感想『アイカツスターズ! 97話』 さらばヴィーナスアーク! 物語を経て完成する、エルザたちの絆と「Bon Bon Voyage!」

アイカツスターズ!』96話を見てBlu-ray BOXを購入したことは前回の記事に書いた通りだけれど、よもや再生開始コンマ数秒で泣きそうになってしまうなどとは、この異常長文執筆末期成人オタク男性の目を持ってしても読めなかった。

 

 

自分はこれまで最強のサブスクリプションサービスと名高いU-NEXTで本作を視聴してきたのだけれど、映像サブスクサービスの弱点は「再生環境によって映像の質が変動してしまう」こと。自分の住まいは昔から異様に電波環境が悪く、その為か (高画質でお馴染みの) U-NEXTで映像を再生しても画質が悪かったり、時々再生が止まったりしてしまうのが悩みの種で、快活CLUB内で再生した際の高画質には悔しさで唇を噛み千切りそうになってしまった――と、そんな背景に加えて、実に「2ヶ月ぶり」の視聴再開 (96話の視聴は8月5日) である。デカ画面高画質虹野の「絶対、アイドルの一番星になる!」で泣くのは……まあ、仕方ないですよねェ!?

 

 

そんなこんなで遂に拝むことができた『アイカツスターズ!』97話。96話の熱量が規格外だったこともあり「ここからはエピローグのようなものだろう」と意識的にハードルを下げて臨んだものの、結果として本話はそんな忖度など全く不要な超火力の24分だった。 

実質的な最終回こと96話を経た『アイカツスターズ!』が描くものとは何なのか。ヴィーナスアークが最後に見せてくれた輝きとは何だったのか。本作におけるもう一つの最終回――もとい、実質的な「本編後の傑作OVA」とさえ呼べそうな本エピソードを振り返ってみたい。

 

kogalent.hatenablog.com

(第96話以前の感想は、こちらの記事か『アイカツスターズ!』タグからどうぞ!)


《目次》

 

 

エルザの夜明け

 

自分は、第95話『孤独な太陽』を見て「あ、この次は激ヤバ回だな……」と察して以降、「一切先を知らない状態で物語を浴びる」べくED後の次回予告を見ないようにしていたので、第96話『みんなで輝く!』を観賞してからの2ヶ月は「この先のアイカツスターズ!を全く知らない」状態での2ヶ月だった=「一体この先何があるんだろう」という気持ちがそれはそれは熟成されきっていた。  

それだけに、内心「ここまでハードルを高めてしまってちゃんと楽しめるだろうか」という不安も正直あったし、意識的にハードルを下げていたのはそこへの予防線でもあった――のだけれど、本エピソードは開幕早々、アバンの時点で早くもそんな不安やハードルを消し飛ばしてみせた。

 

「来てくださってありがとうございました。……はい、お母様。これからのことが決まりましたら、また連絡します。では」

-「アイカツスターズ!」 第97話『Bon Bon Voyage!』より


アイカツ!ランキングを見に来てくれた母・ユキエにお礼の電話をする」というシチュエーションそれ自体がすこぶる嬉しかったのに、何より特筆すべきはその声と表情! 誰!?  

憑き物が落ちたかのように穏やかな表情と優しい声色。これまで苦しい日々を過ごしてきたエルザのリラックスした様子は、それだけで2年目が大好きな自分にとってこれ以上ない「ご褒美」だったし、この短いアバンだけで十分に満足させられてしまった。

……からの「このサブタイトル」である。『Bon Bon Voyage!』をタイトルにしたってことは「そういうこと」と受け取っていいんですよね!?

 

Bon Bon Voyage!

Bon Bon Voyage!

