感想『ウルトラマンブレーザー』第1話 ー 令和の世界に “怪獣プロレス” が吼える、挑戦と安心のファースト・ウェイブ

2023年7月8日。『空想特撮シリーズ ウルトラマン』放送から約57年が経過したこの年に、遂に「ここまでやってしまう」ウルトラシリーズ新作TV作品が爆誕した。

 

 

その名はウルトラマンブレーザー。前情報時点で「これまでのシリーズとは何かが違う」ことが騒がれたり、「いや言うてもそんなことないんじゃないか」と囁かれたりもしていた本作。その1話が実際にどのようなシロモノだったのか。この歴史的な瞬間に立ち会った感想をできるだけ新鮮なうちに書き残しておきたい。


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引用:『ウルトラマンブレーザー』第1話 (新) 「ファースト・ウェイブ」ー公式配信ー

 

 

《目次》

 

 

映画『宇宙甲殻怪獣バザンガ』

 

ウルトラマンブレーザー』初回の衝撃と言えば、なんといっても「リアルタイムで進行していく、バザンガとの戦い」という1つのシチュエーションだけで1話が終わってしまったこと。 

「少しずつその能力を明かしていくバザンガ」というシチュエーションもあって、一見した体感としては『シン・ゴジラ』を思い出してしまったのだけれど、あちらの主眼が「ゴジラという “事象” に対応する上層部のやり取り」だったのに対して、こちらは上層部とのやり取りを挟みつつも基本は現場主義。強いて言うなら「ドラマパートを最小限にして構成した怪獣映画」というのが一番近い表現だろうか。 

そう、体感としてはやはりというか何と言うか「怪獣映画」だった。 

ブレーザー』ではシリーズ構成も務める田口清隆メイン監督は、『ウルトラマンX』の虚空怪獣グリーザを「幼少期、ゼットンに感じた恐怖」というコンセプトで作り上げたとのこと。そのことを踏まえると、この『ファースト・ウェイブ』は田口監督の「幼少期の “怪獣映画の記憶” を具現化したもの」なのかもしれない。  

30分出ずっぱりのバザンガはいわずもがな、紹介もほどほどに「怪獣の引き立て役」としてこの上なく理想的な塩梅で活躍していたゲントたち (それでいて “提案” のくだりなどでゲントのキャラがしっかり立っていたり、SKaRDの面々に “魅せ” があったりと、人物描写も抜かりないのは流石の一言) ……。しかし、『ファースト・ウェイブ』における「怪獣映画っぽさ」にある意味最も貢献していたのは、他ならぬ「怪獣映画」を壊すはずの存在=ウルトラマンブレーザーだった。

 

 

“もう一体の怪獣” ー ウルトラマンブレーザー

 

ある意味今回最大の衝撃であったのが、ブレーザーというウルトラマンが「怪獣」も同然の存在であったこと。  

PVなどで既に「威嚇」のようなアクションが見られることから、ブレーザーは「野生児」のような存在なのでは……と囁かれていたし、実際その通りだった。いや、それどころではなかった。 

ビルを駆け上がる動き。文字に起こすなら本当に「WRrrrAAAAA!!!!!」になってしまう凄まじい咆哮。「襲いかかる」という表現が似つかわしいアクション……。自分の姿に困惑するなど「ゲントの意識が垣間見える」シーンもあったものの、どうやら彼はそれ以上の「本能」に飲み込まれているようで、それはもはや野生児というより「巨人型の怪獣」。本作は、ウルトラマンブレーザーというヒーローが戦うヒーロー番組ではなく、ウルトラマンブレーザーという「怪獣」が、毎週異なる「怪獣」とプロレスを繰り広げる、文字通りの「TV版怪獣プロレス映画」だったのだ。

 

 

田口清隆監督は、『ゴジラ (1984年) 』から『ゴジラVSデストロイア』までの、所謂『ゴジラVSシリーズ』を敬愛していることが知られており、これまでのウルトラシリーズにもそのオマージュやリスペクトをふんだんに盛り込んできた。その到達点とも呼べるのがかの『ウルトラマンZ』で、今度は一体どんなオマージュを盛り込んでくるのだろうと、自分も最近同シリーズを完走したオタクとして楽しみにしていた……のだけれど、お出しされるのが「ゴジラVSシリーズのオマージュ」どころか「怪獣プロレス映画というフォーマットそのもの」というのは予想外も予想外。   

勿論、ここまで「怪獣映画」に割り切ったのは今回だけだろうけれど、おそらく次回以降も少なからず「怪獣VS怪獣」というフォーマットが基盤となって進行していくのだろうし、そうなるとSKaRDやアースガロンの活躍にも一層期待が高まってくるというもの。 

これまでの防衛隊やロボット兵器とは一味違う、と肝煎りの彼らの活躍に備えて、早く『平成ガメラ』や『ゴジラ×メカゴジラ』を見返さなければ……!!

