感想『ウルトラマンデッカー 7~8話』「ティガ&ダイナ」を継ぎ、「トリガー&デッカー」を紡ぐ、愛と魂の傑作客演回

夏を彩る恒例イベント『ウルトラヒーローズEXPO サマーフェスティバル』も終了間近となった2022年8月27日土曜日。 

夏が終わろうとする寂しさを吹き飛ばすかのように、『ウルトラマンデッカー』に一大イベント編がやってきた。



そう、それは『ウルトラマンZ』以降恒例となった先輩ウルトラヒーローの客演回! しかも、ティガを継ぐトリガーと、ダイナを継ぐデッカーの共演となれば、それはもはや傑作映画『劇場版 ウルトラマンティガ&ウルトラマンダイナ 光の星の戦士たち』リターンズを期待せずにはいられないシチュエーションだ。 

しかし、魅力も欠点もシリーズ中類を見ない “劇薬” トリガーと、ニュージェネレーションシリーズの積み上げが堅実に昇華された新世代の “王道” デッカーでは食い合わせが悪そうというのも大きな懸念点。『デッカー』が面白ければ面白いほど期待と (それ以上の) 不安が募っていき、遂に迎えたトリガー客演回、第7話『希望の光、赤き星より』そして第8話『光と闇、ふたたび』。 

備忘録も兼ねて、この2編を見たこの胸の凄まじい高鳴りを、冷めやらぬうちにしっかりと書き残しておきたい。

 


トリガー客演回こと、『デッカー』第7話『希望の光、赤き星より』そして第8話『光と闇、ふたたび』。結論から言うとこの前後編、あまりにも……あまりにも素晴らしいエピソードでした……ッ!!!!! 

確かに思う所はあるものの、正直予想外なほどに熱く、面白く、それでいて、良くも悪くも『トリガー』であり、それに負けないくらい『デッカー』でもあった。そのトピックの多さたるや凄まじいものだったので、順を追いながら、本エピソードのトピックを振り返っていきたい。

 

〈目次〉 

 

 

◇遂に描かれた「火星」の現在 

この前後編における大きなトピックの一つが、ようやく「現在の火星」が描かれたことだろう。 

人間・マナカケンゴの生まれ故郷であり、『トリガー』1話で既に「第2の地球」として人々が暮らしている様子が描かれていた火星。それから10年が経った『デッカー』では、火星は「カナタの両親が旅行に行っている」など、更に人々にとって親しみ深い場所として描かれていた。 

そして、スフィアによってそんな火星との連絡が取れなくなって1年。その間、一体火星はどうなっていたのか……? その答えは「スフィアに襲われていたが、トリガーや旧GUTS-SELECTメンバーが守り続けていた」という、『トリガー』ファンが思わず笑顔になってしまうものだった。

 

 

第7話『希望の光、赤き星より』の冒頭で描かれた火星。てっきり自分は、火星は火星なりにバリアフィールドなどを張っているのかと思っていたのだけれど、思った以上に小型のスフィア (スフィアソルジャー) が跋扈していたり、情景が明らかに『トリガー』時のそれではなく戦地の難民キャンプのようなものになっていたりと、どうも自分達の知る火星とは違う様子。 

もしかして「スフィアを誘導して迎え撃つための前線基地のような場所」なのかな? と考えてもみたけれど、明らかに一般人の女の子が花屋を訪れていたりするので、どうもそういう訳でもないらしい。 

これらの事柄や、地球に訪れたケンゴの発言から推測していくと、おそらく『デッカー』の火星は「大量のスフィアによる襲撃を受け、人々は無事に保護できたものの、街や施設が軒並み崩壊。今でも時折現れるスフィアにトリガーや元GUTS-SELECTの面々が対応しつつ、火星都市の再興を図っている」という状況なのではないだろうか。 

(確かに、ハイパーキーなどの高等技術は火星にあるのだろうけれど、それがどこまで無事かは分からないし、火星の物資が地球ほど豊かでないのはほぼ間違いないし、非常に厳しい状況なのだろうと思う)

 

そう考えると、戦地のような火星の状況も、火星を放っておけないケンゴの様子も頷ける。しかし、だからこそ、そんな彼の背中を

 

「お前がエタニティコアの中にいた2年間、人々の笑顔を守ってきたのは俺たちだ」

 

とアキトが諭すシーンは殊更にグッと来てしまう。 

『エピソードZ』で奪われたハイパーキーを取り戻すシーンも然り、アキトとケンゴの「人間同士として」対等なバディ感にはもはや安心感があるし、8年経っても、ユナを含めた3人の関係が変わっていないことは本当に嬉しかった……! 

