感想『アイカツスターズ! 31~50話 (1年目最終回) 』虹野ゆめ編 - 主人公補正を越えた先にある、凸凹で美しい “虹色の冒険譚”

「虹野ゆめの個性」とは、何だろう。

 

「ねぇ、私の個性って何だと思う?」
「うーん……元気、かなぁ?」
「えぇ~……? なんかありきたりだよぅ」 

 (中略) 

「そうだ!まず手始めに、私たちもキャッチフレーズ作らない?」

-「アイカツスターズ!」 第23話『ツンドラの歌姫、降臨!』より

 

第23話『ツンドラの歌姫、降臨!』におけるこのやり取り。「元気、は安易すぎでしょ~!」とツッコミつつも、見ている自分も「ゆめの個性」「アイドル・虹野ゆめのキャッチフレーズ」は全く思い付かなかった。結論から言うなら、自分は「ゆめだけの個性」は何なのか、劇中で明言されるまでその答えに辿り着くことができなかったのだ。  

誰より泣いて、誰より笑う。一つ一つの表情は「ごく普通の女の子」でしかないはずなのに、虹野ゆめは普通の女の子、という表現には「NO」と断言できてしまう。……そんな彼女の「個性」とは何だろう、なぜ彼女の歩みは、こうまで私たちの胸を打つのだろう。 

そんな、作中で答えが明言されるかどうかも分からない命題に、本作はこの上ない「粋」な形で答えを提示してくれた。それが本作の実質的な最終回でもある第49話『一番星になれ!』であり、「30分ほぼ丸々泣きっぱなし」にさせられてしまった / 自分にとって本作が紛うことなき「特別」になった30分間だった。

 

本記事が『アイカツスターズ!』1年目初見感想を〆るラストランナー。虹野ゆめというアイドルが自らの夢に辿り着くまでの軌跡を、2年目という次のステージへ臨む前に振り返ってみたい。

 

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(あこ、真昼、リリィ、ローラについてはこちらの記事からどうぞ!)

 

 

「これまで、私にはずっと不思議なことがあった。それは、大事なステージに立つ時、自分じゃないみたいな凄いステージができること。そんな時、ひめ先輩が教えてくれたんだ。“これ以上、不思議な力に頼ってちゃダメだ” って。とにかく、今はひめ先輩のアドバイス通り、アイカツ頑張るしかない!」

-「アイカツスターズ!」 第35話『選ばれし星たち』より

 

小春との突然の別れ、そして、その別れに立ち会えなかったゆめ――。壮絶な展開を見せた第30話『七色のキャンディ』を経て、遂に本格的に物語の焦点となった、ゆめの「不思議な力」。 

「不思議な力」とはいうものの、その正体は全くの謎で、ゆめを蝕むという側面をも持つらしいその存在は、どこか得体の知れない恐怖を孕んでいるもの。そのため、第35話『選ばれし星たち』冒頭で上記のモノローグが流れた時は「いよいよ謎が明かされる」という期待と、その「恐怖」とで気持ちがぐちゃぐちゃになってしまっていた。

 

 

入学早々に行われた春フェス。CDデビューのオーディション。そして小春とのお別れ会……。これまで、自身の大事なステージの度に「自分ではないような」力を発動し、S4さえ目を見張るような劇的なステージを作り出していたゆめ。 

彼女はその力を訝りつつも時には頼ってしまい、その詳細を突き詰めようとはしなかった。ゆめが小春とのお別れ会において限界を迎え、別れの瞬間に立ち会えなかった……というのは、そんなゆめへのある種の「罰」だったのだろう。  

ただでさえ小春がいなくなり精神的に追い詰められたゆめにとって、自身から「声」を奪うかもしれないというその力は恐怖そのもの。ローラやあこ、すばるたちの気遣いもあって、意を決したゆめは全てを知るひめからこの力についての話=彼女の過去と、彼女以前に「不思議な力」を持っていたある女性について話を聞くこととなる。

 

「このホタル先輩とこの前のお話に、どんな関係が?」
「私たちの経験した、自分じゃないみたいなステージ。それを初めて経験したのが、ホタル先輩なの」

「えっ……?」

-「アイカツスターズ!」 第35話『選ばれし星たち』より

 

