからこそ、第22話ではゆめに負けたことを「課題になった」=「負けたことで自分を否定せず、次への課題として糧にすればいい」と言ってみせたし、二度目の敗北に際しては直接手を差し伸べてみせた。 

第27話『小さなドレスの物語』において語られたように、かつては「ロック界の新星」と呼ばれS4の一角だったアンナ。彼女もローラ同様、自身の限界や周囲からのプレッシャーに苦しんだ時期があったのだろうと思うし、今回のローラへの接し方には、そんな過去を感じさせる「素」が見え隠れしていた。 

そうでなくとも、彼女はただ一人「陰で努力し続けるローラを見守り続けてきた」存在。ローラが "勝てなかった自分" や、ゆめという "ライバル" を真に受け入れ「敗北」という壁を越えることができたのは、自分に寄り添ってくれたのがそんなアンナだったからこそなのだろうし、この克己が「桜庭ローラ」というアイドルを完成させる最後のピースとなることを、今はただ願ってやまない。  

 

 

こうして、残酷かつ丁寧に描かれたローラの「敗北」。それを目の当たりにする傍らで、どうしても感じてしまうことがあった。 

「流石に、ゆめが上手く行きすぎじゃないか」 

……と。

 

大前提として、自分は既にもう虹野ゆめが大好きだし、彼女が「謎の力に驕れることなく、あくまで自分自身の努力でここまで登り詰めた」のも理解している。第18話『ゆりちゃんと一緒』で「草の根アイドルという新しい戦い方を見付け、必死に努力した結果ベスト4の栄冠を掴んだ」ことなどは、まさにその最たる例だろう。

 

 

けれども、彼女がここぞという時に「謎の力」で状況を打開してしまっていたのもまた事実ではあった。努力が報われないローラに対して、努力こそしてきたものの、最後の「決め手」を自分自身の力と言えるかどうかあやふやな力に託してしまった (特に、第21話では自らその力に縋ってしまう場面があった) ゆめ。そんな彼女がトントン拍子にスターへの階段を駆け上がっていくことには、どこか「違和感」……もっと言うなら「不穏さ」のようなものを感じずにはいられなかった。 

ひたむきに努力し、敗北しているローラがこれだけ悲惨な目に遭っているのにゆめがこうも順調なのは、普通のアニメなら「ありがちな主人公優遇」と諦めるしかない点だけれど、本作が「そう」ならないことを自分は既に知っている。そして、その「代償」は予想していたよりずっと早く――およそ考えられない程の最悪の形で訪れてしまった。

 

 

第29話冒頭で、父親がイタリアに長期出張となったため、家族で引っ越すことが決まってしまった小春。てっきり、その決定に対して (先日放送の某プリキュアよろしく) 小春が「アイカツのために日本に残る」と決断する流れだと思っていたので、第30話で「イタリアに引っ越すことになったんだ」という発言が飛び出した時は耳を疑った。いやいや、まさかそんな。 

しかし、話は確実に小春が旅立つ前提で進んでいき、とうとうゆめ主催で小春のお別れ会が開かれることに。いやいや待て待て、だとすればこれはきっとアレだろう、小春が一時離脱してまた戻ってくるっていう……などと思っている矢先に、お別れ会が急激に「真実味」を出してくる。小春の名場面プレイバック、S4からのサイン色紙贈呈、そしてゆめの単独ステージ (しかも、その歌はよりによって新ED『So Beautiful Story』) 。 

え、これはまさか本当にお別れ――と、思いきや、歌がクライマックスに差し掛かったところで突如ゆめが昏倒。お別れ会は中止となってしまい、彼女は「小春にお別れを直接告げられない」というまさかの事態を迎えてしまう。 

けれど、正直なところその様子に心底安堵している自分もいた。ゆめが小春との別れに立ち会えないなんてことはあり得ない。ということは、このシーズン中かあるいはシーズン2で小春は戻ってくるし、これはあくまで一時的なものでしかない――と。

 

そんな予想を、本話のクライマックスが木っ端微塵に粉砕した。

 

「私がイタリアに行こうって思えたのは、ゆめちゃんのおかげなんだ。ゆめちゃんの凄いステージを見る度、私ももっと成長したい……って心から思った。そのためには、今のままじゃダメだって気がするの。私たちはまだ未来の途中……。新しい場所で、新しい自分を探してきます。私の、新しいアイカツのスタートラインです!」

