感想『アイカツスターズ! 31~50話 (1年目最終回) 』桜庭ローラ&白銀リリィ編 - “個性” の意味と煌めきを巡る、2人それぞれの「Going My Way」

「主人公以外のキャラクターにも、それぞれ宿命/縁のある相手がいる」という展開、いいですよね。 

主人公の歩むメインストリートから少し離れたところで、具体的な描写や各々の持つ「文脈」によって宿命/因縁が積み上がっていき、それがシナリオのクライマックスで爆発し、時に主人公さえ食ってしまう程の熱いカタルシスを生み出す……。『ONE PIECE』や『家庭教師ヒットマンREBORN!』などの少年漫画や、スーパー戦隊シリーズなどの特撮ヒーロー番組で度々見ることのできるこのシチュエーションが自分は大好きで、「主人公でないキャラクターにスポットが当たるからこそ描けるストーリーやカタルシス」などは特に大好物。しかし、まさかそれが「アイドルもの」で見れるなどとは全く思っていなかった。

 

特別な文脈こそ持っていないものの、だからこそお互いに一人の「女優」として互いにリスペクトを持ち合う、ある意味最も純粋な関係で競い合った「早乙女あこVS如月ツバサ」。

 

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姉妹として、ライバルとして、単なる「仲良し姉妹」を越えた間柄として、勝負のその向こう側にあるドラマを見せてくれた「香澄真昼VS香澄夜空」。

 

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……あれ? ローラは……??? 

あこはツバサ、真昼は夜空、主人公であるゆめはひめ……と、成長を重ねていく中で「現S4」を越えることを現実的な目標として認識し始めていった3人。それはローラも同じだったけれど、歌組S4=ひめとの因縁はさほど描写されることがなく、ローラだけが唯一「最後の相手」が見えない状況にあった。そんな彼女の最後の相手が誰になるのか、第48話まで全く分からなかった自分が本当に恥ずかしいのだけれど、だからこそ「それが分かった瞬間」のカタルシスには凄まじいものがあった。 

最終的にローラの「越えるべき壁」もとい「宿命の相手」として立ち塞がったのは、歌組次期S4筆頭候補にして、四ツ星学園きっての実力者=白銀リリィ。この2人がどのようなドラマを積み上げ、何をこの作品に残していったのか、その歩みを一挙に振り返ってみたい。

 

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(第30話までのローラについてはこちらの記事にて!)

 

 

駆け出しアイドル編とでも呼ぶべき『アイカツスターズ!』第2~3クール。その中では、ゆめ、ローラ、あこ、真昼らの葛藤や成長、小春との別離など様々なドラマが展開される傍らで、新たなレギュラーキャラクターの登場もまた描かれていた。

 

 

第19話『真夏のトップダンサー☆』で初登場、第23話『ツンドラの歌姫、降臨!』で本格参戦となった「ツンドラの歌姫」=白銀リリィ。作中でも「個性の塊」と言われていた彼女だけれど、その登場は個性云々以前のところから既に強烈かつ衝撃的なもの。 

まずは何より、彼女の所属が「歌組」であること。自分は当初、リリィが「ゆずに関係する人物」として登場したことから、彼女は「非S4のメインキャラクターが存在していない」舞組の所属になると思っていた。しかし、実際の彼女はなんと歌組。「ゆめとローラのどちらかが歌組のS4になるだろう」というある種の予定調和をしっかり突き崩してきたばかりか、彼女は自らの歌=『Dreaming bird』を持ってして、「ゆめとローラはS4にはまだ遠い」という厳然たる事実を突き付けてきた。

 

Dreaming bird

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これまでも『スタートライン!』や『episode Solo』『Summer Tears Diary』など、アイドルソングの枠に収まらない「本気」の歌を次から次へと放り込んできた『アイカツスターズ!』。しかし、この『Dreaming bird』はその中でも極めて異質。 

身体面にハンデを抱え、夢へ至るまでの苦難の道のりを「春を待つ冬」と評するリリィの信念を表すかのように流麗かつハードな打ち込みをベースとしつつ、それを彩る詩的な「冬と時計のモチーフ」(冬が終わる時を待っている、というイメージから?) ……。松岡ななせ氏の伸びやかでメリハリのある歌唱やリリィの生き方が反映された歌詞もあって、この歌を一聞して「アイドルの歌」だと看破することはおそらく極めて困難。初めて聞いた時に感じたその「別格さ」たるや凄まじいものだった。 

