感想『アイカツスターズ! 95・96話』あるいは「虹野ゆめ」総括 ー 手と手を繋いで立ち上がり、廻る光で世界を照らす “虹色の一番星”

ある作品が、自分にとって「特別」になったと感じる瞬間がある。 

その基準は色々とあるけれど、もし「高価なグッズを買う際に躊躇うかどうか」というラインで考えるとするなら、アイカツスターズ!』が自分にとって「特別」な作品になった最大の決め手は、やはり第96話『みんなで輝く!』をおいて他にないと思う

 

 

アイカツスターズ!』全100話+劇場版に様々な特典が付属したBlu-ray BOXこと『アイカツスターズ! 5th anniversary ALL☆STARS Blu-ray BOX』。非常にボリューミーな内容ながらも、その価格は税込40000円弱とリーズナブル。……と、多分ここで「リーズナブル」とさらっと書けてしまうのが答えみたいなものだと思う。というのも、それまでは確かに抱えていたはずの「Blu-ray BOXを買うかどうか」という躊躇いが第96話視聴後時点ですっかり消え去っていて、そこで自分は『アイカツスターズ!』という作品が自分にとってワンランク上の “特別” になったことを思い知らされてしまったのである。  

(これまで購入したTVアニメのBlu-rayは『機動戦士ガンダム00』『機動新世紀ガンダムX』『戦姫絶唱シンフォギア』『結城友奈は勇者である』『蒼穹のファフナー』なのだけれど、続編でもないのに「完走前にBlu-rayを買う」という決断に至ったのは、正真正銘この『アイカツスターズ!』だけだったりする)

 

2年目における大きなクライマックスにして、第49話同様に「実質的な最終回」と呼べそうな第95・96話の前後編。自分にBlu-ray BOXを買う踏ん切りを付けさせてくれたこのエピソードの魅力、そして「虹野ゆめ」というアイドルに込められた『アイカツスターズ!』という作品からのメッセージを振り返っていきたい。

 

《目次》

 

 

「孤独な太陽」という在り方

 

名勝負だらけの1年目S4決定戦――の中でも、特に異様な熱量で描かれていた第49話『一番星になれ!』。1年目における最終決戦=ゆめVSひめの激闘が描かれた本エピソードが、どこを見渡しても「実質的な最終回」と言って差し支えない代物になっていたことは未だ記憶に新しいところ。 

そんな第49話に対応する「2年目の実質的な最終回」こそが、第95話『孤独の太陽』・第96話『みんなで輝く!』の前後編。そのことを裏付けるように、本エピソードは次回予告の時点で身に余る衝撃を叩き付けてきた。

 

「世界一になって、私はアイドルを辞めるわ」
「そんなの絶対メェ~ッ!」
「ゆめ、勝ってエルザを止めてくれ……!」
「次回、アイカツスターズ!『孤独な太陽』掴め、アイドル一番星!」

-「アイカツスターズ!」第94話『真昼の輝き』より

 

遂にレイから「ゆめ、エルザを止めてくれ」という言葉が出たことの感慨深さは勿論だけれど、衝撃的だったのはエルザの「アイドルを辞める」宣言。 

第90話『ヴィーナス クライシス!』でのヴィーナスアーク解散発言は「太陽のドレス獲得という目的が達せられた以上、もう自分のワガママにレイたちを巻き込みたくない」という真意によるものだと示唆されていたけれど、ならば、この「アイドルを辞める」宣言は一体どのような意図に基づいていたのだろう。 

率直に考えるなら、まず候補に挙がるのは「パーフェクトを目指す生き方に内心疲弊していた」あるいは「優勝し、“パーフェクト” となったタイミングで身を引くことで、自身の手に入れたパーフェクトを脅かされないよう “勝ち逃げ” しようとしていた」……辺りだろうけれど、これまでエルザの行動には常に「裏」があった。ならば、今回の行動にも何らかの「隠された真意」があって然るべきだろう。 

そこでまず注目すべきは、エルザが「 (ヴィーナスアーク解散時と異なり) レイ、きらら、アリアを呼びつけて、直接自らの考えを伝えている」という点だ。

 

 

ヴィーナスアークの解散においては、事前に相談するようなこともなく記者会見で突如発表、レイたちの面会も拒否するなど「有無を言わせない」スタイルを貫徹していたエルザ。だからこそ、そのエルザが「わざわざレイたちを呼び出して、目の前で “アイドルを辞める” と宣言する」行動には違和感があった。本当にアイドルを辞めたいなら、誰にも考えを打ち明けることなく、アイカツ!ランキング決勝で勝利したその瞬間に、会場で「私は今日限りでアイドルを辞めるわ」と言い出せば済む話だからだ。 

ならば、なぜエルザはレイたちを呼びつけて事前にその考えを明かしたのか。もしそこに明確な意図があるとすれば、それは「レイたちに自らの口から別れを宣告することで “孤独” になりたかった」からではないだろうか。

 

Forever Dream

Forever Dream

  • りさ
  • アニメ
  • ¥255

 

太陽のドレスを纏ってアイドルの頂点を極めた母=ユキエ グレース フォルテと同じステージに辿り着くことで、母に自分を見て貰おう / 抱き締めて貰おうと突き進んできたエルザ。そんな彼女が「自ら孤独を求めた」のであれば、それはおそらく「母がそうだったから」なのだろうと思う。 

ユキエについては作中でも言及が少ないけれど、そこから推測できることとして「ソロアイドルだった」ことがあり、作中一切の言及がない夫=エルザの父親については、おそらく「エルザが物心付く前に離婚した」のだろうと思われる。  

(キャラクターの父親について言及がないアニメは珍しくないけれど、本作についてはゆめ、ローラ、小春、真昼と、母親に言及があるメインキャラクターについては父親も登場しているか、少なくとも言及はある。そのため、エルザの父親が “影も形もない” ことは、むしろ何らかの意図・理由があると考えるのが妥当だろう)

