感想『アイカツスターズ! 78~85話』 “パーフェクト” とは何か。回り出す歯車と、闇を切り払う「騎咲レイの誓い」

最近、『アイカツスターズ!』の視聴スピードが遅い。 

どれぐらい遅いかというと、第84話『夢は一緒に』を見てから、次の第85話『輝きを渡そう』を見るまで約2週間が空いたくらいには遅い。リアタイ視聴以下じゃん!!!!

 

 

思えば、『アイカツスターズ!』を本格的に見始めたのは2022年11月末。そこから1年目を見終えるまでおおよそ3か月弱しかかからなかった……にも関わらず、現在は2023年7月。2年目を見始めてから4ヶ月が経とうとしているのに、まだその7割しか見れていないのである。 

理由は簡単。自分にとって『アイカツスターズ!』が「万全の状態で、正座して見なければならない作品」になってしまったから。そしてもう一つ、アイカツスターズ!』がいよいよクライマックスに入ってしまったこと=「話が畳まれ始めている」ことを肌で感じさせられるような、そんなエピソードばかりが並んでいたからだ。  

そんなワクワクと恐怖の狭間で苦しんだ初見マンの記憶を、次回予告の雰囲気からしてもう「事案」の予感しかしない第86話『涙の数だけ』に臨む前に全力で書き残しておきたい。

 

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(第77話以前の感想はこちらの記事か、『アイカツスターズ!』タグからどうぞ!)

 

《目次》

 

 

小春、真の「卒業式」

 

自分が今回見たのは。第78話『ようこそ パーフェクトマザー!』から、第85話『輝きを渡そう』までの計8話。そのラインナップは、新主題歌『MUSIC of DREAM!!!』が放つ雰囲気通り「クライマックス」の予感に溢れたものばかり。その一つが、第79話『ハロウィン サプライズ☆』だ。

 

 

上記の記事において、自分は「アイカツスターズ! 2年目は1年目のリフレインになっている節があるので、2年目における第30話=第80話に、小春にとって大きな転機が訪れるのではないか」と勘繰っていた。 

結果、それは「当たらずと雖も遠からず」といったところ。リフレインされたのは第30話『七色のキャンディ』ではなく、同じく小春にとって大きなターニングポイントとなったエピソード=第28話『ハロウィン☆マジック』の方だったのだ。

 

 

次回予告で一瞬映った「フィッティングルームに並ぶゆめと小春」を見た時の衝撃ったらそれはもうとんでもなかったのだけれど「小春のステージ」そのものは、本作視聴者の誰もが「いつか来るだろう」と予想していた展開のはず。

 

「ねぇ、ゆめちゃん。私の今の夢、聞いて?」
「なになに?」
「私のデザインしたドレスを着た、一番星のゆめちゃんと……一緒にステージに立つこと!」

-「アイカツスターズ!」 第71話『さよなら、小春ちゃん!?』より

 

第71話『さよなら、小春ちゃん!?』におけるこの台詞に驚かされたのは、小春の夢があくまで「アイドルとして、ゆめと一緒のステージに立つ」ことだったから。小春はデザイナーに転向したとばかり思っていたけれど、彼女はずっと「アイドル」と「デザイナー」の二足のわらじを履き続けていたのだ。 

であるなら、小春の「アイドルとしての姿」を本作が一度も見せないとは思えない。だから、自分は「S4戦で真昼と小春が戦うことになり、そこで初お披露目になる」のだと思っていたし、そういう意味では、ここで彼女のステージが見られることは文字通りの「サプライズ」……だったのだけれど、ここで披露された小春の初ステージは、断じて単なる「サプライズ」や「ファンサービス」に留まるものではなかった。その鍵となるのは、同じく第71話で描かれた「小春のヴィーナスアーク卒業」だ。

 

 

振り返ってみれば、このエピソードで描かれた小春のヴィーナスアーク卒業は「エルザから唐突に卒業を言い渡される」という極めてイレギュラーなもので、しかもそれは「小春をゆめの下に向かわせることで、彼女が星のツバサを手に入れるよう仕向ける」という計画の一環。つまるところ、小春にとっての「真のヴィーナスアーク卒業」は未だ描かれていなかったと言えるだろう。  