「ウザい」という言葉の多義化に拍車がかかっていたり、ケンゴのディメンションカードをあっという間に解析したり、あまつさえ、そのカードにスフィアの遺骸(?)から抽出したエネルギーを注入して地球を覆うバリアを突破する秘密兵器にしてしまったりと、相変わらずぶっ飛んだ「アキトらしさ」を見せてくれたりもするけど、この状況ではツッコミよりも頼もしさが勝るところ。

 

「火星を……僕の故郷をお願いします!」

 

と旅立つケンゴ、ここぞという瞬間で流れ出す『トリガー』の劇伴、父親のように2人を見守っていることが伝わってくるタツミの勇姿と合わせて、正直、この時点でお腹一杯になりそうだった。 

一つ、気になる点があるとすれば……。

 

タツミ元隊長、その、クソデカキャノン (エピソードZのアレ) はどこにやったので……?


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(↑巷で“GUTSクソデカキャノン”と呼ばれている武器。正式名称なんだっけ……?)

 

 

◇『トリガー』に侵食されるデッカー 

そんなこんなで期待値モリモリで始まったトリガー客演編。しかし、舞台が地球に移ると途端に『トリガー』特有のガバガバ感が顔を出してくる。以下、その一例。


・ガッツホークがいる訳でもないのに、ガッツファルコンの中から直接変身するカナタ 

・トリガーが駆け付け、デッカーを救出すると急に放置されるスフィアメガロゾーア 

・トリガーが地球にやってくるや否や同時に現れるケンゴ→両者の関係性を疑う……などとはならないGUTS-SELECT   

・ケンゴの怪しさ満点の説明を疑わないムラホシ隊長   

・やたらとにこやかでノリノリのムラホシ隊長 

・「闇のエネルギー……。10年前、地球を襲った闇の巨人たち。これは彼らと同じ、闇のエネルギーです」と、およそこれまでのデッカーでは言わなかったであろうガバガバな物言いで説明を始めるムラホシ隊長 

 

熱いシーンが繰り広げられたかと思えば、あれよあれよと滲み出てくる詰めの甘さ。あれ、この感じ……物凄く『トリガー』なのでは……?????

 

 

 

◇ウルトラデュアルソードの功績 

ウルトラマンZ』ではウルトラゼットライザー、『トリガー』ではガッツスパークレンスと、過去2作では先輩ウルトラマンが現行変身アイテムを使って活躍する姿が描かれていた。 

しかし、今回ケンゴが引っ提げてきたのは、ガッツハイパーキーとディメンションカードの双方に対応した (技術的にも商業的にも) 凄まじいニューアイテム、ウルトラデュアルソード!

 

 

 

このデュアルソード、一見すると「ユザレから託された新アイテム」「カードがついてきたのはご愛敬」という一言で済ませるべき案件なようで、その実そうもいかなそうな何とも怪しい代物。というのも、その出自があまりにも謎すぎる。いや、厳密には「ケンゴにデュアルソードを渡したあのユザレ」が謎すぎるのだ。 

見た目がユザレと違う (第8話でユナがユザレの力を発動した時はこれまで通りの見た目だったので、ウィッグの状態のような撮影上の都合ではない) し、ディメンションカードについてはケンゴも知らない上、何かを感じることもなかった=超古代文明とはおそらく無関係。 

トドメとばかりに「僕が知ってるユザレじゃなかった」「デッカーは超古代文明とは違うところから来たウルトラマンなのかもしれない」と、全ての発言がユザレ(仮)への疑念を倍増しにしていくものばかり。こうなると、ユザレ (仮) がスフィアソルジャーのディメンションカードを持っていたことが怪しくて怪しくてしょうがない。ひょっとして、デッカーはスフィアがユザレやトリガーなど、超古代文明をまるっとコピーして出力した (が、ユザレ共々スフィアから離反した?) 存在だったりするのだろうか……?

