感想『ウルトラマンレグロス』- “荒削り” や “尺不足” を補って余りある、熱く切ない新世代の拳〈ネタバレあり〉

『ウルトラギャラクシーファイト 運命の衝突』にて姿を表した謎の戦士、ウルトラマングロス。レオ・アストラと旧知の仲であること以外は全てが謎に包まれた彼の過去が、初登場から1年の時を経て遂に明かされた。


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引用:『ウルトラマンレグロス』公式WEBサイト

 

作品の名はウルトラマングロス。 

新たなTVシリーズウルトラマンブレーザー』とは対極に位置するであろうこの作品は、60分という尺もあってやや荒削りな部分もあれど、十二分に「ウルトラの新たな未来を拓いた」と言って差し支えない斬新さと確かなクオリティ、そして何より余韻のあるビターな美しさに満ちたものだった。 

ウルトラマングロス』の物語は来月配信開始の『ファーストミッション』も控えているけれど、こちらは本作とは全く異なる方向性で嵐を巻き起こす作品の様子。その嵐に備える意味合いも込めて、『レグロス』の魅力や見所を早々に振り返ってみたい。

 

 

《目次》

 


ウルトラマングロスとは

 

ウルトラマングロス』は、2023年5月23日に「前編」6月6日に「後編」が、それぞれ円谷プロダクション公式映像配信サービス『TSUBURAYA IMAGINATION』上で配信となったウルトラシリーズ最新作。 

坂本浩一監督&足木淳一郎氏という『ウルトラギャラクシーファイト』シリーズでお馴染みのタッグが贈る、同作のスピンオフにして、ウルトラシリーズの中でも極めてイレギュラーな部類の作品だ。

 

 

というのも、この作品はなんと「人間」が一切登場しない完全な仮面劇。「ファイト」シリーズや『うるころ』『ウルトラマン物語』といった特別な作品を除けばこれは史上初のことであるし、『ギャラクシーファイト』シリーズの成功を踏まえたであろう「仮面劇で本格的なドラマを描く」という試みは、やや頭打ち状態も見え始めた『ギャラクシーファイト』シリーズは勿論、ウルトラシリーズそのものの可能性を広げる試金石として大きな期待がかかるもの。

各方面から様々な期待の声が上がりつつ、遂に訪れた5月23日。『ウルトラマングロス』前編が配信開始となった。

 

 

かくして臨んだ本編は、率直に言うなら「思った以上に新鮮」で、同時に少しばかりの「違和感」を伴うものだった。その一番の理由は、おそらく「人間が登場せず、レグロスがずっとウルトラマン態のまま」であること。「変身ヒーロー」であるはずのウルトラマンに「変身」がないことの違和感だ。  

それは「ファイト」シリーズも同じだったけれど、同作はステージショー的な構成でドラマ性は恣意的に抑えられていたし、配信上は短く区切られていた。しかし、この『レグロス』は1話ほぼ30分という通常の作品と変わらない尺であり、従来のTVシリーズのように「日常」があり「バトル」がある。謂わば、本作は『ギャラクシーファイト』シリーズの手法で「従来のシリーズ」を作る、という両ノウハウの合の子と言えるだろう。 

その結果、本作は「見たことのないウルトラシリーズだ……!」というワクワク感・楽しさがあると同時に、「戦闘パート」のような区分けがはっきりしていない=メリハリが弱いことによる、若干の冗長感を伴うものにもなっていたように思う。 

しかし、新しい手法のシリーズにこのような違和感はつきものであるし、作品側でなく、見ているこちらが「不慣れ」なだけというのもあるだろう。この点については、今後の更なる展開とブラッシュアップを楽しみに待っていたい。  

 

 

「テンプレ的な物語」という巧さ

 

「完全な仮面劇」という斬新さと帳尻を合わせるかのように、『ウルトラマングロス』の筋書きは非常にシンプルなもの。まとめようとすれば「記憶喪失の青年レグロスが、流れ着いた星の戦士たちと交流を深め、やがて彼らの意志と力を継ぐ戦士となる」という一文でまとめることもできるだろう。 

良く言えば王道、悪く言えばn番煎じの「格闘漫画やアクション映画でお馴染みのプロット」ではあるけれど、しかし、そのような馴染み深い=安定したプロットだからこそ、これまでにない『レグロス』の世界観にもすんなり入り込めるし、それはそれとして「坂本監督がそういう(自身の大好きな)物語をウルトラでやりたかった」という節もあるだろう。 