……と、そんな状況下で迎えたエピソードが『ハロウィン サプライズ☆』。一見コメディ調で進むエピソード (学園長の激面白天丼ギャグに忍者ゆず様、Wゆりの邂逅など、それはそれで見所満載だった) だが、本話終盤、小春がエルザを食い止めるために現地に向かったのを合図に、その流れは大きく変わることになる。

 

「みんな見てて! 私とゆめちゃんからのサプライズ、2人のビックリ箱を!」
「小春ちゃんのデザインしてくれた、レインボーベリーパルフェのドレス……!」
「私たちの夢は、いつも一つ。七色の虹のきらめき!」
「一緒に渡ろう、七色の虹を!」
「そして、その向こう側へ!」
「虹野ゆめ!」
「七倉小春!」
「「いきまーす!!」」

-「アイカツスターズ!」 第79話『ハロウィン サプライズ☆』より

 

遂にフィッティングルームに並び立った小春とゆめ。小春にもしっかりとバンクが用意されていることに加え、ゆめと同じ / 重なる「いきまーす!」の掛け声が感無量すぎてそれだけで泣いてしまいそうになった……いや正直これだけで泣いてしまったし、2人が第73話『虹のドレス』でも使われた歌『Message of a Rainbow』を歌い出してからはもう文字通りの号泣だった。ここまで、ここまで本当に長かった……!

 

Message of a Rainbow

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けれど、正直なところ「小春の初ステージにしては、随分妙なシチュエーションだ」と思う自分もいた。前年のハロウィン回=第28話『ハロウィン☆マジック』が小春の主役回だったから、と言われればそれまでだけれど、この『アイカツスターズ!』がそれだけの理由で彼女の (ともすれば、最初で最後の) ステージを解禁するはずがない……! そんな自分の懸念に対する答えが、ステージ直後に他ならぬエルザから示された。

 

「あれっ、エルザさんだけ全然驚いてない……!」
「これじゃあ……」
「ふっ、ふふふっ……! 敗けを認めるわ」
「!」
「ただし、四ツ星学園にではなく……コハル・ナナクラに」
「えっ……!?」
「流石、私が見付け出した才能だけのことはあるわね。見事なほどに息の合ったステージだった」
「エルザさん……。ありがとうございます!」

-「アイカツスターズ!」 第79話『ハロウィン サプライズ☆』より

 

ハロウィンイベントを守る為にエルザを驚かせようとするも、次々と敗れていった四ツ星学園の精鋭たち。エルザは最後のサプライズ=「ゆめと小春のステージ」にも不動を貫くかに思われたが、意外にも彼女は降参=白旗を揚げる。 

「パーフェクト」にこだわる彼女が、ゲームとはいえ負けを認めた――。しかし、それは文字通りの敗北宣言でもなければ「小春の姿に心打たれた」からという訳でもない。 

というのも、彼女が賞賛したのは「歌」でも「踊り」でもなく、あくまで小春とゆめのシンクロニシティエルザはゆめたちに実力で劣る小春を「技量」で評価することはしないけれど、それでも、2人のシンクロニシティにはそんな技量不足を補って余りあるほどの美しさがあった。それを可能にするほどの「愛と情熱」こそがエルザに敗北を認めさせたものであり、それほどの輝きを放ってみせたこのステージこそが、小春からエルザへの一番の恩返しであると同時に、ヴィーナスアークからの「真の卒業式」だったのではないだろうか。

 


(小春のステージが解禁されたことで、第80話からはOP映像が変更。初めて見る「5人ステージ」に情緒が木っ端微塵にされてしまったけれど、これは本編でも見れるってことでいいんですよね……ッ!?)