 

 

 

とまあ、何とも怪しさ溢れるデュアルソードだけれど、そのデュアルソードに感謝したいのは、ケンゴがディーフラッシャーを使わずに済んだこと。 

そもそも、原点であるティガとダイナはあれだけニコイチで扱われながら、一度も並んで同時変身をしたことがない。今回、ケンゴがガッツスパークレンス、カナタがディーフラッシャーでカッコいい同時変身を決めてくれたのは、様々な都合でダイゴ・アスカの同時変身が叶わなかったことのリベンジに思えてしまったし、そのアイテムがちゃんと (?) スパークレンスとリーフラッシャーだったことに、TDG世代のオタクとしてはどうしようもなく胸に来るものがあったのである。 

デュアルソードそのものの活躍や評価はこれから次第になるけれど、この時点でデュアルソードの存在にはもう感謝しかないところ。ありがとう、ウルトラデュアルソード……!


 

 

◇ルルイエを信じるものたちへ 

筆者は『ウルトラマントリガー NEW GENERATION TIGA』が大好きなオタクだ。好きが高じてこのブログでも5本記事を書いているし、『トリガー』を胸を張って好きだと言えるよう、全力で向き合ってきた……つもりである。 

が、そんな自分でも未だに (その正体もストーリーにおける意味合いも) よく分かっていない存在が他ならぬ「ルルイエ」であり、これまで書いた記事でも「ルルイエが何だったのか」については避けざるを得なかった。だって全然分からないんだもの!!!!!

 

kogalent.hatenablog.com

 

『トリガー』から得られるルルイエの情報はびっくりするほど少ない。 

一つは、火星で植物学者として働いていたケンゴが、火星で生み出した新種の花だということ。もう一つは、『トリガー』最終回において、まるで自らの主=ケンゴを笑顔にするために、と言わんばかりのタイミングで、およそ普通の花ではありえない速度で開花してみせたこと。 

どう考えても普通の花ではないけれど、考察の材料さえ転がっていないという、考察班から笑顔を奪う恐ろしい花だったのである。

 

そんなルルイエが劇中で果たしたのは、前述の通り「旅立つケンゴを笑顔にする」という、物語を締め括る役割。 

ルルイエという名前は「邪神復活の地」そして「希望」という、まさに光と闇を象徴するものだったけれど、ルルイエがケンゴを笑顔にできたのは、それが光だからとか闇だからとかではなく、ただケンゴの願ったように「人を笑顔にできる花」として育ったから。 

『トリガー』が謳った光と闇の共存は、それらが共存する「人」という存在への讃歌でもあった。無理に光にならなくてもいい、自分の闇を受け入れ、ただ「人」として前を向いて生きていくこと。その姿が、きっと誰かを笑顔にできるのだと。ルルイエが咲いたことで皆を笑顔にしたあの瞬間には、そんなトリガーのテーマが集約されていたと言えるのではないだろうか。



ってあれェ!?!?!?!?!?!?!?!?!? 

「遂にルルイエの正体が明かされる!!」という気持ちと「新種の花じゃなかったの!?」という疑問と「ケンゴが超古代文明を滅ぼした張本人になったりしないよね!?」という不安とで脳内がとんでもない交通事故を起こしていた。 

来る第8話では、スフィアメガロゾーアの撃退と入れ替わるように街でこのルルイエ (?) の花粉による被害が発生。花粉を吸った人々が幸せな表情で夢に落ちる、という様はどう見ても『ウルトラマンティガ』において、超古代文明を滅ぼした超古代植物「ギジェラ」のそれと同じで、もういよいよお通夜だった。どう足掻いても (トリガーのアフターエピソードとして) ロクなことにならない。えらいことになってしまった……。 

そんなこちらの不安を写すかのようにルルイエは某ジュランや某レギオンを思わせる姿に巨大化。そしてケンゴも見るからに凹んでしまい、「アレはルルイエ。僕が作った花です……」と沈痛に吐露する始末――と、思いきや。

 

「違います。マナカさんのルルイエはここにあります」

 

凛とした声と共に現れたのは、なんと大人になったユナ! えっ、めっっっちゃ可愛……………………ちょっと待ってルルイエくん10年経っても咲き続けてるの!?!?!?!?