そして、私たちがそのような「別格」たる印象を彼女に抱くことは実際に製作陣の狙いでもあったのだろう。

 

 

ゆめたちが彼女の歌を初めて聞いたのが、第23話『ツンドラの歌姫、降臨!』。第25代S4にひけを取らない圧倒的な実力を持つリリィの存在は、ゆめたち……とりわけ、同じ歌組であるゆめ、ローラにとっては大きな衝撃。彼女たちが「自分たちはS4にまだまだ遠い」という事実を痛感すると同時に、私たち視聴者もリリィの『Dreaming bird』に圧倒されることで、ゆめとローラ、2人の味わっている衝撃を追体験することができたのである。 

第22話『憧れへ続く道』直後ということもあり、「越えるべき壁」としての側面が色濃い登場となったリリィだが、そのような「越えるべき壁」という役割のみのキャラクター=舞台装置に留めないのが『アイカツスターズ!』という作品の魅力。彼女は、途中参戦かつ「ワンランク上の実力者」というゆめたち=主人公組とは一歩離れたところにいる存在だからこそ、極めてストレートに『アイカツスターズ!』という作品のテーマを体現する存在でもあった。

 

「あ、あの……。リリィ先輩は不安にならないんですか? 半年も学園を休学して、アイカツもできなかったんですよね。私、一週間安静にしてなくちゃいけなくって、なんか焦っちゃって……そういうこと、ありませんか?」
「皆と一緒でなければ、いけないのですか?」
「え?」
「私たちは、皆一人一人違います。感性も、記憶力も、運動能力も、体力・顔立ちもスタイルも、そして声の質も声量も……。様々な個性があるのですから、レッスンの仕方も様々でいいのです」
「個性……」
「皆でレッスンすることで得ることも多いでしょう。でも、それができない時は、今貴女にできることを精一杯やればいい。それがセルフプロデュースです」  

 (中略)  

「辛く、ないんですか……?」
「そんな気持ちになりそうな時は、想像し、自分に言い聞かせるのです。ここは極寒の地、長い冬に閉ざされ、どこにも行けず、何もできない。いくら叫んでも、声は吹雪にかき消されてしまう……。でも、今は耐え忍ぶ時。雪解けは必ずやってくる。明けない夜がないように、いつか必ず冬は終わり、春が来る……! その時まで、私は歌い続ける。いかなる困難がこの身に振りかかろうとも、誰も、私の夢を奪うことはできないのだから」

-「アイカツスターズ!」 第26話『奪えない夢』より

 

身体的なハンデを背負い、毎年長い療養期間を強いられてしまうリリィ。しかし、彼女の強靭な精神やストイックに夢へ進む信念は、そのハンデと共に生きてきたからこそ培われてきたものでもある。   

生まれもったハンデを受け入れることでそれを「個性」へと変え、S4クラスの実力者へと登り詰めていった存在であるリリィ。彼女は、現実の残酷さ、個性の大切さ、夢を追う難しさとその煌めき……。それらを一手に担うことで本作のテーマをありありと浮かび上がらせる=『アイカツスターズ!』を体現するキャラクターと言えるのではないだろうか。

 

 

確かな実力と夢を持ち、振りかかる困難を払うだけの強靭な精神力を持つリリィ。一見すると完璧な存在に思える彼女は、一方でその「強さ」故の弱点を抱えてもいた。それは、自分がそのハンデで周囲に迷惑をかけ続けてきたことへの自覚 / 周囲への後ろめたさによって、「人を頼ることができない」こと。 

その彼女の弱点が表面化したエピソードが、第39話『四ツ星学園、危機一髪!?』。

 

 

「オリジナルブランドを持つ」という夢を叶えるため、ロシアの実業家が主催する「新ブランド・デザイナーオーディション」に挑むリリィ。しかし、彼女はよりによってそのオーディション会場で体調を崩してしまい一時離脱。体調が回復できなければ辞退を余儀なくされる……という窮地に追い込まれてしまう。そこに駆け付けたのは、リリィが一度は協力の申し出を断ったゆめとローラだった。

 

「リリィせんぱーい!」
「何をしているのですか……!?」
「リリィ先輩のお手伝いがしたくて!」
「私には、必要ないと申し上げて……」
「はい! なので、ドレス以外のことでサポートさせてください。お薬に健康ドリンク、枕もありますよ!」  

