総括感想『戦姫絶唱シンフォギアGX』“奇跡のカタチ” が呪いを祓う、シリーズの「底辺」にして「頂点」

時に2013年冬。大好評のうちに幕を閉じたシリーズ第2作『戦姫絶唱シンフォギアG』のライブ会場にて、続編となる「TVアニメ第3期」の製作が発表。当時大学生で、『シンフォギアG』のあまりに綺麗な終わり方に「次はないだろうな……」と思い込んでいた自分は、ライブにも負けないほどの熱気と歓喜の雄叫びを上げていた。部室で。 

そして、約1年半後に公開された本PVがこちら。それは、あらゆる「予告ムービー」の頂点に立つ、史上最高のプロモーションムービーとなっていた。 

 

涙を誘うイントロをバックに流れる『シンフォギアG』の (まるで走馬灯のような) クライマックス……から、一転して始まる怒濤のメロディ! 

シリーズでもトップクラスのボルテージを誇る最強無比のユニゾン曲『RADIANT FORCE』と共に流れ出す新規映像は、「F.I.S.組のその後」「翼とマリアが再びライブで並ぶ」「オートスコアラーとキャロル」といった気になる情報が満載なことは勿論、歌に合わせた編集がキマりすぎていて見ているだけでなんだか泣けてきてしまう程のとんでもない代物。数週間後に控えたTVアニメ第3期『戦姫絶唱シンフォギアGX』へのハードルを限界突破させるには申し分ない、令和4年の今に至っても文字通り「最高」のPVだった。

 

では、いざ開幕した本編はどうだったのか――というと、結論から言うならば、それはPVがブチ上げたハードルを越えていくシリーズ最高峰の熱量と、シリーズでもトップクラスの事故ぶりが同居する……という「一長一短」が極まったかのような劇薬。 

シンフォギア10周年の今だからこそ、そんな一長一短で、しかし、だからこそ愛おしい作品『戦姫絶唱シンフォギアGX』に改めて正面から向き合ってみたい。

 

kogalent.hatenablog.com

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(これまでのシリーズはこちらの記事からどうぞ!)

 

※以下には『戦姫絶唱シンフォギア (第1期) 』『戦姫絶唱シンフォギアG』『戦姫絶唱シンフォギアGX』のネタバレが含まれます。ご注意ください!※

 


戦姫絶唱シンフォギアGX』は、2013年の夏期アニメとして放送された『戦姫絶唱シンフォギアG』の放送開始からちょうど2年後、2015年7月から全13話が放送されたTVアニメ作品。 

その舞台は前作『G』の約4ヵ月後で、「翼がリディアンを卒業」「特異災害対策機動部二課が、正式な国連直轄組織=超常災害対策機動部タスクフォース “S.O.N.G.” として再編」など様々な変化が起こっていたことに鑑みても、シンフォギアの「第2章」開幕編という側面を持っている作品とも言えるだろう。

しかし、この作品が「新章」らしさを放っている一番の理由は、その作風の大幅な転換。緻密な人間ドラマとしてあまりに完成されていた『第1期』『G』との重複を避けて新たな魅力を追求するためか、本作『GX』は「少年漫画的な作風で描かれるバトルアクションアニメ」として舵を切り、見事新たな魅力を打ち立ててみせたのである。

 

 

そんな本作の作風を象徴するのが、本作の敵として立ちはだかるオートスコアラー=自動人形たち。 

『GX』ではマリアたちF.I.S.組の参入によって、味方サイドの主要キャラが文字通り倍増したため、敵方を細かく掘り下げるだけの余裕がない。そのことを踏まえてか、本作の敵は、錬金術士キャロル・マールス・ディーンハイム (CV.水瀬 いのり) と、彼女を守る4人のオートスコアラーに絞られている。 

こうして見ると人数は多いが、オートスコアラーは「キャロルを守る為に産み出された自動人形」であり、人間のキャラクターほどその背景設定を描く必要がない。その点が効を奏し、彼女たちは「最低限の描写」の中でその魅力を遺憾なく発揮していた。

 

剣と定義されるものを破壊する哲学兵装「ソードブレイカー」を振るうファラ・スユーフ (CV.田澤 茉純)

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引用:「戦姫絶唱シンフォギアXV」放送直前企画!<おさらいシンフォギア>- 戦姫絶唱シンフォギアXV 公式ホームページ  

「ソードブレイカー」持ちという特性通り翼と相対する彼女は、色物揃いのオートスコアラーの中でも「まとも枠」に見える存在。事実、オートスコアラーの参謀的な存在であり潜入任務なども器用にこなす彼女だが、舌が異様に長かったり、目付きが時々人間離れしていたりと、ある意味一番「自動人形らしい」キャラクターでもあったりする。 

(それが人によっては強烈に刺さったりトラウマになったりする)


そして、「地味」を嫌い「派手」に立ち回るレイア・ダラーヒム (CV.石上 静香)
f:id:kogalent:20221112214417j:image引用:「戦姫絶唱シンフォギアXV」放送直前企画!<おさらいシンフォギア>- 戦姫絶唱シンフォギアXV 公式ホームページ  

いかにも強キャラ然としたクールな雰囲気の彼女は、「ワタシに地味は似合わない」という信条の通り、とにかく行動が派手……というか面白い。終始ジョジョ立ちなのも大概だが、それ以上に際立つのがなぜか投げ銭を武器としていること。その投げ銭 (よりによって) クリスと渡り合えるばかりか、後半ではその投げ銭トンファーを作って格闘戦をやってのけたりする、カッコよさと「変さ」が同居した、これはこれでオートスコアラーらしいキャラクターと言えるだろう。 

(ちなみに、妹は勿体ぶって中々出てこなかった果てに、EPISODE 11のアバンで敢えなく爆死する。そりゃないよ……!)