 

「あれは超古代植物ギジェラン。以前カルミラがメガロゾーアに変化した過程で偶然取り込んだ種の化石が、スフィアの影響で発芽したものかと」

 

なんて!?!?!?!?!?!?!?!?!?

 


「超古代の世界では、ギジェランの花粉を薬として使ったこともあったんだって。だから、ケンゴの中に眠る超古代の記憶が、笑顔とギジェラの花を、無意識に結び付けたのかも」
「だから、ルルイエとギジェラは似てるのか……」

 

なるほ……いや待ってごめんもう一回言って!?!?!?!?!?!?!?!?!?

 

「大丈夫、ケンゴのルルイエは、ギジェランとは違う。ちゃんと皆を笑顔にしてるよ」

 

今そのルルイエくんのせいでめっっっちゃ困ってるんだけども!?!?!?!?!?!?!?!?!?

 

(ギジェラが登場する、ウルトラマンティガ第45話『永遠の命』の内容はこちらにまとめられています。傑作なので、未見の方は是非TSUBURAYA IMAGINATIONからご覧ください!)

 

ユナから明かされた情報をどうにかこうにか整理/補完すると、下記のようになる。

 

・街に咲いた花は「超古代植物ギジェラン」。ウルトラではよくある、名前や生態が似ている別種?  

・超古代の世界では、ギジェランの花粉を薬として使ったこともあった(鎮痛薬や睡眠導入剤など、使途は諸々考えられる) 

・そのため、ケンゴの中には「ギジェランの花=人々を癒すもの、笑顔にするもの」というイメージがあり、(おそらく)ケンゴがルルイエをデザインするにあたり、無意識にギジェランの花をモチーフにしていた 

・つまり、今回の事件においてルルイエは無罪……というかそもそも全く関係ない。 

・『トリガー』で、カルミラがエタニティコアを取り込んでメガロゾーア(第1形態)に変化した際、崩れる遺跡からギジェランの種の化石が入り込んだ   

・以前トリガーがメガロゾーアを倒した際に、その種の化石が飛び散った 

・その種が、今回スフィアの影響(便利ワード大賞2022)を受けたことで町中で発芽した

 

大々的な前フリの割にルルイエが全く関係ないとか、「ギジェラとギジェランは似てるなんてものじゃないだろ……いやカミーラとカルミラのことを考えれば今更な話か……」とか、ギジェランが「スフィアの影響で発芽した」ならもっと発芽が早くてもいいはずだし、スフィアメガロゾーアの登場とここまでリンクする理由が不明瞭じゃないか……とか、それはもう山ほどツッコミどころが出てくるのだけれど、どうやらこの話には筋が通っているらしく、以降この兼にはケンゴ含め誰も触れることがなくなる。 

この……このもどかしいし「そうはならんやろ!」と叫びたくなるけど、何やらライターの頭の中ではちゃんと筋が通っているらしく奇妙な説得力を感じてしまうこの現象……。こ、これはあの伝説のタイムスリップ回 (『トリガー』第11~12話) と同じなのでは……!? 

そしてそのエピソードも脚本担当はハヤシナオキ氏。つまり、この辺に関しては深く考えても多分我々には分かりっこないのである。 

とりあえず、ルルイエは冤罪で済んだしケンゴもあらぬ重罪を背負わされたりしなかったので、それでOKとしよう。こうやって割り切っていくスキルこそ、トリガーにおいては必須なのだ……ッ!!(トリガーというかハヤシナオキ作品では、かもしれない……)

 

ところで、ルルイエが何やら普通の花でなさそうな件については一体……え、あ、ここも割り切らなくちゃいけないポイント……? アッハイ、分かりました……。

 

 


◇スフィアメガロゾーアって、なに? 

