感想『アイカツスターズ! 90~93話』 決勝開幕! 受け継がれた「episode Solo」と、願いを背負った「光の剣」

今となっては懐かしいとさえ思うけれど、ヴィーナスアークの面々を初めて見た時、その印象は決して良いものではなかった。 

どうしてもネガティブな面が目立ってしまったエルザときらら、「エルザの騎士」という設定とビジュアルが直球ストレートすぎて「どう成長していくのか」が全く想像できなかったレイに、第78話というド終盤からの本格参戦となったアリア……。自分でも意外なほど『アイカツスターズ!』にのめり込んでいたからこそ、彼女たちという「新風」を受け入れられなかったのかもしれない。 

が、そんな甘っちょろい偏見は『アイカツスターズ!』という作品の前では塵も同然。自分は、程なくして始まったヴィーナスアークの「成長」ぶりや、四ツ星学園サイドとは相異なるドラマ性にいとも容易く打ちのめされてしまった。

 

「直球ストレート」かと思いきや、その実極めて大きな歪みを抱えた生々しいキャラクターであり、そんな歪みもろともに自らの道を切り拓いてみせたレイ。

 

自己中心的かつ身勝手で、およそ良い印象を抱けなかった初期から、多くの経験と涙を重ねて「真のアイドル」に至ってみせたきらら。

 

そして、かつてのゆめの鏡映しとして『アイカツスターズ!』のクライマックスに「大切なこと」を思い出させる使命を背負って飛び込んだアリアと、その背景に誰よりも孤独を背負っていたエルザ……。 

今回鑑賞した第90~93話は、まさにそんなヴィーナスアークの「転機」となったエピソード群。アイカツ!ランキングの残る2戦、そしてその先に待っているであろう未知のクライマックスに備えて、これらのストーリーとその魅力を振り返ってみたい。

 

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(第89話以前の感想は、こちらの記事か『アイカツスターズ!』タグからどうぞ!)


《目次》

 

 

第92話『私たちのエピソード ソロ』ー 「第25代S4」から託されるもの、受け継がれるもの

 

「決勝トーナメントのメンバー発表!と、豆まき!」
「私たちS4のライブ!」
「って、何の話!?」
「次回、アイカツスターズ!『私たちのエピソード ソロ』掴め、アイドル一番星!」

-「アイカツスターズ!」 第91話『ハッスル♪アイドル修行☆』より  


 
誇張でも何でもなく本当に叫んでいたし、そのくらい「彼女たちがepisode Soloを歌う」ことが予想外でもあった。 

「S4だからepisode Soloを歌う」……と言われたらそれまでかもしれないけれど、自分にとっての『episode Solo』とは、他でもない「第25代S4の象徴」だったからだ。

 

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アイカツスターズ!』を見始めたばかりの自分が『スタートライン!』に受けた衝撃はこの記事の通りだけれど、それと同じくらい衝撃を受けたのがエンディング=『episode Solo』だった。

 

 

 この歌を唄う第25代S4は、作中でも「歴代S4屈指のトップスター」として描かれており、1年目は彼女たち4人が「目指すべき存在」に相応しい圧倒的な実力や人柄=S4としての「格」を見せてくれることが、S4を目指すというメインストーリーに骨太な説得力を与えていた。 

その点において、「アイドルソング」のパブリックイメージとかけ離れたクールなテイスト、そして作画以前に「質感」が桁違いなエンディング映像……と、まさに「第25代S4という “高み” 」を理屈ではなく五感に刻み付けるかのような楽曲だったことで、『episode Solo』は第25代S4の「格」を高めることに大きく寄与していたように思う。 

また、その一方で『episode Solo』の歌詞は「アイドルとしての戦いが個人個人のものでも、あなたは決して一人じゃない」と、少女の弱さを認め / 受け止めつつ強く優しいエールを送るもの。それは転じて、彼女たち第25代S4も「ゆめたちと変わらない中学生」であると示す役割も担ってもいて、総じて「第25代S4」と『episode Solo』は本作において「歌手と歌」という関係を越えた領域で深く結び付いていたと言えるだろう。

