ウルトラマンデッカー『繁栄の代償』で帰還したウルトラマンダイナは “なぜ、喋らなかったのか” 

ウルトラマンダイナが大好きだ。大好きのダイナだ。 

生まれて初めて見たウルトラシリーズ……ひいては特撮ヒーロー作品が「ウルトラマンダイナ」第37話『ユメノカタマリ』であり、中学生時代に本格的に触れた結果幾度となく号泣してドハマりした自分にとって、ダイナは他のウルトラシリーズとは一線を画する特別な思い入れのある作品。 

そして、そんな『ダイナ』の25周年となる2022年も終わろうという12月10日。事件は起こった。


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引用:『ウルトラマンデッカー』第21話「繁栄の代償」-公式配信-  -YouTube

 

ネオジオモスのリメイク怪獣」が出るだけでも驚きだったというのに、お出しされたのはなんと未来からやってきたウルトラマンダイナ本人!! 

登場直前、ソルジェント光線のSEが聞こえた時は全てを察して息ができなくなってしまったし、エースやティガが客演した『19話』がトリガーの再登場に充てられたことで「デッカーとダイナの客演は、もしかして早春の完結編に回されるのでは……」と思っていたので、その驚きはおよそ去年の比ではなかった。

 

しかも、今回登場したダイナの変身バンクは本編初期のみで使われたフルCGバージョンのリメイク! BGMまでバッチリ当時のもの (♪変身の時) で、スーツも新造で体型も綺麗と至れり尽くせり。 

スーツアクターを務められたのは『X』で客演したウルトラマンマックス初代ウルトラマンで「らしさ」全開のアクションを見せてくれた石川真之介氏。そのため、今回のダイナもヤクザキックをはじめとする「らしさ」抜群の力強いモーションや完璧なポーズを披露してくれたし、そこからお出しされる「フラッシュサイクラーによるバリア破壊」や「ゼロ距離ソルジェント光線」という『ダイナ』本編のオマージュや、当時の演出を完全再現しまさかの復活を遂げたウルトラフォーク (ウルトラストレート?) 、そして極め付けにはまたも当時のCGバンクを再現してみせたストロングタイプへのタイプチェンジ……!! 

ネオジオモスとデスフェイサーの転生版 (?) を相手取る姿としてストロングを選んでくれたことだけでも感激なのに、ビームの嵐を並んで駆け抜けるダイナとデッカーの姿はおそらく『ダイナ』の『滅びの微笑 (後編) 』をオマージュしたもの。何……何この奇跡の5分……!? 

(ちゃんとテラフェイザーにダイナックルを、それも『ティガ&ダイナ』と同じアングルで打ち込んでくれたのも素晴らしかった……!)

 

そんなダイナ周りの演出以外にも、ジオモス→ネオジオモスの進化を意識したであろうスフィアザウルスを吸収してのパワーアップや、(おそらく) ネオマキシマと同じ領域に達したことが示唆されることで、ジオモスを産み出すものとしての十分な説得力を持っていたSプラズマ増殖炉など設定面にもこだわりが見られ、更には「あくまで『デッカー』の一編」として縦軸に組み込まれた作りになっており、サブタイトルの『繁栄の代償』がダイナにもデッカーにも通ずるものとなっているなど、シリーズ構成も兼任される足木氏や、我らが田口監督のこだわりが溢れ出していた今回のエピソード。 

そのトピック一つ一つについて語っていきたいのは山々なのだけれど、上記のように文章量がとんでもないことになってしまうのはもはや目に見えている……ので、今回はその中でも、ウルトラマンダイナが「喋らなかった」件をピックアップ。その理由についての考察を、備忘録も兼ねて残していきたい。

 


Sプラズマ増殖炉という超技術をスフィアが取り込み誕生した強敵=スフィアジオモス。スフィア合成獣の中でも段違いに強力なバリアや苛烈な広範囲攻撃といった「かつてのネオジオモスと同じ能力」を誇るだけでなく、時空に影響するSプラズマ増殖炉の力を応用することで、未来からスフィアザウルスを召喚するという離れ業を披露するスフィアジオモスだったが、そのために開いた時空間ゲートから現れたのはスフィアザウルスではなく、未来で戦うもう一人のウルトラマン=ウルトラマンダイナ!