 

加えて、現在のユキエはほとんど家におらず、ひたすら慈善事業の為に世界を飛び回っているのだという。そんな母の姿は、幼いエルザの目には「独り」に映っただろうし、意識的か無意識的にかは分からないけれど、エルザは、来る決勝戦を前に自らを敢えて「孤独」に追い込むことで、そんな母に少しでも近付こうとした=孤独であればあるほど、パーフェクトに近付くことができる……という、ある種の倒錯を起こしてしまっていたのではないだろうか。  

しかし、普段の聡明なエルザならばそんな倒錯を起こすことはないはずで、これまでエルザが孤高の歌姫という在り方を貫いてきたのも、あくまで「パーフェクトなアイドルは、決して他人と一緒に輝いたりしない。たった一人でキラめくの」という信条によるもの。それは決して「周囲を積極的に切り捨てていく」ことを意味するものではないだろう。 

にも関わらず、第95話のエルザは強行手段とも言える方法でレイたちを突き放し、説得に訪れたレイに対しては「貴女に私の何が分かるって言うの」と怒りさえ露にしてみせた。秘密裏に事を進めてからの唐突な解散宣言でヴィーナスアーク生に有無を言わせなかった「用意周到」なエルザとは大違いで、レイが困惑したのも納得というもの。本話のエルザは明らかに「異常」であり、それはきっと、それだけ彼女が追い詰められている証左だったのかもしれない。

 

そもそも、いくら女王然とした振る舞いを見せていても、エルザはまだ若干15才の女の子。「ヴィーナスアークのオーナー」「世界一のトップアイドル」というプレッシャーの中で生きるだけでも過酷だろうに、本作終盤の彼女は第78話『ようこそ パーフェクトマザー!』のようなショッキングな事態に見舞われたり、解散宣言で自分自身を傷付けたり、太陽のドレスを持たない真昼と「接戦」になってしまったり……と、自身を追い詰めるような出来事の連続だった。 

であれば、終盤の彼女が「太陽のドレスさえあれば、自分は決して負けない」と度々口にしていたのも、崩れそうな自分を支えるある種の自己暗示だったと考えると筋が通ってしまうし、第95話におけるエルザの不条理な行動は、「パーフェクト」を求める長い旅路で疲れきった彼女の不安定な心理そのもの=無意識下で放っていた、ある種の “SOS” だったのではないだろうか。

 

 

「ゆめVSエルザ」への不安と懸念

 

エルザに実質的な絶縁を言い渡されてしまったレイたち3人。「エルザとの絆は幻だったのかもしれない」と弱々しく呟くレイの姿には胸が痛んでしまったけれども、それはそれとして彼女がゆめたち四ツ星学園を頼るという展開にはガッツポーズせずにはいられなかった。  

これまでもレイたちとゆめたちは度々力を合わせてきたけれど、それはあくまで「ヴィーナスアーク生」「四ツ星学園生」としてのものであり、エルザの為に想いを一つにする今この瞬間においては、両者の間にヴィーナスアークや四ツ星といった垣根はない。エルザに負けられないから、ではなく「エルザにアイドルを辞めてほしくない」というモチベーションで奮起するゆめと、それに頷くローラとレイ……というこの構図は、それそのものが『アイカツスターズ!』2年目の一つの集大成と呼べるもので、ごく僅かなシーンながらテンションが跳ね上がってしまった。この展開をずっと待ってたんだ……!! 

(ここでの細かい “巧さ” といえば、レイがゆめにエルザの過去を話さなかったこと。ゆめがエルザの過去を知らず、純粋な “アイドルを辞めてほしくない” “エルザさんにも輝いてほしい” という想いで戦ったからこそ、彼女の心を氷解させることができたのだろうと思う)

 

 

かくして「エルザにアイドルを辞めさせない」という目標を持ってステージの準備を始めるゆめ。そこに訪れた「ローラと真昼」の姿に、この先の展開を察し (て涙腺が緩みかけてしまっ) たのは自分だけではないはずだ。

 

「うん、やっぱり『MUSIC of DREAM!!!』が良いと思う」
「あの時のオーディション……『みんな輝け!ドリームアイドルオーディション』でのゆめ、最高に輝いてたもの!」
「うん、すっごくゆめらしかった!」
「また、あんなゆめを見てみたいな」
「……よし、これに決めた!」
(真昼ちゃんとローラに背中を押されて、曲が決まった……!) 

(中略) 

「ゆめさん。あなたが小春さんと一緒に作ったドレスは、あなた方の友情の証であるのと同時に、努力の結晶。自信を持ってそれを纏うべきです」
「うん! リリィ先輩の言う通りだよ、ゆめちゃん。私たちの星のツバサで輝こうよ!」
「……! うん。私、決めた!」
(リリィ先輩と小春ちゃんのおかげで、ドレスが決まった……!) 

(中略) 

「きららをあんなに泣かせるなんて……仲間の大切さを、エルザ フォルテに叩き込んでやるべきですわ。ゆめ、貴女ならきっとそれができますわ!」
「……うん!」
「お待たせしたゾ! 気合いれてステップするから、しっかり見て覚えるんだゾっ!」
「はい、お願いします!」
「どうだぁ~ッ!!」
「わわわっ! ゆず先輩!?」
「これ、人間業とは思えないですわ~っ!?」
(ゆず先輩とあこちゃんに、励まされた……!)

-「アイカツスターズ!」 第95話『孤独な太陽』より

 

「音楽」をローラと真昼、「ドレス」を小春とリリィ、「ダンス」をあことゆず。それぞれの得意分野を持ってゆめの背中を押し、想いを託していく仲間たち。BGMが流れない演出や、繰り返し挿入される (~された!) というモノローグが醸し出す「走馬灯」のような雰囲気にはつい胸が詰まってしまうけれど、事実、このシーンは『アイカツスターズ!』1年目の山場だった第36話『虹の向こうへ』のオマージュでありつつ、今度は「ローラたちの方から助けに来ている」「小春、リリィ、ゆずが新たに加わっている」と、これまでの7人の積み重ねが凝縮されたシーンでもある。自分含め、本作を追いかけてきたファンなら目を細めずにはいられないだろう。  

(特に小春やあこは、その言葉に彼女たち自身の成長もハッキリ現れていて一際感慨深い……!)