 

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だからこそ、次回予告で「ゆめたちがepisode Soloを歌う」と分かった時には、喜びと興奮に一歩遅れて「本当にそれでいいのか……?」という疑問符がやってきた。 

『episode Solo』を「S4の象徴」と捉えるならそれは妥当かもしれないけれど、前述の通り、それはS4はS4でも「第25代S4」と結び付いた歌。だからこそ「S4だからepisode Soloを歌う」のような安易な理由で歌われるようなことがあっては、それこそゆめたち第26代S4の『episode Solo』が「先代からの借り物」「下位互換」のように見えてしまうのではないか――と、そんなことを感じていた自分に一言物申したい。お前は!!!!!!ここまで90話も!!!!!!!!!何を見てきたんだ!!!!!!!!!!!!!!!!

 

歌に宿る物語性を尊重する『アイカツスターズ!』。本作において、歌はアイドルたちの魂を象徴するものであり、彼女たちの成長そのもの。だからこそ、ゆめたちの歌はその多くが実質的な「持ち歌」として扱われており、そのような歌を「別の誰かが歌う」というシチュエーションはあまり見られない。 

しかし、ここで注目したいのがその「一部の例外」。アイカツスターズ!』における「誰かの持ち歌を別の誰かが歌う」というシチュエーションには、必ずと言っていいほど「相応のシチュエーション/ドラマ」が用意されていた。
 

 
中でも代表的なのは、ゆめが自身を導いた「始まりの歌」=『スタートライン!』を自ら歌い上げることで真の「第一歩」を踏み出す第10話『ゆめのスタートライン!』。そして、ローラの歌う『Miracle Force Magic』が「ブランド・スパイスコードのミューズという立場」と、そこに込められた「先代ミューズ=ツバサの魂」を共に継承したことの証になっていた、第62話『ゴーイングマイ・ウェイで♪』。 

これらが示すように、『アイカツスターズ!』において「誰かの持ち歌を別の誰かが歌う」シチュエーションが生まれたならば、そこには必ず相応のドラマが付いてくる。そのことは、第92話『私たちのエピソード ソロ』においても決して例外ではなかった。
 

 
遂に訪れた「アイカツ!ランキング」決勝トーナメント進出者発表。勝ち残ったのはエルザ、ゆめ、レイ、真昼の4人で、出場を逃してしまったローラやアリスは陰ながら溜め息を零す。 

そんな彼女たちの前に現れたのは、ゆずにひめ、ツバサ、夜空の第25代S4。可愛らしい「鬼」の衣装に身を包んだ彼女たちの目的は、アイカツ!ランキング決勝を見届けるだけでなく、1年間に渡る戦いを経たローラたちに “あるメッセージ” を託すことにあった。
 

「さあ、桜庭!」
「は、はいっ!」
「私たちに豆をぶつけるんだ!」
「えっ!? む、無理です! 先輩に豆をぶつけるなんて」
「できないのか? ……それが、敗因じゃないのか?」
「えっ?」
「先輩には豆をぶつけられない。エルザ フォルテには勝てない。そう思う心が、アイカツの妨げになってないか?」
「そ、そんなこと……!」
「あるだろう。悔しいくせに笑って誤魔化し、一人で溜め息をついている。強がって、自分を誤魔化してばかりいると “鬼”は膨れ上がるぞ!」
「鬼……?」
「鬼とは、自分の中にある弱い心よ。隠そうとすればするほど大きくなるわ」
「思いを叫びながら豆をまいて、心の中の鬼を追い払っちゃおう!」
「かもーん、だゾ!」
「桜庭!押し殺している気持ちを吐き出せ、叫べッ!」