シズマ財団驚異の科学力、そしてGUTS-SELECTの活躍によって、ルルイエ……ではなくギジェランを枯らすことに成功(この作戦開始のシーンでBGMが『トリガー』のGUTS-SELECTメインテーマから『デッカー』のGUTS-SELECTメインテーマに繋がる演出、『THE FINAL ODYSSEY』リスペクトとして3000万点……ッ!!!!!)。残った花弁を焼却すべくネオマキシマナースキャノンを放ったところに、撃退したスフィアメガロゾーアが再び現れる。 

『トリガー』ファンとしては、やはりこのスフィアメガロゾーアが何なのか、というのが気になるところであり、争点でもあった。

 


メガロゾーアは『ティガ』におけるガタノゾーアとデモンゾーアを足して2で割ったような存在で、具体的には「エタニティコアの力で増幅した闇を、ガタノゾーアのような外殻にして、デモンゾーアのように合身したもの」だと筆者は解釈している。ここで重要なポイントは2つ。 

1つは「カルミラそのものがメガロゾーアに変身しているのではなく、カルミラ+闇の外殻=メガロゾーア」であること。そしてもう1つが、メガロゾーアはエタニティコア(光)とカルミラの闇が混ざり合った存在であるため、トリガーのような光のエネルギーや、トリガーダークのような闇のエネルギーをぶつけるだけでは倒せないということ。 

ケンゴは、トリガートゥルースに変身することで同じ「光×闇」のエネルギーを獲得し、それをエタニティコアの力でブーストすることで、見事メガロゾーアという外殻を破壊。カルミラをその中から救出していた。これが『トリガー』におけるメガロゾーアと、その顛末である。

 

 

して、今回のスフィアメガロゾーアとは何物だったのだろうか。 

これについては、カイザキ副隊長が「スフィアが復活させたのではなく、スフィアを利用して復活した」と表現している。このことに、『トリガー』では最期にカルミラが光を認めたこと、メガロゾーア状態のカルミラが「暴走状態にある」と表現されていたことなどを加味すると、スフィアメガロゾーアとはおそらく「メガロゾーアという“カルミラの怨念から作られた外殻”が暴走し、エネルギー源となるスフィア、存在の核となるカルミラの残滓」を吸収し、ウルトラマンやGUTS-SELECTに復讐すべく蘇った怪物なのではないだろうか。 

(『ウルトラマン80』のホーに代表される、マイナスエネルギー怪獣が存在としては近いかもしれない)

 

こう考えていくと、スフィアメガロゾーアはかつてのメガロゾーアと違い、エタニティコアの力を備えていない可能性がある。それはつまり、「光と闇の融合獣なので、トゥルースの力でしか倒せない」という、メガロゾーアの最大の強みを失っているばかりか、エタニティコアの圧倒的なパワーを持っていないということでもある。 

一見、スフィアの力を得たパワーアップ形態のようで、実は弱体化していた悲しい存在かもしれないスフィアメガロゾーア。しかし、だからこそこの序盤で倒されても違和感がないというのは、何かとパワーバランス問題について指摘されることの多かった坂本監督が、メガロゾーアを出すにあたって一枚噛んだ結果なのだと思いたいところ。  

(「カルミラとの共闘のおかげで光と闇が揃い、スフィアメガロゾーアを倒せた」という説については、「ならトリガーとトリガーダークで戦えばメガロゾーアを倒せることになるのでは?」というのが個人的な見解だ)



◇カルミラとケンゴ 

第7話と次回予告を見終えて、ルルイエ絡みで猛烈な不安に囚われたのは前述の通りだけれども、もう一つ、大きな不安として残ったのが「カルミラの処遇」だった。 

 

 

カルミラは、かつての恋人であったトリガーダークが「ウルトラマントリガー」という光に転身したことにケンゴが関わっていたことを知り、「トリガーを光に変えた元凶」として彼を激しく憎むようになる。しかしそれは、愛すべきトリガーが「自らの意思で自分を拒絶した」と認めたくないという思いによるものだった。 