「不思議な力」を発現したのは、なんとゆめが「3人目」。最初にこの力を発現させたのは、諸星学園長の妹=諸星ほたるであり、2人目がひめ。力に頼ったことで声を失い、アイドルを引退してしまったほたるの悲劇を繰り返さない為に、諸星学園長はひめに「謎の力に頼らずに済むだけの力」を身に付けさせ、その甲斐あってひめは声を失う窮地を乗り越えたのだという。 

しかし、この力については当の諸星も詳細な解析ができておらず、分かっているのは「アイカツシステムに選ばれた」ことが原因であるらしいこと、そして、この力が発現させる「自分でないような凄いパフォーマンス」とは、「自身の中で眠っている潜在能力を強制的に開花させたものである」ということ……。つまり、この「不思議な力」とは、アイカツシステムそのもの、あるいはそこに宿る「何か」によって引き起こされる「才能の前借り」であり、声を失うのはその反動なのだという。えっ、自分が見てる作品『アイカツ!』シリーズで合ってる……? 


アイカツシステム」という、完全な「舞台装置」だと割り切っていたものが突如世界の中に現れて、作為的にか無作為的にか才ある少女たちに力を与え、その代償として歌声=アイドルとしての命を刈り取ってしまう……。それはまるで「神の悪戯」だ。一方的に力を与えたかと思えば、その代償として全てを奪う神。そんな得体の知れないものに原因があることも怖かったけれど、自分がそれ以上に感じたのは、このアイカツシステムによる選択が「ある強大なもの」=「主人公補正」を具現化させたもののように思えたからだ。

 

 

前述の通り、ゆめは「ここ一番」というステージで常に勝ち続けてきたし、その後押しをしたのがこの「不思議な力」だった。もし、この「不思議な力」がなかったら、果たしてゆめの物語はどうなっていたのだろう。 

1話のステージで失敗し、心を折られていたかもしれない。その結果、ローラと仲良くなれず、同じ歌組で切磋琢磨する仲間に恵まれなかったかもしれない。実力不足から、ローラの代役としてさえ夏フェスでひめとのステージに立てなかったかもしれない。CDオーディションで1位を取る以前に、最終候補まで残れなかったかもしれない。これらの経験から自信が育たず、小春との別れでステージに立つことさえなかったかもしれない。その結果、ショックから立ち直れず学園から去っていたかもしれない……。 

大袈裟だろうか、いいや、そんなことはないと思う。なにせ、ゆめはあくまで「普通の女の子」なのだ。ひめに憧れて四ツ星学園に入っただけの元バレーボール部員で、発声さえ未熟な普通の女の子。そんなゆめがこうしてトントン拍子でステップアップしてこれたのは、やはり件の「不思議な力」があったからだ。 

「普通の人間」が主人公の作品は他にもごまんとあるけれど、作劇上どうしてもそこには「主人公補正」が存在する。運を味方に付けたり、「本番に異様に強い」気質だったり、なんらかの特殊な要素を持っていたり……。私たちが「そういうものだから」と知らずスルーしているその「主人公補正」を、あろうことかこの『アイカツスターズ!』は物語に組み込んでしまったのだ。  

……と、ここまでだったら「斬新な脚本だ」の一言で済んでしまうところ。本作の異常性は、「主人公補正を物語に組み込んだ上で、それを剥ぎ取る」というステップを踏むことで、逆説的に虹野ゆめを「主人公補正が絶対にかからない」という状況に追い詰めたことにある。

 

アイカツスターズ!』はとても「リアルかつシビア」な作品であり、それが本作の大きな魅力になっている。この点は製作陣もかなり意識的に徹底していただろうし、だからこそ、小春が『七色のキャンディ』で離脱したことには皮肉にも「納得」があった。彼女は、明らかにローラ、あこ、真昼のレベルについていける実力を持っていなかったからこそ、ああした形で離脱させる他になかったのかも……と感じられてしまったからだ。彼女は「普通の女の子」であったが故にゆめと支え合ったり、あこや真昼の仲間入りのきっかけになることができたけど、四ツ星学園という世界は「普通の女の子」にはあまりにも厳しい世界だったのだろう。 