-「アイカツスターズ!」 第92話『私たちのエピソード ソロ』より

彼女たちのエールを受けて、第25代S4を相手に自分の中の「鬼」そして「 “福” への誓い」を込めて豆をぶつけるローラたち。 

第91話『ハッスル♪アイドル修行☆』の内容を踏まえ、自身の至らなさを夜空にぶつける真昼。ゲッターロボを思い出させる超作画で豆を放つリリィ。リリィさえも豆を届かせている中、唯一「吉良かなたのアホーー!!」という “嘘” をぶつけようとしたため、1人だけ豆が届かず物凄い表情を浮かべるあこ……等々、ギャグもシリアスも見所満載のこのシーンだけれど、中でも「ツバサに豆をぶつけるローラ」のくだりには思わず変な声が出てしまった。

 

 

かつて、ひめという絶対的な歌姫を前に歌組を去った先代劇組S4=如月ツバサ。彼女といえば、自らの経験を踏まえて「遠回りすることで、夢に辿り着くこともある」と語った第3話が印象的だけれど、この豆まきでローラに贈った下記の言葉からは、そんな彼女がこれまで見せなかった気持ちが垣間見えていた。

 

「先輩には豆をぶつけられない。エルザ フォルテには勝てない。そう思う心が、アイカツの妨げになってないか?」
「そ、そんなこと……!」
「あるだろう。悔しいくせに笑って誤魔化し、一人で溜め息をついている。強がって、自分を誤魔化してばかりいると “鬼” は膨れ上がるぞ!」

-「アイカツスターズ!」 第92話『私たちのエピソード ソロ』より

 

ローラにとって「立ちはだかる絶対的な壁」だったエルザ。もし、それがツバサにとってのひめであるなら、この言葉は「歌組を去った直後のツバサの心情」そのものだったのでは、とも思えてくる。ひめには勝てないという無力感、歌組を辞すという選択への後悔。ストイックなツバサは、きっと今のローラのように「悔しいくせに笑って誤魔化し、一人で溜め息をついて」いたのだろうし、ツバサがひめや夜空に比べてS4になるのが遅かった……というのは、それだけ彼女が「鬼」を乗り越える為に時間を費やしたからなのかもしれない。  

だとすれば、ツバサがローラにこの言葉を贈ったのは、きっと「ローラの強さを信じている」からこそ手渡した彼女なりの想いのバトン――あるいは、アイドルたち自身の幸せを願う『アイカツスターズ!』という作品からの「自分を押し殺してまで大人になる必要はない」というメッセージなのだと思う。

 

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第25代S4にそれぞれの思いの丈をぶつけるローラたち。そんな光景を見つめる中で、ゆめは「第26代S4の武道館ライブで唄うべき歌」が何なのか、その答えに辿り着く。

 

「うん、決めた! ゆず先輩、私、アイカツ武道館のライブで『episode Solo』を歌いたいです!」
「どうして?」
「皆の思いを聞いていて思ったんです。アイドルそれぞれにエピソードが、物語があるんだって。楽しいことや嬉しいことも多いけど、辛かったり、悔しくて涙を流すこともあって……。私は、この四ツ星学園で皆とアイカツしてきました。一緒に頑張ってきた日々が繋がって、私の物語ができたんです。皆がいたから、今の私の物語ができたんです。皆がいたから、今の私がある。だって、物語は一人じゃできないから! ……だから、皆の気持ちをぎゅっと抱き締めて歌いたい。そう思ったんです!」
「ゆめ……」
「ふふっ」
「それには『episode Solo』がピッタリだと思うんです!」

-「アイカツスターズ!」 第92話『私たちのエピソード ソロ』より

作品上は第25代S4の「持ち歌」でありつつ、その正体は「歴代S4が唄い継いできた歌」だった『episode Solo』。しかし、ゆめたちがその歌を唄うのは、それが先代S4の歌だったからでも、歴代S4が唄い継いできた歌だったからでもなく、あくまで「皆の気持ちをぎゅっと抱き締めたい」というゆめの願いに最も相応しい歌だったから。 

誰に指示されるでもなく、様式に従うのでもなく、自分自身の願いから『episode Solo』に辿り着いたゆめ。このことは、当初こそ「先代S4を超えられなかったS4」という色が強かったゆめたち第26代S4が、偉大なる先代S4に並ぶと同時に「歴代S4に名を連ねるに相応しい存在に至った」ことの象徴、あるいは証明になったのではないだろうか。

