感想『アイカツスターズ! 74・84話』 ドレスと涙で絆を結ぶ、背中合わせのふわもこ☆ダブルミューズ

「勘が冴える」という言葉に、いまいちピンと来たことがない。 

試験において、不安だった教科が破格の点数を叩き出していた……とか、普段は手を出さない玩具をたまたま買ったらあっという間に入手困難のプレミア品と化してしまった……とか、そういう出来事は勘というか「運が良かった」と言うべきだろうし、自分も一度でいいから「勘が冴えてる!」と言ってみたい――。

 

アイカツスターズ!』第74話『ふわもこ☆フレンズ』を見てブログに溢れんばかりの熱を叩き付けようとしたものの「そう遠くないうちにこれを踏まえた更なるヤバ回が来そうだからこの熱はそこに取っておいた方が良さそう」と保留にし、その「激ヤバ回」こと第84話『夢は一緒に』の感想を書いたらそこだけで字数が10000を越えてしまったぼく「勘 が 冴 え“ て“ る“ ゥ“ !!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

そんなこんなで出会ってしまった「激ヤバ回」こと『アイカツスターズ!』第84話『夢は一緒に』。 

前々回の記事で敢えて触れなかった第74話『ふわもこ☆フレンズ』と併せて、この2編とあこ&きららの魅力=安易に言語化できない「『’““良さ““』」を、10000字丸々かけて振り返っていきたい。

 

《目次》

 

 

これまでの「早乙女あこ&花園きらら」


自分が今回見たのは。第78話『ようこそ パーフェクトマザー!』から、第85話『輝きを渡そう』までの計8話。本来なら下記の記事に8話分の感想をまとめる予定だったのに、第84話『夢は一緒に』の感想がそれだけで10000字をオーバーしてしまったため、急遽切り離して一本の記事にした……というのが事の次第。

 

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新主題歌『MUSIC of DREAM!!!』が物語る通り、次から次へと衝撃的なエピソードが畳み掛けてきた『アイカツスターズ!』第78話~第85話。しかし、その中で最も胸を打たれたものはと訊ねられれば、自分は4時間くらい唸って考えた末に第84話『夢は一緒に』を挙げると思う。

 

残るツバサはたった一枠。レイはこのままツバサを手にすることなく、エルザの期待に応えることなく終わってしまうのか、それとも、1年目で「特別なグレードアップグリッター」を手にできなかったように、あこが第26代S4で唯一ツバサを手に入れずに終わってしまうのか……。

引用:感想『アイカツスターズ! 64~77話』 星のツバサと運命のドレスが導く、虹の向こうの「二人の一番星」 - れんとのオタ活アーカイブ

以前の記事ではこう書いたけれど、自分は正直「ツバサを手に入れるのはあこだろう」と思っていた。1年目で「特別なグレードアップグリッター」を手にできなかったのだから、あこがツバサを手に入れることがそのリベンジ、あるいは彼女の成長の証になるだろうし、二度も「一人だけ重要なアイテムを手に入れられない」だなんて、そんなはずはない、と。 

なので、正直なところレイがツバサを獲得した瞬間は「驚き」よりも「あこがツバサを獲得できないと確定したショック」で一杯だったし、自分でも意外なほど長時間引きずっていた。いや、だって……しんどくって……。  

勿論、この先あこに何らかのフォローが入る可能性は十分にあると思う (というかないと泣くよ!?) し、ローラやリリィへの見事なフォローからもそれは明らか。ただ、それでも懸念点があるとすれば、それは問題の第84話『夢は一緒に』が「早乙女あこのラストステージ」と言われても遜色ないものになってしまっていたことだ。

 

 

そもそもの始まりは、ヴィーナスアークからやってきたアイドル=花園きららが、あこのミューズ着任が内定していた「フワフワドリーム」の契約を奪ってしまったこと。 

それは確かに「横取り」ではあったものの、あこはきららとの直接対決、そして彼女のステージを経て「自分に足りなかったもの」を悟り、潔く敗北を認めてみせる。

 