 

ゆめの笑顔と『MUSIC of DREAM!!!』

 

こうして、第79話にして初のステージを飾った小春。その一連は本当に素晴らしかったのだけれど、それは前述のように「クライマックスの足音」をじわじわと感じさせるものでもあった。  

全100話中79話、予感も何も「もう最終回が目前に迫っている」のは間違いないのだけれど、だからこそそのことが寂しくてしょうがないし、本作との別れを認めたくない自分がいる。第81話『ステキなSを探して』のように、バラエティ番組などで賑やかなアイカツに励む小春たちや、ゆめへのプレゼントとして自分が選ばれたことに「 (わざわざプレゼントにならなくても) ゆめと私はずっと一緒だけど」と ““貫禄”” を見せ付けるローラ……とか、そういった幸せな日常風景をこの先まだまだ見ていたい……! 

しかし、この期間は「穏やかで平和なエピソード」さえもが容赦なく「終わりが近い」事実を叩き付けてくる。それが、第82話『恋するアイカツ♪』と第85話『輝きを渡そう』だ。

 

 

アイカツスターズ!』の魅力は山ほどあるけれど、中でも特徴的なのが「エグさ」。女児向けアニメらしい華やかさ、少年漫画に通ずる熱さ、そしてそれらと似つかわしくない「エグさ」が臨界点でせめぎ合うことによって生まれる独自のカタルシスこそが、本作の大きなアイデンティティーと言えるだろう。 

そういった意味で、本話冒頭におけるゆめはまさしく「本作でないと見ることのできない」……というか、本作以外でやってはいけないような「生々しい呪い」の只中にあった。

 

「……では、次の質問です。S4になって良かったことは?」
「はい。ステージに立つ機会が増えたので、より多くの人に歌を届けられるようになったことです!」
「では、最近のアイカツで楽しかったことはなんでしょうか?」
「うぇっ? えーっと……」
「虹野さん?」
「あっ!えーっと……たくさんステージができるし、お仕事も増えたし、充実してる……って感じで、もう全部楽しいです!」
(あれ? これって本当に “楽しめてる” のかな……)

-「アイカツスターズ!」 第82話『恋するアイカツ♪』より
 
アイカツスターズ!』を通して、ゆめの「アイカツ」には多種多様な思いや願いが宿っていった。きらきら輝きたい。皆とのアイカツが楽しい。皆への「ありがとう」を届けたい。皆をきらきら輝かせる為に……。それらは決して両立しない訳じゃないけれど、積み重ねていけば積み重ねていくほどに沈み込み、忘れ去られてしまうものもある。S4としての責務や、夢を追い求める険しい道の中で、ゆめの原点=「アイカツを楽しむ」というシンプルかつ大切なモチベーションが、いつの間にか彼女の中から消えかけてしまっていたのだ。  

アイカツスターズ!』は、アイドル活動の光と闇を誠実に描くことで、その本当の輝きを訴えかける作品でもある。けれど、そんな「闇」を描く上で徹底されているのが「アイドル自身が笑顔でなければならない」という絶対のルール。

 

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このテーマは先んじて『劇場版アイカツスターズ!』でも触れられていたが、それから1年以上が経ち、ゆめの立場や責任が大きく変わってしまった以上、この重要なテーマが今一度はっきりと問い直される必要があったのだろう。 

当時よりもずっと大きなものを背負ってしまい、そう簡単に「楽しむ」心を取り戻せずにいるゆめ。そんな彼女へ「問い直す」役目を背負ったのは、彼女よりも大きなものを背負った存在=白鳥ひめ、そして双葉アリアだった。

 

 

正直なところ、第76話というド終盤から登場し、颯爽と星のツバサをかっさらっていったアリアという存在にはそこはかとなく違和感があった。ゆめたち四ツ星学園とエルザたちヴィーナスアークがしのぎを削る最終局面に、なぜ彼女のような「天才少女」が現れたのか、もっと言うなら、彼女は「どんな役割」を背負って『アイカツスターズ!』の舞台に上がったのか……。その答えの一つが、この『恋するアイカツ♪』なのだと思う。

 

「どうでした? 私たちのステージ!」
「素晴らしかったわ。2人とも凄く輝いてた……!」
「わあ~っ! やったぁ!」
「ひめ先輩に言ってもらえると嬉しいです!」
「ゆめちゃんも、アイカツに恋をしているのが伝わってきたわ」
「……!」
(もしかして、ひめ先輩が一緒にステージをするように言ってくれたのは、このことを教えるため……?)  