 (中略)  

「リリィ先輩、間に合いますか?」
「ええ、お2人のおかげで大分体調も良くなり、気持ちも落ち着きました。白銀リリィ……ここからが本領発揮です!」

-「アイカツスターズ!」 第39話『四ツ星学園、危機一髪!?』より

 

ゆめ・ローラの協力もあって、リリィは無事に優勝を果たし、早々にブランドショップの立ち上げにかかる。しかし、忙殺される彼女に代わり、店の飾り付けなどを行ってくれたのもまた、ゆめやゆずたちといった「仲間たち」であった。

 

「夢は、誰にも頼らず自らの手で掴み取るべきだと思っていました。でも、それは愚かな考えでした……。私は知らぬ間に、多くの人の力を借りていた、いつも誰かに助けられていた。本当にありがとう」

-「アイカツスターズ!」 第39話『四ツ星学園、危機一髪!?』より

 

自分は確かにハンデを抱えており、誰かに助けられながら生きてきた。だからこそ、自分の夢は誰かに頼らず、自分自身の力だけで掴み取る――。そう思っていたリリィは「自分のハンデがあってもなくても、そもそも人は一人では生きていけない」ということを悟り、その後も、第42話『幼なじみのふたり』ではゆめたちの後押しを受けて「ゆずとステージに立つ」という約束を成就するなど、コンプレックスでもあった個性を真の意味で受け入れることができた。 

高い実力と自分だけの道、そして明確な夢とトップスターの条件を揃え持っていたリリィだったが、しかし、誰も一人だけで夢を叶えることはできない。 

確かにリリィは「ゆめたちの越えるべき壁」であったけれど、彼女もまたゆめたちに支えられることで夢を叶え、人として大きく成長することができた。そんな彼女の姿は、厳しさを増していく『アイカツスターズ!』終盤において “みんなで紡ぐ輝きこそがアイドル” という、本作の最も大切なテーマを改めて思い出させてくれるもの。その点でも、やはり彼女は『アイカツスターズ!』を体現する存在だったように思えてならないのだ。

 

 

こうして、自分だけの道を歩きながら、その果てに自らの「個性」を受け入れるに至ったリリィ。しかし、そんな彼女の陰には、逆に「自分だけの道」や「自分だけの個性」を見付けられずに悩む少女=桜庭ローラの姿もあった。

 

 

第21話『勝ちたいキモチ』でCDデビューの座をゆめに取られてしまい追い詰められたローラ。第29話『本当のライバル』のオーディションにおいて「勝つこと」に執着した彼女は、かつて自身が見付けた答え=「個性」の大切さを見失い、コーデなども「自分らしさ」を二の次にしてしまう。その結果、彼女はまたしてもゆめに敗北を喫してしまって――。 

思い出すだけでも胸が痛むこの展開。とはいえ、同じ第29話内でローラには「救い」があった。歌組を引っ張り、誰よりもローラのことを気遣ってきたアンナの言葉だ。

 

「桜庭は虹野とは違う。いつも言っているだろう、“個性が大事” だと」
「じゃあ、ゆめの個性には……私はどんなに頑張っても勝てないってことですか!?」
「そんなことは言っていない。個性は人それぞれ……。全く同じものはこの世にはない。虹野には虹野の個性、そして桜庭には桜庭の個性がある、と言っているんだ」
「アンナ先生……」
「虹野と比較して、同じことをして、勝った負けたなんて思う必要はない。ましてや “もう勝てない” なんて思うのはナンセンスだ、お前はお前のやり方で光り輝けばいい」
「っ……!」
「自分達のやり方を見付けた上で競い合う。それが、本当の意味でのライバルだ」

-「アイカツスターズ!」 第29話『本当のライバル』より


「勝ち負けではなく、自分らしく輝くことが大切」だと、その「自分らしい輝き」を見付けた上で競いあってこそ本当のライバル――。自分は、この言葉でローラが「吹っ切れた」ものだと思っていたけれど、現実はそんなに簡単ではなかった。負け続けて、追い詰められているローラにとって、アンナの「正しい言葉」は彼女の指針にはなっても、直接の「答え」とはならない。ローラには、アンナがくれた目標と自身の現在地を繋ぐ「道」が必要だったのだ。 