 

かくして、第25代S4同様にアイカツ武道館のステージへ立った第26代S4。彼女たちには (作劇の都合上、どうしても) 多くの尺が割かれることはなかったけれど、この最後のエピソードで第26代の「矜持」を見せ、特大の花を咲かせてくれたことが、ゆめ、真昼、あこの夢を応援し続けてきた一ファンとしてはたまらなく嬉しかったし、先代と同じカットインで先代と異なる魅力を放ってみせる彼女たちの勇姿は、「S4」を巡る物語としての『アイカツスターズ!』におけるゴールとして相応しいものだったように思えてならない。

 

episode Solo 〜ゆめ & あこ & 真昼 & ゆず ver.〜

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第90話『ヴィーナス クライシス!』ー 水面に映ったエルザの “本音”

 
アイカツ!ランキング決勝前に大きな「区切り」を迎えたゆめたち四ツ星学園組。しかし、一方ではエルザたちにも第90話『ヴィーナス クライシス!』という大きな転機が訪れていた。
 

 
第86話『涙の数だけ』で太陽のドレスを獲得して以降、どこか醒めたような様子が続いていたエルザ。彼女は、第89話『星々のダイアリー』においてその態度を一変、きららたちに優しい笑顔を向け始めるが、それは「ヴィーナスアークの解散」前の、謂わば「最後の晩餐」だったから――。 

その行動は、一見すると「太陽のドレスを手に入れるという目的が叶い、ヴィーナスアークが不要になったから」というものに思えるけれど、エルザの行動には常に「隠された真意」があった。これまで「暗に示される」「後のエピソードで判明する」などといった遠巻きな形で示されてきたそれは、しかし、この「解散宣言」に限っては『ヴィーナス クライシス!』内で既に答えが示されていた。
 

「エルザ様」
「……」
「 “レイ様たちを、これ以上自分のワガママに付き合わせるのは心苦しい” ……そう思っていらっしゃるのでは?」
「……!」

-「アイカツスターズ!」 第90話『ヴィーナス クライシス!』より

これまでエルザの内面に踏み込むことを控えていたものの、その実レイ以上に彼女の側に居続けてきた「じいや」の言葉。その鋭い指摘を受け、やり場のない思いを押し殺すかのようにナイフに力を込めてしまうエルザ……。このくだりから察するに、エルザがヴィーナスアークを解散しようとしているのは「太陽のドレスを手に入れ、ヴィーナスアークが不要になったから」というよりも、むしろ「太陽のドレスを手に入れるという当面の目的が果たされたことで、“ヴィーナスアーク生をそのための道具にしていた” という自身の罪を自覚してしまった」が故の、彼女なりの償いなのかもしれない。 

そんな彼女の意図を裏付けるのが、下記の本話ラストシーンだ。
 

「じいや、今日は潮風を浴びながら食事を」
「かしこまりました」
「エルザ……!?」
「勘違いしないで、忠告に来ただけ。私は、一度決めたことは必ず貫く」
「わかってる……。でも、きららだって諦めないよ! ちょっとやそっとじゃ引っ込まない、そんな子だから、エルザ様もきららたちをヴィーナスアークに呼んでくれたんでしょ!? ね、レイちゃん」
「そうだね。……パーフェクトエルザの、たった一つのミス。私たちが、こんなにも君に夢中になるとは思わなかっただろ?」
「貴女たちはもう、私がいなくても十分に輝いていられる」
「いいや、まだだよ。もっともっと輝いて、君を取り戻してみせる。覚悟をしておいて貰うからね」

-「アイカツスターズ!」第90話『ヴィーナス クライシス!』より
 
心からの想いをぶつけるきららとレイ、そして、そんな2人の言葉を背で受けるエルザ。彼女の表情は髪に隠れて見えないけれど、紅茶の水面には、今にも泣き出しそうなエルザの顔が映っていて――。この演出が、さながら「誰にも本心を明かそうとしないものの、心では一人孤独に苦しんでいる」というエルザの現状を映す鏡、あるいは彼女の「秘めた優しさ」の表れのように見えてしまったのは、きっと自分だけではないはずだ。