「なんとなく……分かった気がしますわ」
「えっ?」
「ドレスは、ブランドからのメッセージを伝えるもの。彼女はそれを表現するために真っ直ぐだっただけ」
「自分の意見を曲げなかったり、逆にあこちゃんのアイデアを取り入れたのは、きっとそのため……」
「なのに私は、ただ単に “素敵なドレスを作ろう” としか考えていなかった。選ばれなくて当然ですわ」
「エルザさんが言ってた “足りないもの” って、このことだったんだね……。やっぱり凄いね、ヴィーナスアーク」
「ええ……!」

-「アイカツスターズ!」 第54話『きらら☆フワフワ~なアイドル』より

 

「あざとくてその実腹黒い」キャラクターかと思われたきららは、その実「全く自分を偽らず、表裏のない」少女であり、可愛い顔も、ワガママな顔も、全ては「ありのままの自分で在る」というだけ。天性のアイドルと呼べる彼女は、アイドルとしてのキャラクターを作っている=「猫」を被っているあことはある種対照的な人物だったのだ。  

しかし、あこがきららに「自分にはないもの」を見出だしている傍ら、当のきららも「あこには自分にはないものがある」と見出したらしく、あこに驚くべき提案を持ちかける。

 

「一緒にやろうよ、フワフワドリームのミューズ!」
「はぁ!? 全く、何を言ってるんだか……ミューズは一人と決まってるじゃないですの」
「大丈夫! きらら、細かいこと気にしないから!」
「こ、細っ……こま……!?」

-「アイカツスターズ!」 第54話『きらら☆フワフワ~なアイドル』より

 

確かにきららのことは認めたものの、それとこれとは話が別。あこは誘いを断り、ヴィーナスアークに一層強い対抗意識を燃やす――と、それが2年目序盤における2人の顛末。 

果たして、あこは本当にきららとタッグを組むのか、それとも宣言通りブランドの奪還を成し遂げるのか。その答えが示されると共に、2人にとって大きなターニングポイントとなったのが、第74話『ふわもこ☆フレンズ』だった。

 

 

第74話『ふわもこ☆フレンズ』ー 早乙女あこを動かしたもの

 

あこの冠番組『みんな集まれ!! あこにゃん×2』。子どもたちと一緒に動物たちのことを学ぶ……という、第45話『あこ、まっしぐら!』の内容がそのまま形になったかのようなこの涙腺ブレイク超危険番組に、ゲストとしてゆめ&小春、そしてきらら&キャロラインが登場する。

 

「ねぇ」
「ん?」
「あの虹のコーデって、ゆめちゃんと小春が2人で考えたの?」
「ええ、そうですわ」
「ふーん……」
「気になりますの?」
「別にっ」
(ふたり、っていいなぁ。きららも……)

-「アイカツスターズ!」 第74話『ふわもこ☆フレンズ』より

 

これまでは「面白そう」という想いが先走っている節があったきららだけれど、レインボーベリーパルフェのドレスを子どもたちに紹介するゆめと小春を羨む眼差しは「あこがいい、あこと一緒にアイカツしたい」という強い愛情が感じられるもの。その後、本番直前に番組レギュラーのいたずらっ子=哲也 (CV.川上舞) にキャロラインが拐われてしまうというアクシデントが発生、奇しくもきらら待望の「あこときららのステージ」が行われることに――。 

この『ふわもこ☆フレンズ』では、あこ&きららの物語と同時進行で「カッコいいものへのこだわりから頑なにキャロラインを拒んでいた哲也が、最終的にキャロラインのふわもこに陥落、虜になってしまう」姿が、明らかにあこときららのメタファーとして描かれていた。 

しかし、ふわもこのゴリ押しで陥落した哲也とは異なり、あこはきららを「フワフワドリームのミューズに相応しいアイドル」として認めながらも、頑なにその誘いを断り続けてきた強者。ストーリー上「あこときららがダブルミューズになる」ことまでは予想できていても、この2人がどう和解するのか、一体どう天地がひっくり返ればあこがきららを受け入れるのか……。そこについては全く想像できなかったし、何ならこの2人がパートナー関係となっていくことにも未だ疑問符が残っていた。この瞬間を見るまでは。

 