だからこそ、カルミラは戦いの中でケンゴ=トリガー自身だと気付くにつれ、心の行き場をなくし、暴走への道をひた走っていった。 

そして、そんなカルミラを笑顔にする方法は、ケンゴ自身が闇を拒絶することなく受け入れること。その思いが具現化したのがトリガートゥルースであり、戦いの果てに、カルミラはトリガー=ケンゴが光も闇も併せ持つ存在であり、闇を拒絶する訳ではなかったと知る。 

孤独と不安から解放されたカルミラは、光の暖かさを認めていった……と、これが筆者なりに解釈した『トリガー』におけるカルミラの顛末。

 

『トリガー』の2年後にあたる『ウルトラマントリガー エピソードZ』では闇の巨人について触れられなかったため、カルミラとの別れがケンゴにとってどう感じられていたのかは明言されていなかったけれど、今回 (第7話)、ケンゴはカルミラをして「笑顔にできなかった」と語っていた。 

『トリガー』において、消え行くカルミラは(声と台詞から)十中八九笑顔だったと思うのだけれど、そのカルミラをして「笑顔にできなかった」と言うのは、ケンゴがカルミラをあの時点で「救えた」と認識したくないからなのだと思う。

大切なのは、笑顔そのものではなく、笑顔を浮かべて未来へ進んでいけること。笑顔を浮かべても、そこで死んでしまったら意味がない。ケンゴの心情を思うと、彼がエタニティコアの人柱となったのは、トリガーダークとして犯してきた罪への、そしてカルミラやダーゴンたち、笑顔にできなかった相手への贖罪だったのかもしれない。

 

 

……と、カルミラが「救いたかったけど救えなかった相手」として印象付けられつつ迎えた7話ラスト。トリガーがデュアルソードでメガロゾーアを切り裂くと、中から現れたのはなんとカルミラその人。 

「マナカケンゴォ……!!」と呻きながらメガロゾーアに埋まっている (?) という強烈なビジュアルには驚きを通り越してちょっと笑ってしまったけれど、冷静に考えるとそれどころじゃなかった。もしこの復活が、カルミラ自身の怨念によるもの=カルミラが説得できていなかったのだとしたら、『トリガー』って一体何だったんだ……!? となってしまう。『トリガー』の監督×脚本タッグでそんなことはないだろうと信じてはいたけど、いや、でも、ハヤシナオキさんも坂本監督も良い時と悪い時の落差が凄まじいことには定評がある。もしかすると、もしかしてしまうかもしれない……! 

そんな不安があったからこそ、第8話はずっと緊張しながら見ていた。『トリガー』が覆されてしまうか、あるいは想像を絶するほど化けるか。それは最後まで分からないぞ――!と。

 


◇『ウルトラマンティガ&ウルトラマンダイナ』を継ぐものとして

奇想天外かつ先が読めないトリガーワールドを好き放題繰り広げるトリガー組。何から何まで『トリガー』すぎて笑ってしまうけれど、本エピソードはその一方で『トリガー』が『デッカー』に客演するにあたって求められるものをきちんと分析・反映させているようでもあった。 

そう、『ウルトラマンダイナ』『劇場版ウルトラマンティガ&ダイナ 光の星の戦士たち』のオマージュ・リスペクトである。

 

 

「ティガを継ぐ」作品として鳴り物入りで打ち出されながらも『ティガ』とは似ても似つかない雰囲気や「要素だけ似せる」といった手法がファンの反感を呼んでしまった『トリガー』だが、続く『デッカー』は、その反省を活かしてか「『ダイナ』の要素をオマージュしつつ、その精神性や作風を踏襲する」という作劇が行われている。 

そんな『デッカー』にトリガー組が客演するとなれば、気になるのはやはり「ダイナのティガ組客演回」や「ティガ&ダイナ」へのオマージュ・目配せがどちらの文脈で行われるのかという点だけれど、(非常にありがたいことに) 採用されたのは『デッカー』の文脈だった。