 

そんなファラ・レイアとは異なる「可愛らしい」見た目であり、放送前は一人だけキャラが薄そうと懸念されていたが全くそんなことはなかったガリィ・トゥーマーン (CV.村瀬 迪与)
f:id:kogalent:20221112214438j:image引用:「戦姫絶唱シンフォギアXV」放送直前企画!<おさらいシンフォギア>- 戦姫絶唱シンフォギアXV 公式ホームページ  

ギャップ満載のオートスコアラーたちだが、それが特に図抜けているのがこのガリィ。この見た目でありながら、その正体は「可愛こぶっている腹黒」であり、手段を選ばない非道さや幻術を効果的に使う知略、「頭でも冷やせやァ~!!」等ヤクザめいた言動の数々で、製作者であるキャロルからも苦い顔をされる程の「濃すぎる」キャラクターに仕上がっていた。


そして、そんな色物だらけのオートスコアラーにおいて唯一の癒し枠と呼べるのが、よりによって4人中最強のパワーを持ち、いかにも怪物然としたビジュアルを持つミカ・ジャウカーン (CV.井澤 詩織)
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引用:ストーリー - 戦姫絶唱シンフォギアGX 公式ホームページ  

「~だゾ!」というどこぞの幼稚園児のよう口調の通り子どもっぽい人格の彼女だが、それだけに純粋で、なぜか4人の中で最も安心して見ていられるオートスコアラー。出番が他3人より遅いこともあってか語られなかった側面が多く、Blu-ray特典のショートアニメや裏設定などで多くのファンを葬ったという、いろんな意味で「最強」と呼べる存在だ。 

……と、簡単に並べただけでもその色物っぷりが凄いことになっているオートスコアラーたちだが、彼女たちの共通の魅力として挙げられるものに、その「圧倒的な強さ」がある。

 

 

その「強さ」を真っ先に見せ付けたのは、EPISODE 1『奇跡の殺戮者』において翼とマリアを襲撃したファラ。 

装者最強格の翼相手に互角以上の戦いを見せるばかりか、翼の新技『風輪火斬 月煌』にノーダメージ……という有様は、およそ初回で現れる敵のそれではなく、ネームドエネミーの登場に3話ラストまで待たなければならなかった第1期、そしてむしろF.I.S.の3人の方が響たちに怯えていた『G』とは比較にならない緊張感を生み出していた。 

続くEPISODE 2『世界を壊す――その前に』ではレイアがクリスを襲撃。超巨大な謎の存在=レイアの妹という更なる脅威が示唆される中、文字通りの「異常事態」が翼とクリスを追い詰める。

 

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引用:ストーリー - 戦姫絶唱シンフォギアGX 公式ホームページ

「どういうことだ!?」
「2人のギアが、分解されています!」
「ノイズでは……ない!?」
「アルカ・ノイズ……。何するものぞ、 シンフォギアァァァァーーーッ!!」

 

全国の適合者が息を呑んだであろうこのシーン。待っていたのは、なんと2話にして、それもノイズによって「翼とクリスがシンフォギアを破壊される」という衝撃の展開だった。 

オートスコアラー、レイアの妹、そして新型ノイズ=アルカ・ノイズ。開幕からこれだけの脅威を叩き付けてくる『シンフォギアGX』は、リアルタイム視聴時は毎話のように「どうするんだこれ……どうなるんだ……」とハラハラさせられていたし、この「新たな敵の圧倒的な強さに震える」スリルは、まさしく「少年漫画の新章」のそれと非常に近いものだったように思う。 

そして、そんな最初からフルスロットルな本作を更に加速させていくのがF.I.S.組=マリア、調、切歌3人の奮闘だ。

 

 

絶体絶命の危機に陥った翼をマリアが救出する一方で、クリスの元に駆け付けたのは調と切歌。2人は、なんとLINKERを使わずにシンフォギアを装着、間一髪のところでクリスを助け出す。 

 

アガートラームが破損したままのため、ギアを纏えない状況で奮闘するマリア。そして、LINKERを介さない状況で、その身を賭してクリスを救おうとする調・切歌!「圧倒的な脅威を前に、かつての敵が不完全な力で立ち向かう」だなんて、ただでさえロマン溢れる展開なのに、『シンフォギアG』を踏まえるともう熱すぎて頭がおかしくなりますよこんなの……!! 

オーバーキルサイズ・ヘル

オーバーキルサイズ・ヘル

 

シンフォギアG』が「第1期で見たかった」ものをこれでもかと詰め込んでくれた作品であったように、『G』で見たかったものがこれでもかと詰め込まれているのも『シンフォギアGX』の大きな魅力。 

それをEPISODE 3時点でこんなに贅沢に見せてくれるのも『G』譲りだが、『GX』はそこから休む間もなく更にエンジンをかけていく。

 

 

ギアを破壊された翼とクリス、そして「守るための力で誰かを傷付ける」ことへの恐れで歌えなくなってしまった響。彼女の手から離れたガングニールを代わりに掴み取ったのは、なんともう一人の「ガングニール」適合者=マリア!  

f:id:kogalent:20221112214909j:image引用:ストーリー - 戦姫絶唱シンフォギアGX 公式ホームページ   

「『ガングニール、再び』というサブタイトルから、響の復活が予想されること」を完全に逆手に取ったまさかの展開とダブルミーニング。これには当時本当に驚かされたし、ダメ押しとばかりにちゃんと『烈槍・ガングニール』が流れたり、マリアの纏う黒いガングニールが「マントがなく、所々にオレンジ色が入っている」というイレギュラーな姿であるなど、オタクのフェチズムをこれでもかと刺激してくるそのこだわりようには、7年経った今見ても変な声を上げて唸ってしまう。 

「イレギュラーな不完全態が、前作要素を引っ提げて事態を打開する」という奇跡みたいなシチュエーションは『G』の翼が旧式ギアを纏うEPISODE 12が100億点を叩き出していただけに、まさかそれに匹敵するものを、しかもこんな序盤で見せてくれるとは思っていなかった。シンフォギアGX万歳!!!!!!!!!!