 

 

……というのが、これら一連に対する「表向きの」気持ち。 

何も仲間たちのシーンに胸を打たれたことがウソという訳じゃない。ゆめたちの絆にしっかりと (?) 揺さぶられる一方で、どこか「腑に落ちないもの」……具体的には「ゆめはこれで本当に勝てるのか」という懸念がどんどん積み重なっていって、それがどことなく不穏な「違和感」を生み出していたのだ。 

 

 

確かに、仲間たちがゆめに力を貸していくこの流れは、かつてゆめが「不思議な力」を克服した第36話を踏襲したもの。しかし、それは裏を返せば「第36話とそう変わらない」ということでもある。「仲間の力」ほど頼もしく尊いものもないけれど、これまで常に仲間の支えと共に走ってきたゆめにとって、それは自分より数段上の実力者=エルザを越える程の「大きな決め手」とはなり得ないように思えてしまって、その引っ掛かりのせいで、涙腺の脆弱さに定評のある自分もこのシーンで涙することはできなかった。 

正直な話、自分でも「考えすぎじゃないか」とは思ったけれど、ゆめの初ライブ、ゆめに連敗するローラ、レイの抱えた歪みと克己……等々、普段なら「オタクの深読み」と一蹴されるような小さな違和感や「まさか」を何度も回収し、その上でこちらの想像を上回るハードな展開を (それ以上のケレン味と共に) 叩き付けてきたのが『アイカツスターズ!』という作品。そして今回も、自分の抱いた「違和感」が的外れなものではなかったことが、ローラたちに続いて現れた最後の一人=ひめによって裏付けられてしまった。

 

「遂に決勝まで来たのね、凄いわ」
「はい。でも、これって私一人の力じゃないと思います。みんなが応援してくれてる……それが力になって、私をここまで押し上げてくれたんです。それなのに、まだエルザさんに勝てる気がしなくって……。それに、エルザさんは “決勝で勝ったらアイドルを辞める” って宣言しちゃうし。でもそれって、なんか違うと思うんです!」
「そうね。私も同じ意見かな」
「だから今回の勝負、負けられないんです! ひめ先輩、私、どうしたら勝てますか!?」
「そうね。ゆめちゃんが勝てるとしたら……」
「なっ……何ですか!? 教えてください、ひめ先輩!」
「ゆめちゃんはゆめちゃんらしく、ってことかしら」
「答えになってませんよぉ……」
「そうかしら? ただ、 “パーフェクトなことが必ず一番ってことじゃない” と私は思うわ。もう、ゆめちゃんも分かってると思ったんだけどなー?」
「うえぇ……?」

-「アイカツスターズ!」 第95話『孤独な太陽』より

 

仲間たちの支えほど頼もしいものもない。けれど、ずっと仲間たちに支えられてきたからこそ、エルザというもう一段階高い壁を越えるには、何か「もう一押し」が足りない。それは、他でもないゆめ自身が誰より感じていることだったのだ。  

そんなゆめに「ゆめちゃんらしくあること」「パーフェクトが一番であるとは限らない」という言葉を託すひめ。“虹色のアイドル” の名付け親であり、ゆめの良き理解者でもある彼女が言うのだから、ゆめが「エルザに勝てるポテンシャルを秘めている」のは間違いないのだろう――と思いつつも、それ以上は皆目見当がつかなかった、というのがこの時点での本音。

 

「結局、エルザさんに勝つための何かは見付けられなかった……。後は、悔いのないようにステージをするだけ」
『  “パーフェクトなことが必ず一番ってことじゃない” と思うわ』
「……っ! そうだ、だったら私は!」

-「アイカツスターズ!」 第95話『孤独な太陽』より

 

「ゆめちゃんらしくあること」=エルザを越え得る、虹野ゆめの「らしさ」とは何だろう。 

まさか、この段階に至ってこうも不穏な種が撒かれるとは思ってもみなかったし、「だったら私は!」と決心する95話ラストのゆめがどこか「追い詰められた」ような表情だったこともあり、決勝戦で「ゆめが勝つのか、エルザが勝つのか」自分はこれっぽっちも分からなかった。ともすれば「第96話」という「絶妙に先の展開が読み辛い話数」でこのエピソードを迎える点も含めて、全てが製作陣の計算内だったのかもしれない。 

エルザが勝ってしまい、真の決着が99話前後に持ち越されるのか、それとも、ゆめがここから新たな気付きを得てエルザを討ち果たすのか……。ひめというダークホースの存在もあってあらゆる可能性が考えられたし、49話や86話に匹敵するかそれ以上の「勝敗が全く読めない」戦いを最大火力で浴びるべく、自分は次回予告を見ずに96話に臨んでいった。

 

The only sun light

The only sun light

  • りさ
  • アニメ
  • ¥255

 

2年目のゆめと、その「らしさ」

 

ひめが信じた「ゆめちゃんらしさ」とは何なのか。そのことを考えるにあたっては、何よりもまず「このシーン」から振り返らなければならないだろう。

 

『いつも笑顔をくれて、どうもありがとう。それを伝えたかったの。頑張って、ゆめちゃん!』 
「ありがとうだなんて……小春ちゃんやみんながいたから、ここまで来れたんだ。……うん、待ってる。ありがとうって言いたいのは私の方。小春ちゃんやみんなに、たくさん “ありがとう” って……! そうだ、私はその想いをステージで、歌で伝えればいいんだ。私らしいドレスで “ありがとう” を届けよう! 虹野ゆめ、行きまーす!」