その真相は分からないけれど、自分が『レグロス』で何より巧いと感じたのは、そのような王道プロット=ある種の「テンプレ」を使うことによって、本作で最も懸念していた「尺不足」という欠点を見事にカバーしていることだ。 

 

 

ウルトラマングロス』に与えられた尺はたったの60分。この尺でキャラクターを立たせることは元より簡単ではないけれど、こと今回は「全編が仮面劇」というおまけ付き。 

しかし、本作は最終的に「幻獣闘士が全滅する」ということが予め分かっている作品。尺が短くても、全編が仮面劇だったとしても、どうにかレグロスや幻獣闘士たちに愛着を持てなければ盛り上がろうにも盛り上がれない。そんな状況で切るカードとして「格闘漫画 / アクション映画でお馴染みのプロットを流用する」という手法は非常にクレバーだったように思う。 

というのも、作品の骨子がある種「テンプレ的」であるおかげで、主人公=レグロス (CV.仲村宗悟) をはじめ、尺の都合上最低限の描写しかできない各キャラクターたちの役割や関係性、キャラクター性について、尺以上の情報を勝手に脳内で補完できてしまうのだ。
コスモ幻獣拳総師、マスターアルーデ (CV.大塚明夫) は幻獣闘士たちの父親のような存在だったのだろうし、アルビオ (CV.増田俊樹) やファルード (CV.前野智昭) は、レグロスたちを導きつつ、時に教えられることもあったのだろうし、スピカとディアス (CV.伊藤美未/CV.石田彰は、レグロスたちと時に助け合い、時にぶつかり合いながらも様々な試練を越え力を高め合っていた名物トリオなのだろう……と、各キャラクターが「あるある」に寄せられているからこそ、尺が短くても、全編が仮面劇でも、どのキャラクターもその背景や出来事があることもないことも容易に想像できてしまうし、結果、彼らの背景に「尺以上の厚みがあるような気がしてくる」のだ。 

その効果もあってか、少なくとも自分は彼らの最期に想像以上のショックを受けてしまったし、特にインストラクターフォロス (CV.津田健次郎) 、トゥバーン (CV.森川智之) の兄弟がレグロスを守り、コスモビーストの力を託すシーンでは不覚にも涙ぐんでしまった。 

「テンプレ的」というのは本来悪い意味で使われがちな言葉で、実際、本作が「予め結末が分かっている物語」にしては少しばかり「捻り」が弱かったことは否定できないだろう(ディアスの真相も、もう少し本編に絡めた方が盛り上がったのでは、と思わなくもない)。しかし、それでも「結末が分かっている」「短い尺」「全編が仮面劇」という多くのハードルを越えて真に迫る物語を見せてくれた『レグロス』は、その時点で十二分に「見事」な作品と言えるのではないだろうか。

 

 

ウルトラマンレオ』前日譚として

 

『レグロス』という作品の見所として(筆者の周辺では)最も話題を集めていたのが、ウルトラマンレオ (CV.細谷佳正) の過去=在りし日のL77星が描かれるかもしれない、ということ。

 

 

今やすっかり「宇宙拳法使いの獅子座兄弟」「ウルトラ兄弟の7.8番目」「ウルトラマンゼロの師匠にして、セブン一門の重鎮」と立派な肩書きを背負ったレオ兄弟。しかし、実のところその背景は未だ多くの謎に包まれている。 

「レオとアストラはL77星の王子である」という設定は円谷プロダクションから公式設定とされているが、そのことは映像作品では一度も言及されたことがなく、L77星の風景を見ることができるのも 

・レオがペットのロンと共に遊ぶ風景を見ることができる、第10話『かなしみのさすらい怪獣』 

マグマ星人によるL77星崩壊の一端を見ることができる、第22話『レオ兄弟対怪獣兄弟』 

の2つのみ。 

彼らの背景に深く切り込んだ作品としては、これまで裏設定止まりだった「アストラはL77星の崩壊後マグマ星人に囚われ、その後ウルトラマンキングに助け出された」という設定がアストラ自身の口から語られた『ウルトラギャラクシーファイト 運命の衝突』Episode 10と、『K2』でお馴染みの漫画家・真船一雄氏執筆の漫画作品『ウルトラマンSTORY 0』が挙げられる。しかし『STORY 0』はあくまでパラレル設定であることが明言されているため、そのうちどこまでが「正史」と言えるかは不明瞭だ。 