 

烈槍・ガングニール

烈槍・ガングニール

 

こうして「F.I.S.組のその後」という本作に求められていた高いハードルをいとも容易く越えてくる『シンフォギアGX』だけれど、本作の巧さはそれらの要素がしっかりとストーリーとして練り上がっていること。それを象徴するのが、EPISODE 5『Edge Works』におけるマリアのこの台詞だろう。  

「2人を連れ戻せッ!これ以上は……」
「やらせてあげてください。これは、あの日道に迷った臆病者たちの償いでもあるんです」
「臆病者たちの、償い……?」
「誰かを信じる勇気がなかったばかりに、迷ったまま独走した私たち。だから、エルフナインがシンフォギアを甦らせてくれると信じて戦うことこそ、私たちの償いなんです!」

キャロルからの離反者=エルフナイン (CV.久野 美咲) によって響・翼・クリスのシンフォギア復活が進められる中、時間稼ぎの為にLINKERを連続投与して戦う調と切歌。そんな2人を誰より案じ、自分だけが戦えない悔しさに唇を噛み切りながらも「それこそが自分たちの償い」と、2人の覚悟を尊重するマリア。 

そう、本作前半における彼女たちの奮闘は、シリーズ視聴者へのファンサービスというだけでなく、他ならぬ彼女たちによる「償い」として、物語上不可欠なものとして描かれているのである。 

 

そんな決死の覚悟で、オートスコアラー最強とされるミカ相手に戦う調と切歌。この防衛戦では調の歌=『ジェノサイドソウ・ヘヴン』が初披露されたのだけれど、切歌の歌『オーバーキルサイズ・ヘル』に続いてこの歌が解禁されたということは、ある問題について「答え」が出ることを意味している。 

オーバーキルサイズ・ヘル

オーバーキルサイズ・ヘル

ジェノサイドソウ・ヘヴン

ジェノサイドソウ・ヘヴン

 

やはり似ている、この2つの歌。 

それが意味するところは一つしかなく、スタッフもそのことは分かっていたのだろう。なんと『ジェノサイドソウ・ヘヴン』が解禁されたこのEPISODE 5において、「それ」もまた早々と解禁されることになる。 

Just Loving X-Edge

Just Loving X-Edge

 

調と切歌のLINKER再投与と共に流れ出す『Just Loving X-Edge』! 前作の『Edge Works of Goddess ZABABA』を継ぐ、2人の歌が1つになった新ユニゾンだ。 

マリアの先の台詞からここに繋がる熱いシチュエーション。この歌を勿体ぶらず即断即決で解放することで逆にインパクトを与える名采配。これらの展開を暗示していた『Edge Works』という粋なサブタイトル。そして何より、装者最年少の2人が、このユニゾンによってオートスコアラー最強のミカの喉元に迫るという手に汗握る名バトル……!! 『シンフォギアG』でシリーズの虜になった身としては、一から十までが感涙ものだったし、だからこそ「それでも調・切歌がミカに及ばない」ことの絶望感はひとしおだった。  

「誰か……助けてほしいデス……! 私の友達、大好きな調を……! 誰かぁーーーっ!!」
「“誰か” だなんて、ツレねぇことを言ってくれるなよ」
「剣……!」
「ああ。振り抜けば、風が鳴る剣だ――!」

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引用:ストーリー - 戦姫絶唱シンフォギアGX 公式ホームページ

 

2人の奮闘が実を結び、遂に成し遂げられた「翼とクリスの復活」!そして、この最高のシチュエーションを彩るのはまさかまさかのつばクリデュエット=『BAYONET CHARGE』! 

BAYONET CHARGE

BAYONET CHARGE

 

調と切歌の奮戦が無駄でなかったことも、2人を救う翼・クリスそれぞれの台詞の “粋” っぷりも、『G』で待望していた翼×クリスの歌が流れる (しかも黒バックスタッフロールでの初披露という厚遇ぶり!)  と、もう現段階で何度言ったか分からないけれど、最高……本当に、本当に最高……! 全てにありがとうシンフォギアGX……!! 

EPISODE 1の時点でこれ以上ないような熱さを見せてくれたのに、そこからこのEPISODE 5まで、毎話のように天井知らずの熱さを叩き付けてくる本作は、改めて見てもやはり非常に稀有な作品と言えるだろうし、少なくとも、この時点での面白さは間違いなく『シンフォギア』シリーズトップクラスと言えた本作。しかし「更に、この上」があると、この先にこれ以上の熱さが待っているなどとは、当時の自分にはとても予想できなかった。

 

 

調・切歌に代わり、アルカ・ノイズを一蹴した翼とクリス。その前に立ちはだかったのは、なんと大人へと姿を変え、神話の竪琴・聖遺物「ダウルダブラ」のファウストローブを纏ったキャロル。シリーズの折り返し地点でラスボスと相対するという熱い展開ではあるものの、オートスコアラーたちをも上回るキャロルの力に2人は苦戦を強いられる。 

そんな2人の元に駆け付けるは、復活したガングニールを纏う響!再び集結した3人は、強化型シンフォギアに秘められた新たな力を解放する。 

 

それは、シンフォギアの決戦機能「暴走」を、エルフナインが奪取した聖遺物「魔剣・ダインスレイフ」の力=「イグナイトモジュール」にて制御するというもの。 

自らの心の闇と向き合うという試練を乗り越え、3人が手にしたのは、禍々しくも美しい「黒いシンフォギア」! そして、流れ出すのは『RADIANT FORCE』……ではなく、その新たなアレンジこと『RADIANT FORCE (IGNITED arrangement) 』! 