 

 

また、この第90話『ヴィーナス クライシス!』において明かされたエルザときららの出会い=「 “変な子” 扱いされていたきららに才能を見出し、手を差し伸べたのがエルザだった」というエピソードもまた、エルザの秘めた優しさを裏付けるものだったように思う。  

アリスの一件に顕著なように、エルザの非情さとは「合理的」な「リアリスト」であることの裏返し。残酷な真実から目を逸らさず、然るべき相手に真っ直ぐ突き付けるからこそ、彼女の指摘は常に本質を捉え、小春たち多くのアイドルを導いてきた。 

引用:感想『アイカツスターズ! 86話』あるいは「桜庭ローラ」総括 ー 負けた数だけ立ち上がり、涙の数だけ強くなる、絶えることのない群青の篝火 - れんとのオタ活アーカイブ  

これまでも度々描かれてきた通り、エルザは極めて鋭い観察眼を持っており、その言葉は常に真実を捉えていた。……しかし、一方で彼女はゆめたちの力の源=「仲間との繋がり」といったものに無頓着で、きららを可愛がったり、レイに過去を打ち明けるといった描写こそあれ、それでも「レイやきららたちを友人として見なしているのかどうか」さえ曖昧なように描かれていた。 

そんな状況下、第90話で明かされた「レイやきららたちヴィーナスアーク生への罪悪感」という彼女の秘めた思い。これらを踏まえると、エルザが皆を「道具として扱っていた」というのは、おそらく半分正解で半分誤り。エルザは「ヴィーナスアーク生を目的の為の駒として利用しつつ、その一方で大切に想ってもいたが、友情とも仲間とも無縁な人生だったせいで、然るべき接し方が分からなかった」のではないだろうか。  

そんなエルザにとって、レイやきららがここまで自分に執着するのはまさしく「誤算」に他ならなかったのだろうし、彼女たちからの愛情を感じれば感じるほど「そんな彼女たちを道具にした」自分への罪悪感が募ってしまう……。水面に映ったエルザの泣き出しそうな表情は、そんな彼女の悲痛な本音を映したものだったのかもしれない。  

(ひめに他とは違う執着を見せたのも、ひょっとして「高い実力を持ったアイドルだから」ではなく「唯一自分と対等になり得る、対等に接することができるかもしれない相手」だったから……?)

 

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第93話『光の剣』ー 騎咲レイの到達点と、その先に待つもの

 

第90話『ヴィーナス クライシス!』において突如発されたヴィーナスアークの解散宣言。それは、前述のようにエルザのパーソナリティを紐解く鍵になると同時に、きららとレイの成長を描く重要なきっかけにもなっていた。

 

「何かの冗談だ、ヴィーナスアークを解散するなんて……!」
「エルザ様が気まぐれで “きららたちのこと要らない” なんて言うはずない。エルザ様のことだもん、一度決めたら最後まで貫く。だったら……きららだって貫くもん、エルザ様が大好きって気持ち!」
「っ!」
「きらら、“ヴィーナスアークを解散しよう” って言ったエルザ様の本当の気持ちが知りたい。その為に、アイカツ!ランキングで必ず優勝する。そうすれば、もう一度エルザ様はきららを見てくれる。絶対もう一度振り向かせてみせる、エルザ様を!」
「ああ、私だって!」

-「アイカツスターズ!」第90話『ヴィーナス クライシス!』より

 

第84話『夢は一緒に』において、(母親の一件で追い詰められていたこともあり)自分に無関心になってしまったエルザをライブに誘ったきらら。しかし彼女が来ることはなく、きららは「エルザ様に見捨てられた」と絶望してしまう――というのが「これまでの」きらら。この頃のきららが件の解散宣言を受けようものなら、きっと同じように「エルザ様に見捨てられた」と心を折られてしまっていただろう。 