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2年目の前期エンディングテーマ『Bon Bon Voyage!』。作中後半でも第88話『お正月だゾ☆全員集合!』の「新春アイドルかくし芸カーニバル」シーンで流れて涙を誘うなど株を上げ続けてくれたこの歌だけれど、一つだけ引っ掛かっていたのは、この歌が「ヴィーナスアークのテーマソング」のようであること。

 

鮮烈な展開が続く2年目にあって、心弾むような楽しげな楽曲というセレクトが意外だった『Bon Bon Voyage! 』。 

癖になるメロディのサビや「どこまで行けるかなんて どこまで行ってみたいか次第でしょ」という『アイカツスターズ!』の核心を突く歌詞など魅力満載の歌だけれど、驚きだったのはこの歌が「ヴィーナスアークのテーマソング」のようであること。   

一見するとストイックでリアリスト、アイカツに情熱を注ぐ真意が見えずにいたエルザだけれど、その目的=エルザにとってのアイカツは「心弾む、未知への航海」なのだろうか。だとすれば、彼女の見え方も「アイドル海賊」という異名の意味するところも180度変わってきそうだが、果たして……?

 引用:感想『アイカツスターズ!』番外編 - 物語と高め合う “歌” の魅力と 「MUSIC of DREAM!!!」という規格外の衝撃 - れんとのオタ活アーカイブ

歌唱担当の人選や「航海」というテーマから、この歌が「ヴィーナスアークのテーマソング」であることは明らか。しかし、航海は航海でもこの歌で謳われているのは「未知への冒険」。アイドル海賊を名乗り、目的の為に時にストイックに、時に非情に突き進む彼女たちの旅路はそんな「冒険」のイメージとは結び付かなくて、第58話『ミラクルオーディション!!』においてエルザ&きららのデュエットがこの歌を歌って尚、自分の中ではどうにも腑に落ちないものがあった。

 

 

からの、今回のサブタイトル『Bon Bon Voyage!』である。「このエピソードが、これまで感じていたヴィーナスアークとBon Bon Voyage!のミスマッチに “答え” を見せてくれるのかもしれない」という期待が猛烈に高まる一方、当のヴィーナスアークは冒険どころか廃船まっしぐらの状態だった。

 

「揃って何事かしら?」
「エルザ、本当にヴィーナスアークを解散するつもりかい?」
「解散しちゃメェ~だよ! 考え直してください!」
「「「お願いします!」」」
「予定通り、ヴィーナスアークは解散するわ。私はオーナーとして、自分の言葉に責任がある。それに……私はユメ ニジノに敗北した。敗者は潔くステージを去るのみよ」
「エルザ!」
「みんな、下船の準備を!」

-「アイカツスターズ!」 第97話『Bon Bon Voyage!』より

 

レイたちのこれまでのライブを何とも緩んだ表情で眺めていたり、レイたちのことを「みんな」と呼んだりと、アバンに続いてその可愛さを惜しげもなく全開にするエルザ様だけれど、その強靭な意志と生真面目さ、そして「行き先の定まらない船旅に、皆を巻き込む訳にはいかない」という真意を表立って語ろうとしない不器用さは相変わらず。 

第96話での和解を経て尚……もとい「和解してしまったからこそ」殊更みんなに迷惑をかけられないエルザ。そんな状況では、レイたちが座り込みを行おうが ( “座り込み” が出てくる女児アニメ、何!?) 、きららやアリアが感謝を伝えようが平行線なのは明らかで、正直なところ、見ているこちらも「これで本当に説得できるのか……?」と不安になってしまった。しかし、そんな行き詰まりは「予想外の形」で打破されることとなる。

 

「失礼致します。エルザ様、昨日届きました手紙でございます」
「えっ」
「いつものように処分をッ!!」
「待って! これは、ヴィーナスアークへの入学希望……!」
「はい。アイカツ!ランキングの後も、途切れることなく毎日届きます。パーフェクトでなくとも、エルザ様のステージに感動した方々は大勢いるようです」

-「アイカツスターズ!」 第97話『Bon Bon Voyage!』より

 