RADIANT FORCE(IGNITED arrangement)

RADIANT FORCE(IGNITED arrangement)

 

シンフォギア同様、禍々しくアレンジされた『RADIANT FORCE』をバックに、キャロルの放った3000体ものアルカ・ノイズを「たかだか3000ッ!!」と蹴散らす3人。天使のようなエクスドライブに対し、悪魔のような姿を取るイグナイト。もはや不穏さを隠そうともしないその有り様には、しかし、それでも「カッコよさ」が勝っていた。 

それもそのはず、何せこのイグナイトは「代償を伴う強大な力」「闇堕ちのようなデザイン」「荒々しい戦闘スタイル」「ラスボスに新たな力で挑む」「変身することで既存曲がアレンジされる」という、不穏さを補って余りあるロマン要素のフルコース。この先何が起こるかよりも、今目の前で繰り広げられている極熱展開に喜び、叫び、発狂するしかなかった。 

熱い要素がてんこ盛りだったが、ずっと「オートスコアラーたちにしてやられてきたまま」だったEPISODE 1~5。それらの雪辱を晴らすというカタルシスも相まって、このEPISODE 6の盛り上がりは、シリーズでも指折りのもの。この瞬間、『シンフォギアGX』は間違いなくこれまでのシンフォギアシリーズを越え得る最高のポテンシャルを形にして見せ付けてくれたのである。


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引用:ストーリー - 戦姫絶唱シンフォギアGX 公式ホームページ


こうして見ると、まさに「完全無欠」な『シンフォギアGX』。しかし、皆様覚えているでしょうか、記事冒頭で本作を『PVがブチ上げたハードルを越えていくシリーズ最高峰の熱量と、シリーズでもトップクラスの事故ぶりが同居する……という「一長一短」が極まったかのような劇薬』と評したことを。 

そう、ここまでほぼ完全無欠の盛り上がりを見せてきた『シンフォギアGX』は、ここから急転直下、シリーズでも希に見るほどの事故を連発してしまうことになる。

 

Exterminate

Exterminate


まず挙げられるのが、そのものズバリ「ストーリーが一気に盛り下がる」こと。そんなまさか……と思われるかもしれないが、視聴当時の自分もそう思っていた。「ここまでずっと面白かったのに、ここまで盛り下がる」だなんて思っていなかったし、信じたくなかった。けれど、本当に盛り上がらないのだからしょうがないのだ。 

最も大きな問題は、EPISODE 7『輝きを継ぐ、君らしく』から、EPISODE 10『こんなにも、残酷だけど』が非常にワンパターンな展開になっていることだろう。

 

 

ここまで描かれてきた『シンフォギアGX』の面白さの肝は、敵であるオートスコアラーたちの強さや、それに伴う緊張感、状況をどう打開していくのかというスリルやカタルシスだった。その現状に風穴を開けたのがEPISODE 6『抜剣』で解放されたイグナイトという切り札であり、EPISODE 7以降は各オートスコアラーとの「決着編」となっていく。 

そのこと自体は特に問題ではないだろう。バトルものの作品において「今のままでは敵わない強敵の出現」→「新たな力で逆転」という展開は王道中の王道であるし、シンフォギアがそれをなぞることには何の問題もない。問題だったのは、その「やり方」と「尺不足」だ。

 

 

そもそも、何かが狂い始めたのはEPISODE 7冒頭、あっさりとマリアのギア=アガートラームが復活したことだった。 

『G』最終回で起きた奇跡でようやく起動したものの、これまでずっと復活しなかったアガートラーム。それが「他の装者が戦えない状況下」のような特段のお膳立てもなくあっさり蘇り、あまつさえ、そのデビュー戦においては特段の活躍もないままイグナイトモジュールを使用、制御できずに敗退するという醜態を晒してしまう。しかも、その後にガリィを倒したのもアガートラームというよりイグナイトモジュールの力であり、結果的に「アガートラーム」の特別感は地に堕ちてしまった。 

長いこと勿体ぶってしまったためハードルが上がってしまったが、製作陣はそのハードルを認識さえしていなかった (か、あるいは分かった上でスルーせざるを得なかったか) ……というこの悲劇。なぜこんなことになったかの理由は明白で、とにもかくにも「ノルマが多すぎる」ことに尽きるだろう。

 

・マリアがガリィを倒す 

・アガートラームが復活する 

・マリアがイグナイトを制御するために、何らかの心の闇を乗り越える必要がある 

・それだけのストーリーが必要

 

この4つをたったの20分で描くのは土台無理な話で、その結果としてアガートラームはあっさり復活してしまうし、せっかくの新曲=『銀腕・アガートラーム』も、イグナイト前のかませ犬のような役割に甘んじてしまっていた。 

しかし、悲しいのはそんな本エピソードがそれでも「良い方」であること。というのも、本エピソードで描かれたマリアの「答え」=「自分の弱さを受け入れ、弱いままで強くなる」というのは『G』の顛末を踏まえた、マリアらしい成長の形として非常に説得力のあるもので、自分がエルフナインにかけた言葉が巡り巡ってマリア自身に答えをもたらす……というシチュエーションも胸を打つものになっていたからだ。残る3話では、そんな「ストーリー部分の魅力」さえもどんどん危うくなっていく。

 

 

マリア同様「まだ良い方」と呼べるのが、翼のエピソードであるEPISODE 9『防人の歌』。 

これまで裏設定だった「風鳴家」について初めて本格的に触れられる重要エピソードであり、翼と彼女の父親= 風鳴八紘 (CV.山路 和弘) との和解が描かれることになる……のだが、そもそも、八紘は『GX』からの登場であり、2人の確執も作中で数度触れられた程度。その深堀りと和解をたった20分でいっぺんに消化するというのはかなり際どい荒業であり、エピソードそのものの魅力とは裏腹に、どうしても物足りなさが否めなかった。 

更に、その物足りなさ=消化不良感を高めているのが本作序盤で強豪としての存在感を発揮していたオートスコアラー=ファラがあっさりと退場してしまうこと。 

Beyond the BLADE

Beyond the BLADE

 

剣と定義されるものを破壊するソードブレイカーに対し、自身を「剣ではなく、夢へ羽撃く翼と定義する」ことで突破する……というロジックには唸らされるものの、絵面の印象としては「イグナイトの力で勝った」ようにしか見えないのが辛い所。EPISODE 7のマリアVSガリィも然り、ただでさえストーリーが尺ギリギリに詰め込まれた内容なので、決戦シーンではイグナイトモジュール発動からすぐに決着が付いてしまう=イグナイトの力で勝ったように見えてしまい、シチュエーションとしてはEPISODE 6でのキャロル戦の焼き直しのようになってしまう。 