そして、そのことはゆめにも同じように言えるはずだった。 

アイカツスターズ!』はあくまで女児向けアニメであり、その主人公は「普通の女の子」でなければならない。しかし、アイドルというものを真摯に、現実的に、残酷なくらい真正面から描く……となれば、その世界は「普通の女の子」が生きていくには厳しすぎる。そこで生まれるのが「主人公補正」……だが、それは果たして「アイドルというものを真摯に、現実的に、残酷なくらい真正面から描く」と言えるのだろうか。  

おそらく、そんな背景から生まれたのが「ゆめに主人公補正を与えるが、それを途中で奪い取ることで、ゆめを “主人公補正” から独立させる」という驚異的なシリーズ構成であり、主人公補正を使わないと作劇が成り立たないと言うのなら、それを逆に利用することで、「普通の女の子がアイドルになる」ことを酸いも甘いも含めてしっかり描いてみせよう……という、このどうしようもなく真っ直ぐで残酷なシチュエーションだったのではないだろうか。

 

 

もしそうなら――と考えると、途端に「この先」が怖くなった。 

第10話『ゆめのスタートライン!』でも、第30話『七色のキャンディ』でも、本作は虹野ゆめに対して一切の容赦がなかった。その上で「アイカツシステムの真実が暴かれた」ということは、即ち彼女がこれまで「主人公補正」を受けてきたツケが払われてしまうということ。そして、それに対しゆめは「主人公補正」を使うことができないということだ。  

そこで、そんな彼女を救おうとするのがもう一人の「選ばれた星」であるひめ、そして諸星学園長。第35話において、諸星学園長は (ゆめに襲いかかる運命を強引にはね除けさせようとするかのように)、「ひめのステージにゆめを登壇させる」ことを命じる。 

ゆめにとってひめは憧れの存在。そんな彼女のステージに登壇できるというモチベーションによって「声を失う恐怖を乗り越えさせる」と共に、「絶対に失敗できないステージに、謎の力を使わずに挑む」という経験を積ませる……。横暴なようでその実非常に合理的な諸星のプランは、しかし、あくまで普通の女の子であるゆめの心には過ぎた重圧でしかなかった。

 

「お疲れ様でした、ひめ先輩」
「ありがとう。アンコール、行けそう?」
「ひめ先輩、私……」
「……! ごめんなさいっ」
「ひめ先輩?」
「ゆめちゃんがこんなに苦しんでるのに、私、何もしてあげられない……」
「そ、そんな……!」
「わかるの、私……同じだったもの、ゆめちゃんと」
「えっ」
「ずっと不安だった……一人の時。そうだ、ゆめちゃん、これ」
「あっ……プレミアムレアドレス!?」
「ゆめちゃん、このドレス好きだって言ってたでしょ?」
「いいんですか!?」
「ええ。私のドレスは、冬のプレミアムレアドレス、メルティホイップコーデ。お気に入りのドレスを着ると、自然と強い気持ちになれる……。2人で一緒に、プレミアムレアドレスを着ましょう!」
「……はいっ!!」
(私がS4として、ゆめちゃんの道を照らす星になる……!)
「ゆめちゃん!」
「えっ?」
「どんなに怖くても、私がいる限り一人にはさせない。だから安心して!」
「ひめ先輩……。はい、よろしくお願いします!」
「白鳥ひめ、行きます!」
「虹野ゆめ、行きまーす!」

-「アイカツスターズ!」 第35話『選ばれし星たち』より

 

ゆめを救おうとするあまり、その辛い心境を考えられなかったことを詫びるひめ。彼女はゆめの気持ちが誰より分かる存在だけれど、だからといってゆめに「寄り添い過ぎる」ことはしない。一緒に涙することもしない。ゆめにとってひめは今や「友人」であるけれど、それ以上に「憧れの星」。そのことを分かっているからこそ、ひめはゆめを支えるために今一番すべきことは何なのか、自分にしかできないことは何なのか分かっていた。それは「ゆめに寄り添いつつも、ゆめの憧れ=S4・白鳥ひめとして、彼女の心を救う」こと。  

白鳥ひめという少女の優しさと気高さ、「S4」としての自覚と矜持、ひめがゆめと積み上げてきた信頼と絆……。全てが結実して「アイカツ」への想いを取り戻したゆめがひめと並んでステージに臨むこのくだりは、1年目の中でも特に力の入った作画や劇伴の演出、そして「ひめの想いと共に託されるプレミアムレアドレス」なども相まって、さながら最終回のような「涙なくしては見られない名シーン」だった。  

