新番組『ウルトラマンアーク』初報に見る、シリーズの新たな挑戦と「ニュージェネレーション」のマインド

2024年4月5日、朝7時半。 

ぐっすりと眠っていた通勤電車で目を覚まし、なんとなしにスマホの電源を点けて、そこに表示されていた情報でそれはもうバッチリと目が覚めた。

 

 

2024年に降り立つ新たな光の巨人、その名はウルトラマンアーク! 

その全貌はまだ謎に包まれているけれど、前作『ブレーザー』とは異なる方向性の話題に溢れた『アーク』。そんな本作の注目ポイントを、発表されたスタッフや現時点で明かされている情報、そして「ニュージェネレーションシリーズの歴史」にも触れつつ読み解いていきたい。


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引用:\初出トレーラー公開/新テレビシリーズ『ウルトラマンアーク』2024年7月6日(土)あさ9時 テレ東系放送スタート! - YouTube
 
《目次》

 


ウルトラマンアーク』初報雑感

 

ニュージェネレーションシリーズ通算12作目となる『ウルトラマンアーク』。そのキャッチフレーズは「解き放て! 想像の力!」で、空想特撮そのものの骨子でもある「想像力」をキーワードに、明るくハートフルなドラマが展開されるとのこと。パンデミックを色濃く反映した『デッカー』や、ソリッドな作風が持ち味の『ブレーザー』とは異なる味わいが期待できそうだ。 

そして、そんな本作のキーワード=「想像力」を体現しているのが、主人公=飛世ユウマ (演.戸塚有輝) と光の使者「ルティオン」が一体化することで生まれるヒーロー・ウルトラマンアーク。

 

 

この投稿にもあるように、アークの姿やその変身アイテム=アークアライザーは、どうやらユウマのイメージを元にして生まれたものの様子。円谷作品のオタクとしては、今や一大シリーズを築いている『電光超人グリッドマン』シリーズを思い出さずにはいられない……!

 

 

……などと思っていたら、こちらから見れるTSUBURAYA IMAGINATION限定バージョンの予告では、アークがなんと (某ライダーのサングラスラッシャーを思い出すデザインの剣や) アーマーで武装グリッドマン』は勿論『X』のリベンジにも期待できそうだ。 

また、アークのデザインが非常にシンプルなのも特徴的。子どもの落書きに着想を得ているのか「パッと見は初代ウルトラマンのようだけれど、よく見ると全然違う」という新たな切り口のデザインを手掛けるのは、歴代ニュージェネレーションヒーローズを手がけてきたお馴染みのイラストレーター・後藤正行氏。 

TSUBURAYA IMAGINATIONで公開された監督インタビューによると、ベースとなるオーダーは「初代ウルトラマンCタイプ」だったようで、ある種これもリピアーやブレーザー同様「 “ウルトラマンという概念” の再翻訳」にあたるデザインと言えるかもしれない。

 


(単独発光・単独音声というウルトラ史上最も高価なコレクターズアイテムになることが予想されるアークキューブ。その玩具っぽさを「へんしんどうぐ」の一言でカバーする手腕が既に見事……!)


待望のメイン登板! 辻本貴則監督の魅力


今回の情報解禁の中でも、ファンの間で一際大きな注目を集めていたのが、ウルトラシリーズ初となる「辻本貴則監督&継田淳氏」ペアのメイン登用だ。

 

 

辻本貴則 (「辻」は一点しんにょう) 監督といえば、『ウルトラゾーン』でウルトラシリーズに初参加され、その後『X』を挟んで『R/B』以降はレギュラー監督として活躍を見せる特撮界の若手ホープ。「田口・坂本」ラインに続く「武居・辻本」ラインとしてシリーズの2番手を務めることが多く、ここ数年は「今年こそは辻本監督がメインだろう」という予想が立てられては散っていくのがある種の恒例行事となっていた。前述のインタビューでは監督自身が「メインはもう来ないんじゃないかと思ってた」と漏らす場面もある辺り、監督自身にとってもファンにとっても、まさに待望と言えるメイン登板だ。 

そんな辻本監督の魅力と言えば、『トリガー』前後からメキメキと上達され『デッカー』第23話で完成を見た情緒的なドラマ演出……もあるのだけれど、それ以上の目玉としてピックアップしたいのが下記の4点だ。

 

①ミニチュア特撮へのこだわり

 

監督本人も公言しているように、辻本特撮の真骨頂と言えばこだわりのミニチュア特撮。  

ミニチュアセットを遠景で広く映したり、シリーズでお馴染みの「地割れ」を丹念に演出したり、ラジコンカーなどの小物でセットの「実在感」を高めたり……。辻本監督は、これらのこだわりをただ見せるだけでなく「しっかり目立たせる」のも特徴で、アナログ特撮で育ってきた筆者のようなオタクにとってはまさに毎回がご馳走だ。  