これらのことから、今回の『レグロス』では「これまで謎に包まれていたレオ兄弟やL77星、あるいはそれらを襲撃したマグマ星人についての新情報が出てくるのではないか」と、ファン界隈では大きな騒ぎとなっており――そして、実際に「L77星をなぜマグマ星人が滅ぼせたのか」という点にほぼほぼ答えが出たことで界隈は大騒ぎとなった。

 

 

そもそも、マグマ星人と言えば『ウルトラマンレオ』第1話『セブンが死ぬ時!東京は沈没する!』においてレッドギラス・ブラックギラス兄弟を引き連れ地球を襲撃、防衛の任に就いていたウルトラセブンを戦闘不能に追い込むという大金星を挙げたものの、その後セブンの教えを受けたレオに敗退。後に第30話『怪獣の恩返し』で再登場した際には、宇宙鶴ローランに求婚を迫るストーカーという哀れな小物になり果てていた……という少し変わった来歴を持つ宇宙人。 

後者は「2代目」と呼称されることもあるため両者が同一個体なのかどうかは微妙なところだが、どちらにせよ「このマグマ星人が一人でL77星を滅ぼした訳ではない」というのが概ねファンの共通見解として定まっていた。 

では、一体誰がどのようにL77星を滅ぼしたのだろうか、その回答と見て間違いないのが「これ」だ。

 

 

惑星D60を襲ったのは、なんと無数の円盤 (戦艦?) と共に現れたマグマ星人の大群であり、それらを率いるのはマグマ侵略軍の提督=マグマ星人ヴォルカン (CV.黒田崇矢) 、マグマ地獄兄妹の兄にしてマグマ侵略軍隊長=マグマ星人ユラブ (CV.外島孝一) 、同じく副隊長にして、ユラブの妹=マグマ星人ラバ (CV.春川芽生)そう、レオたちの故郷=獅子座L77星は、マグマ星人の侵略軍によって滅亡していたのである。 

(彼らや他シリーズの個体がギラス族の怪獣を引き連れていなかったことから、ギラス兄弟を操るのは「セブンを倒したあのマグマ星人に固有の特性」と考えることができる。『レオ』第30話ではローランに求婚もしていたし、さてはケモナーだなコイツ!?)

 

しかし、L77星の滅亡は単なる「多勢に無勢」によるものではなかったらしい。注目すべきはマグマ侵略軍提督=ヴォルカンの纏う鎧で、どう見てもアーマードダークネスなこの鎧は彼曰く「エンペラ星人の鎧を模したもの」……つまりは、なんとあのアーマードダークネスのレプリカということになる。 

そんなものがマグマ星人に作れるのか!? とも思ったけれど、思えばアストラの脚から取り外せない拘束具=マグマチックチェーンは、あのウルトラマンキングにさえ外すことができなかったという脅威的な代物。マグマ星人はその野蛮な生態に反して、我々が思っているよりずっと文明レベルの高い宇宙人なのかもしれない。 

その点含め、これらマグマ星人の設定は非常に納得かつ好みなのだけれど、ヴォルカンが急に「マグマ毒手拳!」と必殺拳を繰り出す(サーベルで殺害するのは画的にアウトだったのだろうか)ことや、ユラブとラバの演技プランが子どもっぽい (若い) もので、侵略軍隊長・副隊長という肩書きの説得力が弱かったのが少し残念。外島氏や春川氏はクールで迫力のある声にも定評があるので、願わくばそちらでお願いしたかった……!

 

 

ディアスと本作の時系列

 

『レグロス』を見終えて気になった……というより、考えたくなったのが「アブソリューティアンの介入と、正史の行方」について。

 

 

謎の戦士ディアスの正体は、アブソリューティアンであることを隠し、未熟な拳法家であることを装う為に姿を変えたアブソリュートディアボロ (CV.小川輝晃) であった。
ディアス=ディアボロについては自分含めTLの大半が予想していた……というか、CV石田彰含めて製作陣も隠す気0である。石田彰はよく裏切る、が円谷プロダクションにも共通した見解だったなんて……! 