そのためEPISODE 7以降の本作は、ずっと見せてきた「右肩上がり」が打ち止めになり、更に「誰かの主役回→その装者と縁のあるオートスコアラーと対決→イグナイトで倒す」というテンプレートが浮き彫りになってしまうため、前半の魅力だった「スリルとカタルシス」も減退。結果、本作の面白さは「打ち止め」どころか徐々に右肩下がりになってしまうのである

 

しかし、前述の通り翼とマリアのエピソードはまだ良い方。深刻なのは残る4人=調、切歌、クリス、そして響だ。

 

Just Loving X-Edge(IGNITED arrangement)

Just Loving X-Edge(IGNITED arrangement)

 

EPISODE 3などで過去の自分たちの行動を振り返り、「変わりたい」と願っていた調と切歌。子どもらしい大胆さの中に成長した顔を見え隠れさせていた2人だけれど、このEPISODE 8ではそれが退行、盛大に喧嘩を始めてしまう。 

2人の喧嘩と言えば『G』のクライマックスもそうだったし、そもそも『G』は中盤以降キャラクターたちが頻繁にすれ違っていた作品。しかし、お互いがお互いへの善意のために悩み、すれ違い、ぶつかっていた『G』に対し、本作のそれは「お互いへの善意」がどうにも伝わってこないのだ。 

事の発端は「ミカの攻撃に晒される響と切歌を、調が防御した」こと。誰かが攻撃を受けようとしたら、手の空いている誰かが守る……というのはシンフォギアシリーズでもよく見かける光景だったけれど、ここで切歌は調に憤慨、対する調も「自分が足手まといってこと!?」と逆上してしまい、2人はものの見事に険悪になってしまう。
曰く、切歌は「大切な調が実を呈して自分を守ったことが許せなかった」とのことだけれど、だからといって理由も言わずに調を責め立てる切歌も、そんな切歌の様子に疑問も持たず怒る調も、これまで……とりわけ、輝いていた本作前半の彼女たちから、むしろ精神的な成長が逆行しているように感じられてしまう。

 

 

そんな調&切歌と (非常に残念なことに) 似た状況に陥ってしまうのが、やはり本作前半で魅力的な活躍を見せていたクリス。 

彼女はEPISODE 3で調と切歌に助けられ「守るべき後輩に守られた」ことに悔しさを滲ませており、自分の至らなさから彼女たちを失ってしまうことを恐れていた……が、彼女はEPISODE 6でその心の闇と向き合い、乗り越えたからこそイグナイトの力をものにした。ハズだった。 

しかし、EPISODE 10においてクリスはその怯えから抜け出せていなかったどころか悪化していることが発覚。自分が後輩を守らなきゃ……と躍起になるあまり調を誤射しかけたり、「深海の戦いなのだから、慎重に戦え」という弦十郎の至極真っ当な指摘に逆上したりと、こちらもやはり精神的な成長が盛大に逆行していた。自分の身勝手を「先輩」である翼に救われたあの時に何を学んだのか……と、『G』での翼とクリスの物語が好きなだけに悲しくなってしまうし、没入感が大きく削がれてしまったのは極めて残念だった。

 

TRUST HEART

TRUST HEART

(クリスの歌『TRUST HEART』は個人的にクリスの歌で一番のお気に入りなのだけれど、この曲名でこの醜態を晒してほしくはなかった……)

 

このように、本作の「歪み」の犠牲になってしまっていたクリス、調、切歌。しかし、本作でその歪みが最も響いてしまっていたのが、誰あろう主人公=立花響だった。 

限界突破 G-beat

限界突破 G-beat

 

本作における響は、主に2つの問題に悩まされていた。1つは「人助けの為の力で戦いたくない」という葛藤、もう1つは父親=立花洸 (CV.関俊彦) を巡る問題。この2つの命題にたった1クールで向き合わされた皺寄せなのか、本作の響は非常に不遇……というか、響周りの印象が極めて良くないというおよそ主人公らしくない事態に陥ることになってしまう。

 

最初の問題はEPISODE 3。「キャロルを相手に戦いたくない」ということについて、響はこう説明している。  

「戦わずに分かり合うことは……できないんでしょうか」
「逃げているの?」
「逃げているつもりじゃありません! だけど、適合して、ガングニールを自分の力だと実感して以来、この人助けの力で誰かを傷付けることが……凄く嫌なんです」
「それは、力を持つ者の傲慢だ!」

第1期では、クリスを相手に「相手が人なら、戦うよりも話をしたい」と言い、『G』でもF.I.S.を前に「話し合おう」と提案した響。自分の拳で人を傷付けたくない、というのは彼女がずっと抱えてきた葛藤だったけれど、それでも彼女は「そんな理屈で通るほど世の中は甘くない」ことを知っているからこそ、クリスやF.I.S.を止めるべくその拳を振るってきた。その響が、キャロルを相手にこれまで以上の拒絶を見せる理由が件の台詞なのだけれど、なかなかどうして印象が良いとは言い辛い。 

響の言うことも筋は通っていて、彼女が人助けの為にガングニールを使うことでどれだけ満たされていたかはEPISODE 1の彼女の笑顔が物語っているし、「適合して意識が変わった」というのも分からなくはない。とはいえ、翼やクリスが戦線離脱、調や切歌のためのLINKERもなく、戦えるのが響だけ……という状況でそんなことを言うのは、マリアの言う通り「傲慢」であるし、「私に任せてください!」と答えつつ、影で悩んでいるところを未来にバレてしまうのが立花響ではなかっただろうか。 

続くEPISODE 4において、この葛藤のために歌えなくなってしまった響は「響のガングニールを纏ったマリア」によって助けられる。しかし、響はそのことに礼さえ言わず「私のガングニールですッ!」とマリアからガングニールを奪い取る。LINKERを用いないギア運用で血を流すマリアを前にそんな無礼を働く響なんて見たくなかったし、これはもう、調や切歌、クリスと同じ「精神的成長の逆行」が起きているように思えてならないのだ。