-「アイカツスターズ!」 第49話『一番星になれ!』より

 

不思議な力という「特別」に別れを告げ、正真正銘「普通の女の子」として輝いてみせた1年目のゆめが、弛まぬ努力とセルフプロデュース、そしてみんなとの絆によって見出だした「 “ありがとう” を原動力に “ありがとう” を届ける」という在り方。おそらく、ゆめの「らしさ」が作中初めてハッキリと示されたのがこの瞬間なのだろうと思う。 

以降、この気付きと「S4としての日々」によって、2年目では「ゆめらしさ」が彼女のアイカツとして急速に具現化していった。

 

「私、思い出したんだ。アイドルになって、初めてドレスを着た時のキラキラした気持ち……。もっともっと、素敵な自分になれる、輝ける……って、心から思えた」
「うん……!」
「私が一番大切にしたいこと……。私だけじゃなくて、皆にももっともっと輝いてもらいたい。”皆をキラキラ輝かせる” それがベリーパルフェ!」

-「アイカツスターズ!」 第59話『あなたにも輝きを』より

 

「S4のように輝きたい」「みんなに “ありがとう” を届けたい」そして「みんなを輝かせたい」……と、物語を経るにつれ外へ外へと向いていくゆめの想い。その想いは、小春と共に作り上げた新ブランド=レインボーベリーパルフェによって大成、ゆめは無事8人目の「星のツバサ」所有者となった。 

ローラや真昼たちに比べると、歌やダンスといった「技量」面で突出したものを持たないゆめが、なぜ星のツバサを手に入れることができたのか。それはきっと、彼女たちが「技量」を競うアスリートではなく「輝き」を届ける存在=アイドルだからだと思う。アイカツシステムは、レインボーエトワールコーデという新たなプレミアムレアドレスそのものは勿論、自身の願いを体現するドレスを纏ったことでカタチを得た、ゆめの「みんなで輝く」という想いをこそ認めたのではないだろうか。

 

Message of a Rainbow

Message of a Rainbow

  • せな・ななせ from AIKATSU☆STARS!
  • アニメ
  • ¥255

 

そんなゆめの「らしさ」と言えばもう一つ避けて通れないのが、第85話『輝きを渡そう』の舞台=「みんな輝け!ドリームアイドルオーディション」における一幕だ。

 

 

「ステージ審査がなく、自己PRが最重要審査となる」「獲得ポイントが少ない (おそらく、基礎ポイントのことを指していたと思われる) 」……と、アイカツ!ランキング参加者には不利な条件が並ぶドリームアイドルオーディション。しかし、ゆめはこのオーディションで大量のポイントを獲得。ローラや真昼、ひいてはアリアをも越えてランキング4位に躍り出ることとなった。 

その要因としては、「優勝者が披露するステージ」や本エピソードで初披露の『MUSIC of DREAM!!!』……もあるだろうけれど、中でも最たるものが、下記のやり取りから始まる「自己PR審査」での一連だろう。

 

「実は、今回のオーディションでは、今までとはちょっと違った課題で自己PR審査をすることになりました」
「えっ?」
「ここにある衣装を使って、セルフプロデュースをしてください。限られた条件で、どれだけ輝けるかを見せて貰います。ステージでの持ち時間は、1人2分です」  

(中略)  

「どうしたの、みんな?」
「こんな自己PR審査だと思ってなかったので、どうしたらいいのか……」
「衣装も持ってきてたのに」
「準備が無駄になっちゃう!」
(そっか、みんなまだ慣れていないんだ。セルフプロデュースすることに……)
「……! 大丈夫、まだ時間はあるよ。私も協力するから、一緒に準備しよう!」

-「アイカツスターズ!」 第85話『輝きを渡そう』より

 

突然の方針変更に困惑する出場者たちを目の当たりにしたゆめは、なんと自らの時間を割いて彼女たちのコーデをプロデュース。更には、PR審査本番=『MUSIC of DREAM!!!』のアカペラにおいても、メロディーを口ずさむアリアたちに「みんな、一緒に歌おう!」と呼びかけ、結果的にゆめ、アリアたち他の出場者、ひいては観客をも巻き込んでの大合唱を作り上げてしまった。 

自分の準備時間を他のアイドルに使ったり、自分の出番を「みんなで輝く場所」として使ってしまったり、一連のゆめの行動はまさにイレギュラーそのもの。しかし、そんな彼女の型破りな行動と「みんなで輝きたい」という想いが、互いの立場やパフォーマンスの制約を越えてアイドルたちを結び付け、観客や審査員をも巻き込んだ大きな輝きを作り出してみせた。このオーディションでゆめが大量のポイントを獲得できたのは、そんな「みんなで作る光」の眩しさが観客たちを魅了したからなのだろう。  

今にして思えば、これこそがゆめの「らしさ」=「みんなで輝く」を具現化したものであり、アイドル・虹野ゆめが「みんなで輝くアイドル」としてその個性を花開かせた瞬間だったのかもしれない。

 

 

輝きの円環と、新しい「虹色のアイドル」

 

「S4のように輝きたい」「みんなに “ありがとう” を届けたい」「みんなを輝かせたい」そして「みんなで輝く」……と、その想いを捨てることも曲げることもなく、自らのアイカツとして確立させていったゆめ。 

けれど、もしローラたち仲間がいなければ、彼女がここに至るまでその想いと「自分らしさ」を持ち続けることはできなかったのではないだろうか。

 

 

思えば、これまでゆめのアイカツは常に「綱渡り」の連続だった。アイドル界の厳しさや「不思議な力」に振り回されていた1年目は勿論、S4となって環境が激変した2年目においても、ゆめは更なるワクワクの一方で「大きなプレッシャーを感じてもいる」ことが何度も示唆されていた。 