あまりの感動に、自分はこれでゆめが復活するものだと思い込んでしまった……けれども、あくまでこれはゆめが「ひめに抱き上げられた」形。立ち上がったゆめが「不思議な力」を真の意味で乗り越えるには、彼女自身が「答え」を見付けなければならなかったのだ。

 

 

長らく続いてきた、ゆめと「不思議な力」の物語における「完結編」と言えるエピソード=第36話『虹の向こうへ』。 

第10話『ゆめのスタートライン!』と対になるそのタイトルだけでもう泣きそうになってしまうけれど、第35話でゆめとひめの2人がメインとなったように、本話では初代S4にして「1人目」であった女性=雪乃ホタル、本名「諸星ほたる」とゆめとの交流が描かれることになった。

 

「学園長から、伝えてって言われてることがあるの」
「えっ?」
「今度のソロライブの会場って、ゆめちゃんのステージでオープンするんでしょ?」
「はい、そう聞いています」
「会場にお花を届けたいから、ゆめちゃんに選んでほしいそうよ」
「私に?」
「はい。このフラワーショップで選んでほしいんですって」
「……! 雪乃ホタル……」
「そこへ行けば、何か掴めるかもしれない」

-「アイカツスターズ!」 第36話『虹の向こうへ』より

 

ゆめに「不思議な力」を乗り越えるきっかけを掴んでもらうため、諸星学園長はひめを通し、ゆめを自身の姉であるほたるが経営するフラワーショップへと向かわせる。 

気さくなほたると打ち解けつつも、不安が拭えずにいるゆめ。彼女に対し、ほたるは自らの過去=初代S4としての軌跡と「弟らの心配を無下にした結果、声を失ってしまった」ことを打ち明ける。それは転じて「どうすれば
“不思議な力” から脱せるのか」をゆめに示す道標でもあった。

 

「そして、力に頼りすぎた私はとうとう歌声を失ってしまった……」
「後悔してるんですか?」
「後悔してるわ。ただ、その後悔は “あの力に頼りすぎたこと” じゃなくって、あの力がないとダメだ、って思い込んでいた自分の弱さに」
「……!」
「今思うと、弟も、S4の仲間たちもみんな言ってくれたの。貴女なら大丈夫だ、って。それなのに、私は自信が持てなかった……」

-「アイカツスターズ!」 第36話『虹の向こうへ』より

 

ほたるが歌声を失った原因は「自分自身の力に自信を持てず、不思議な力に頼り続けてしまった」ことにあった。対して、2人目である白鳥ひめは「力に頼らずとも歌えるように地力を付けた」=自分自身の力を信じれるようになったことで、問題の「不思議な力」から脱していた。
両者を分けたのは「自分を信じる心」の有無。ゆめに必要だったのは、アイカツシステムという神の誘惑を振り払うだけの「強い自信」だったのだ。  

「自信を持つ」というのは、言葉にしてみれば簡単だ。しかし、ゆめの「自信」に繋がるもの=彼女の成功譚とは、これまでそのほとんどが「不思議な力」ありきのもの。力に頼らない「自信」を持てるだけの根拠は、果たしてゆめにあるのだろうか――。その答えをゆめに伝えたのも、他ならぬほたるであった。

 

「あなたには、心配してくれる白鳥さんや、励ましてくれる仲間がいるんでしょ?」
「はい。それに、本当のライバルもいます!」
「だったら、きっとあなたは大丈夫。応援してくれてる人たちがいるのなら、あなたは自分を信じることができる……。自信を持てば、きっと乗り越えられるはず!」 

 (中略) 

(自分に自信を持たなきゃ……!あの不思議な力に頼らない、素敵なステージにするんだから!)