アイカツ!ランキング決勝後、ユキエから「貴女は私にとってパーフェクト」という言葉を贈られたエルザ。それはエルザにとって大きな救いにこそなったけれど、彼女の中で育ちきってしまった「パーフェクトでなければならない」という楔を引き抜くものではなかった。 

そもそも「一人でパーフェクトになる」必要なんてないというのに、その強迫観念に未だ追い立てられているエルザ。彼女に対して、これまでヒントを与えこそすれ能動的に干渉してこなかったじいやが、敢えて口にしたであろう「パーフェクトでなくても」という言葉。瞬間、昇り始める “太陽” と、流れ始める (96話でもエルザとレイたちの和解シーンで用いられたBGMの) 『必ず来る夜明け』。  

 

「エルザ、君が何と言おうと、私たちの気持ちは揺るがないよ。目的を成し遂げるまで戦い続ける……そう、君から教わったから」
「えっ?」
「志を持つこと、チャレンジすること、どんな困難にも立ち向かうこと。そして……力を尽くしたその先に、必ず夜明けがあることを」
「……!」
「エルザ、君にとってお母さんが太陽であったように……私たちにとって、君こそが太陽なんだ」

-「アイカツスターズ!」 第97話『Bon Bon Voyage!』より

 

「どうして気付かなかったのか」と虚をつかれた思いだった。目的の為には手段を選ばず、太陽のドレスを手に入れるためにあらゆるものを利用してきたエルザ。自分はその非情さ・不穏さばかりに気を取られていて、彼女の歩みがどれだけの「偉業」かということを考えもしていなかったのだ。  

エルザの母=ユキエが太陽のドレスを獲得したのはおよそ数十年前。それ以降、おそらくあらゆる業界人やアイドルが「太陽のドレス」を求めて奔走したのだろうけれど、誰一人としてそれを手に入れた者はいなかった。それもそのはず、太陽のドレスとはアイドルの「輝き」に反応して表れるもの。時間や金銭があれば手に入るというものではなく、だからこそ、太陽のドレスは幻の存在とされてきたのだろう。 

しかし、エルザはそんな “幻の存在” をたった一人で――太陽のドレスを研究し、ヴィーナスアークを立ち上げ、自分自身の輝きを磨き続けることで手に入れてみせた。 

第58話『ミラクルオーディション!!』でも触れられていたけれど、エルザの本質はあくまで努力家。確かに「アイドルたちを自分の目的の為に利用した」ことは褒められたものではないけれど、それでも「志を持って、どんな困難にも立ち向かい、力を尽くしたことで、誰も手が届かなかった “太陽のドレス” を掴んでみせた」という偉業は紛れもない事実。それを一人きりで成し遂げたエルザの姿は、一体どれだけのアイドルにとって「希望の太陽」だったろう。

 

確かに、エルザはゆめに敗北してしまったし、ヴィーナスアーク解散をはじめとする彼女の行動が周囲の人々を振り回してきたのは紛れもない事実。けれど、彼女の行いは決して「否定されるべき “悪” 」ではなかったし、その行動には (不器用ながらも) 常に彼女なりの誠実さや、母への一途な想いが満ちていた。ゆめにしか照らせないものがあるように、エルザもまた、エルザにしか照らせないものをしっかりと照らし、導いていた。 

引用:感想『アイカツスターズ! 95・96話』あるいは「虹野ゆめ」総括 ー 手と手を繋いで立ち上がり、廻る光で世界を照らす “虹色の一番星” - れんとのオタ活アーカイブ

アイカツスターズ!という作品における「ヒール」であり、「みんなで輝く」とは対を成す存在だった孤高の太陽=エルザ。しかし、そんな彼女の輝きは、レイやきらら、アリアのような「すぐ側にいた友達」だけでなく、ヴィーナスアークの仲間たちや世界中のたくさんのアイドル・ファンたちをも熱く眩しく照らす炎だった。一番でなくとも、パーフェクトでなくても、彼女はたくさんの人々にとって「無二の太陽」であり、そんな “ありのままの自分” を受け入れることができたからこそ、彼女は初めて仲間たちの前で涙を見せたのではないだろうか。