いかにS4と言えど、ゆめの本質はあくまで「普通の女の子」。そんな彼女がこの逆境に立たされ続けようものなら、第29話『本当のライバル』でのローラのように精神的に追い詰められたり、「自分らしさ」をかなぐり捨ててでも勝利を掴もうと焦ってしまうのが  “普通” だろうし、実際に第82話『恋するアイカツ♪』では「なぜアイカツをするのか」という自分自身の原点を見失ってしまう場面も見られていた。 

けれど、結果的にゆめは願いも信条も何一つ捨てることなく、ありのままの「虹野ゆめ」としてアイカツ!ランキングの決勝まで辿り着くことができた。それは、ゆめ自身の努力は勿論、「セルフプロデュース」という四ツ星学園の教え、そして何より「らしくあれ」と背中を押し、ありのままの虹野ゆめを愛し、共に高め合える仲間たちの存在があったからこそ。  

そんなゆめの歩みをこの上なく象徴していたと言えるのが、第96話『みんなで輝く!』冒頭のこのシーン。

 

「緊張してるの?ゆめ」
「ローラ?」
「いつも通りで大丈夫、思い切り楽しんできて!」
「そうだよ」
「! 小春ちゃん、みんなも!」
「ゆめちゃんなら、絶対勝てるよ!」
「ゆめには私たちが付いてるでしょ?」
「エルザ フォルテをぎゃふんと言わせてやってくださらない?」
「ばびゅーん! と弾けちゃえ!」
「ゆめさんの想いを、ステージにぶつけてください!」
「……! はいっ! 私、今日のステージで、みんなと一緒に輝いてみせるよ! ――せーのでっ!」
「「「「「「「アイ、カーーーーツっ!!」」」」」」」

-「アイカツスターズ!」 第96話『みんなで輝く!』より

 

最終決戦を控え、一人その表情を強張らせるゆめ。そんな彼女の元に駆け付けたローラたちは、ゆめに自らの想いを託しながら輪を作る。 

この並びが『MUSIC of DREAM!!!』OP映像ラストにゆずとリリィが加わったものであること、普段はハイタッチで行う「せーのでっ!アイ、カーツ!」がこの時は「握手で」行われること……と、一つ一つのトピックだけでも感慨深くてしょうがないこのシーンだけれど、ここで注目したいのはその「輪」。彼女たちが作ったこの円環こそが、これまで振り返ってきた「虹野ゆめ “らしさ” 」そのものであるように思うのだ。 

前述のように「みんなと共に輝くことで、一人では作れない大きな光を作り出す」のが虹野ゆめというアイドルの力。けれど、ゆめがその原動力=「 “みんなで輝く” という想い」を持ち続けてこれたのは、過酷な現実の中で自分を支えてくれる、大切な仲間やファンがいたからこそ。そして、ゆめをたくさんの人々が支えているのは、他ならぬゆめの想いがみんなを励まし、輝かせてきたから……。 

ゆめがみんなを励まし、励まされたみんながゆめを支え、ゆめが「支えてくれるみんな」の輝きを束ねることで、更に大きな光を作り出す――。そう、アイドル・虹野ゆめの輝きとは、彼女一人のものではなく、彼女を起点に生まれ、仲間たちや「みんな」の輝きを宿し、絶えず廻っていく七色の円環そのもの。  

他人の支えありきで成り立つその在り方は、確かに「パーフェクト」とは程遠いかもしれない。しかし、だからこそゆめは「誰にでも輝ける未来がある」ことを示す希望の象徴であり、「人の心を輝かせる存在」アイドルの頂点に相応しい。ひめは、そんなゆめの在り方=みんなを輝かせ、光を繋ぎ、虹へと束ねて世界を照らす、新しい「虹色のアイドル」のカタチをこそ信じたのではないだろうか。  

(この構図は、第10話『ゆめのスタートライン!』におけるそれとおそらく本質的には同じもの。両者の構図が似ているのは、「ゆめたちがこの2年間で変わらなかった」ということではなく、「本来なら過酷な現実の前に掻き消されてしまう尊い輝きを、ゆめたちがここまで守り、育て上げてきた」ということなのだろうと思う)



f:id:kogalent:20231018123710j:image

 

もう一つの「太陽のドレス」

 

ローラたちの想いを受けて、軽やかな足取りで走り出すゆめ。彼女の表情にもはや憂いはなく、ステージを終えたエルザと向き合って尚、その表情から笑顔を絶やさないほどの「強さ」を見せてくれた。

 

 

「優勝したら、アイドルを辞める……って、本当ですか?」

「そんなこと、貴女には関係ないわ」
「私、負けません」
「……何なの? その自信は」
「自信はありません。でも、今の私には一つだけ、エルザさんに負けないものがあります」
「負けないもの?」
「想いです。私、今まで一緒にアイカツを頑張ってきたみんなと、一緒に輝きたいって思ってきました」
「……フッ、貴女らしいわね。だけど一つだけ言っておくわ。パーフェクトなアイドルは、決して他人と一緒に輝いたりしない。たった一人でキラめくの」
「私の想いは、それだけじゃありません」
「?」
「アイドルみんなで光り輝いて、周りの人全ての心を輝かせたい、って思ってるんです。いつも私たちアイドルを導いてくれる先生たち。いつも私を応援してくれているファンのみんな。今日のステージは、そんなたくさんの仲間が一緒に作り上げてくれたんです。だから私は、今日ここにいる全ての人の心を輝かせたいって思っています。その強い想いだけは、エルザさんには負けません! ……それが、私の想いです」
「……そう、貴女の想いは分かったわ。ならその輝き、ステージで見せて貰うわ」

-「アイカツスターズ!」 第96話『みんなで輝く!』より

 

エルザに勝てるものが見付からない、と嘆いていた第95話から一点、胸を張って「想いだけは負けない」と口にするゆめ。 

彼女を奮い立たせているのは、仲間たちみんなの想い。みんなが自分を信じてくれるから、ゆめは「自信」がなくても「自分らしく」在ることができる。自分自身の輝きがエルザに及ばなくても、みんなと共に作り上げる「アイドル・虹野ゆめ」の輝きは、相手がエルザだとしても決して負けることはない。