そのことを他ならぬアンナ自身も理解していたのか、彼女は諸星学園長に「ローラに、ある仕事を任せる」よう依頼。実家で修行を積むも「道」を見付けられずにいたローラは、なんとリリィのイベントのフォローを行うことに! ……というのが、本作で唯一の「ローラ×リリィ」エピソード、第33話『迷子のローラ!?』。

 

 

第7話『シンプル イズ ザ ベスト!』において「自身の個性」に悩み、その上で「自分の好きなものが個性になる」という答えを見付けたローラ。しかし、S4やリリィたちの「個性」とはもはやプロフィール止まりの話ではなく、彼女たちの「生き方」というステージの話になっていた。 

何を目指して、どう生きるのか。それは、音楽家の家計に生まれ「そう生きるのが桜庭家」だったローラにとって、何より難しい問題だったのだろう。S4を目指すのも、真昼にとっての夜空、ゆめにとってのひめ……といった具体的な目標ありきではなく、おそらく「桜庭家だから、トップアイドルになるのは当然」という背景によるものだろうし、つまりその生き方には常に「勝ち負け」という基準があった。そんな彼女にとって「勝ち負けを捨てて、自分なりの生き方を見付ける」という命題は、まさしく至難の業だったに違いない。 

だからこそ、そのことを分かっているであろうアンナがセッティングした機会=白銀リリィのアイカツを見届け、その場所で「ある人物」に出会うことは、ローラにとってこれ以上ないターニングポイントとなっていた。

 

「みんな、あんなニコニコして……! リリィ先輩は、みんなを笑顔にするために歌ってるんですね」
「何の話ですか……?」
「え?」 
「自分のブランドで作った、自らの愛するドレスを着てステージに立ちたい……ただそれだけです。言うなれば、私は私自身の為に歌っているのです」
「私自身の、ため……?」
「おかしいですか?」
「いっ、いえ……。ただ、そんな風に言い切る人を初めて見たので」  

 (中略)  

「リリィ先輩、自分のために歌ってるだなんて……嘘に決まってる」
「まだ分かりませんか?」
「うぇっ!?」
「自分自身が感動できない歌は、他人を感動させることはできない……」

-「アイカツスターズ!」 第33話『迷子のローラ!?』より

 

「私自身の為に歌っているのです」というリリィの言葉は、確かに響きだけなら利己的に聞こえるものでもある。けれど、それはリリィだけでなく他の皆もそうなのだろう。 

ゆめも、真昼も、あこも、皆それぞれ自分の夢があり、その夢に向かって走り続けている。程度の差はあれど、彼女たちは少なからず「自分の為に歌っている」が、その点においてローラは違っていた。ゆめたちにおける「夢」が、ローラにとっては「与えられたもの」であり、自分の中から生まれたものではなかったこと。強いて言うなら、それこそが第21話と第29話においてゆめとローラの明暗を分けたものだったのかもしれない。 

だからこそ、ローラに足りなかった最後のピースは「彼女自身の願い」。アンナが教えてくれた彼女の辿り着くべきゴール=「自分らしい輝き」に繋がる道として、リリィのライブを聴いていた元四ツ星学園歌組教師兼、日本の元ロックスターである内田永吉は、リリィと共にローラへある言葉を託す。

 

「それじゃ、本日のアドバイスといこうか」
「え?」
「リリィは他の誰のためでもなく、自分自身の為に突き進んどる。そしてそれが、結果的にリリィのアイカツになっとるんじゃ。お前も、お前自身のために突き進めばいいんじゃ!」
「私自身の、ため……」
「即ち――」
「「Going My Way!」」
「Going My Way、我が道を行く……!」

-「アイカツスターズ!」 第33話『迷子のローラ!?』より

 

「我が道を行く」=「自分のために、自分の望んだ、自分だけの道を行く」。その言葉は、まさに「自分自身の願い」が欠落していたローラにとっての天啓だったのだろう。 

そして、この言葉がローラの胸を打った理由がもう一つ。

 

「ロックとは音楽のジャンルではない!生き方そのものだ!」
「それは……!」
「日本のロックシーンの第一人者、内田永吉さんの言葉です」

-「アイカツスターズ!」 第33話『迷子のローラ!?』より

 