 

小春がゆめに残していた手紙。その内容は、およそ「程なくして戻ってくる人物」から贈られるものではなかったし、次のシーズンでレギュラーとして復帰するんじゃないか、という期待さえ抱かせてくれないほどに「本当の別れ」を感じさせるものだった。

 

「これからも一生、ゆめちゃんのファンです!」

 

自分は大きな勘違いをしていた。 

ゆめが「小春とのお別れ会を自ら台無しにしてしまい、別れ際に立ち会うこともできなかった」のは、単なる今後の展開に向けた布石などではない。それは、これまでゆめが自身の持つ謎の力にきちんと向き合わず、あまつさえその力に「頼って」きたことへの罰……あるいは「報い」。彼女は自分の力を越えた成功を手にする代わりに、それ以上に大切な「人生で一度きりの機会」を自ら汚すことになってしまったのだ。

 

 

以前にも第10話『ゆめのスタートライン!』において、自分自身の無知と慢心が一つのきっかけとなり、ライブを破綻寸前にまで追い込まれるという憂き目に遭っていたゆめ。その逆境を乗り越えた経験に加え、そもそも彼女は自分よりも他人を優先する優しい少女。そのため、ゆめはもう「彼女自身の中で完結する罰」を受けても、それほど大きなダメージを受けることはないのだろう。 

その結果、ゆめが何より苦しむ「代償」として『アイカツスターズ!』世界から彼女に科せられたのが今回の事態。自分以上に小春が傷付く (小春にとって、“自分のせいでゆめちゃんに無理をさせた” という消えない傷痕になる) というこの罰は、きっとゆめがライブに失敗するよりも、ローラに負けるよりも、何よりも悔しくて苦しい最大級の「戒め」と言えるのではないだろうか。

 

ゆめが挫けそうな時、いつも側には小春がいてくれた。彼女がいたからこそ、ゆめはここまで走り続けることができた。けれど今、これまでで最も深い傷を負ったゆめの隣に彼女はいない。残されたキャンディを含んで涙する彼女は、いつ泣き出してもおかしくないように思えた――というより、それが中学一年生にとっての「当たり前」だった。 

しかし、ゆめは以前の彼女ではない。別れ際に自分へのエールを残してくれた小春の想いと「新しいアイカツに挑む」という覚悟に応え、弱い自分にさよならをするために、彼女は涙こそすれ「泣き喚く」ことはしなかった。

 

(ごめんね、小春ちゃん……きちんとお別れできなくて。もう二度とあんな失敗ステージ、見せたくない! 絶対に! )

 

あこ、そしてローラがぶつかったような……もとい、それ以上の大きな壁にぶつかってしまったゆめ。しかし、彼女はそれを自分自身で乗り越えてみせた。仲間たちと紡いだ絆の結晶がアイドルであるなら「その仲間と離れていても、紡いだ絆を胸に戦えるようになった」ゆめは、この瞬間、間違いなくアイドルとして一回り大きな存在に進化したと言えるのではないだろうか。 

(けれど、完全に割り切ることなんてできない……という彼女の年相応の脆さ/未練が表れたのが、EDラストカットの  “小春人形に寄りかかるゆめ人形”  というのは、流石に深読みが過ぎるだろうか)

 

 

 

一方、ここで勘違いしてはならないのは、ゆめに与えられた「罰」とはあくまで「お別れ会を台無しにし、小春との別れを告げられなかった」ことであり、小春との別れそのものは「ゆめへの罰」には含まれていない……ということ。そう思えるのは、小春があくまで前向きに、自分なりの「意義」を持って旅立ったからだ。

 

「私がイタリアに行こうって思えたのは、ゆめちゃんのおかげなんだ。ゆめちゃんの凄いステージを見る度、私ももっと成長したい……って心から思った。そのためには、今のままじゃダメだって気がするの。私たちはまだ未来の途中……。新しい場所で、新しい自分を探してきます。私の、新しいアイカツのスタートラインです!」

 

