ありがとうございました、団時朗さん。さようなら、帰ってきたウルトラマン / 郷さん。

今日2023年3月24日、朝。目を疑うような、信じられない、信じたくない報せが飛び込んできた。

 

 

嘘だ、と言いたかったけど、言えなかった。 

なにせ、ウルトラマンレオ=おおとりゲンこと真夏さんのツイートなのだ。誤りであるはずがない……けれど、だとしても信じられなかった。 

全く実感が湧かなかったし、涙も出なかった。自分がよっぽど薄情なのかと思ったけれど、30分ほど経ってから、文字通り突然涙が溢れ出してしまって、落ち着いたと思ってもすぐぶり返して、結果仕事が全く手につかなくなり、急遽半休を取って会社を飛び出して、今こうして胸の内を文章に起こしている。


本当に悲しいし、同時に悔しさもあった。 

まだ70、されど70.。そんな当たり前のことを理解できず、「いつか」を待っていた自分は結局、一番の「思い出のヒーロー」である帰ってきたウルトラマン/ウルトラマンジャック=郷秀樹を演じられた団時朗さんに、大好きだという気持ちも、感謝の言葉も直接伝えられなかった。 

その「いつか」が来たら伝えようとしていた気持ちを今ここで書くことにどれほど意味があるかは分からないけれど、この文章を持って、団時朗さんへの感謝の言葉と、その御冥福へのお祈りとしたい。

 

 

自分が生まれたのは平成初期。初めて見たリアルタイムのウルトラシリーズは『ウルトラマンダイナ』であり、「世代」と言えるウルトラヒーローは彼ら『TDG』と呼ばれる作品群や、そこに続く『ウルトラマンコスモス』だった。 

では、なぜ自分にとっての「一番の ”思い出のヒーロー” 」が1971年放送の帰ってきたウルトラマンウルトラマンジャック(以下、帰ってきたウルトラマンの名称は「ウルトラマンジャック」で統一して記載致します)なのか。その最たる理由の一つは、自分が初めて「出会った」ウルトラマンが彼だったことにある。

 

 

玩具販売の大手、トイザらスでは昔からこのように「ウルトラヒーローがやってくる」イベントが行われており、自分は幼い頃……多分、それこそ幼稚園生になるかならないかくらいの頃に、そのイベントで店にやってきていたウルトラマンジャックと出会ったことがある。 それが、自分が初めて出会った「生の」あるいは「本物の」ウルトラマンだった。  

親曰く、それはどうやら全くの偶然であったようで、そのウルトラマンがジャックであったこと含め、今思えば本当に「運命的」なものだったように思う。初めて「本物」のウルトラマンに出会った衝撃たるや、今でもその光景 (店の前にジャックが “いた” 瞬間の衝撃) が鮮明に思い出せるほどで、自分の鮮明な記憶としては最も古いものの一つに数えられるだろう。

 

そのことがきっかけになってか、ウルトラマンジャックは幼少期から自分にとって「特別なヒーロー」であったようで、それを裏付ける出来事もいくつか覚えている。 

地元のTSUTAYAで試遊が始まったPlaystation2専用ゲームソフト『ウルトラマン Fighting Evolution2』で真っ先にウルトラマンジャックを使ったことや、Playstation専用ゲームソフト『スーパーヒーロー作戦』で一番盛り上がったのが、ウルトラマンジャック/郷の登場シナリオであったこと、その次回作『スーパーヒーロー作戦 ダイダルの野望』においても、終盤に参戦するジャックはいつもパーティーに編成するお気に入りのヒーローだった……と、ウルトラマンジャック=郷秀樹は、ある意味自分にとって原初の、今風に言うなら「推し」といえる存在だったのかもしれない。

 

そんな自分にとって、『帰ってきたウルトラマン』が大きくプッシュされた2006年放送のTVシリーズウルトラマンメビウス』は本当に幸せな作品であったし、劇場版『ウルトラマンメビウス&ウルトラ兄弟 (2006年) 』やTVシリーズ第45話『デスレムのたくらみ』において、再び郷秀樹を演じる団時朗さんを見ることができた時は、当時から更に研ぎ澄まされたカッコよさに幼いながらも胸を打たれたものだった。「ヒーローは不滅」ということを心で理解させてくれたのは、間違いなくこの作品における4人のレジェンドだったと思うし、今でもこの映画は私の「オールタイムベスト」作品の一つだ。

 

 

それからというもの、『ウルトラマンメビウス外伝 ゴーストリバース (2009年) 』『大怪獣バトル ウルトラ銀河伝説 THE MOVIE (2009年) 』『ウルトラマンゼロ THE MOVIE 超決戦! ベリアル銀河帝国 (2010年) 』などの作品において団時朗さんがウルトラマンジャックの声を担当してくださり、『大決戦!超ウルトラ8兄弟 (2008年) 』と『ウルトラマンサーガ (2012年) 』では郷秀樹として変わらぬ姿を見せてくれた。 

この辺りになると、もう自分の中でジャック=郷秀樹は明確な自覚の元で「特別なヒーロー」になっていたのだけれど、だからこそ『サーガ』出演時の団時朗さんが『8兄弟』出演時に比べてかなり痩せていたことが大きな不安だった。体調不良の話もこの頃から耳にしていたし、「そういう覚悟」をしておかなければならないのか……とも思っていた。 

その後、団時朗さんは『ウルトラファイトオーブ (2017年) 』において再びウルトラマンジャックの声を担当。少しも変わらぬ勇ましいお声が聞けたので安心した――のだけれど、またも「嫌な予感」を感じたのが『ウルトラギャラクシーファイト 運命の衝突 (2022年) 』において、ウルトラマンジャックの担当声優が「三木眞一郎氏」と発表されたこと。