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笑顔で花開く『Bon Bon Voyage!』

 

で、問題は「ここから」だった。

 

「おはよう、エルザ」
「「「おはようございます、エルザ様!」」」
「おはよう皆。一緒に朝食はいかが?」

-「アイカツスターズ!」 第97話『Bon Bon Voyage!』より

 

エッ!?!?

 

「本日のモーニングステーキは “エルザビーフ” でございます」
「「「エルザビーフ?」」」
「はい。エルザ様は究極のステーキを味わう為に、ブランドビーフを作っていたのです」
「エルザビーフを食べるのは今日が初めて。とっておきの日に、皆と一緒に食べたいと思って」
「ふふっ、エルザ、やはり君は実に興味深いよ」
「冷めないうちに頂きましょう?」

-「アイカツスターズ!」 第97話『Bon Bon Voyage!』より

 

エッ!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!

 

「美味しい~!」
「とってもデリシャスです!」
「結構なことね。……じいや、私の皿にサラダを」
「え、エルザ様!? 今なんと……」
「好きなものばかり食べていては、栄養が偏ってしまうわ。様々な個性を大切にするアイカツのように “食事もバランスよく” でしょ?」
「エルザお嬢様……! ただいま!」

-「アイカツスターズ!」 第97話『Bon Bon Voyage!』より

 

エルザ様大好き~~~~~~~~!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

ホント、ホンッッットにこのパート、特にここでのエルザ様が最ッッッ高………!!  

予てからヴィーナスアークの面々は「見た目以上に癖が強い」キャラクター性をシリアスな場面で覗かせることが多く、特に「あれで野菜嫌いなエルザ」はシリアスな場面でチラッと匂わされるに留まっていたので、笑いどころなのかそうでないのか分からない=考察の材料にするか、「おう、可愛いところもあるじゃあねェか……」と何とも言えない面持ちで受け止めるかのどちらかしかできなかった。 

が、晴れ晴れしいニコニコ日常系癒しアニメと化したこのパートは全く別。いつもの高貴な口調で「嫌いな野菜に挑戦する」という年相応で可愛らしいギャップに満遍なくニコニコできるし、彼女が遂に浮かべた本物の「満面の笑み」にも遠慮なく叫ぶことができた。爆萌え!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 

これまで「誰もが心からの笑顔を浮かべている」ということがついぞなかったヴィーナスアーク。その在り方そのものが間違っていた訳ではないけれど、それはそれとして彼女たちが一様に笑顔を浮かべていることがたまらなく嬉しかったし、感極まってエルザのことを「エルザお嬢様……!」と呼んでしまうじいやの姿にも涙しそうになってしまった。 

エルザは勿論「ヴィーナスアーク全体」を救い、こうして彼女たちの「笑顔一杯の日常まで描いてくれる」というこの凄まじい待遇は、曲がりなりにもヒールポジションだった組織のアフターエピソードとして極めて破格だと思うし、本話がまるで「本編後のOVA」のように感じられてしまうのも、そのような「本来TVアニメの尺では見られないレベルの厚待遇」が大きな要因なのかもしれない。  

(本編後OVAになってようやくヒール側にこれだけの尺が割ける、というのが大半だろうし、100話という尺の有効活用すぎる……!)