-「アイカツスターズ!」 第36話『虹の向こうへ』より

 

確かに、ゆめの成功譚はそのほとんどが「謎の力」ありきのもの。しかし、彼女の仲間たちが心配し、励まし、応援しているのは、不思議な力の使い手ではなく「虹野ゆめ」という一人の少女。少なくとも、彼女たちとの絆は「ゆめが不思議な力の使い手だったから」手に入ったものではなく「彼女が “虹野ゆめ” だったから」こそ手に入ったもの。学園に戻ったゆめが彼女たちとの絆を自信に変えていく様は、まるで一足早い最終回=「虹野ゆめ」の集大成のようだった。

 

「ローラ!」
「ゆめ? どうしたの?」
「ランニング、付き合ってくれない?ソロライブには、基礎体力が必要だから!」
「もちろん!」 

「ねぇ、あこちゃん?」
「な、なんですの?」
「MCで面白いこと言いたいんだけど、相談に乗ってくれないかな?」
「ふふっ、仕方ないですわ! ホントはMCスキルは私の企業秘密なんですけど……虹野ゆめ、あなたに特別に伝授して差し上げますわ!」 

「ステージは可愛いお菓子のモチーフだから……ドレスも合わせて、チョコレート色のタイツでアクセントを付けてみればいいんじゃない?」
「わぁっ! 素敵……!」 

「なんか、ゆめちゃんの顔、輝いてきたなって」
「……!」
「みんなが色々力になってくれるのは、あなたならきっとできる、って信じてるから。勿論、私もその一人。だから……ね? 自信を持って!」
「はい!」 

「まあ、なんだ……俺らも頑張るから、お前も頑張れよ!」
「うん! 私、自信を持って最高のステージにするつもり!」
「……お、おう」

-「アイカツスターズ!」 第36話『虹の向こうへ』より

 

ローラ、あこ、真昼、ひめ、そしてすばる。応援してくれる仲間、一緒に戦ってくれるライバル、いつも導いてくれる先輩……。自身を信じくれる皆の思いを背負い、遂にステージに舞い戻ったゆめ。ここまで彼女の軌跡を見届けてきた一視聴者にとってはその全てが感慨深いものであったし、この最高潮で披露される彼女の新曲が第3期OP主題歌=『スタージェット!』であることには、ただでさえ緩んでいた涙腺が木っ端微塵に粉砕されてしまった。

 

スタージェット! 〜ゆめ ver.〜

スタージェット! 〜ゆめ ver.〜

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「夢見る人々を導くメッセージ」であった白鳥ひめの象徴=『スタートライン!』に対し、
この『スタージェット!』は「夢見る人々と同じ目線で一緒に走っていく応援歌」。

 

君が逃げない限り 明日は逃げたりしないよ
うつむいた昨日に背を向けて 自分に負けるな! 

頑張る理由なんて山ほどあるでしょ
誰も真似できないことしようよ 叶えようよ 

チャンスに挑みたまえ ◯×じゃ世界は計れない   

すべてに意味があるのさ みんな不揃いだから 魅力的なんだね  STAR JET☆彡

 

過酷な現実から目を背けず、むしろそれを「冒険」になぞらえることで明るく元気一杯に走っていく応援歌……。そのバイタリティ溢れる歌詞はまさに「虹野ゆめ」を象徴するものであるし、『スタートライン!』と似て非なる名前とメッセージ性を持った『アイカツスターズ!』1年目の集大成たるこの歌が、他でもないゆめの「持ち歌」である事実が本当に嬉しかった。
総じて、この第35-36話という前後編と『スタージェット!』は、非情な現実を真正面から描いた本作が「だからこそ美しい冒険譚」たる所以をこれ以上なく象徴しているように思う。

 

 

それからというもの、ゆめは元来の前向きさと行動力に拍車がかかり、さながら「セルフプロデュースの権化」のような存在になっていた。

 

「クリスマスイブに、私たち幹部の主催でクリスマスパーティーをします!」
「もちろん、S4のライブも生中継!」
「四ツ星学園の生徒なら、誰でも参加OKよ!」
「たくさんのご参加、お待ちしております……!」
「どんなクリスマスパーティーかな?」
「S4のライブも見られるなんて最っ高~!」
「超楽しみ~!」
「……ローラ、私たちもやろうよ。クリスマスライブ!」
「え?」
「ライブを見たり、パーティーに招待されるんじゃなくて、自分で何かしたいんだ!」
「……ゆめ、ちょっと変わったね」
「え?」
「今までのゆめだったら、絶対 “S4のライブに行く!” って言ってたと思う」
「なんかじっとしてられなくて! 私には、先輩がいて、ライバルがいて、仲間がいる。そう思ったら、なんだか嬉しくって……! うお~!って、やる気が溢れて止まんないの。クリスマスもセルフプロデュースしないとね!」
「なるほどっ」
「ローラも一緒にやらない? クリスマスライブ!」
「ふふっ、面白いじゃない!」