「ふふっ!」
「どうしたんですの?」
「あこちゃんと一緒のステージ、すっごく嬉しいなぁ、って!」
「えっ?」
「もう、忘れちゃったの? きらら、最初から“あこちゃんと一緒にミューズやりたい” って言ってたでしょ?」
「あなた、まだそんなことを……?」
「そう言ったでしょ?」
「……っ」
「それにあこちゃん、きららに負けないくらい、今でもフワフワドリームのことが大好きなんでしょ?」
「負けないくらい? いいえ、きっと私の方が大好きですわ!」
「ふふっ……! はい、プレゼント!」
「えっ? これは……!」
「メルティイエローベルコーデ。いたずら好きな猫ちゃんみたいで可愛いでしょ? あこちゃんの為のドレスだよ!」
「きらら……」

-「アイカツスターズ!」 第74話『ふわもこ☆フレンズ』より

 

きららがプレゼントしたのは、猫を模した可愛らしいデザインに、あこのパーソナルカラー=黄色が映える可愛らしいドレス=メルティイエローベルコーデ。 

日頃から仲良くしているゆめたちならいざ知らず、あことそこまで親しくしていた訳ではない――というより、他ならぬあこ自身がスキンシップを拒んでいた――きららは、それでも見事「あこにピッタリのドレス」を見繕ってみせた。それは、きららがあこという天の邪鬼にどこまでも真っ直ぐ向き合っていたこと、そしてダブルミューズの誘いが「本気」であることの何よりの証。  

加えて、このドレスにはきっと当事者=あこにしか汲み取れないものも込められている。ボクサーの拳に魂が宿るように、水泳選手が水の中で想いを交わすように、きららの選んだコーデには、それを受け取ったあこにしか汲み取れない彼女の「純真」が目一杯込められていたのだろうと思う。  

普段がどれだけ天の邪鬼でも、相手が誰であろうとも、本物の誠意には本物の誠意を返す早乙女あこ。そして、相手がどれだけ自分を突っ跳ねても諦めず、徹頭徹尾真っ直ぐに「混じり気のない、純粋な親愛」を訴え続けるきらら。前代未聞の「ライバル校とのダブルミューズ」とは、一見「水と油」かに思われたこの2人だからこそ成し得た、まさに奇跡の産物と言えるかもしれない。

 

 

第84話『夢は一緒に』ー 「水と油」から「最高のパートナー」へ

 

こうして、遂に発進した「フワフワドリーム」のダブルミューズ。その実際の活動風景は作中の節々で見ることができ、特に第75話『香澄家の休日』における「いつも (時間には) 余裕を持って行動するように、とあれほど……!」というあこの台詞は、しっかり者のあこがルーズなきららに振り回されている様子が垣間見える微笑ましい一幕だ。  

(そこから更に繰り出される「真昼に泣き付くきららと困惑するあこ」で二度美味しい!!!!!!!!!!)


「パートナーを持って進むアイカツ」が致命的なリスクを孕んでいることは『虹のドレス』のゆめと小春によって示されていたけれど、この2人は日頃からこうしてぶつかっている=「意見の相違」には慣れているのか、その仲は至って順風満帆に思えた。 

しかし――この2人、もとい「花園きらら」には、これまでずっと看過されてきたある「欠点」があった。そこに痛烈な形でメスが入ってしまったのが、第84話『夢は一緒に』だ。

 

 

アイカツ!ランキング決勝が迫る中、大量のポイント獲得が狙える大型イベント「キラキラ☆ユニットカップ」に出場することになったあこときらら。 

「パートナーとの熱い絆が試される」という謳い文句に顔面蒼白のあこだったが、むしろそんなあこときららのやり取りが微笑ましいと大評判。なんと予選を得票数1位で突破してしまう。

 

「あこちゃんの “ホントはすっごく優しいのに天の邪鬼” なところ、大好きだよーっ!」
「んぇっ!?」
「ふふーん!」
『続いて、早乙女あこさん。どうぞ!』
「……は、花園きららなんて、これっぽっちも好きじゃないですわ! 裏表がなくて、何にでも真っ直ぐで……意外に芯を持ってるところなんてぇっ!」
「……きらら、褒められてる?」
『完全に褒めてますね』
「あはっ! やっぱり天の邪鬼だ~!!」

-「アイカツスターズ」 第84話『夢は一緒に』より

 

これがねぇ、1位獲らん訳がねェでしょうよ!!!!!!!!!!!  