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引用:ストーリー - 戦姫絶唱シンフォギアGX 公式ホームページ  

 

EPISODE 4終盤、響は未来の「自分は響の拳で救われた」という言葉で復活、自分が「力の持つ責任から逃げ出そうとしていた」と自覚し葛藤を乗り越えるが、間もなくして「父親との再開」というイベントが発生し、結果、今度は響に「尺不足」という問題が襲いかかってしまう。 

 

響の父親として、実はその存在は『G』の段階で既に設定されていた (上記リンク参照) 立花洸。この解説を読むと仕方ないことだと思えてしまうが、それはそれとして、その振る舞いに響が憤るのもまた仕方のないことと言えるだろう。しかし問題なのは、そんなドン底の洸周りを「持ち上げる」為の積み立てがないせいで、せっかくの響の大舞台が盛り上がりに欠けたものになってしまったことだ。

 

 

EPISODE 7『輝きを継ぐ、君らしく』で響と再会、以来「家に戻りたい」と響に仲介役を頼み込むようになった洸。しかし、「自分から家に戻るのは男としてのプライドが許さない」と堂々と響に宣言したり、娘である彼女に食事を奢らせたりと、そのクズっぷりは散々なもの。そして、洸が一向に改心の様子を見せないまま突入したEPISODE 11『へいき、へっちゃら』で事件は起こった。

天から現れたキャロルの居城=チフォージュ・シャトーを呑気に写真に収める洸。しかし、キャロルが洸の「情けない父親」ぶりに痺れを切らし、彼を攻撃し始めるとその様子は一変する。  

「響! 今のうちに逃げろ! 壊れた家族を元に戻すには、そこに響もいなくちゃ駄目なんだ!……うわあッ!!」
「お父さん!? ……お父さぁん!!」
「これくらい……へいき、へっちゃらだ」

突如、数分前まで響に「自分から切り出すのは怖い」とか「男としてのプライドがある」とか宣っていたとは思えない気概を見せ始める洸。そして流れ出すBGM (名曲)『抜剣――ダインスレイフ』。  

「逃げたのではなかったのか?」
「逃げたさ、だけど、どこまで逃げても、この子の父親であることからは逃げられないんだ!」
「お父さん……」
「俺は生中だったかもしれないが、それでも娘は本気で、壊れた家族を元に戻そうと、勇気を出して向き合ってくれた!だから俺も、なけなしの勇気を振り絞ると決めたんだ!響、受け取れッ!!」

キャロルに石を投げる……と見せかけて、弾かれた響のギアペンダントを投げ渡す (=キャロルを響から引き離し、その攻撃を回避しつつ、ギアペンダントの方向に走っていた……!?)  という驚異的な男気と知略を見せる洸。彼からペンダントを受け取った響は、爆風の中で聖詠を口にする。  

「響ッ!」
「――へいき、へっちゃら」
「響……?」
「私、お父さんから大切なものを受け取ったよ。受け取っていたよ……!

リトルミラクル -Grip it tight-

リトルミラクル -Grip it tight-

 

流れ出す『リトルミラクル −Grip it tight−』。祈りのような歌声が涙を誘う名曲だけれど、どうしても、どうしても洸の豹変ぶりが飲み込めず、響に感情移入できない……! 洸お前、数分前まで響の「避難誘導を手伝って」という言葉を無視してチフォージュ・シャトーの写真撮ってただろ……!! 

おそらく「響が危機に瀕したことで、父親としての想いが蘇った」のだろうけれど、それにしても、それを感じさせるやり取りや洸の顔つきが変わるカットとか、そういったものが何もないので、どうしても洸の変わりようを「豹変」と言いたくなってしまうし、結果的に、響とキャロルの対立軸を「奇跡」と「父親」で二分し、ややこしくするというデメリットの方が大きく感じられる結果になってしまっていたように思う。 

洸役・関俊彦氏の名演もあって、上記の「逃げろ!」のくだりから見ると感動の名シーンになっているし、それだけに勿体無いこの一連。これもまた、洸の心情の変化を描くだけの余裕がなかった尺不足が祟ったものであろうし、そう考えると、響は「精神的な成長の逆行」と「尺不足」という、他の面々が被った被害を二重で受けてしまった、本作最大の被害者と言えてしまうかもしれない。

 

限界突破 G-beat(IGNITED arrangement)

限界突破 G-beat(IGNITED arrangement)

 

こうして、EPISODE 7からEPISODE 11にかけて、5話連続でどうにも盛り上がれない回が続いてしまった『シンフォギアGX』。もはやここからの挽回は不可能と思われていた……のだけれど、それでも本作は、最後の最後にその汚名を返上する輝きを「2つ」見せてくれた。その1つが、序盤から続いていたF.I.S.組の物語の結末である。


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引用:ストーリー - 戦姫絶唱シンフォギアGX 公式ホームページ

 

異端技術に関連した危険物や未解析品を収める管理特区――通称「深淵の竜宮」がキャロルとレイアに襲撃されたことで解放されたウェル博士。SNSは彼の復活に大騒ぎとなっていたけれど、個人的には、ここ数週間の『シンフォギアGX』が上記のような状態だったことに加え、作品全体の悪ノリが多かった (執拗な翼の胸いじりや、敢えてそうしているとしか思えない下ネタめいた台詞の多さなど) こともあって、ここでのウェル復活に感じていたのは「驚き」と、それ以上の大きな不安。 

しかし、だからこそ、本作終盤の彼が見せた動きは心から歓迎する「予想外」だった。

 

 

あらゆる聖遺物と融合し、制御できるネフィリムの左腕を買われ、チフォージュ・シャトーに同行するウェル。しかし、相変わらずの英雄願望から「世界を解剖する」というキャロルの目的に反発した彼は、キャロルの不意打ちで重症を負ってしまうことになる……と、この時点でも大概驚かされたのだけれど、更に驚いたのは、チフォージュ・シャトーを止めるために乗り込んできたマリア、調、切歌の前に彼が現れ、共闘を持ちかけたこと。 