この手紙の通り、小春が引っ越すのは決して「父の出張に合わせて、仕方なく引っ越す」という後ろ向きな理由だけではなかった。 

ゆめ、ローラ、真昼、あこといった面々に置いていかれた印象さえあった小春。四人が高い目標を掲げる傍らで「日々精進」「自分らしさを探したい」といった目標を口にする彼女は、しかし決して諦めていた訳ではなく、自分が本当にしたいこと・すべきことを考え続けていた。むしろその矢先に舞い込んだ「転機」こそが、今回のイタリア行きだったのではないだろうか。 

そう思わせてくれるのは、これまでのエピソードで小春が「このような決断を下せる存在へと成長していく姿」がしっかりと描かれていたから。そのことが顕著だったのが、第28話『ハロウィン☆マジック』だ。

 

 

四ツ星学園で開催されたハロウィンイベント。「お菓子を一番集めた人には、ハロウィン☆プリンセスの称号が与えられる」……という、一見アイカツとは程遠いようでその実各々の「個性」が色濃く問われるこのイベントにおいて、小春は (作中で描写されている限り) 初めてNo.1に輝いてみせた。 

その決め手になったのは「メガネの下に鼻メガネを仕込む」という、まさに「ビックリ箱の小春ちゃん」ならではのサプライズ。「自分らしさ」に悩み、それを探し続けてきた小春だけれど、彼女はとっくに自分だけの「個性」を持ち、それを活かして栄冠を掴んでいた。イタリアに行くまでもなく、彼女は「自分らしさ」をものにするほどの大きな進化を遂げていたのだ。

 

思えばそれ以前にも、小春は『アイカツスターズ!』において多くの役目を担い、見事それらを果たし続けていた。ゆめを支え続けたことは勿論だけれど、ゆめ、ローラ、真昼、あこの四人が繋がることができたのは、他ならぬ小春があこ・真昼と友人になったことがあまりに大きい。 

不器用で本音が出せないあこや、「香澄家の末妹」であることが周囲との壁になっていた真昼といとも容易く打ち解けられたのは、どんな相手も優しく受け止めるおおらかな心と、どこか頬っておけない純朴さを併せ持つ彼女にしか成し得なかったこと。スコアには表れなかったとしても、小春はこれまでの学園生活の中で如何なくその力を発揮していたし、きっとそのことが四ツ星学園の歴史を大きく変えていくことになるのだろう。

 

「世界は広く、そして道は一つじゃない。迷い、悩み、足掻いて、夢に辿り着くこともある」

 

第3話『わたし色の空へ』では、ツバサがこのような言葉を残していた。それはつまり、小春の旅立ちが決して「脱落」のようなものではないということ。

彼女が自身の言葉通り大きな成長を遂げて帰ってくること。そして、彼女の小さな輝きが眩しい大輪の花を咲かせること。それらが実現する瞬間が、どうかそう遠くないうちに訪れますように……。

 

So Beautiful Story

So Beautiful Story

  • るか・せな from AIKATSU☆STARS!
  • アニメ
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

ゆめたちの友情を深く描き、その下地によって「アイドル」の厳しさ、そして壁を越えていくゆめたちの姿を見せてくれた『アイカツスターズ!』第14~30話と劇場版。しかし、そのように彼女たちの成長が描かれる傍らでは、今後彼女たちの新たな「壁」となるであろうキャラクターの登場も描かれていた。

 

 

一時学園を離れていたゆずの親友=白銀リリィ (CV.上田麗奈) 。驚異的な実力を持つ彼女はなんと2年生の歌組。ゆめVSローラ、2人のうちどちらかがS4になるというある種の予定調和を根底から覆す彼女の参戦は、小春という「癒し」の退場とほぼ入れ替わりなこともあって、『アイカツスターズ!』新章の開幕を鮮烈に謳う「狼煙」であるかのようだ。

 

ゆめは自らに課せられた「運命」に抗うことができるのか。ローラは熾烈な歌組のS4争いにどう挑んでいくのか、現状対抗馬のいない真昼、あこはS4になることができるのか、レギュラーキャラが不在で、準レギュラーだったハルカ☆ルカ (CV.仲谷明香) が海外に飛ばされてしまった (?) 舞組のS4は一体誰になるのか。

 

(だけど、小春ちゃんがいなくて、頑張れるかな……。私も、ここが新しい “スタートライン” 。ゆめの夢は、S4になること――)

 

いよいよ第1シーズンのクライマックスへと走り始めた『アイカツスターズ!』。その行く末を(今回触れることができなかった香澄姉妹の今後を含めて)心して見守っていきたい。