-「アイカツスターズ!」 第37話『トキメキ! クリスマス』より

 

誰かに勝ちたいのでもなく、誰かの背中を追いかけるのでもなく、心からの「輝きたい衝動」に素直になったゆめ。ずっと近くで競ってきたローラさえ圧倒されるような眩しさで皆を巻き込んでいくゆめの姿には「ひめとは全く異なるカリスマ性」が満ちており、彼女を文字通りきらきらと輝かせていた。あのすばるが本気で惚れ込んでしまったことを加味しても、この時既にゆめには十分すぎる輝き=S4の資質が宿っていたと言えるだろう。 

そして、成長を遂げたゆめの真価は来たるS4戦――「ひめとの直接対決」という、最高最後の舞台にて問われることになる。


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第48話『わたしだけの歌』を見届けたばかりの自分は「歌組のS4になるのはローラ」だという予測を立てていた。1年目のS4はローラ、そして2年目がゆめ……という交代劇が描かれるのだろうと。 

しかし、そんな予想は第49話『一番星になれ!』の冒頭において早々に覆されてしまった。

 

『ゆめちゃん』
「小春ちゃん!? ……本当に、小春ちゃんなの!?」

-「アイカツスターズ!」 第49話『一番星になれ!』より

 

もう泣いてた。 

全く予想していなかった小春の再登場と『BGMのないサブタイトル画面』という特殊演出に、OP主題歌がないことに気付かないほど驚かされてしまったけれど、それはあくまで序の口。第49話はこの会話から最後のED入りまで、文字通りその全てが素晴らしく、徹頭徹尾ほぼずっと泣き続けてしまっていた。

 

『ごめんね、ゆめちゃん。ずっと連絡しなくって』
「そんな! いまちょうど小春ちゃんのこと思い出してて……小春ちゃん?」
『ごめんね。私、ゆめちゃんの声聞いたら泣いちゃうんだ……。だから “ちゃんと大丈夫になるまで連絡しないでおこう” って思ってたの。けど、どうしても伝えたいことがあって電話しちゃった』
「嬉しい……! 本当に嬉しいよ、小春ちゃん!」
『ずっと見てたよ。あこちゃんや真昼ちゃん、ローラや夜空先輩たち……。みんなのステージを見て、感動しっぱなし』
「うん、私も……!」
『ゆめちゃんの夢までもう少しだね。ずっと憧れていたひめ先輩と、ステージで勝負できるなんて』
「うん……!」
『凄いね、ゆめちゃん。私も夢に向かって頑張ろうって、また勇気を貰えたよ。……ありがとう、ゆめちゃん』
「え?」
『いつも笑顔をくれて、どうもありがとう。それを伝えたかったの。頑張って、ゆめちゃん!』 

「ありがとうだなんて……小春ちゃんやみんながいたから、ここまで来れたんだ。……うん、待ってる。ありがとうって言いたいのは私の方。小春ちゃんやみんなに、たくさん “ありがとう” って……! そうだ、私はその想いをステージで、歌で伝えればいいんだ。私らしいドレスで “ありがとう” を届けよう! 虹野ゆめ、行きまーす!」

-「アイカツスターズ!」 第49話『一番星になれ!』より

 

ひめはまだ負けないだろう。ゆめは2年目ラストでS4になるだろうから、ここではまだ勝てないだろう……。それら全ての予想が頭から抜け落ちて、ただただ彼女を応援してしまった。これまでで最も凛々しい虹野ゆめの姿に、「彼女の一年間が、どうか実を結んでくれますように」と手を合わせて祈ってしまっていた。  

自分はアイドルアニメとはあまり縁がなかったのだけれど、現実のアイドルとはもっと縁がない人生を送っていて、そのためアイドルファンの友人の「アイドルを応援していて楽しいのは、その成長を見届けること」だと言う言葉を「なるほど」と頭では理解しつつも、今一つピンと来ていないものがあった。それを、自分はこの瞬間にようやく理解できたように思う。 