しかし、予想できなかったのは「どこまでが正史なのか」という点。ディアスが「ディアボロの過去の姿」ではなく、しかも「D60マグマ星人が滅ぼしたことも、アブソリューティアンの手引きによるもの」だなんて、それは流石に予想できなかった。

 

 

しかし、そうなると気になるのは「正史だとレグロスたちやD60はどうなっているのか」ということ。マグマ星人が来なければ、そもそもD60は滅ばず、幻獣闘士たちも存命なのでは――と思ったけれど、キングに助けられて以降、宇宙で仲間を探し続けていたとされるアストラがレグロスの生存に驚いており、更に『ウルトラギャラクシーファイト 運命の衝突』Episode7においてコスモ幻獣拳を「伝説」と呼んでいることから、その線は「無い」とほぼ確定してしまっている。 

これに加え、コスモ幻獣拳がアブソリューティアンが狙うほどの価値と力を持っていること、そしてマグマ星人ラバの「剥製にしたら高く売れそう」という台詞からして、おそらくD60マグマ星人が来なくても何者かに滅ぼされてしまったか――あるいは、レグロスと幻獣闘士たちの方からマグマ侵略軍に挑み、倒されてしまったのかもしれない。タルタロスとディアボロがあの時代を選んだのも、「マスターアルーデができるだけ老いている+彼らが滅びてしまうより前のタイミング」だと考えれば、それはまさしく絶好の機会だったのだろう。 

(マグマ侵略軍が正史でもその姿を消しているのは、おそらくアストラを救出したウルトラマンキングに滅ぼされてしまったからだろう。ほとんどのマグマ星人が傭兵や賞金稼ぎを生業にしているのは、居場所を失った残党だからかもしれない)

 

 

 


総評 ~『ウルトラマングロス』の功績

 

本作の気になる点を振り返って、改めて「ああ、良い作品だったなぁ」としみじみ浸ってしまう。作品が一義で「面白かった」のは勿論だけれど、本作が様々な「ウルトラの未来」を垣間見せてくれたことも大きな理由だ。 

「仮面劇によるドラマ」は、サプライズやアクションをもうすぐでやり尽くしてしまいそうな『ギャラクシーファイト』シリーズの可能性をもう一段階高い場所に引き上げてくれた。 

ウルトラシリーズで初めて、地球人外の、かつ「ウルトラの星」でない天体の風土・文化が描かれたD60の描写は、今後のウルトラシリーズの舞台を更に広げてくれた。 

本作で深堀りされたレグロスは、「過去を失い、唯一の拠り所も奪われた哀しき戦士」という、まさに「新世代のレオ」とでも言うべきアイデンティティーを手に入れた。 

(コスモ幻獣拳の紋章はレオ兄弟のシークレットサインのようだし、両手の枷が「アブソリューティアンに付けられた拘束具」なのは考えるまでもなくアストラのオマージュだろう)

 

そして、本作の物語が魅力的だったことで当時何かと物議を醸した『運命の衝突』が遂に100%の魅力を爆発、文字通りの「傑作」に変貌してみせた。

 

 

図らずもアルーデと同じ言葉を受け、怒りや憎しみから解放されるレグロスの姿は当時と比べようもないほど涙腺に響くし、続くEpisode9における「幻獣覇王拳」のくだりはもはや別物レベルの名シーン。 

様々な挑戦を見せてくれたがイマイチ評判が良くなかった『運命の衝突』。その魅力がこうして真に発揮されたことは、『レグロス』と合わせて今後のウルトラシリーズを力強く支えていく試金石になるだろうし、これらの一連は、ウルトラマングロスがウルトラの未来を引っ張っていける存在だと感じさせてくれるに十分なものだったように思えて、それが何より嬉しかった。ありがとう、ウルトラマングロス……!

 

 

更なる物語へ -『ファーストミッション』

 

既に十分以上に満足させて貰えた『レグロス』だけれど、なんとその物語はまだまだ終わらない。

 

 

ウルトラマングロス』→『ウルトラギャラクシーファイト 運命の衝突』の次の時系列にあたり、坂本浩一監督が手掛けるバトルステージ。

 

 

そして、その更に後の物語であり、リブットの帰還や「海外ウルトラマン」の大集結が描かれる『ウルトラマングロス ファーストミッション』! 

まだまだ終わらない、むしろこれから始まっていく若き獅子=レグロスの物語。彼がこの先どのような物語を築いていくのか、ヴォルカンが悟った彼の正体とは何なのか……。 

新たなウルトラ戦士の行く先と、彼のS.H.Figuartsがどうにか再販される日が来ることを、これから楽しみに見守っていきたい。