薄々感じていたことではあるけれど、あこときららの2人は本ッッッ当に相性が良い。あこにはゆめや小春といった親友たちがいるけれど、こと「あこの魅力を引き出すパートナー」としてはきららが頭一つ抜けているように思うのだ。  

自由人なきららを律する「しっかり者で面倒見の良いお姉さん」なあこ。 

かと思いきや、そんなきららのフリーダムぶりを制御しきれずブンブン振り回される「苦労人」気質なあこ。 

きららの面倒を見ているつもりが、気が付けば猫じゃらしで遊ばれている「可愛いあこにゃん」なあこ。 

「可愛い」「大好き」という気持ちをはっきりしっかりストレートで投げ付けてくるきららに困惑してしまう「可愛がられ映えする妹」気質なあこ。 

ゆめや小春といった「親友」たちとは異なる、良くも悪くも一筋縄ではない関係性だからこそ頻出する「素直になれない天の邪鬼」なあこ……。 

また、ゆめ・小春や子どもたちへの接し方、動物への思い入れ、そして「アイドルとしての早乙女あこ」があのようなキャラクターであることからして、おそらくあこは「可愛いもの」が大好き。そんな彼女にとって、可愛さの塊のようなきららは (ファーストコンタクトが最悪だったのでこんなことになったけど) そもそもがクリティカルヒットなのだろうし、ユニットカップへの出場を認める際に見せた「あざと可愛いきららの懇願に、表舞台には出せなそうな凄まじく複雑な表情を浮かべるあこ」のような微笑ましい場面がこれまでも多々あったのだろう……と、「きららの存在で引き立つあこの魅力」は文字通りいくら挙げてもキリがない。新シーズンから新しいパートナーができる、という展開は上手くいかない例も度々見られるけれど、このきらら×あこは「丁寧な描写」と「相性バッチリな関係性」で高いハードルを見事飛び越えてみせた好例と言えるだろう。 

しかし、この第84話においてキーになるのは、あこときららのこれまでピックアップされなかった共通項――「ファンを顧みないアイドル」という一面だった。

 

 

「かつてファンを顧みなかったアイドル」早乙女あこからの贈り物

 

「全く……。倒れただなんて、我ながら情けないですわ」
「そんなことない! あこちゃんはきららの為に無理してくれて……どうして、どうしてここまでしてくれるの?」
「私も、いろんな人に支えられてきましたから」
「……!」
「誰だって、凹んだり、どうすればいいか分からない時がありますわ。でも、そんな自分を励まし、受け入れてくれる人だっている。」
「うん……」
「大丈夫。私たちは “ダブルミューズ” でしょ?」
「あこちゃん……。うん、ありがとう!」

-「アイカツスターズ」 第84話『夢は一緒に』より

 

ユニットカップ本選に向けての練習+女優業のハードな両立で倒れてしまうも、それでも尚きららを想い、仲間の大切さを伝えようとするあこ。1年目で少しずつ絆を育み、見違えるような成長を遂げたあこが「自身が受け取った輝き」を繋ごうとする姿にはそれだけで感極まってしまうけれど、「きららも頑張るぞ~! エルザ様の為に!」という言葉に、徐々にその雲行きが怪しくなっていく。 

エルザ様の為に――。きららはフワフワドリームを愛し、アイカツを愛していたけれど、それらの中心には常にエルザがいた。それは、アイドルを愛し、女優業を愛していたけれど、その目に「すばるきゅん」しか映していなかった1年前のあこと瓜二つ。何もかもが正反対の2人は、その実アイドルとしての起源を一にしており、だからこそ、あこは殊更にきららを放っておけないのだろう。  

かつて「すばるのために全てを捧げ、ファンを顧みない」アイカツによってゆめたちに一歩出遅れてしまい、ファンの想いに気付いた第45話『あこ、まっしぐら!』で大きな成長を遂げたあこ。その気付きをきららに伝えたいが、彼女は自分と違って既に高い実力と人気を持っている。きららがきららのやり方で成功しているなら、自身の想いを押し付けるべきじゃないのでは――。そんな葛藤に思い悩むあこの背中をゆめが押す、という構図には、かつての『進め!ゆずこしょう!』が重なってグッと来てしまう。あこを引っ張り、引き立てる最良のパートナーがきららであるなら、あこを支えるのはやはり愛すべき親友=ゆめたちなのだ。  

しかし、あこがそのことを伝えるよりも早く、残酷な「現実」がきららの心を踏み砕いてしまう。

 