しかも、このようなミニチュア特撮へのこだわりは冷めるどころか毎年のように進化を続けており、ウルトラマンZの「ペギラの冷凍光線で浮き上がった車からの景色」や、ブレーザーの「溶けて地面に染み込んでいくレヴィーラ」などのように、監督のアナログ特撮の進化はそれそのものがニュージェネレーションシリーズにおける一つの「見所」と言っても差し支えないだろう。

 

 

②昭和第2期ウルトラシリーズへのリスペクト

 

ニュージェネレーションシリーズの歴代監督は、田口監督なら『ウルトラマン 空想特撮シリーズ』や『ウルトラマンティガ』、坂本監督なら『ウルトラマンレオ』……といったように、特定のシリーズ作品に強い思い入れを持たれていることが多い。辻本監督の場合、それはおそらく帰ってきたウルトラマン』~『ウルトラマンレオ』の4作品、所謂『昭和第2期ウルトラシリーズ』だろう。  

ウルトラマンタイガ第22話『タッコングは謎だ』では『帰ってきたウルトラマン』のBGMを採用し、ゴロサンダーや第23話『激突!ウルトラビッグマッチ!』のタイトルには『タロウ』イズムを注ぎ込み、ウルトラマンZの『最後の勇者』は『ウルトラマンA』へのリスペクトが全編に満ち溢れて沸騰しているような代物だった。モグージョンなど氏が手掛けるオリジナル怪獣のデザインを見ても、その「癖」の程は明らかなところだ。 

では『アーク』はどうかというと、TSUBURAYA IMAGINATIONのインタビューでは「メイン監督として、自分のこだわりは出しすぎないようにした」と仰っていたにも関わらず、既にアークのファイティングポーズやタイトルバックが『帰ってきたウルトラマン』そのもの。  

どこまで折り込み済みかは分からないけれど、2024年春はウルトラマンジャック=郷秀樹役の団時朗氏が光の国へ旅立ってから一周年という節目。このタイミングでやってきたウルトラマンに『帰ってきたウルトラマン』の息吹が込められている……。そのことがもし氏へのリスペクトであるならば、『帰ってきたウルトラマン』ファンとして監督の想いに頭を下げずにはいられない。


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引用:\初出トレーラー公開/新テレビシリーズ『ウルトラマンアーク』2024年7月6日(土)あさ9時 テレ東系放送スタート! - YouTube

 

③リアルなガンアクション

 

辻本監督といえば『THE NEXT GENERATION -パトレイバー-』などで披露した「ガンアクションへのこだわり」も外せないポイント。 

ウルトラシリーズでは『X』第6・7話のルディアンの他、最新作『ブレーザー』におけるアースガロンやエミの殺陣 (第4話) が大きな話題となっていた。……が、残念ながらウルトラマンは「銃」とはあまり縁がなく、辻本監督が銃使いのウルトラマンを撮れたのは、おそらく前述の『X』第7話におけるエックス エレキングアーマーくらいのもので、それもエレキング電撃波を放つだけだった。 

と、そこにきて今回の『アーク』である。アーマーを纏うウルトラマンとなれば銃タイプの武装を持っている可能性は高いだろうし、辻本監督による「銃使いのウルトラマン」が堪能できる日がすぐそこまで来ている……!?

 

 

ケレン味たっぷりのアニメ風演出

 

『タイガ』から見られるようになった辻本監督の得意技 (?) が、大胆なパースやド派手なエフェクトを用いたアニメ風演出の数々。  

スーパーロボットアニメの金字塔『勇者シリーズ』に色濃くインスパイアされたであろう大胆なパース・陰影によるソード系必殺技 (『タイガ』第22話のタイガブラストアタックや、『トリガー』第9話のゼペリオンソードフィニッシュなど) は勿論、『Z』第5話の空中戦や『トリガー』第22話における「闇の中で閃く剣戟」、『デッカー』第22話での「燃え盛る都市での死闘」など、辻本監督はアニメ的な演出を特撮に落とし込むプロフェッショナル。 

アーマーを用いた戦闘は勿論、「想像力」というファクターがどのように演出されるのかにも注目したいところだ。

 

 

辻本監督のバディ・継田淳氏への期待

 

『アーク』のメインライター・シリーズ構成を務めるのは、こちらも初のメインとなる継田淳氏。しかし「メインを務めるなら両氏がタッグを組むことになるだろう」というのは既に方々で予想が立てられていた。それは、これまでの継田氏の担当回を見れば明らかだ。

 

【ウルトラゾーン】
・第7話「さすらいのM1号」
・第10話「続・さすらいのM1号」
・第16話「新・さすらいのM1号」
・第17話「帰ってきたさすらいのM1号」
・第19話「さすらいのM1号 情熱編」
・第21話「さすらいのM1号 完結編」
☆第22話「名探偵M1号・前編」
☆第23話「名探偵M1号・後編」 

ウルトラマンZ】
☆第18話『2020年の再挑戦』 

ウルトラマントリガー NEW GENERATION TIGA
☆第20話『青いアイツは電撃と共に』
☆第21話『悪魔がふたたび』 

ウルトラマンデッカー】
☆第5話『湖の食いしん坊』
・第17話『過去よりの調べ』 

ウルトラマンブレーザー
☆第4話『エミ、かく戦えり』
☆第5話『山が吠える』
☆第6話『侵略のオーロラ』
☆第16話『恐怖は地底より』
☆第17話『さすらいのザンギル』
・第18話『そびえ立つ恐怖』
・第19話『光と炎』
 