そもそも「ロック」とは、ビートルズの登場などをきっかけに、ラブソングが主体だった「ロックンロール」に抽象的な要素=体制に対する反乱、政治・社会的問題、芸術、恋愛、哲学など幅広いテーマが含まれるようになり、そのテーマに併せて独自の音楽性を獲得したことで確立された音楽ジャンル。その出自にビートルズザ・フー、アニマルズといった「労働者階級出身者」のロッカーが多いことも相まって、その根底には「自由への叫び」という気質が色濃く反映されていたと考えられる。内田永吉が語った「ロックという “生き方” 」とは、そのような「何者にも縛られず、自由でエネルギッシュな在り方」を指した言葉であり、そんな「ロックの根底にある魂」を一言で表したのが「Going My Way」というフレーズなのだろう。 

であるなら、それが「ロック」を愛し続けたローラの心に共振するのはある種の必然だろうし、自分の大好きなものが目指すべき生き方になるのなら、そんなに「面白い」こともないはず。だからこそ、その一言はローラの凝り固まった悩みを溶かし、彼女を導く「道」になったのではないだろうか。

 


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こうして、答えを見付け出し学園へと舞い戻ったローラ。「我が道を行く」=「オンリーワンのアイドルになる」という目標を持った彼女は、「自分にしかできない最高のステージ」の実現をモチベーションにその潜在能力を開花させ、真昼と共に「特別なグレードアップグリッター」を獲得するまでに至る。 

そして、やがて迎えたS4戦において、彼女はある種の「恩人」とも言える白銀リリィと同じステージで競い合うこととなった。

 

 

人と違う自身の在り方を「個性」として受け入れ、幼い頃から「自分自身の道」を歩き続けてきたリリィ。対するは、何でもそつなくこなせるからこそ「個性」に悩み、回り道の末に「自分自身の道」へ辿り着いたローラ。 

2人のどちらが勝っても、どちらがS4になってもおかしくない世紀の対決。そこでローラが披露した「わたしだけの歌」とは、第29話『本当のライバル』でゆめに敗北を喫した因縁の歌であり、第38話『アイカツニューイヤー!』では彼女のソロ曲として披露された、第2期OPテーマこと『1, 2, Sing for You!』 。『スタートライン!』や『スタージェット!』よりも激しく、それこそロックを思わせる曲調で「わたしだけの歌を唄いたい」と叫ぶその歌がまさしく「桜庭ローラの集大成」であると自分はこの局面でようやく気付いたし、その瞬間はどう頑張っても涙を抑えることができなかった。  

(ひめが第1期OPのスタートライン!、ゆめが第3期OPのスタージェット!を歌うのに対し、ローラの持ち歌もOP曲であることには、彼女も「主人公」なのだという製作陣の意思を感じて嬉しくなる……!)

 

1,2,Sing for You! 〜ローラ ver.〜

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アンナの言う通り、ローラは誰より悩み、真剣に歌と向き合い、様々な人の力を借りてここまで走り抜いてきた。その「借り物」の一つが、前述の「Going My Way」という信念。 

ローラにとってそれは自身の生き方になったものの、自分が戦うリリィはその生き方をずっと昔から貫いてきた存在。自分の「Going My Way」は、所詮彼女からの「借り物」でしかないのではないか……とローラは悩むけれど、そうではないこと=それは間違いなく「ローラ自身の生き方」であり、ローラのステージは間違いなく「彼女にしかできないステージ」だということを、勝負の結果がはっきりと示していた。

 

「サプラーーイズ!2年生の幹部をも越えて、1年生の桜庭ローラがトップに立ったぜベイビ~~~~ッ!!」
「ぃやったーーーーっ!!」
「答えを見付けたようね。それでこそ桜庭家の娘ですよ、ローラ!」

-「アイカツスターズ!」 第48話『わたしだけの歌』より

 

軍配が上がったのはなんとローラ! まだ全体の結果が出ていない=彼女がトップに立てるとも、S4になれるとも限らないこの段階で「それでこそ桜庭家の娘ですよ」という母の言葉が、彼女のステージが「本物」だったという何よりの証明になっていた。 

そして、誰より迷い、悩み続けたローラにこうした「報い」が与えられたことは、同時に本作からの真っ直ぐなメッセージであるようにも感じられる。

 

「世界は広く、そして道は一つじゃない。迷い、悩み、足掻いて、夢に辿り着くこともある」

 -「アイカツスターズ!」 第3話『わたし色の空へ』より

 