「そういえば、エルザさんは……?」
「多分、もう来てるんじゃないかな? ……えっ、どうして……?」
「いませんでしたの?」
「頑張ったのに……振り向かせること、できなかった……。やっぱり、もうきららのことは見てくれないんだ!」

-「アイカツスターズ」 第84話『夢は一緒に』より

 

第78話『ようこそ パーフェクトマザー!』において、母ユキエにステージを観て貰えなかった原因を「自身の至らなさ」だと思い込んでしまい、一段と追い詰められてしまったエルザ。星のツバサが揃ってしまったこともあり、今の彼女に「本選を見に来てほしい」というきららの頼みは全く届いていなかった。 

アイカツの一番のモチベーションを喪い、楽屋で一人膝を抱えるきらら。しかし、そんな彼女の下に飛び込んできたあこのただならぬ様子に、彼女は驚きと困惑を口にする。

 

「来てくれる訳ないか……。どうせ、きららなんかもう……」
「泣いちゃダメですわ!」
「えっ、でも……。 ……なんで? なんで、あこちゃんが泣いてるの?」
「悔しいんですの」
「えっ?」
「あなたの凄さは私がよく知ってますわ、嫌になるくらいに!だからこそ悔しくて……腹が立ちますの!」
「……!」
「エルザさんに見て貰えないからって、あなたは終わりなんかじゃない。あなたを求めてるファンがどれほどいるか、ちゃんと考えことがありますの?」
「えっ」
「あれをご覧なさい」
「……! あこちゃんときららがいっぱい……!」
「みんなきららが大好きで、憧れて、少しでも近付きたいって思ってる。みんな見てますわ。私も、ちゃんと!」
「……うんっ!」
「早乙女あこ、輝いて参りますわ!」
「きららと見よう? ふわふわな良い夢を!」

-「アイカツスターズ」 第84話『夢は一緒に』より

 

 

あこがずっと伝えられずにいた「ファンの為のアイカツ」という在り方とその意味。ここであこの想いが届いたのは、それが「きららに伝えたいこと」であると同時に、「あこ自身の、心からの叫びだったから」なのだろうと思う。「一番大切な相手に振り向いて貰えない」ことの辛さは、あこ自身が誰よりも理解しているからだ。

 

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この記事にも書いた通り、あこには悲しいくらい「すばると結ばれる未来」が見えてこない。それは2年目になってからも同様で、すばるとの共演も果たしたもののこれといった進展はなく、あこ自身も以前ほどすばるに盲目的になっている様子がない。これは、あこの中ですばるへの愛が弱くなっているのではなく、あこが「すばるから自立し始めている」からなのだろうと思う。  

すばるの為にアイドルとなり、彼との共演という夢まで叶えてみせたあこ。けれど、その道中であこは数多くのかけがえのないものを手に入れた。親友、パートナー、そして自分を応援してくれるファンたち……。かつて「すばるしかいなかった」あこの世界は、今はたくさんの「大切なもの」でいっぱいになっている。  

相手しか見えていない「依存」的な状況から脱すると、自分の恋愛の輪郭=自身が何を求めているのか、相手はどう感じているのか、この恋愛とは何なのか……と、そういった事柄を急に俯瞰できるようになるという。ともすれば、あこは多くのものを手に入れたことで「どれだけ頑張っても、彼は自分に振り向いてくれない」という可能性に気付き始めているのかもしれない。  

「エルザさんに見て貰えないからって、あなたは終わりなんかじゃない。あなたを求めてるファンがどれほどいるか、ちゃんと考えことがありますの?」というあこの言葉は、間違いなく目の前のきららだけを想って発されたもの。しかし、それは無意識下で「あこ自身」に向けられたものでもあり、だからこそ、その切実な響きが絶望の中にいるきららの胸を打ったのではないだろうか。

 

また、この一連はあこが作中初めて「きららへの想い」を正直に伝えた瞬間であり、「これまできららに引っ張られるばかりだった」あこが、初めてきららに手を差し伸べた瞬間でもあり、そして何より「自分に真っ直ぐ向き合ってくれたきららへの恩返し」でもあった。   