  (中略)  

「アリアちゃん、ありがとう。大事なことを思い出したよ」
「ほよ?」
「……うん!」
「私、やっぱりアイカツが大好き!」

-「アイカツスターズ!」 第82話『恋するアイカツ♪』より

 

ひめの勧めから一日を共に過ごし、テレビ番組・ステージで共演したゆめとアリア。アリアの自由奔放な振る舞いに振り回されるゆめだったが、アリアのアイカツには「アイカツへの愛」が、自身が失いかけていた感情の原点が満ち溢れていた――。 

そう、アリアが「天才新人アイドル」であったのは、彼女が「あの頃のゆめと同じ存在のまま、この頂上決戦に飛び込んでくる必要があった」から。つまり、双葉アリアとは「S4になってすり減っていくゆめに、あの頃の輝きを手渡す為に現れた “かつてのゆめの写し鏡”」だったのではないだろうか。  

(ただし、それらを導き、ゆめがかつての想いを取り戻せるよう取り計らったのはひめその人。今も変わらぬ「格上」ぶりと、三姉妹の「長女」感には相変わらず別格の魅力がある……!)

 

 

かつての想いを取り戻し、また一回り大きな進化を遂げたゆめ。そんな彼女の成長ぶりは、第85話『輝きを渡そう』において顕著に表れていた。

 

 

「みんな輝け! ドリームアイドルオーディション」への参加を通して、アリスをはじめとする後輩アイドルたちと親睦を深めていくゆめ。 

その中で、ゆめは「後輩たちが輝く為に力を尽くす」ことに大きな喜びを感じている自分に気付く。それは、かつてのひめのような「アイドルたちの導き手」にゆめが辿り着いた瞬間でもあった――。 

『MUSIC of DREAM!!!』で印象的だったフレーズ「輝きを渡そう」そのものと言っても差し支えない内容だった本エピソード。ゆめがこれまでブランドに込めていた願いが、ドレスを飛び越えて彼女自身の「アイカツ」そのものになる……というステップアップには、朧気に「虹野ゆめの到達点」が見えるようで切なさを感じもしたけれど、この『輝きを渡そう』において重要なのは、ゆめが遂に「ひめと同じステージに辿り着いた」ということ。

 

「私ね、S4としてアイカツしていて、分かったことがあるの」
「なあに?」
「それはね、“一人で輝くよりも、みんなで輝いた方がずっと素敵だ” ……ってこと。これからも、たくさんのアイドルにもっともっと輝いてほしい。だから、みんなの光になれるように……みんなに道を示せるように、今日は私が一番輝く星になる!」

-「アイカツスターズ!」 第49話『一番星になれ!』より

 

後輩アイドルたちに「輝きを渡す」だけでなく、オーディション本番では彼女たちどころか観客までも巻き込んで『MUSIC of DREAM!!!』のメロディを合唱するゆめ。明言こそされていないものの、この時の彼女はひめと同じ想い=「アイドルの輝き」の真価を感じていたように見えるし、皆を照らし、皆と輝く彼女は、七色に輝く「虹」であると同時に「太陽」であるようにも思う。 

未だ謎に包まれた「太陽のドレス」。その “太陽” が意味するものが「世界で最も眩しい、唯一無二にして孤高の業火」ではなく、「世界中を輝かせる、何よりも暖かな光」であるのなら、それはエルザではなくゆめにこそ相応しいとも思えるが、果たして……?

 

MUSIC of DREAM!!!

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「パーフェクト」への疑問符

 

小春の初ステージに、ゆめの原点回帰と (おそらく) 最終曲の完成。四ツ星学園側が着々とクライマックスへ歩みを進めていく中、ヴィーナスアークの面々にも大きなターニングポイントが訪れていた。その一つが、第78話『ようこそ パーフェクトマザー!』だ。

 

 

久方ぶりの来日を果たしたエルザの母・ユキエ  グレース フォルテ (CV.三石琴乃。一見すると「エルザの少女らしい一面が垣間見える癒しエピソード」かのようなタイトルであり、確かに本話では彼女の「少女らしい一面」が見えた……のだけれど、この『アイカツスターズ!』最重要キャラクターの背景に触れるエピソードが、そんな生易しい代物であるはずがなかった。