1年目の50話を通して、あこも、真昼も、ローラも、ゆめも、4人ともそれぞれ異なる素晴らしい成長を遂げていた。そんな彼女たちの成長を比較するのは野暮以外の何物でもないのだけれど、それでもやはり「一番の成長を遂げたのはゆめ」だと思えてしまう。表情も、歌も、行動も、在り方も、信念も、彼女はその全てが「虹野ゆめ」のままでありながら、もはや別人のような転身を遂げていたし、小春とのやり取り~ステージ前の独白には、そんな彼女の1年間の全てが詰まっていた。 

「ありがとう」を原動力に、「ありがとう」を届けるアイドル。それはまさしく、皆に支えられた「普通の女の子」であり、皆を支え続けてきた「輝けるアイドル」でもあった虹野ゆめの、最も美しい到達点のように思えるのだ。

 

スタージェット!

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「私ね、S4としてアイカツしていて、分かったことがあるの」
「なあに?」
「それはね、“一人で輝くよりも、みんなで輝いた方がずっと素敵だ” ……ってこと。これからも、たくさんのアイドルにもっともっと輝いてほしい。だから、みんなの光になれるように……みんなに道を示せるように、今日は私が一番輝く星になる!」

-「アイカツスターズ!」 第49話『一番星になれ!』より

 

「一人で輝くよりも、みんなで輝いた方がずっと素敵だ」とは、きっとひめ自身を指す言葉でもあるのだろう。 

ひめは本作の序盤から、間違いなく一番星のアイドルだった。その歌も、佇まいも、人柄も全てが美しく、あまりにも「綺麗すぎて」むしろ裏を感じてしまうくらいには完璧なアイドル。それから、話数が進むにつれて当然彼女はその背景や人柄がより深く明かされていったけれど、そこにあったのは裏の顔でも何でもなく、誠実に真っ直ぐにファンを、仲間を、「アイドル」という存在を愛する一人の少女の姿であり、中でも、ゆめという後輩を救う為に奮闘する様はただでさえ完璧な白鳥ひめという人間を一層眩しいものに映していた。 

彼女の「一番星」たる輝きは、その実力は勿論だけれど、ゆめや仲間たち、そして世界中のアイドルやファンに対する無尽蔵の愛によるもの。ゆめが「ありがとう」を原動力に「ありがとう」を届けるアイドルになったように、白鳥ひめは「みんなの輝き」を原動力に、みんなを輝かせる一番星。 

その実力と視野の広さ、愛の大きさが作り出す最大の煌めきを示す彼女の歌は『スタートライン!』。ひめの『スタートライン!』で幕を開けた物語が、同じひめの『スタートライン!』で幕を下ろす。それは作品として非常に美しく完璧な構造であったけれど、同時に、ゆめたちが「白鳥ひめを越えられなかった」ということの証左でもある。美しく完璧だからこそ、そのことが少しだけ切なく、ほろ苦い。そんな歌組S4戦の後味は、まさに「敵わない」と感じたゆめの心情そのものでもあったのかもしれない。

 

スタートライン! 〜ひめ ver.〜

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「虹野ゆめの個性」とは、それを表す彼女の「キャッチフレーズ」とは何だろう。 

第49話で1年間の集大成を見せてくれた彼女。その姿は、ひめには及ばなかったとしても間違いなく魅力的なアイドルのものだったけれど、その魅力を上手く言語化できなかったのは自分だけではなかったのではないだろうか。 

誰より泣いて、誰より笑う。一つ一つの表情は「ごく普通の女の子」でしかないはずなのに、虹野ゆめは普通の女の子……という表現には「NO」と断言できてしまう。そんな彼女の「個性」とは何なのか、なぜ彼女の歩みは、こうまで私たちの胸を打つのか……。その答えを最後の最後で告げたのは、他でもないゆめ自身が最も憧れる一番星=白鳥ひめだった。

 

「本当に成長したわね……。ゆめちゃんって、ずっと放っておけないアイドルだと思ってたけど」
「え?」
「だって、入学してからこれまで、誰よりも泣いたり笑ったり、いろんなことがあったでしょ? その度に、ゆめちゃんは強くなった。今までの経験が、全部ゆめちゃんの輝きに繋がっているの」
「……!」
「泣いても笑ってもいい。たくさんの経験をして、もっともっと輝いてね。大丈夫! 頑張るゆめちゃんを見て、きっといろんな人が元気を貰えるわ。それがゆめちゃんという “虹色のアイドル” 」
「虹色の、アイドル……」
「私は次の世界へ旅立つわ。……いつか、また一緒に」
「はいっ!」