しかし、同話であこの激励を受けたきららは「自分を見てくれるファンや仲間」の存在に気付いたことでエルザへの依存から脱却。解散宣言においてもレイより冷静に状況を分析し、「エルザの真意を知る」為に発起しただけでなく、レイと共に出場した「トライアスロンアイドルフェス」では「猫を守る為に自らケガを負う」……と、アイドルとしてだけでなく、人間としても大きく成長した姿を見せてくれた。 

そんなきららの成長は、パートナーであるあこや多くのファン、そして、故郷で自身の在り方に悩んでいた彼女を世界に連れ出してくれたエルザがいたからこそ。エルザの真の目的が「太陽のドレス」だったからといって、それは決して、彼女の行いがもたらした「他の結果」を否定するものではない。第93話『光の剣』におけるレイの姿は、そのことをより強く裏付けていたように思う。


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解散宣言を受けて、いよいよ学園を去ろうとするヴィーナスアーク生たち。エルザの帰る場所=ヴィーナスアークを守る為にレッスンを開くレイだが、彼女たちは皆エルザに惹かれて / 導かれてヴィーナスアークに入った者ばかり。そのエルザがヴィーナスアークを切り捨てたショックは大きく、誰一人レイのレッスンに行く者はいなかった――。 

絶大なカリスマを持つはずのレイが誰にも見向きされず、日が暮れるまで待ちぼうけになってしまう……という姿がショッキングなこの一連だけれど、中でも印象的だったのは「皆のためにできることを」とひたむきに奮闘するレイの姿。

 

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第78話『ようこそ パーフェクトマザー!』において、エルザが神ではなく、自分達と変わらない脆い少女であることを知ったレイは、第80話『騎咲レイの誓い!』において自身の「甘え」をかなぐり捨てて、正真正銘の「エルザを守る騎士」として生まれ変わってみせた。 

エルザの付き人という「キレイなふり」で甘い汁を吸っていた姿から一転、「汚くて上等、これが自分の道だ」と嵐の中に踏み出したレイ。ファンよりも誰よりもエルザを優先すると豪語する姿はまさしく海賊のそれで、これまでよりずっとエルザに近付いたものとなっていた……のだけれど、それ以降の彼女はむしろ温厚で柔和、ゆめたち四ツ星学園にも協力的な、大人びたカリスマへと成長を遂げていた。 

それはきっと、自分の在り方にけじめを付けたことで、エルザへの忠誠が “手段” ではなく “目的” になっていた頃に比べ格段に視野が広がり、心に余裕ができたから。レイは「全てはエルザの為に」という己のスタンスを確立させ、確かな自信と覚悟を手に入れたことで、結果的にエルザ以外の人々にも一層の思いやりを持って接することができるようになったのだろう。  

第93話で「皆の為にできることを」と体を張るレイの姿には、そんな彼女の成長――泥臭い努力も、エルザの意思に抗うことさえも厭わず、エルザの / 皆の為に為すべきことをする、という決意が表れていたけれど、そんな地道な献身も心の折れたヴィーナスアーク生には届かない。 

エルザという存在の大きさを改めて実感し、苦悩するレイ。一人途方に暮れる彼女の背中を押したのは、彼女と共に一年間モデルとして歩んできた戦友=真昼だった。

 

「ヴィーナスアークは、バラバラになってしまうかもしれない」
「やっぱり、解散しちゃうんですか?」
「そんなことはさせない! エルザは常に輝く光だった。でも、このままじゃ……」
「なら、レイさんが光になればいい!」
「私が? そんなこと……」
「無理なんかじゃない。レイさんは、逃げずに前へ進むことの大切さ、そして辛さを知っている」
「真昼、君は……」
「だからこそ、迷っている皆の気持ちが分かる。……そうじゃないですか?」
「っ!」
「きっと想いは伝わります。レイさんの光は、エルザさんに負けてないハズ!」

「……ありがとう、真昼」

-「アイカツスターズ!」第93話『光の剣』より

 