 

 

三木眞一郎氏は自分も大好きな声優で、そんな同氏が自分の大好きなウルトラマンジャックの声を担当してくださることは心から嬉しかった……のだけれど、それはまるで「覚悟を決めておくように」と言われているようでもあった。  

確かに、近年はTV番組や配信で同じ昭和ウルトラシリーズのキャストを見る際に「嫌な予感」で胸がきゅっと痛むことも増えたし、十分に「いつ誰がいなくなってもおかしくない」と、そう思っていたはずだった。 

けれど、だとしても団時朗さんはまだ74才。分かってはいるけれど早すぎる……いや、多分、これが10年後や20年後の「大往生」と言えるタイミングだったとしても、心構えなんてできるはずはなかっただろうと思う。自分の一番の思い出のヒーローがいなくなってしまう、だなんて、そんなことに耐えられるほど「ヒーロー」は軽いものじゃないのだから。

 

 

自分はなぜここまでウルトラマンジャック=郷秀樹に惹かれたのだろう、と時折思う。

 

初代ウルトラマン系列のデザインのヒーローは数多くいるし、マッシブな頼もしさでは初代ウルトラマンが原点にして頂点。エッジの効いたアレンジとしてはウルトラマンネオスがいるし、現代風デザインとしてはウルトラマンリブットも魅力的だ。 

また、ジャックはファイトスタイルも他のウルトラ兄弟に比べて徹底されておらず、そういった意味では決して強い個性を持った訳ではない=強いて言えば「地味」な部類のウルトラマンと言わざるを得ない。……なら、一体何が自分にとって刺さり、何が自分にとって彼を「特別」足らしめたのだろう。 

それは、きっと前述のように「初めて出会ったウルトラマンだから」というだけではない。最大の理由は、幼い頃の自分が、彼の姿に救われていたからだろうと思う。

 

 

とてもプライベートな話になってしまうのだけれど、自分は昔から「強い男になれ」と言われて育ってきた。スポーツも勉強も、何においても誰にも負けるな、と言う父は、事実として成績優秀、スポーツ万能と極めて「完璧」な能力を持った人間であり、そんな父の言葉と存在は自分にとってこれ以上ないプレッシャー。自分は、幼少期からそんな父に日々怯えて育っていたし「誰かに勝てない自分は、弱い自分は誰にも認めてもらえない」と、幼心にそう思っていた。 

そんな自分にとって、「何度も負ける」「決して強くないヒーロー」ウルトラマンジャック=郷秀樹は、どれほど眩しく映っていただろう。彼が教えてくれた「 “強い” ことは “負けない” ことじゃない」というメッセージが、当時の自分にとってどれほど救いだっただろう。

 

 

ウルトラマンジャック=郷秀樹は、作中何度も手痛い敗北を味わっていた。キングザウルス三世やグドンツインテールのタッグに敗北し、ベムスターを前に撤退を余儀なくされ、ナックル星人の卑劣な罠に完敗した。 

しかし、その度に郷秀樹は立ち上がった。時にはMATという家族と共に戦い、時にはウルトラマンウルトラセブンら兄弟を心の支えとして、そして時には、ウルトラマンではなく「人間・郷秀樹」として努力を重ねて立ち上がった。当時の自分がそこまで『帰ってきたウルトラマン』のドラマを真剣に見ていたはずはないのだけれど、郷/ジャックが「何度も負けて、それでも立ち上がる」ヒーローだったことは鮮烈に記憶に焼き付いている。  

(このことは、当時食い入るように見ていた映画『ウルトラマン物語』も大きく影響しているだろう)

 

完璧な人間ではなく、何度も負けて、失敗してもその度に立ち上がり、よく笑い、よく怒り、時に涙も流す人間臭い「不完全」で、だからこそカッコいい等身大のヒーロー。そんな郷秀樹の姿は「誰かに勝つ」ことや「完璧である」ことを求められ、怯えきっていた自分にとって間違いなく大きな「救い」であったし、自分はそんな郷を慕い、彼から学ぶ弟分の少年=坂田次郎に、どこか自分を重ねて見ていたのかもしれない。

 

ウルトラ5つの誓い

ウルトラ5つの誓い

 

自分を救ってくれた『帰ってきたウルトラマン』は、当然だけど昭和生まれのヒーロー。令和や平成とは比べ物にならない「男の子は強くあれ」とされていた時代において、きっとウルトラマンジャック=郷秀樹に救われてきた子どもは全国に数えきれないほどいただろうし、それは他でもない団時朗さんが郷秀樹であったからこそ。 

ただ眉目秀麗なだけでなく、時に優しく、時に厳しい次郎の兄/父でもあり、時に夢を追い求める若者でもある。香り立つヒロイズムと、親しみやすく人間臭い「等身大の人間」感の両立において、郷秀樹ほど完成された主人公もいないだろうし、それは、優しくストイックな天性のヒーロー=団時朗さんでなければありえなかった、一つの「ヒーローの到達点」と言えるのではないだろうか。


そんな世界中から愛される「ヒーロー」の役割や重圧を、50年以上にも渡って背負ってくださり、郷秀樹であり続けてくれた団時朗さんには、本当に感謝が絶えません。 

ウルトラマンジャック=郷秀樹が、そんな郷を演じてくださった団時朗さんが大好きでした。あの日の自分の道標になってくれて、本当にありがとうございました。

 

空の向こうで、団時朗さんが池田駿介さんや岸田森さんらともう一度会えていることを、その安らかなご冥福を、心よりお祈り致します。