-「アイカツスターズ!」 第49話『一番星になれ!』より

 

確かに、ゆめは決して「特別」な少女ではなかった。しかし、だからこそ彼女は目の前のことに一生懸命・全力投球。時に折れそうになりながらも、辛いことも、悲しいことも、嬉しいことも楽しいことも、その全てを受け止め、自らの輝きに変えることでS4という頂にまでやって来た。一つ一つは特別でなくても、それら全てを力に変えることで誰にも成し得ない「特別」となった彼女の軌跡は、さながら一つ一つの「普通の色」が集まって「特別」を作り出す奇跡=虹のよう。  

一見して「普通の女の子」であったゆめが、唯一自分に与えられた「不思議な力」と決別し、仲間との絆、努力とセルフプロデュースの積み重ねで「特別」になってみせる様は、「一人一人違うから奇跡」「みんな不揃いだから魅力的なんだね」と謳う『アイカツスターズ!』の本懐そのものだったのではないだろうか。

 

episode Solo

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こうして、美しく切ない幕引きとなった『アイカツスターズ!』1年目。まだまだ100話中50話の「折り返し」に過ぎないのだけれど、正直、既に寂しくてたまらない自分がいる。半分を過ぎた以上、残りは減っていくだけ……というのも勿論あるけれど、やはり「ひめ、ツバサ、夜空、ゆず」の第25代S4にもう二度と会えないことが何より寂しい。  

ゆずは第26代S4のリーダー格となってくれるだろうし、ひめやツバサ、夜空が2年目にも登場してくれることもちらほら耳にしている。けれど、それでもやっぱり「彼女たち4人」の日々をもっと見ていたい。第50話『最強のLIVE☆』の4人集合アイキャッチ、そして劇場版以来となる『episode Solo』を聞いてその気持ちが爆発してしまったし、『スタートライン!』と『episode Solo』を両方とも〆に使ってくれたこと含め、そこかしこに満ちる「製作陣から第25代S4への愛情」が、更に一層「これでお別れ」という雰囲気を強めていたように思う。

 

 

思えば、この50話でたくさんの出番がありながら、彼女たち4人は一切その格を落とすようなことがなく、むしろ、登場の度にアイドルとして、人としての株を天井知らずに上げてみせた。「過去最高のS4」という肩書きに偽りがないことを、台詞ではなく彼女たち自身の魅力、能力、人柄の全てで私たちに「納得」させてくれたからこそ、アイドルという文化に疎い自分もS4を目指すアイドルたちに感情移入することができたし、同時にその姿に励まされてもきた。  

現実と少し違うけれど、同じ残酷な摂理を持った「フィクションであり、フィクションでない」世界で懸命にひた走る彼女たちの姿が、メインターゲットではない大人の自分にも……もとい、大人という立場で見るからこそ殊更刺激になった、と言えるかもしれない。 

自分よりずっと幼い彼女たちのひたむきな姿は、社会人になって数年、年を重ねるにつれて「新しいことや未知への挑戦が億劫になっている」自分に、辛いことや悲しいことの先にある景色を見せてくれた。幼い頃には確かに持っていた「未知への冒険の楽しさ」を、どんな人間にも可能性はあることを、正解は自分が決めるものだということを思い出させてくれたのだ。

 

……と、気を抜くとついつい感傷に浸ってしまうけれど、まだまだ『アイカツスターズ!』は終わらない。今は何より、こんな素敵な物語が「あと50話も見れること」に感謝しつつ、ゆめたちが迎えた新しいスタートラインと、その先に広がる未知の世界を見届けていきたい。 

ありがとう『アイカツスターズ!』1年目、ありがとう、第25代S4……!

 

 

 「船が来たぞ~い!」
「って、何!?」
「世界中のアイドルは私が奪う!」
「って、誰!?」
「次回、アイカツスターズ!『パーフェクトアイドル エルザ』掴め、アイドル一番星!」

-「アイカツスターズ!」 第50話『最強のLIVE☆』より