 

「大丈夫。自分を信じようよ、ゆめ。今の私は、エルザさんには敵わないかもしれない、でも――」
『私は、MUSIC of DREAM!!!がいいと思うな』
『また、あんなゆめを見てみたいな』
『私たちの星のツバサで輝こうよ!』
『自身を持って、それを纏うべきです』
『今から見せるエルザキラーステップをマスターすれば、絶対負けないんだゾ!』
『ゆめ、貴女ならきっとそれができますわ』
『そうね。ゆめちゃんが勝てるとしたら――』
「私には、仲間がいる!」

f:id:kogalent:20231016171454j:image

「みんながいれば、私は最強だよ! ――みんなで一緒に輝いてみせる! 虹野ゆめ、行きまーす!」

-「アイカツスターズ!」 第96話『みんなで輝く!』より (画像はYouTube【アイカツスターズ!】第1話「ゆめのはじまり」より、類似シーンを引用)

文字通りの最高潮で挿入される「あの」カットイン、そしてゆめを中心に広がる黄金の輝き。それは一見すると1年目に見られた「不思議な力」と同じものだったけれど、その実態が全く異なることは誰の目にも明らかだろう。

 

「おそらくその力は、まだ眠る自分の才能を花開かせてくれている。雪乃ホタルには、アイドルとして潜在的な能力があった……君たちも同じであろう。しかし、いつかは自分で花を開かせなければ “痛み” を伴う!」

引用 -「アイカツスターズ!」 第35話『選ばれし星たち』より

 

「不思議な力」の正体とは、アイカツシステムによって強制的に引き出されていた潜在能力。1年目のゆめは、外部的な力 / 決められた運命に手を引っ張られ、いつか辿り着くかもしれない未来の力を「前借り」させられていたに過ぎなかった――けれど、今のゆめには、手を繋いで共に進んで行けるたくさんの仲間たちがいる。 

そう、かつて歪な運命によって「特別」に仕立て上げられていた少女=虹野ゆめは、この瞬間「仲間との絆」を糧に “いつかの未来” へと追い付いた。今のゆめが纏うのは「不思議な力」ではなく、紛れもないゆめ自身の力であり、それは「 “特別” とは才能や運命によって辿り着くものではなく、“仲間と手を繋ぐ” ことで辿り着くべきもの」だという、『アイカツスターズ!』が描いてきた想い――その到達点なのではないだろうか。

 

かくして始まったゆめのステージ。その最中、未来に追い付いたゆめの輝きが形となって現れる。

 

 

レインボーエトワールコーデが進化した “虹色の” 太陽のドレス=エターナルレインボーコーデ。 

思えば「エルザの太陽のドレス=エターナルクイーンコーデが、ブルーミングクイーンコーデを文字通り進化させたものであり、ユキエの太陽のドレスと異なっていた」時点で「太陽のドレスは一つとは限らない」という可能性が示唆されていたというのに、自分はこの展開を全く予想できていなかった。 

それは、単純に自分が鈍いだけ……というのもあるだろうけれど、エルザがこれまで「太陽のドレスを手にできるのはツバサ所有者のうち誰か一人」であるかのような言い回しをしていたことも大きい。もしかすると「同じ時期に太陽のドレスが2着現れる」ということ自体、本当に前例のない異常事態だったのかもしれないし、そこまで含めて『アイカツスターズ!』の巧みな作劇に乗せられてしまったのだろうと思う。  

(他にも、この展開を予想できなかった理由として「レインボーエトワールコーデを捨てることはないだろう、というメタ読み」もあったのだけれど、エルザがそうだったように “太陽のドレス” は既存のドレスが進化するもの。実際、エターナルレインボーコーデはレインボーエトワールコーデの正統進化と言うべきデザインになっていて、小春との物語を無下にしない作劇には「お見逸れしました」と言う他ない……!)

 

けれど、いざ顕現してみれば、ゆめもエルザ同様「太陽のドレスに相応しい」存在のように思えてならなかった。2人のアイドルとしての在り方は正反対だけれど、「太陽」それ自体もまた、正反対な2つの意味を持った恒星だからだ。

 

未だ謎に包まれた「太陽のドレス」。その “太陽” が意味するものが「世界で最も眩しい、唯一無二にして孤高の業火」ではなく、「世界中を輝かせる、何よりも暖かな光」であるのなら、それはエルザではなくゆめにこそ相応しいとも思えるが、果たして……?

引用:感想『アイカツスターズ! 78~85話』 “パーフェクト” とは何か。回り出す歯車と、闇を切り払う「騎咲レイの誓い」 - れんとのオタ活アーカイブ

 

太陽とは「世界で最も眩しい、唯一無二にして孤高の業火」である一方、「暖かな光で世界中を輝かせる、究極の “一番星” 」でもある。ゆめが夢を叶えた証として、そして「みんなで輝くアイドル」の象徴としてこれ以上に相応しいドレスがあるだろうか。 

他にも、作劇上どうしても「ステージを見るだけでは優劣や勝敗が判別しにくい」本作の (おそらく事実上の) 最終決戦において、ゆめの勝利に絶大な説得力を持たせてくれる「決め手」となってくれた……など、ここで「太陽のドレス」が顕現したことによる功績は数知れない。少なくとも、その圧倒的なカタルシスが、ただでさえ名編だった第95・96話を『アイカツスターズ!』有終の美に相応しいエピソードとして “完成” させたのは間違いないだろう。 

「終盤で急激に失速する」作品も少なくない昨今において、100話もの長尺作品である本作がこんなにも美しいフィナーレを見せてくれたことの感動たるや、まさに感謝してもしきれない程。本当に、本当にありがとうございました……!!  