その提案内容は「キャロルが響、翼、クリスと戦っている間にチフォージュ・シャトーのプログラムを書き換え、解剖された世界を再構築する」というもの。ここにきて「ウェルとマリア、調、切歌が共闘する」というシチュエーションが実現すること、そして、ここで満を持してマリア・調・切歌のユニゾン=『「ありがとう」を唄いながら』が披露されると予想できた視聴者が、果たしてどれほどいただろうか。 

「ありがとう」を唄いながら

「ありがとう」を唄いながら

 

まるで「過去を乗り越える」為の最終試験のように、チフォージュ・シャトーの防衛システムが変身した「黒いガングニールを纏ったマリア」と激突する3人も泣かせてくれるけれど、ともすればそれ以上にグッと来てしまうのが、英雄願望でも正義の心からでもなく、あくまで「自分を葬ろうとしたキャロルへの嫌がらせ」の為に命を懸けるウェルの姿だ。

 

 

前作『シンフォギアG』は様々なテーマを持った作品だったが、その1つが「英雄性の否定」だった。 

響の歌『正義を信じて、握り締めて』でも「ヒーローになんて なりたくない」と歌われているように、響は「ヒーローになりたいから戦っている」訳ではなかったが、しかし、その自分を省みず人助けに奔走する様はまさにヒーロー(英雄)であった。 

一方、もう一人の主人公であるマリアは、響の対極にある「世界のために、革命の英雄になろうとした」存在。しかし、彼女も結果的には響同様に自分をすり減らしながら戦い、失敗を重ね、最終的に「英雄になろうとした自分」を捨て去ることで世界を救うという夢を果たすことができた。そんな『シンフォギアG』において、「英雄になること」そのものが目的であったウェルは、まさに否定されるべき存在に他ならなかったのだ。

 

しかし『シンフォギア』という作品は、ずっと「本当は敵なんていない」ということを謳い続けてきた。おそらく、そのテーマを貫くためにウェルに与えられた「償いの場」こそが、このチフォージュ・シャトーの決戦であり、そこでウェルは「自らの英雄願望を捨て、あくまで嫌がらせのために」その命を賭してみせた。 

結果、無事世界を復元させたものの、キャロルの攻撃によるチフォージュ・シャトーの崩壊で致命傷を負ってしまったウェル。これまでの罪に対する報いのようにも思えるその傷は、マリアを助けるために負ったものだった。  

「ドクター・ウェル!」
「僕が守った……何もかもを」
「まさか、お前……」
「君を助けたのは、僕の英雄的行為を世に知らしめるため……。さっさと行って、死に損なった恥を晒してこい! それとも君は、あの時と変わらない、ダメな女のままなのかい……?」

今にも命が尽きようとする彼は、マリアに一枚のメモリーチップを差し出す。  

「“愛” ですよッ」
「なぜそこで愛……!?」
シンフォギアの適合に奇跡などは介在しない! その力、自分のものとしたいなら、手を伸ばし続けるがいい……!」
「ッ……!」
「マリア、僕は英雄になれたかな……?」
「ああ、お前は最低の――」

幾度となくその命を賭けて戦い、最後には「マリアが、セレナの姿をした幻影を切る」ことでその罪と弱さを清算したF.I.S.の3人。そして、彼女たちと同じ場所で、その命を持って自らの罪を祓ったウェル。皮肉にも、彼は己の英雄願望を捨て去ることで「世界」を守り「仲間」を助けるという、文字通りの「英雄的行為」を成し遂げたのである。   

ウェルは確かに悪人だったけれど、彼が英雄を目指す根底には、きっと「何か」があった……。そう思わせる程度にフォローを留め、彼の悪性を否定したり、なまじ綺麗事にしたりせずに彼を「英雄」として死なせてみせたこのくだり。これがあってこそ、『シンフォギアG』は真の完結を迎えた……と、そう思えてならない。


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引用:ストーリー - 戦姫絶唱シンフォギアGX 公式ホームページ

 

この『「ありがとう」を唄いながら』に始まる一連のシーンは今でも涙なくして見られないし、正直ウェル博士というキャラクター、そして『シンフォギアGX』を舐めてしまっていたと言う他ない。 

だからこそ、もしかしたら……と思ったのだ。もしかしたら、このアニメは「やってくれる」かもしれないと。 

そんなこちらの期待を受け取ったかのように、EPISODE 12『GX』クライマックスで繰り出される「イグナイト状態での6人絶唱」というとんでもない絵面。そして、キャロルの放つ圧倒的なフォニックゲインも併せた全てを「ガングニールで束ね」「アガートラームで制御」するという荒業、「S2CAヘキサコンバージョン」! 

無尽蔵のフォニックゲインを束ね、マリアと響は天に叫ぶ。  

「ジェネレートォォォォォっ!!」
「エクスッ!!ドラアァァァァァァァァァイブッ!!」

Generate eXdrive。それは、響が束ねた力をマリアが制御し、 負荷をイグナイトで抑えるだけでなく6人に再配置するもの。 フロンティア事変で見せた「奇跡」を6人のコンビネーションと、イグナイトの力=エルフナインの力を持ってして再現するという離れ業だ。  

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引用:ストーリー - 戦姫絶唱シンフォギアGX 公式ホームページ  

EPISODE 1のサブタイトルであり、キャロルが自身を呼ぶ「奇跡の殺戮者」という言葉。それは、疫病から村を救った父、イザーク・マールス・ディーンハイム (CV.遠近孝一) が、その錬金術を「神の奇跡」とすり替えられたばかりか、当のイザークが危険人物として処刑された……という悲惨な過去から来ている言葉だった。キャロルが憎むのは、自分に理解できない物事を拒み、相互理解を焼き払う人間の愚かさ。つまり、キャロルの敵もまた「人と人との不和」であり、彼女にとっての「奇跡」とは、そんな衆愚の象徴だったのだ。 