そう、この☆マークの箇所はなんと全てかま辻本監督回! ウルトラマンへの参加も『ウルトラゾーン』での繋がりがきっかけとのことで、辻本監督と継田氏はまさに歴戦の戦友。特に『ブレーザー』に関しては露骨に登板+辻本監督とのペアが増えており、この点から次作へのメイン登板を予測する声が多く見られていたのである。 

ウルトラシリーズ脚本家陣では比較的新参と言える継田氏だけれど、辻本監督の得意とする「牧歌的・クラシカルな雰囲気」との相性は抜群。それは転じて『アーク』との相性の良さも伺えるし、満を持して発揮されるであろう継田氏の本領に期待大だ。

 

(この辻本・継田ペアがメインに至るまでの流れは、実は『デッカー』の武居監督・根元歳三氏ペアとほぼ同じだったりする。このことも、多くの方が予想を当てていた要因だろう)

 

 

「脱・防衛隊路線」とニュージェネのマインド

 

ここまで『アーク』の注目ポイントに可能な限り触れてきたけれど、自分が最も期待しているのはその世界観、もっと言うなら「主人公が防衛隊員でない物語」についてだ。

 

とある町、星元市。 

市内の獅子尾山には、異彩を放つ巨大な物体がそびえ立っている。「モノホーン」と名付けられたそれは、実は、16年前の事件当時から突き刺さったままの「怪獣の角」だった。 

世界各地で怪獣が同時に出現した「K-DAY」と呼ばれるその事件以降、怪獣災害が日常化し、日本では地球防衛隊が武力で怪獣への対処を行う一方、怪獣防災科学調査所・通称「SKIP(スキップ/Scientific Kaiju Investigation and Prevention center)」は、怪獣災害の発生・甚大化を防ぐため、地域に密着して科学調査や避難誘導を行っている。

引用:新テレビシリーズ『ウルトラマンアーク』日本時間2024年7月6日(土)あさ9時 テレ東系6局ネット発・11言語対応で世界同時期放送&配信スタート! - 円谷ステーション

 

あらすじの通り、本作の主人公=ユウマが所属するのは、所謂「防衛隊」ではなくあくまで調査所。このスタイルは歴代のニュージェネレーションシリーズでも何度か見られたけれど、今回のそれは些か異なる意味合いを持っているように思える。というのも、 

・ギンガ=予算の都合上、防衛隊を出そうにも出せなかった 

・オーブ~R/B (タイガ?) =『X』の防衛隊玩具が苦戦したことを受け、防衛隊路線を離れざるを得なかった 

と、従来のシリーズにおける「非防衛隊路線」は「防衛隊を出そうにも出せなかった」というネガティブな側面が少なくなく (勿論、従来の型からの脱却という目的も大きかったとは思う) 、その制約の中で「いかにウルトラマンらしい作劇ができるか」、あるいは、その制約をバネに「いかに新しいウルトラマンを作り出せるか」を模索する、保守と挑戦の二律背反が続いていたように思う。   

『Z』以降は『トリガー』『デッカー』『ブレーザー』と「防衛隊路線」の作品が続き、従来のシリーズ同様、ニュージェネレーションシリーズにも「防衛隊路線が当たり前」になってきた。しかし、だからこそここで「脱・防衛隊」なのだ。  

長年の積み重ねが防衛隊を蘇らせ、『ブレーザー』が「ウルトラマンらしい作劇」と「新しさ」の折衷における一つの到達点を見せてくれた。故に、今度のチャレンジは「苦肉の策」ではない。『ウルトラマンアーク』とは、「ウルトラマンらしい作劇」という縛りからシリーズが解き放たれたことで、ニュージェネレーションシリーズが持ち続けてきた「新たな作風へのチャレンジ」というマインドが真に花開く作品であり、辻本監督がインタビューで語っていた「これまでとこれからのウルトラシリーズを踏まえて、今撮るべきウルトラマンというフレーズは、このチャレンジをこそ指しているのではないだろうか。

 

 

ここまで長々と語ってはきたけれど、まだまだ『ウルトラマンアーク』は謎の多い作品。新規怪獣や復活怪獣の扱いはどうなるのか。過去シリーズとの関わりはあるのか。アーマーチェンジは一体どのようなものなのか。「想像力」が一体どんな形で物語に活かされていくのか……。
特に『Z』や『ブレーザー』が顕著だったように、本編になって急にその雰囲気が変わる作品もウルトラシリーズでは珍しくない。初夏に解禁されるであろう本PVに備えて、今は『ブレーザー』の余韻、そして現在放送中の『ウルトラマン ニュージェネレーションスターズ』に浸りつつ、今のうちにユウマや全国の子どもたちにも負けないような「想像力」を取り戻しておきたい。

 

ULTRA PRIDE

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