 

(登場時のファンファーレ~戦闘BGM『変身の時』はこちらのCD、ないしCD-BOXに収録)

 

前述の通り、原作再現たっぷりの熱いファイトを見せてくれた今回のダイナ。ウルトラフォークを使うことや後述の台詞、去り際の(あまりにも ”粋” すぎる)サムズアップなどに鑑みても、彼はおそらくアスカ・シンが変身したダイナその人。 

しかし、だからこそそのダイナが最初から最後まで一言も喋らないことが少し不思議に思えてしまった

 

 

タレントとして精力的に活動する傍ら、『ダイナ』への愛もあって度々アスカ・シンとしてウルトラシリーズに帰還してくださったつるの剛士氏。11月下旬の上記投稿に鑑みても、もし『デッカー』にダイナが客演するのなら、つるの氏=アスカの登場も確実だろうという雰囲気がファン界隈ではある程度醸成されていたようにも思う……が、いざ放送された本エピソードにアスカは登場せず、台詞もあくまでテレパシーのような形で贈られたものだった。 

「出る材料は揃っていた」ものの、その姿を見せなかったアスカ・シン。このことにはSNSでも様々な憶測が飛び交っているけれど、自分はおそらく「敢えて出さなかった」のではないかと思う。 

その理由としては「あまりに『ダイナ』すぎて “客演編” になってしまうことを製作陣が危惧した」……など諸々考えられるけれど、自分はそれ以上に「この客演の持つ意味」を製作陣が慎重に考えた結果なのではないか、と感じた。

 

 

ダイナというウルトラマンの特徴として挙げられるものの一つに「客演の多さ」がある。 

『大決戦!超ウルトラ8兄弟』ではパラレルワールドのアスカ/ダイナが登場し、『ウルトラマンZ』及び『ウルトラギャラクシーファイト 運命の衝突』では、技で召喚されるスタンド (ジョジョの奇妙な冒険) のような極めて特殊な扱いでの参戦となったが、最も多いのは意外にも『ダイナ』最終回で光に消えたアスカ・シンその人が登場する形での客演だ。

 

『大怪獣バトル ウルトラ銀河伝説 THE MOVIE』では本編後のアスカが初めてその姿を見せ、『ウルトラマンサーガ』では実質的な主人公格として、ウルトラマンとして別時空の地球を守るアスカの姿、そしてあまりにも理想的な形で『ダイナ』のその後が描かれた。そして、現状最後の本格的な客演となる映像作品=『ウルトラマンオーブ THE ORIGIN SAGA』では、ガイの良き先輩として朋友のウルトラマンコスモス=春野ムサシと共に活躍した……と、その客演回数は実に3回。 

加えて『劇場版 ティガ・ダイナ&ウルトラマンガイア 超時空の大決戦』や『劇場版 ウルトラマンギンガS 決戦!ウルトラ10勇士!!』(どちらもつるの氏が声を新録されている) のダイナが本人であった場合はなんと5回も本人が客演したことになり、繋がった世界観がベースにある光の国のウルトラマンやニュージェネレーションヒーローズを除けば、この回数はまさしく圧倒的と言えるだろう。

 

 

このように、シリーズで度々客演を果たしてきたウルトラマンダイナ、もといアスカ・シン。『銀河伝説』や『THE ORIGIN SAGA』では、当時のアスカを感じさせる熱血な一面が、『ウルトラマンサーガ』では精神的に大きく成長した「先輩戦士」としての側面が描かれるなど、彼はヒーローの客演で求められる「その後の在り方」がこれ以上ないほど丹念に描かれた、特撮史でも非常に稀有なキャラクターへと成長。『ダイナ』最終回で涙したファンとしてはこんなに嬉しいこともないし、これからもつるの氏が望まれる限り何度でもアスカが見たい……のだけれど、この「数多くの客演で “その後のアスカ” 像が確立された」ことこそが、今回の『デッカー』につるの氏が出演されなかった理由なのだと思う。というのも、つるの氏が今回の『デッカー』に出演された場合、それは「ウルトラマンダイナ=アスカの帰還」ではなく「これまでも描かれてきた客演の延長」になってしまうのではないだろうか。 

今年は『ダイナ』25周年のアニバーサリーイヤーであり、おそらくここまでダイナがフィーチャーされる機会は後にも先にもないと思う。そんなオンリーワンの記念年に、他でもない「TVに」帰ってくるウルトラマンダイナの雄姿。それはこれまでの客演に埋もれることのない特別なものであってほしいし、他でもない製作陣こそがそれを願っていたに違いない。その結果として製作陣が出した答え、それが今回の「喋らない」ウルトラマンダイナだったのだろうと思う。