 

と、ここまで来れば「誰が何を歌うのか」はもう明らか。ステージ裏で一堂に介するエルザ、レイ、きらら、アリアの姿に目を細めつつ、来る「4人での『Bon Bon Voyage!』」に――

 

「ホールは満員だね」
「嬉しいです! この4人で歌えるなんて、とっても嬉しいです……!」
「そういえば初めてだね、私たち4人でのステージは」
「絶対、ぜーったい、最高のステージにしようね!」
「当然よ、ヴィーナスアークは世界最高のアイドル学校。私たちのステージは、見る者全てのハートを奪う! さあ、行くわよ!」
アイカツの花を咲かせましょう!」
「きららと見よう? ふわふわないい夢を!」
「全ては、ヴィーナスアークとエルザの為に!」
「私こそが――いいえ、私たちこそが、パーフェクト!」

-「アイカツスターズ!」 第97話『Bon Bon Voyage!』より

 

――気を取られていたので、ここにきての「決め台詞が変わる」という隠し球クリティカルヒットしてしまったし、ヴィーナスアークのスクールドレスを纏った4人の集合カットで声を上げて泣いた。  

彼女たちがゆめたちと同じ「アイカツスターズ!の主人公」のように描かれたことが嬉しくてたまらなかった……というのは勿論、その華やかさがかえって「ヴィーナスアークのラストライブ」らしさを引き立てていたからかもしれない。

 

Bon Bon Voyage! ~エルザ & きらら & レイ & アリア ver.~

Bon Bon Voyage! ~エルザ & きらら & レイ & アリア ver.~

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かくして披露される、4人での『Bon Bon Voyage!』。4人がステージで共に歌っていること、その歌がよりによって自分の大好きな『Bon Bon Voyage!』であることに感動する一方、その歌がまるで「4人の新たな旅立ち (別れ) 」のように聴こえてしまうことには切なさもあった。ところが、ライブが終わるなり発表されたのは「ネオ・ヴィーナスアーク」という新たな旗印。  

「ヴィーナスアークが解散しない」ということの喜びの隣で「ネーミングセンスゥ!?」というツッコミが浮かんでしまうものの、こういう名前にせざるを得なかった=エルザたちが「ヴィーナスアークという名前を残したかった」結果なのだとしたら嬉しいし、それはそれとしてこの名前をエルザが自信満々に名付けてたら可愛すぎる。どっちに転んでも美味しい最高のネーミング、実に興味深いね……!! 

が、ネーミングセンス周りのあれこれはあくまで二の次。重要なのは、そんなネオ・ヴィーナスアークの「目的」だ。

 

「さようなら、ジャパン。ありがとう、輝くアイドルたち。――さあ、行きましょう。新たなアイカツを目指して!」
「「「はい!!」」」

-「アイカツスターズ!」第97話『Bon Bon Voyage!』より

 

かつては優秀なアイドルを引き抜いていく姿から「アイドル海賊」と呼ばれたヴィーナスアーク。しかし、ネオ・ヴィーナスアークが奪うのは「見る者のハート」であり、その航海はまだ見ぬ新たなアイカツを目指すもの。それは、エルザが「パーフェクト」の呪いから脱して次なるステージへ進んだ証左であるだけでなく、これまでヴィーナスアークとはズレているようにも思えた『Bon Bon Voyage!』の歌詞そのものでもある。この歌は、最後の最後に「ヴィーナスアークのテーマソング」として見事花開いたと言えるのではないだろうか。  

(思えば、作中では第29話『本当のライバル』で初披露された『1, 2, Sing for You!』も、ローラの「わたしだけの歌」として真に花開いたのは作中終盤のことだった。意図してのことかどうかはともかく、このように「歌が物語を経て完成する」カタルシスは、本作における一つの真骨頂と言えるように思う)

 

森のひかりのピルエット(TV Size)

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さらば、ヴィーナスアーク

 

かくして、今度こそ本当に日本を発つことになったネオ・ヴィーナスアーク。ゆめに宣戦布告しつつ固い握手を交わすエルザにほっこりしたり、さらっとユーリとユニットを組んでいるゆり先輩に「ドッペルゲンガーと組むのヤバない!?」といらぬ心配をしてしまったり、あこときららの別れに「本当に84話が2人のラストエピソードだったのか……」と切なくなったりする中で、ある意味最も衝撃を受けたのがこのやり取り。