しかし、対する響たちは、キャロルという最強の存在を前に、お互いの手を繋ぐ「絆」、そして知恵と勇気によってエクスドライブを発動。かつての「奇跡」を自分達の手で「必然」と掴み取ってみせた。それは、かつてのルナ・アタックやフロンティア事変で力を貸してくれた人々への回答――「皆と繋がり合った事実」の確かな肯定であり、かつてイザークを葬られ、人と人との相互理解という錬金術の理想に絶望したキャロルへの回答としての「奇跡のカタチ」でもある。  

「キャロル。生きて、もっと世界を知るんだ。それがキャロルの……」

イザークがキャロルに残した命題。キャロルはその言葉通りに「世界を知るために、世界をバラバラにする」ことを選び、一方エルフナインは、かの命題の答えを「赦し」と取った。 

万象を知ることで世界を解き明かし、バラルの呪詛で分かたれた世界を再び繋ぐこと=人と人とが分かり合う未来こそが錬金術の到達点。そこにキャロルが辿り着き、自らを殺した世界と調和すること。それこそ、キャロルが幸せに生きることを願ったイザークの、父親として託した祈りだったのだろう。 

しかし、その答えにエルフナインが辿り着いたのはきっと偶然ではない。 

そもそも、エルフナインはキャロルのクローンとして失敗作だったために、クローンではなく独立した個体=作業用ホムンクルスとして残された、謂わばキャロルの分身。そんな失敗作に、キャロルはわざわざ記憶まで転送複写してみせた。思うに、それはキャロルが「イザークの残した命題の答えを理解しつつも、それを拒んだ」からだったのではないだろうか。 

殲琴・ダウルダブラ

殲琴・ダウルダブラ

  • キャロル・マールス・ディーンハイム(CV:水瀬いのり)
  • アニメ
  • ¥255
 

父親の為に復讐する自分とは別の「もう一人の自分」が、父親の出した命題に正面から向き合って答えてくれること……。それを願ったからこそ、エルフナインはキャロルが辿り着けなかった、あるいは「辿り着きながらも拒んだ」答えに辿り着き、そんなキャロルの祈りは、巡り巡って響たちにイグナイトという新たな力を与え、自分自身の目の前で憎むべき「奇跡」を生み出してみせた。 

しかし、それはかつてイザークを焼き払った「不和の象徴」ではなく「相互理解の象徴」。キャロルの父イザークへの誠意が、彼女の目の前に「答え」を生み出してみせる……というこの数奇な運命の結末も、また「奇跡」と呼べるのかもしれない。 

Glorious Break

Glorious Break

 

エルフナインの出した答え、「自分を焼いた世界を許してほしい」という父の願いを拒むかのように、巨大な外装に自らを覆うキャロル。心を閉ざす彼女に思いを届ける為に、エクスドライブの輝きを纏った響が出現させる自らのアームドギア、それは巨大な「繋ぐ手」そのもの。  

「立花に力を!天羽々斬ッ!!」
「イチイバル!!」
「シュルシャガナ!!」
「イガリマ!!」
「アガートラーム!!」
「うおおぉぉああぁぁぁぁぁぁっ!! ガングニイイィィィィィーーーーーールッ!!」

父の祈りがキャロルにとって呪いと化してしまったように、当たると痛い響の拳が誰かを救っていたように、スパイとして送り込まれたエルフナインが響たちの希望となったように、過去に血を浴びてきた聖遺物もまた、今は人を救う力。どんな力も、背負った「願い」によって、その意味合いをいくらでも変えていくことができるのだ。 

キャロルと手を繋ぐ為に、仲間の想いと聖遺物の力を束ねて撃ち込む最後の拳『Glorious Break』。それはまさに、これまでのシンフォギアシリーズが描いてきたものを全て背負った渾身の一撃。 

BGMが『Glorious Break』から『Exterminate』にシームレスに繋がるという『シンフォギア』らしさが詰まった演出に乗って、響とイザーク、そしてエルフナインが伸ばした手を最後の最後でキャロルが取ったこと。そして、そのおかげでキャロルが生き永らえ、エルフナインと共に命を繋げたこと……。これら、『シンフォギアGX』の壮絶かつ胸を揺さぶるクライマックスは、これまで述べてきた数々の負債を返上して余りある程のもの。 

どこまでも極端な紆余曲折を描いてきた本作は、確かに手放しで褒めることはできない作品だけれども、その中に流れていた熱い血潮と魂は間違いなく他のシリーズを凌駕するものであったし、だからこそ、自分はこの『シンフォギアGX』に今でも魅せられているのだろうと思う。

 

Rebirth-day

Rebirth-day

  • 高垣 彩陽
  • アニメ
  • ¥255

 

放送から7年が経ち、ようやく……というより、この記事を書いてようやく、自分は『シンフォギアGX』に正面から向き合うことができたし、胸を張って「好き」だと言えるようになった。 

当時の自分は、本作が期待していたものと違ったことで落ち込んでしまい、その後の『AXZ』『XV』も (これらもこれらで手放しには褒められない完成度だったこともあって) どこか自分の中で受け入れられずにいた。しかし、どんなものも「願い」次第でいくらでもその意味を変じていくものと教えてくれたのがこの『シンフォギアGX』。来るシンフォギアライブに向けて、引き続き、残る2作品にも全力で向き合っていきたい。

 

それでは、最後に『戦姫絶唱シンフォギア 10周年記念展 -繋ぐ手と手-』でも上映されたシリーズ屈指の人気シーン、もとい、古今東西、全てのアニメ作品を超越する世界最高完全無欠のプロローグを見届けて、この記事を〆としたい。

 


(動画の5:10~頃から始まる、「ベスト・オブ・シンフォギア 1位」のシーンをご覧ください!)

 

ありがとうシンフォギア、ありがとうシンフォギアGX……!!!! 

 この奇跡に光あれええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーッ!!!!!!!!!!

 

RADIANT FORCE

RADIANT FORCE