 

 

シリーズ初、完全な『OPなし』1話

 

驚いてばかりの『ブレーザー』初回だけれど、OP主題歌『僕らのスペクトラ』が流れなかったのも相当な驚きだった。

 

 

本作がしっかりと「明るく楽しいヒーロー番組」として作られることを担保してくれた『僕らのスペクトラ』。この歌が一切流れないことが、今回の「怪獣映画」っぽさや「前日譚」らしさに拍車をかけていたのは間違いないけれど、なんと「OP主題歌が挿入歌としてさえ流れない1話」というのは、通常のウルトラマンシリーズTV作品ではおそらく史上初のこと。ここで既に「1話の雰囲気を作り込む」ことへの製作陣の尋常でない熱量を感じて嬉しくなってしまうし、普段は挿入歌が大好きな自分も、今回ばかりはブレーザーの逆転シーンで歌が流れないことに盛り上がってしまった。 

ウルトラマンX』や『ウルトラマンZ』の1話も然り、田口監督はBGMの使い方にも定評のある監督。『ブレーザー』のBGMが耳に残る印象的なものなので、それを1話から存分に堪能できたのも嬉しかったし、戦いを終えて、満を持して流れる『BLACK STAR』のカッコよさには思わず涙と変な汗が出てしまっていた。この辺りの「音楽の活かし方」の方向性も『ファースト・ウェイブ』が映画らしく感じられる大きな要因かもしれない。

 

 

ウルトラマンブレーザー』VS玩具

 

こうして振り返ると本当にオタクが喜ぶ要素しかないな……と感じてしまう『ブレーザー』。その極致すぎてもはや笑ってしまったのがブレーザーへの初変身シーンで、何の説明も予兆もなく突然ブレーザーブレスとストーンが現れ、そのまま強制変身、変身バンクもインナースペースもない……というのは、なんかもう一周回ってとてつもない不安を感じさせられた。これ、「やっていい」ものなの!? 

安定した玩具売上をものにした近年のウルトラマンシリーズ。その地盤が「玩具露出の多さ」に裏付けられているのは明らかで、もしこの先も変身バンクやインナースペースがないのならそれは大きなリスクを孕んだ挑戦になる。 

……けれど、今回の放送を見て「あっ、もしかしたら大丈夫かもしれん……」と思ってしまった自分がいた。というのも、意外なことにこの『ファースト・ウェイブ』、ブレーザーブレスがびっくりするくらい「目立っていた」のだ。

 

 

このインタビューにおいて、田口監督は「ブレーザーブレスの異物感が逆にマッチした」と語っていた。『ブレーザー』のハードSF世界において、このブレーザーブレスはそれだけで目立ってしょうがないし、確かに『ファースト・ウェイブ』でのブレス出現~変身には、その違和感と正体不明の奇怪さに「なになになに!?」と困惑しきりだった。 

近年のウルトラシリーズ、ひいてはヒーロー番組では「玩具が当たり前の雰囲気の中で、どう玩具を目立たせていくか」が課題で、その答えがインナースペース等のノウハウだったのだろうけれど、この『ブレーザー』はその「玩具が当たり前の雰囲気」をどこかへ投げ捨ててしまうことで、相対的に「玩具を印象付けることに成功していた」とも言える。この辺りは、エボルトラスターやブラストショットがハードな作風に飲み込まれてしまっていた『ネクサス』との明確な違いでもあり、本作のマーケティングに安心できる大きなポイントでもあった。 

メイン商材であろうウルトラ怪獣アドバンスやアースガロンは……まあ、大丈夫でしょ!!俺が買う!!

 

 

「安心して待てるウルトラマン」だったことへの安堵

 

 

そんなこんなであっという間に終わってしまった『ブレーザー』初回。次回はSKaRDも本格始動、今回がプロローグであり、本当の第1話は次回……というこの構成は、だからこそ「こういう1話」ができたのだろうとも思うし、ウルトラシリーズが「こんな挑戦的な構成ができる」段階に来たのだなと嬉しくなってしまう。 

当初は不安も大きかった『ブレーザー』だけれど、今回の第1話を見ての率直な気持ちは「安心」だった。確かに「これが子どもに受けるのか」という心配はあるけれど、次回以降で明るく楽しい作風が担保されていることを踏まえれば、この作風は「今回限りのフック」としてバッチリだったのでは……と思うし、少なくとも、ブレーザーとバザンガの大暴れは全国でたくさんの子どもを虜にしたに違いない。異質な初回ではあったけれど、ウルトラマンと怪獣、というメイン商材をアピールする1話としては驚くほど堅実。このバランス感覚があれば、『ブレーザー』はきっと大丈夫だろう。 

残る不安は、本作最大の目玉玩具であり、ブレーザーではなくこっちがパワーアップするのでは……とさえ囁かれているアースガロンの行く末。その初登場を拝み、玩具の売れ行きが明かされる時まで、もう少しこのドキドキは続きそうだ。