 

「これを見て。……これが太陽のドレス。母はかつて、太陽のドレスを着ていたのよ」
「……!」
「私は、母のようになりたくて “太陽のドレスを手に入れる” と誓った。美しくて、太陽のような完璧な母は、私の憧れだった……。私は母のようになりたくて、幼い頃からあらゆる方法で自分を磨いた。けれど母はいつも忙しくて、世界中を飛び回っていた。海外への慈善活動や、様々な交流会への出席……。私は母を求めるように、アイドル時代の映像を見るようになった」
『私がお母様みたいに “パーフェクト” になったら、きっと私のことを抱き締めてくれるはず!』

-「アイカツスターズ!」 第78話『ようこそ パーフェクトマザー!』より

 

エルザがアイドルになったのも、ヴィーナスアークを設立したのも「パーフェクト」という在り方に固執するのも、全ては母・ユキエの影響――もとい「母に自分を見てほしいから」という、たったそれだけの悲痛で切実な願いから。残酷にも、エルザをここまでの高みに登らせたのは「本来なら誰もが与えられるべき、当然の愛」への渇望だったのだ。  

しかし、この親子問題の厄介さは、エルザの母=ユキエがエルザのことを無下にしている訳ではないらしい、という点にある。むしろ、彼女はアイドルを愛し、アイカツを愛しているだけでなく、娘がゆめたちと交流していることを喜んだり、彼女の口の悪さに辟易している様子さえあった。こう見ると、彼女は「忙しいだけで、きちんとエルザのことを想っている」母親のように見えてくるし、パーティーに来場したアイドルたちに贈られたメッセージは、ユキエが確かな「人格者」であることを感じさせるものだった。

 

「眩しい世界にいると、時々見えなくなってしまうでしょう? 初めに目指したはずの理想や夢、星の輝きが。本日は特別にお願いして、少しの時間だけ “本当の闇” をご用意しました。自分の夢や理想の星を……もう一度、ゆっくりと思い出してくださいね」

-「アイカツスターズ!」 第78話『ようこそ パーフェクトマザー!』より

 

「周囲一帯の電気を全て消すことで、夜空の星を輝かせる」というロマンチックなプレゼントは、その実あまりに真摯な「アイドル」への想いに裏打ちされたもの。彼女の言葉からは、かつて太陽のドレスを手にしたトップアイドルの苦悩と葛藤、それらを乗り越えた上で「未来の輝きたち」に希望を託そうとする大きな愛が垣間見えたし、ゆめが彼女に見た美しさは、決して見た目だけのものではないのだろう。 

しかし、ユキエがそんな「良い人間」であることと、「良い母親」であることとは、必ずしもイコールであるとは限らない。

 

「この後は、ゲストの皆様のために私がステージを披露致します」
「ええ、私も楽しみよ!」
「……! それでは、また後程」
「ええ……!」

-「アイカツスターズ!」 第78話『ようこそ パーフェクトマザー!』より

 

ユキエからバトンを受け取る形でステージを披露するエルザ。この回の彼女は、他の回に比べて声色が柔らかいだけでなく、作画が非常に可愛らしい――あるいは「幼い」ものになっており、その最たるものが上記のシーン。「私も楽しみよ」と言われたエルザはこれまで見たことのないような喜色満面ぶりで、それこそが彼女の「素顔」なのだということ、彼女もただの「中学生の女の子」なのだということが嫌でも伝わってくる。……しかし、だからこそユキエの残酷さも際立ってしまう。 

香澄家と違い父親の存在が全く語られない辺り、おそらく既にユキエとその夫は離婚済み。エルザの回想シーンからしてユキエがエルザを可愛がっているのは間違いないので、おそらくユキエが進んでエルザを引き取る道を選んだ=彼女がエルザと十分に接することができなかったのは、決して本意ではないと考えられる。 

しかし、ならば彼女は「会える時間」はエルザに目一杯愛情を注ぐべきだった。エルザとできる限り言葉を交わし、その想いを汲み取り、愛娘のことを力一杯抱き締めてあげるべきだったのだ。 