ゆめ、あこ、そしてローラ。真昼と共にS4を目指してきた仲間たちも「第25代S4」を目標に切磋琢磨を重ねていたけれど、真昼にとって越えるべき相手は「美組の第25代S4」ではなく「お姉ちゃん」である香澄夜空その人。レイのアイカツが「エルザという存在」によって始まったように、真昼にとっても、アイカツと「香澄夜空」は切っても切り離せないものだった……というのは、今更語るまでもないだろう。 

真昼は、件のシーンにおいて「レイさんは逃げずに前へ進むことの大切さ、そして辛さを知っているから、迷っている皆の気持ちが分かる」と言っているけれど、なら、真昼はなぜそんなレイの気持ちが分かったのか。それは、真昼自身が「眩しい光を前に挫けそうになる辛さと、それでも逃げずに前へ進むことの大切さ」を知っているから。同じ想いを共有する真昼の言葉だからこそ、それはレイの心に染み入り、その背中を押し、ずっと「エルザに仕えていた」彼女に「エルザを継ぐ」決意をさせるに至ったのだと思う。

 

MUSIC of DREAM!!!

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アイカツ!ランキングに勝ち残る為に。そして、誰よりもエルザに依存していた自分自身が「エルザに代わる ”光” になる」ことで、エルザから始まったヴィーナスアークの歩みが無駄ではなかったと仲間たちに示す為に。確かな決意を胸に、決勝トーナメントにて遂にゆめと相見えるレイ。 

接戦の末、結果はゆめの勝利 / レイの敗北に終わってしまったけれど、それはヴィーナスアーク生の想いを動かすには十分すぎるものだった。

 

「すまない、皆の光にはなれなかった」
「そんなこと……」
「そんなことありません!」
「みんな……!」
「レイさんは、私たちの光です!」
「でも、私は」
「勝負には負けてしまったかもしれません。でも、とっても輝いてました!」
「私たちも、レイさんみたいになりたい、って……!」
「だから、ヴィーナスアークに残る道を選びます!」
「!」
「レイさんは光です。皆が進む道を切り拓く、光の剣……!」
「レイさんらしいですね!」
「そうか、……ありがとう」

-「アイカツスターズ!」第93話『光の剣』より

 

エルザを継ぐに相応しい、けれど「何者をも寄せ付けない強い炎で人々を虜にする太陽」であるエルザとは異なる凛とした煌めき / 皆を導く「光の剣」という在り方は、エルザを追いかけ続けていたレイが、彼女に本気で向き合ったことで初めて到達できた「個性」と呼べるもの。 

エルザの輝きを前に自身が輝く事を諦め、側付きという立場に甘んじてしまっていたが、エルザの真意を知ったことで生まれ変わり、遂には彼女の意志を離れ、自分自身がエルザを継ぐ「光」になってみせた――。「エルザの為に」という言葉を貫きつつも、心身共に大きな変化を見せてくれたレイの道行きを見ていると、真に「相手を想う / 相手に尽くす」とはどういうことかを考えさせられる。 

というのも、相手にただ付き従い、自身の意思を委ねることはただの「依存」でしかない。人と人とが想い合い、真に「共に未来へ進んでいく」なら、そこに必要なのは妥協でも忖度でも、ましてや一方的な従順でもなく、お互いの個性や在り方をリスペクトした上で、胸の内に抱えた想いを「繋げる」ことだろう。  

人と人とはどこまでいっても「他人」であるため、お互いの気持ちを繋げることは決して簡単じゃない。必然、そこにはすれ違いや衝突も起こってしまうだろうし、妥協や忖度をしながら平穏な関係を続けていく方が幸せというスタンスも一理あるかもしれない。そういった意味では、エルザに従順であった時代のレイの在り方も決して「間違い」とまでは言い切れないと思う。 

けれど、そうした「平穏」から離れ、お互いの「本気」をぶつけ合うことで――そして、そこで生まれる葛藤を乗り越えることで初めて生まれるものもある。その最たる例が1年目中盤におけるゆめとローラなのだろうし、そんな関係性を一言で表す概念こそ『アイカツスターズ!』という作品の核=「ライバル」という言葉なのではないだろうか。

 