(加えて、前述の「不思議な力に追い付く」展開や、この「もう一つの太陽のドレス」顕現というシチュエーションを何も知らずに拝めたことは、誇張でなく人生有数の幸運だったと思います。このことを伏せ続けてくれていた諸先輩方にも感謝を!)

 

MUSIC of DREAM!!!

MUSIC of DREAM!!!

  • せな・りえ・みき・かな from AIKATSU☆STARS!
  • アニメ
  • ¥255
  

(大好きな『MUSIC of DREAM!!!』が決戦歌として使われただけでなく、太陽のドレスと併せて「ゆめの集大成」として輝いてくれたことにも感激……!) 

 

エルザのスタートライン!

 

こうして、ゆめの「太陽のドレス」獲得という最高の番狂わせで幕を下ろしたアイカツ!ランキング決勝戦。  

第95話でゆめとエルザのどちらに軍配が上がるのか全く予想できない「緊張感」を仕込みつつ、一つ一つのシーンで「勝てるかも」「勝ってほしい」「勝ってくれ……!!」と徐々に希望を積み上げていき、ボルテージが最高潮に達した所で「 “不思議な力” に追い付く」+「太陽のドレス」という二段構えのサプライズで大爆発――と、どこまでも凄まじい展開を見せてくれた第96話の熱量は、ハイライトを挙げたらキリがない『アイカツスターズ!』の中でも頭一つ抜けたとびきりのクライマックス。本作がこのド終盤でここまでの盛り上がりを見せてくれたことは「最終盤の盛り上がり」が作品への好感度に直結しやすい自分にとってまさにクリティカルヒットで、この時点で「早くBlu-ray BOXが欲しい……!」という気持ちが喉元まで出かかっていた。 

……そう、「出かかっていた」。正直なところ、ここに至って尚、自分の中には一つだけ「引っ掛かる」ものがあったのだ。

 

ユキエは確かに人格者かもしれないが、少なくとも「母親」としては間違いなく欠落しているものがある。エルザが、その年齢不相応に成熟した精神性の中でずっと母の暖かさを求めていること、あるいは「自分の行いがエルザをどれほど孤独にしているか」を理解していないことが、その何よりの証左になってしまっているのだ。

引用:感想『アイカツスターズ! 78~85話』 “パーフェクト” とは何か。回り出す歯車と、闇を切り払う「騎咲レイの誓い」 - れんとのオタ活アーカイブ

 

エルザと、その母親=ユキエ グレース フォルテ。この親子の物語がどんな落としどころを迎えるか。それが『アイカツスターズ!』に対する、正真正銘最後の懸念点だった。

 

 

至極個人的な話なのだけれど、「人同士の不和が “愛している” の一言で解消される」展開が少し、いや結構苦手だ。  

自分は、そういったシチュエーションを見ると反射的に「愛していれば何やってもいいのか」「口だけじゃないか」といったツッコミが口を突いて出てしまうのだけれど、作品内ではそんなこともなく「愛」がまるでデウス・エクス・マキナのように全てを解決したことになる。それは何もフィクションに限った話ではなく、現実においても「夫婦やパートナー・家族間の不和」によって日夜様々な悲劇が起きているのに、愛こそが唯一不変の絶対正義であるかのように扱われることは多く、その風潮にはどうにもカルト宗教めいた不気味さをも感じてしまう。 

しかし、現実において誰がどんな宗教観を持っているか分からないように、どの作品にどんな「愛情観」があるかは分からない。実際、とても好きだった作品が最後の最後でこのような「どんな不和も “愛” さえあればオールオッケー」「愛の奇跡」という展開に突入、急激に熱が醒めてしまったことは一度や二度じゃなく、自分が第78話『ようこそ パーフェクトマザー!』以降、何度Blu-ray BOXが欲しくなっても購入に踏み切ることができなかったのもこれが理由。もしユキエの行動が「愛しているわ」の一言で美化されてしまったら、一気に『アイカツスターズ!』に醒めてしまうという恐ろしい可能性が残されていたからだ。

 

そのため、第95話でエルザがユキエに電話をかけても留守だったり、レイたちがユキエのもとを訪ねたり――といった場面が描かれる度に、自分の中ではストーリーラインとは何か別種の緊張が高まっていった。 

フォルテ親子の物語が決着を迎えることは、自分にとってまさに『アイカツスターズ!』の分水嶺。ここまで右肩上がりでハマってしまい、かつブログを通して思い入れも(尋常でないくらい)深まった作品なのだから、願わくばこのまま「大大大好きです!! 最高!!」と心置きなく叫べる作品であって欲しい――と、そう祈るが早いか、遂に「その瞬間」が訪れた。

 

「エルザさんっ!」
「おめでとう、ユメ ニジノ。素晴らしいステージだったわ」
「エルザさん、私が心を輝かせたいって思っていた人の中には、エルザさんも入っているんですよ」
「……っ!」
「このスタジアムのみんなも、大好きなアイドルのみんなも……そしてエルザさんも。私は、みんなと一緒に輝きたい。だから……だから、アイドルを辞めないでください!」
「……なるほど、そういうことね。私は貴女のその “想い” に負けたのね。私にはなかったから、それほどの……想いが」 

「エルザ」
「お母様……! それに貴女たちまで!? どうしてここに……」
「貴女のステージを見に来たの。ごめんなさいね、遅くなって」
「いいえ……そんなこと。それより、ごめんなさい……折角いらして頂いたのに、私、負けてしまいました……お母様のいる前で、みっともないところをお見せしてしまって、本当に――」  

  

「お母様……」
「謝るのは私の方よ、エルザ。こんな簡単なことでさえ、今までしてやれなかったなんて……お母さん失格ね……!」
「お母様……私、お母様のようになりたくて……でも、私にはっ」
「エルザは、エルザらしくいればいいの。とっても素敵だったわよ? エルザのステージ。エルザは私にとって “パーフェクト” な娘よ」
「……! 負けてしまいましたが、全力を尽くしたステージ、ご覧になって頂けて嬉しいです……っ!」