 

 

今回のウルトラマンダイナは、『デッカー』の設定からして、おそらく前述の『サーガ』など様々な客演のずっと先=遥か未来で戦うアスカその人。しかし、その演出は『サーガ』で描かれたような「その後のダイナ」を意識したものではなく、あくまで「TV放送当時のダイナ」を強く意識したものになっていた。 

変身バンクは以降の客演で使われていないフルCGバージョンのリメイク。BGMの『変身の時 (われらのダイナ) 』も『ティガ・ダイナ&ガイア』でのアレンジが最後で、フラッシュサイクラーもウルトラフォークもTV以来の登場……。もしかすると、これらはただシンプルに「これまで使われなかった演出で差別化しよう」という意図で使われただけかもしれないけれど、それは「“その後のダイナ” は十分に描かれたのだから、今やるべきことは “あの頃のダイナ” を今の技術でTVに帰還させること」という製作陣の意志の表れだったようにも感じられる。 

自分が何よりそう思えたきっかけは、ダイナからデッカーにかけられたこの一言。

 

「未来は、誰にも分からない」

 

この台詞の元となっているのは、『ダイナ』第20話『少年宇宙人』。新天地を探す使命を背負ってしまったラセスタ星人の少年=悟が、母や親友のいる地球を離れて旅立つ姿を描いたシリーズ屈指の傑作エピソードだ。

 

『ダイナ。地球を出たら、もうたっちゃんもみのっちもいない。それに、母さんも……。僕は怖いんだ。新しい星は見つかる? 新しい仲間と友達になれる? ぼくは、ぼくは……どうなってしまうの?』
「悟……」
『君の未来は、誰にも分からない。なぜだか分かるかい? それは、君が創っていくからなんだ』
『創る……?』
『そうだ。どこへ行っても、どんな時も、君の未来は……君が、君の手で創っていくんだ』

 

このラセスタ星人=悟のように「負の可能性」という暗闇に怯え、路頭に迷いかけているデッカー=カナタ。そんな彼にダイナが託すものとして、この言葉以上に相応しいものもないだろう。 

しかし、この一言が改めて使われたことがどうしようもなく胸を打つのは、それが当時の悟や今のカナタに向けられたものであると同時に、未曾有のパンデミックを生きる今の子どもたちに向けられているものでもあるからではないだろうか。

 

「たとえどんな世界であっても、その未来は君たち自身のものであり、君たちの手で良いようにも、悪いようにもできる」……。1997年という「希望と不安の狭間」と言える時代の子どもたちに向けられたメッセージは、25年が経った今も変わらない強さと厳しさ、そして暖かさを湛えたもの。 

そんなメッセージを送ってくれた今回のウルトラマンダイナは、その演出もあって紛れもない「あの頃」のウルトラマンダイナであったし、だからこそ「その後のアスカ」そのものである現在のつるの氏は出演しなかった=今回登場したウルトラマンダイナは "喋らなかった" のだと思えてならない。

 

またアスカに会いたい、という思いは勿論あるものの、今回の決断を下し、「あの頃のウルトラマンダイナ」にもう一度会わせてくれた製作陣……とりわけ、田口監督と足木淳一郎氏に「あの頃の子ども」として、今は何より最大の感謝を捧げたい。本当に、本当にありがとうございました……!

 

ヒカリカナタ

ヒカリカナタ

 

本エピソード『繁栄の代償』は、ダイナが客演する一大イベント編でありながらも、しっかりと『デッカー』の一編として大きな意味を持つシナリオとなっていた。 

このエピソードが『デッカー』においてどんな意味を持つのか、地球人がバズド星にスフィアを招いたというアガムスの言葉の真相は何なのか、ダイナ=アスカとサムズアップで想いを交わしたカナタは、果たしてアガムスを救うことができるのか……。まだまだ考えたいことはたくさんあるのだけれど、気が付けば次回はもう第22話。

 

 

そう、始まったばかりだと思っていた『ウルトラマンデッカー』も残すところなんとたったの4話……!  

ダイナの参戦を終えて、いよいよ本格的なクライマックスへ突入するであろう本作の行く末を『トリガー』『デッカー』のファン、そして他でもない『ウルトラマンダイナ』に育てられたかつての子どもとして、しっかりと見届けていきたい。


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引用:『ウルトラマンデッカー』第21話「繁栄の代償」-公式配信-  -YouTube