ここに至り、遂に本当の想いを「交わし合った」2人。「同じ決め台詞を2人で叫ぶ」ゆめ&小春とは対照的な「異なる台詞を、背中合わせに叫ぶ」というドレスアップシーンは、彼女たちの在り方を体現したものであると同時に『アイカツスターズ!』という作品から「真のパートナー」へと辿り着いた2人に贈られたプレゼントだったように思う。

 

『お二人とも、優勝おめでとうございます! 今どんなお気持ちですか? 一言お願いします!』
「……」
「……?」
「きららね、今日分かったことがあるの。エルザ様がいなくても、あこちゃんと一緒に絶対ステージに立つんだ……って、絶対に最高のパフォーマンスをするんだ、って思ったの。自分を見てくれるファンのために! みんな、今日はありがとう~!」
「きらら……!」
「楽しいね、ファンのためのアイカツ!
「……ふふっ」
「きらら、もっともっと、あこちゃんと一緒にいい夢見たいよ~!」
「嫌でも続くでしょうね、2人一緒の夢」
「あはっ!あこちゃ~んっ!」
「わわっ!?」

-「アイカツスターズ」 第84話『夢は一緒に』より

 

2人が「パートナー」足り得るのは、一緒にアイカツをするからでも、ダブルミューズという立場だからでもない。お互いを認め、互いに支え合い、その想いを繋ぎ、そして「同じ夢を一緒に目指す」から。最悪の出会いから全てを積み上げ、絆の在り方を根本から問い直した2人の歩みは、『アイカツスターズ!』という作品の一つの象徴であると同時に、彼女たちが2年目からの付き合いだということも、あこが星のツバサを獲得できなかったことのショックも、全てを忘れさせてくれるほどに暖かな「愛情」で満ちたものだった。 

「ファンの為のアイカツ」を知ったきらら、そして「勝負に負けて涙を流すようになった」第46話から時を経て「誰かの為に涙を流す」までに成長したあこ。更なる高みへ登っていくであろう2人の歩みを、残り15話、心して見守っていきたい。

 

おねがいメリー

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2人の行く先、早乙女あこの行く末

 

とはいえ、だ。この先、あこの主役エピソードは「ある」のだろうか。  

いや、ないことはないと思う。ツバサへのリベンジ、ローラとの「継承者」対決、すばるへの恋路、かなたとの関係……と、あこにはまだまだ描かれそうなエピソードがわんさかあるし、全てではないにしろ、そのいくつかはおそらく最後の1クールで描かれていくだろう。そもそも、レギュラーキャラである彼女のメイン回が残り15話の段階で終わり、だなんて流石にあり得ないはず。……と、そう分かってはいても、それでも『夢は一緒に』があまりに綺麗すぎて「これがあこ最後の主役回かもしれない」と疑ってしまう自分が出ていってくれない。 

きららとの絆のゴール、すばるへの想いの一つの決着、そして何より、第45話『あこ、まっしぐら!』であこが得た輝きをきららに繋ぐというストーリーライン……。『夢は一緒に』はその要素一つ一つが「完結編」のそれだったし、彼女がアイカツ!ランキングに参加しないという事実がそこに拍車をかけてしまう。 

正直、不安になってきた。今回があこ最後の主役回であろうとなかろうと、この先には「最後の主役回」ラッシュ、そして最終回という正真正銘のフィナーレが待っている。遥か先に『アイカツオンパレード!』が待っていると分かってはいても、『アイカツスターズ!』の最終回はその一度きりなのだ。 

しかし、かといって本作の視聴を止める訳にはいかない。変に止まってしまって、この先に控えているであろう『アイカツスターズ!』のイベントに乗り遅れたり、変な所でネタバレを踏んでしまうことこそ、最も避けなければならない事態だからだ。 

ここまで作品の最終回に怯えるのはいつ以来だろう……とさえ思うし、まずは何より、そう思える作品に出会えたことに感謝しなければならない。そして、敬意を持って / できるだけ早く、この作品のクライマックスに潔く飛び込んでいきたい。  

……の、だけれども。

 


「私決めた、今回のフェスに懸ける!」
「えっ、エルザさんもこのフェスに出るって!?」
「次回、アイカツスターズ!『涙の数だけ』掴め、アイドル一番星!」

-「アイカツスターズ!」 第85話『輝きを渡そう』より

 

俺、次の回見たくないです!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!