しかし、ユキエはそうしなかった。数年もの間、エルザがまだ幼い頃を最後に抱き締めることをしなくなり、エルザが披露したステージも、伝言も手紙も残すことなく旅立ってしまった。「急な用事」とはいうものの、そのことを聞いたエルザの様子からすると、それは一度や二度ではない模様。ユキエは確かに人格者かもしれないが、少なくとも「母親」としては間違いなく欠落しているものがある。エルザが、その年齢不相応に成熟した精神性の中でずっと母の暖かさを求めていること、あるいは「自分の行いがエルザをどれほど孤独にしているか」を理解していないことが、その何よりの証左になってしまっているのだ。  

そして、そんな彼女の現状を作中最も的確に言語化してしまっていたのが、皮肉にもユキエ自身が発したこの台詞。

 

「眩しい世界にいると、時々見えなくなってしまうでしょう? 初めに目指したはずの理想や夢、星の輝きが。本日は特別にお願いして、少しの時間だけ “本当の闇” をご用意しました。自分の夢や理想の星を……もう一度、ゆっくりと思い出してくださいね」

-「アイカツスターズ!」 第78話『ようこそ パーフェクトマザー!』より

 

真っ暗闇の中、夜空の星を見上げるアイドルたち。しかし、それは同時に「遥か遠くを見上げる代わりに、足元が見えない」ということでもある。ユキエは、アイドルにメッセージを贈ったり慈善活動に励んだりする傍ら、自分が最も愛情を注がなければならない相手=足元で泣いている愛娘、エルザのことを見落とし続けている。

 

「母は?」
「それが、急な予定が入ってしまったみたいで……ステージを観る前に出発されたそうだ」
「……。そう、いつものことよ」
「……」
「まだ……完璧じゃない。私が太陽のドレスを手に入れて “パーフェクトなアイドル” になれば、その時こそ……きっと!」

-「アイカツスターズ!」 第78話『ようこそ パーフェクトマザー!』より

 

曰く、ユキエは「パーフェクト」なアイドルだったらしい。しかし、そのことが「人間性」をもパーフェクト足らしめるとは限らない。エルザがもし望み通り「パーフェクト」なアイドルになれたとして、彼女があらゆるものを捨てて辿り着いたその栄光は、果たしてエルザという少女にとって「完璧」と言えるものなのだろうか。  

アイカツスターズ!』は、アイドル自身が笑顔であることを正義として貫き、普通の女の子=ゆめが「普通」のままに成長することを輝きとした。完璧な人間でなくても、様々な経験が、豊かな心が、それを作る仲間たちとの絆が「完璧」以上の価値を作り上げるのだと謳ってきた。そんな『アイカツスターズ!』において「パーフェクト」という言葉に囚われ、少女としての在り方を捨て去ろうとしているエルザは、ある意味本作の「ボス」として相応しい一方、誰よりも救われるべき少女なのではないだろうか。  

彼女をその水底から引っ張り上げるのは、主人公であり「普通の女の子」であるゆめなのか。現状唯一エルザと並び立つポテンシャルを秘めているであろうひめなのか。それとも――。

 

Forever Dream

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騎咲レイの誓い

 

自分は、前回の記事で「レイのエルザへの奉仕」について下記のように考察していた。 

 

「志と情熱を手に入れる」ことを目指しながらも上手くいかず、そんな中でエルザに魅了され、以来エルザに全てを捧げてきた……というこの行動は、他ならぬレイ自身が「自分自身が満たされたいがために選んだ」道であり、志と情熱に満ちた存在=エルザに奉仕し、擬似的にその一部となることで、自身の欠落を埋め合わせようとしたのではないだろうか。 

このレイの行動・心情は、現実における恋愛や憧れの感情、もっと言うなら「推し」の概念に近いかもしれない。

引用:感想『アイカツスターズ! 64~77話』 星のツバサと運命のドレスが導く、虹の向こうの「二人の一番星」 - れんとのオタ活アーカイブ


アイドルやキャラクターを「推す」ことで自分と彼らを紐付け、その人生や喜怒哀楽を「自分の人生の一部」にする……。程度は人によるだろうけれど、自分はそこに少なからず「代償行為」の側面があると感じている。自分にはできないことをしている人、輝いている人を「応援する存在」=その一部になることで、自分もまたその人のように輝いている錯覚を起こしている……と。 