「真昼にとっての君は、私にとってのエルザだって訳だよ。君もエルザも、絶対的な輝きを持つ道標……」
「うーん、それは少し違うかな」
「え?」
「私と真昼はライバルでもあるの。でも、エルザちゃんにはライバルはいないでしょ?」
「当然だよ」
「そう……。だとすると、エルザちゃんって少しだけ孤独かもね」
「……! 孤独? エルザが?」

-「アイカツスターズ!」 第64話『星に願いを』より

 

エルザの側付きという「平穏」から離れ、エルザを「本気」で想うからこそ、その意思に抗う決断を下したレイ。しかし、この成長さえもまだ「過程」に過ぎない――彼女は、エルザの側付きから騎士、継承者、果ては「ライバル」に至ろうとしているのかもしれない。 

レイは、第83話『リリィと王子様』で「ユニットでのアイカツ」の楽しさを知り、それをエルザに伝えたいと願っていた。もし、レイがエルザのライバル=隣に立つ友 / 仲間として彼女に手を差し伸べるなら、それはきっと今のエルザに最も必要なもの。 

残り話数はたったの7話。レイの今後がどこまで描かれるかは分からないけれど、願わくば「ライバル」となった2人の、あるいはヴィーナスアーク4人でのステージが見れますように……。

 

裸足のルネサンス

裸足のルネサンス

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エルザを「救う」為に

 

第93話において大きな成長を遂げ、エルザを救う鍵となったレイ。しかし、彼女だけではエルザを救うことはできない。エルザを救うには、暴走する彼女を「止める」誰かが必要なのだ。 

そのことに気付いたのは、作中で唯一「エルザと直接戦った」経験を持ち、彼女に手痛い敗北を喫したローラだった。

 

「どういうこと、ローラ? エルザさんのことが心配、って……」
「ステージで戦った時に感じた、太陽のドレスを纏ったエルザさんの輝き……とっても鋭くて、何だかナイフみたいだった。“もう誰も近付けないんじゃないか” って、そう感じるくらい。どこに行こうとしてるのかな、ひとりぼっちで……」

-「アイカツスターズ!」 第90話『ヴィーナス クライシス!』より  

「勝つんだよ、ゆめ」
「え? ……うん!」
「勝負だもん、どちらかが勝てば、どちらかは負ける。でも、負けて初めて気付く “自分の気持ち” もあるんだよ。それは、エルザさんも同じかもしれない」
「エルザさんも……?」
「ここまで勝ち残ったゆめには、その使命がある」
「うん、私勝つよ。……絶対、優勝する」

-「アイカツスターズ!」第93話『光の剣』より

 

エルザとステージで直接戦ったからか、「敗北」からしか見えてこないものがあると誰よりも知っているからか、あるいは「エルザが、かつての自分同様にひどく追い詰められている」ことを肌で感じているからか……。苦い結果に終わった第86話『涙の数だけ』でのステージが「ローラが四ツ星サイドの “エルザを救う鍵” になる」という形で結実する様は思わず息を呑んでしまったし、「エルザという孤独な少女を救う」為に四ツ星学園とヴィーナスアーク、所属を越えて皆の想いが一つになっていくという展開は、それが示唆されただけで涙ぐんでしまうほどには「納得」のクライマックス。  

そんな「VSエルザ」の先陣を切るのは、レイの背中を押し、アリアを導く立場にもなり……と、ヴィーナスアークの面々とも縁が深い真昼。第93話での「次は私の番……」という引きには、第46話『炎のS4決定戦!』のラストと重なるものがあったけれど、彼女は今回もS4決定戦のような大金星を上げることはできるのだろうか。 

その顛末は、今回触れられなかった第91話『ハッスル♪アイドル修行☆』と併せて、次回の記事で振り返っていきたい。

 

 

「いくら瓦を割っても、割っても!」
「エルザ戦を前に、真昼ちゃんの様子が……ヘン!?」
「なんかモヤモヤするっ!」
「次回、アイカツスターズ!『真昼の輝き』掴め、アイドル一番星!」

-「アイカツスターズ!」第93話『光の剣』より