アンナの言葉やこのツバサの台詞に象徴的なように『アイカツスターズ!』は、決して「成功すること」「真っ直ぐ進むこと」だけが道ではない、と謳い続けてきた。迷い、悩み、足掻くことが夢に繋がることもあるし、それは決して「弱さ」ではない。そうしたこれまでの全てが「個性」であり「生き方」であり、アイドルの力、オンリーワンの歌に繋がっていく……と、そんなエールが結実したのがこのローラの勝利。それはこれまでの過酷さを補って余りある、華々しく眩しい「ローラだけの煌めき」だった。

 

So Beautiful Story

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リリィ、そしてローラを通して描かれてきた「個性の大切さ」。それは、ローラがリリィに勝利するという結末で一つの区切りとなったが、しかし、続く第49話『一番星になれ!』でローラのスコアはゆめ、ひめに抜かされ、ローラがS4の座を手にすることは叶わなかった。 

ローラ自身は「最高のステージができたから、気にしてない」と言っているし、本心からそう言えるようになったローラの成長が嬉しかった……けれど、それでもこの結果には胸がぎゅっと詰まってしまう。

 

ゆめはS4になり、リリィも自身のブランドを持つことができた。全てではなかったとしても、彼女と同じ歌組の仲間たちはこの1年で自分の夢を叶えることができていた。

勿論、ローラも自身の成長やリリィへの勝利、何よりゆめたちという仲間を手に入れることができたけれど、それらは皆もまた手に入れたもの。それが勝負と言われたらそれまでだけど、ローラも、その頑張りと努力の分だけ彼女の夢=「オンリーワンのアイドル」という夢に少しでも手が届いてほしかった……と、そんなこちらの胸中を見透かすかのように、S4戦を終えたローラの元に一人の女の子が駆け寄っていく。

 

「どうしたの。忘れ物?」
「あの……これ、あげる!」
「ライブ、するの?」
「ローラちゃんの歌が大好きで、お歌を習い始めたんだ!ファンだけど、ライバルだからね!」
「っ……。うん!」
「嬉しいわね……。“ローラの歌を聞いて唄いたくなった” なんて」
「ライバルが、また増えましたわね」
「……面白いじゃない!」

-「アイカツスターズ!」 第49話『一番星になれ!』より

 

ローラは確かに、ひめに勝てなかった。ゆめにも勝てなかった。S4になることもできなかった。けれど、彼女の新しいライバルの心を掴んだのは「歌組のナンバーワン」でもなく「歌組のS4」でもなく「桜庭ローラ」その人。彼女にとっては、ローラこそが――S4戦で勝っていようといまいと――決して替えのきかない、ただ一人の「一番のアイドル」だった。夢に手が届いたのはゆめやリリィだけではなく、ローラもまた「オンリーワンのアイドル」という自らの夢をこの時確かに掴み取っていたのだ。 

そして、これこそがきっとアンナたちが「個性」にこだわる理由なのだろう。

 

アイドルは世界中にごまんといる。上を見たらキリがないし、その中での「一番になる」だなんておよそ現実的な話ではない。だけど、そうした「一番になれない」アイドルがいたとしても、その人が自分らしく輝き、自らの個性を育て続けたならば、世界で一番のアイドルになれなくても「誰かにとって一番のアイドル」にはなれるかもしれない。 

少なくとも、このS4戦を経てローラは「一番のアイドル」になることができた。それはきっと、この50話をかけて勝敗に苦しみ、個性に悩み、何度も涙した彼女への「何よりの報い」であり、製作陣が「個性」を大切に描き続けてきた理由。「勝ち負け」よりもずっと大切な、アイドルという数多の星に対する心からの祝福なのだろうと思う。

 

だからこそ、2年目という次のステージに立ったローラはきっとまだまだ輝いてくれる。S4になれなかったとしても、彼女が桜庭ローラという「輝けるオンリーワンのアイドル」であることに変わりはないのだから。 

だからどうか、彼女が2年目も自分らしく、楽しく、誇らしく、美しく、彼女だけの歌を唄い続けられますように……!

 

 

 「泣いても笑っても、これで決まる……!」
「ゆめちゃん、全力でかかってきて!」
「はい!虹野ゆめ、行きまーす!」
「次回、アイカツスターズ!『一番星になれ!』掴め、アイドル一番星!」

-「アイカツスターズ!」 第48話『わたしだけの歌』より