おそらくは、レイの行いもそんな「 “推し” によって満たされる」という現象と近しいもの。自分が輝くことを諦めたレイにとって、「付き人」というポジションは「憧れのエルザに尽くしながら、擬似的に自分の渇きを癒すことができる」という、まさに絶好のポジションだったのではないだろうか。

 

 

しかし、それは見方を変えれば「体の良い言い訳をして、甘い汁を吸っているだけ」あるいは「過酷なアイカツから目を逸らし、自分は安全圏にいる」という逃避でしかない。  

第80話『騎咲レイの誓い!』冒頭でレイが見た、嵐の海を往くエルザから「臆病者は要らない」と言われる夢は、真昼たちとの交流からそのことを自覚してしまったレイの迷いや罪悪感そのものなのだろうし、エルザもまた、そのことを見抜いているからこそ彼女に全幅の信頼を置くことがなかったのだろう。 

そして、そんな「体の良い傍観者」だったレイにとって決定的なターニングポイントが訪れる。前述の第78話『ようこそ パーフェクトマザー!』だ。

 

「これを見て。……これが太陽のドレス。母はかつて、太陽のドレスを着ていたのよ」
「……!」
「私は、母のようになりたくて“太陽のドレスを手に入れる”と誓った。美しくて、太陽のような完璧な母は、私の憧れだった……」

-「アイカツスターズ!」 第78話『ようこそ パーフェクトマザー!』より

 

これまで、エルザという存在はレイにとっての「神」だったのだと思う。全てにおいて完全無欠、もはや「パーフェクト」そのものである……と。エルザに付き従うレイが具体的な行動を起こさず、そのサポート・フォローに終始している様は、まるでエルザという神に付き従う司祭のようだった。 

そんなレイにとって、このエルザの告白はどれほど衝撃的だったのだろう。自身にとって神、あるいは天上人であったエルザは、その実、自分と同じように悩み、もがき、癒されない渇きを抱えた「決して強くない、ただの女の子」でしかなかったのだ。  

しかし、レイはエルザに失望するどころか、むしろその告白を受けることで「星のツバサを獲る」という誓いを立てた。これまではその成り行きを見守っているだけで良かったエルザが、あくまで自分達と変わらない「人間」であったという事実に、今度こそ本当の意味で「エルザを守り、その道を拓く為に命を捧げる」と覚悟を決めたのだろう。それは、レイが「パーフェクトエルザの付き人」という傍観者から、「人間・エルザ フォルテに人生を捧げる騎士」へと生まれ変わった瞬間であり、彼女の想いが真実の愛に姿を変えた瞬間と言えるかもしれない。

 

 

以来、レイはパーティーの合間を縫って勉学に励んだり、剣を通して自身と向き合い始めたりと、見違えるように積極的な行動に出始める。それが全て「自身のブランドを作り上げるため」と分かるのはそのすぐ後=第80話『騎咲レイの誓い!』でのこと。 

彼女は、満を持して立ち上げた新ブランド=ロイヤルソードの発表会において、ブランドの目的が「エルザの剣となり、盾となる」ことであり、ファンの為でも自分の為でもなく、「エルザの為にあるブランド」だと語る。当然のように避難と困惑が飛び交うコンサートホールにおいて、レイは悠然と言い放ってみせた。

 

「まるで嵐だね……。君たちは、嵐に立ち向かったことはあるかい?」
「……っ!」
強い雨と風が吹き荒れて、その先は何も見えない、何の道標もない、進めば、無事に帰ってこられるかも分からない……。そんな恐ろしい嵐に飛び込んだことは?」
「……」
「嵐を避けるのは当然だ。そう、以前の私もそうだった。周囲に勧められるままモデルとなり、用意されたステージで、楽しくもないのに偽りの笑みを作っていた。情熱もなく、志もなく、安易な道を彷徨っていた。嵐から……逃げていたんだ。そんな時、エルザと出会った! 何者にも媚びず、困難をものともせず、目的に向かって突き進むその姿に、私は心を揺さぶられた! 気高く眩いその姿は、まさに太陽そのもの。私は、エルザという太陽がより輝くために、その力となりたい。それが私の意思、情熱、そして夢なんだ!」
「……!」
「私は審判を受けに来た。“エルザのために” この想いが間違っているか否か。今日ここで、星が……世界が答えてくれるだろう!」