-「アイカツスターズ!」 第96話『みんなで輝く!』より

 

・「ごめんなさい」
・「謝るのは私の方よ」
・「こんな簡単なことでさえ、今までしてやれなかったなんて……お母さん失格ね……!」
・「エルザは、エルザらしくいればいいの」
・「とっても素敵だったわよ? エルザのステージ」
・「エルザは私にとって “パーフェクト” な娘よ」


f:id:kogalent:20231017101947j:image

大大大好きです!!最高!!(感涙)

 

「エルザを抱き締める」のは勿論、言ってほしかった台詞をものの見事に全て言ってくれる――という、こちらが願っていたものを優に上回る「パーフェクト」な回答。そして、最高のタイミングでサビに入る『孤独な太陽』、過去最大級に情感を込めて描かれているであろうエルザの「救われた」表情――。それら演出の素晴らしさと、エルザがようやく救われた嬉しさ、そしてアイカツスターズ!』を信じて良かった、という気持ちとで胸が一杯になって、ゆめのステージで出しきったはずの涙がまたもボロボロと溢れてしまっていた。 

……のに、そこから更なる「追撃」が始まるものだから、もう頭も身体もどうにかなりそうだった。

 

「安心したわ。エルザに、こんなに素敵なお友達がいるなんて……」
「……!」 

(中略) 

「私は、ずっと自分のことばかりで……太陽のドレスや “パーフェクトで在り続けること” ばかりにこだわって、貴女たちのことを……。何もできていなかったのは、私……!」
「それは違う」
「っ……?」
「私が今ここにいるのは間違いなく、エルザ、君のおかげだよ。君が、私にアイドルという新たな可能性を示してくれたんだ」
「レイ……」
「きららも同じ! もしエルザ様に出会えなかったら、きららもずっと、キャロたんたちと一緒にふわ~っとしてただけだったよ。だから、アイドルになってこんなにもワクワクな毎日を送れて、本当に良かったって思ってるもん!」
「そうです、その通りです! エルザさんに出会ってなかったら、私、新しいアイカツの楽しさを見付けられなかったです。今の私は幸せ……とっても、幸せ感じてます!」
「アリア、貴女まで ……っ、全く、貴女たちはっ!」
「エルザ?」
「……結構なことね……!」

-「アイカツスターズ!」 第96話『みんなで輝く!』より

 

確かに、エルザはゆめに敗北してしまったし、ヴィーナスアーク解散をはじめとする彼女の行動が周囲の人々を振り回してきたのは紛れもない事実。けれど、彼女の行いは決して「否定されるべき “悪” 」ではなかったし、その行動には (不器用ながらも) 常に彼女なりの誠実さや、母への一途な想いが満ちていた。ゆめにしか照らせないものがあるように、エルザもまた、エルザにしか照らせないものをしっかりと照らし、導いていた。  

何をしても乾きを癒せなかったレイが自らの道を見付け、己の殻を破ることができたのも、きららがアイカツと出会い、あこというパートナーに巡り会えたのも、アリアが真昼という師、そして自分自身の「本気」に出会えたのも、全てはエルザがいたから。そして、彼女たち3人がいなければユキエは会場に現れず、エルザが救われることもなかった――。 

そう、エルザは「孤高」であっても「孤独」ではなく、その周囲にはゆめたちと同じ「想いの円環」があった。ゆめを通して描かれた「誰もが輝ける」というメッセージ。それは (ゆめの言葉通り) エルザも決して例外ではなかったのだ。

 

「完敗だわ、ユメ ニジノ」
『アイドルを辞めるって、本当ですか』
「アイドル……。私は、これから……」
「エルザ」
「っ」
「あ~!やっぱりここにいたっ!」
「貴女たち……」
「えへへっ」
「もう、そんな所にいたら風邪引きますよ?」
「エルザ、上着
「……ありがとう」

-「アイカツスターズ!」 第96話『みんなで輝く!』より

 

どんなに辛い旅路でも、夢見た輝きと「人を想う心」を忘れなければ、人は決して孤独ではなく、誰もが誰かの一番星になれる――。そんな本作のメッセージは、エルザが救われることで「真に完成する」ものだった。 

かつてのゆめのように、側にいる大切な存在に気付くことができたエルザ。彼女にとっては、きっとこの瞬間こそが本当のスタートライン。この先エルザの物語がどこまで描かれるかは分からないけれど、願わくば、彼女がレイたちと並んでステージに立つ姿が見られますように……。

 

森のひかりのピルエット(TV Size)

森のひかりのピルエット(TV Size)

  • せな・るか from AIKATSU☆STARS!
  • アニメ
  • ¥153

 

いざ、ラスト4話へ

 

あまりにも「実質最終回」すぎた第95・96話だけれど、冷静になって考えてみると、最終回までの話数は残り4話。1年目でいうなら、なんと『香澄姉妹、対決!』~『最強のLIVE☆』が丸々残っていることになる。 

とはいえ、残りが「たったの4話」しかないのもまた事実。前述の「エルザの復活ステージ」以外にも、第94話『真昼の輝き』で示唆された「小春VS真昼」、あこが星のツバサを獲得していない問題の回収、ローラの世界デビュー、ゆめVSローラ、ツバサVSあこのリベンジマッチ、そして何より、未だに謎のカードを携えたまま沈黙を守っている白鳥ひめ……と、まだまだ残っている「これが見たい」のうち、果たしてどれほどの数が回収されるのだろうか。 そもそも、ここでこちらが想像もしていなかったようなエピソードを放り込んでくる作品こそが、自分の好きな『アイカツスターズ!』ではなかったか。 

本作の感想を書けるのもあと僅か。作品への総括と謝辞はそこまで暖めておくとして、残る話数は折角なのでBlu-rayで見届けたい。ラストスパート、ワクワク (と緊張) が止まんない……!