 

アリス・キャロル、ネオ・ヴィーナスアークへの乗船を希望します!」
「アリス……。私は貴女を見捨てたわ、恨んでないの?」
「私の心の中にあるのは “Merci” ……感謝の気持ちだけです。四ツ星学園で学び、成長した私を見て頂きたいんです」
「アリス……」
「乗せて頂けますか?」
「勿論、大歓迎よ!」
「エルザ様……!」

-「アイカツスターズ!」第97話『Bon Bon Voyage!』より

 

ヴィーナスアークを下ろされ、(作中描かれている限りでは) 四ツ星学園で目ぼしい成果を残すこともなかったアリス・キャロル。しかし、エルザに胸を張って「感謝」を伝えるアリスの姿を見れば、彼女が序盤とは別人のような成長を遂げているのは明らかだった。

 

 

セルフプロデュースを骨子に、アイカツの光と闇に真っ直ぐ向き合った『アイカツスターズ!』において、当初アリスは「実力主義」という避けられない現実のメタファーであるのかと思っていた。 

しかし、その後彼女は四ツ星学園で仲間に恵まれ、エルザ相手にサプライズを買って出るだけの勇気を手に入れ、ゆめと共に歌うことで大きな輝きを作り出す喜びを知り、それら全ての経験によって、自らの世界を大きく広げてみせた――。それは『アイカツスターズ!』という作品の中でも特に「実力主義」の側面を色濃く担ったヴィーナスアークを出身とした彼女だからこそ描き出せた、「けれども、成果を残すことだけが全てではない」という、本作における一つの回答なのではないだろうか。

 

そして、そんな「ヴィーナスアークならでは」の物語を見せてくれたのは当然キャロルだけではない。

 

ゆめ以上に純粋だったからこそ「本気のアイカツ」の眩しさを鮮やかに描き出してみせたアリア。 

 

良くも悪くもワガママなアイドルだったからこそ、想い、想われることで人は変われると体現してみせたきらら。 

 

「どんなに歪だったとしても、信念を真っ直ぐ貫くことで道は切り拓くことができる」と己が身を持って示してみせたレイ。 

 

そして「志を持ち、どんな困難にも立ち向かう者」には必ず夜明けがあることを教えてくれたエルザ。


四ツ星以上に曲者揃いで、だからこそ当初は「ゆめたちほど好きになれる気がしなかった」ヴィーナスアーク。けれど、そんなマイナスのスタートだからこそ、彼女たちの魅力にグングン引き込まれていく2年目が楽しくてしょうがなかったし、彼女たちが一筋縄では行かないライバルとして立ちはだかったからこそ、ゆめたちは世界で輝くアイドルになることができた。そして、そんな彼女たちにも惜しみなく愛を注ぎ、こんなにも笑顔で満ちた花道を用意してくれる――そんな作品だからこそ、自分はこの『アイカツスターズ!』が好きで好きでたまらないのだろうと思う。  

後年製作されたオールスター作品『アイカツオンパレード!』においては、『アイカツスターズ!』からもアイドルたちが参戦し、その中にはなんとエルザまでいるのだという。そこにレイやきらら、アリアはいるのかどうか。ネオ・ヴィーナスアークとしての航海は、彼女たちのアイカツをどんなステージに導いたのか。来る再会に胸を踊らせつつ、続く「四ツ星学園」メンバーとの別れにも向き合っていきたい。

 

 

「卒業……。そして別れの季節ですね、ゆず」
「リリエンヌとお別れするのヤダよ~っ!うえぇぇ~~ん!!」
「次回、アイカツスターズ!『ゆずっとリリィ☆』掴め、アイドル一番星!」

-「アイカツスターズ!」第97話『Bon Bon Voyage!』より