-「アイカツスターズ!」 第80話『騎咲レイの誓い!』より

 

それは、世界への宣戦布告であり、エルザを崇めるばかりで傍観者に徹していた自身への戒めであり、自ら矢面に立つことでエルザに覚悟を示す「宣誓」でもある。 

エルザのために、という軸はこれまでと何も変わっていないのに、その物言いも目付きも、ステージに立ったレイはこれまでの「理知的でクール」な彼女とは全くの別人。しかし、何もかもをかなぐり捨て、裸足となったこの姿こそが真の騎咲レイであり、エルザへの誓いは、今度こそ紛うことなき「魂を懸けた愛と忠誠」なのだろう。 

 

 

「ファンの存在」を考えず、ただエルザの為にのみ存在するブランド / 騎咲レイというアイドル。その在り方は誰の目から見ても横暴で、これまで四ツ星学園の面々……ひいては『アイカツスターズ!』そのものが積み上げてきた「みんなで繋ぐ輝きこそがアイドル」という前提を根底から覆すものに他ならない。――にも関わらず、彼女はエルザに誓った通り「星のツバサ」を手に入れてみせた。  

それもそのはず、アイカツシステムは決して「正しさ」を測る機構ではない。勝利に全てを懸けて戦う戦士の姿が我々の心を揺さぶるように、突き抜けた美学を持つ「悪」が独特のカリスマを持つように、「何者にも媚びず、困難をものともせず、エルザを輝かせる為に突き進む」レイの姿は、ある種狂気的でさえあるからこそ、その根底にある「愛」が絶対的な美を放つもの。その輝きをアイカツシステムが認めることには、もはや何の不思議もないのだろう。 

そして、おそらくそれはエルザがツバサを手にしたのと同じ理屈であり、異なっているのは「自分」と「自分ではない誰か」のどちらを輝かせるかという一点のみ。誰よりもエルザを崇め、それ故にエルザと断絶してしまっていたレイは、皮肉にも「彼女への信仰心」と決別することによって、誰よりもエルザに近い存在へと至ってみせたのだ。

 

裸足のルネサンス 〜レイ ver.〜

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「太陽のドレス」を巡る歯車。そして……

 

遂に星のツバサが出揃い、話数も残すところ僅か1クール。物語が終盤らしい装いを整えていくその一方で、本作の物語は一向にその着地点が見えてこない。 

現時点ではっきりと見えているものがあるとすれば、それはこれまで順風満帆に思われたローラと、精神的に追い詰められている様子のエルザに立ち込めている暗雲だろう。  

特にエルザは、その目的が目的だけに「もし太陽のドレスを手にできなかったら」と思うと気が気でないし、次回=第86話の対戦カードはよりによってそのローラとエルザ。どちらが勝っても地獄しか見えない最悪のシチュエーション……だけれども、エルザの隣には「騎咲レイ」という騎士が凛と立っている。

 

 

第83話『リリィと王子様』において、レイは「ユニット」というアイカツの可能性を肌で感じ、エルザにもその想いを届けたいと語っていた。主義主張は異なれど、アイカツを愛する想いは同じ――という、この『アイカツスターズ!』らしい希望が、エルザにとっての救いとなることを祈るばかりだ。

 

……え、「第78~85話の感想」なのに一切触れてないエピソードがある? なぜって、それは勿論……。

 

 

「ユニットイベント?って、あなたとユニットを組んだ覚えはありませんわ!」
「そんなこと言っちゃって~!」
「次回、アイカツスターズ!『夢は一緒に』掴め、アイドル一番星!」

-「アイカツスターズ!」 第83話『リリィと王子様』より