 

ケンゴが7話で着用している白い服(私服?)は、『ダイナ』最終章で登場したダイゴのオマージュだろうし、「ウルトラマン本人だけではなく、その仲間たちも登場する」というのも、少なからず『ダイナ』や『ティガ&ダイナ』を意識したものだろう。 

(ユナとケンゴが最終的に当時の制服を着用するというのも、『ダイナ』でのムナカタ、シンジョウ、ホリイ隊員を思い出させてくれる粋な演出だ)

 

 

そんな中、本作における最大の『ダイナ』ないし『ティガ&ダイナ』リスペクトを担っているのは、他ならぬウルトラマントリガー=ケンゴの言葉だと思う。

 


ウルトラマンダイナ=アスカ・シンは『ティガ&ダイナ』においてウルトラマンとしての自信を失ってしまうが、元GUTS隊長のイルマから「ティガの本質は、誰の中にもある“光”だった」ことを聞き、特別な存在でも無敵の巨人でもなく、あくまで「ただの人間」として、仲間たちと共に戦う決意を固めてみせた。 

そして『ダイナ』最終章において、アスカはティガ=ダイゴと対面。自分が背負ってしまったものの重さを思い知り揺れ動くアスカに、ダイゴは優しく語りかける。

 

「でも……最後は、自分で出さなきゃならない答えもある。人としてできること。それは自分自身で決めるしかないんだ」

 

アスカにとって、ティガとして戦った者/ティガの想いを知る者たちは、彼にとって「ウルトラマンの本質は、人の中にある光」であることを伝えてくれる、謂わば道標であった。 

一方カナタは、ウルトラマンとして壁に当たった訳でもなければ、ウルトラマンとして背負ったものの重さに思い悩んでいる訳でもない。「ケンゴさんは、ウルトラマンの力で皆を笑顔にしたんですね」と呟くカナタに、ケンゴは問いかける。

 

「カナタくん。君は、何のために戦うの?」
「それは……戦うための力があって、目の前で困ってる人がいるから……。考えたこと、なかったです」
「人それぞれに、できることは違うんだよ。自分に何ができるのか、何をしたいのか。いつか、自分自身で答えを出さなければならない時がきっと来る。だから、今はまだ焦らないで」

 

それはきっと、ケンゴが「ウルトラマンに変身できるだけの、ただの人間」だからこそ出た言葉。ウルトラマンだから皆を笑顔にしたのではなく、皆を笑顔にしたいという夢があったから、ウルトラマンとして戦ったのだと。 

カナタという人間には何ができて、何をしたいのか、どんな未来を夢見て戦うのか……。それは、これからウルトラマンとして走り出し、多くの困難に苦しむであろうカナタが笑顔でいられることを願っての、ケンゴなりのエールだったのだろうと思う。

 

ウルトラマンとして悩むアスカに、イルマやダイゴが「ウルトラマンは光であり、人である」こと=『ティガ』を伝えてくれたように、これからウルトラマンとして悩むであろうカナタに「自分はウルトラマン (光) である前に、人である」こと=『トリガー』を伝えたケンゴ。 

ただの客演ではなく、それぞれの作品が描いた「想い」を伝えること。『ダイナ』で描かれた「継承」を踏襲したケンゴからカナタへのメッセージは、それそのものが最大の『ダイナ』そして『ティガ&ダイナ』へのリスペクトであったと思えてならない。

 


◇本当の戦いはここからだ!

「自分に何ができるのか、何をしたいのか」……と、ケンゴはカナタに問いかけた。しかし、作中終盤でダイゴと出会ったアスカと違い、カナタの旅はまだ始まったばかり。人としてもウルトラマンとしても、まだカナタには「夢見る未来」を持つことはできていない。 

そんな自分と違って、ケンゴ=トリガーは、確たる「夢見る未来」を持って、敵であった存在をも救うために戦っている。そんな英雄を前にカナタが選んだのは、あくまで「今、やるしかねぇ」ことをやること。夢見る未来のために全力で戦うケンゴ=トリガーの願いのために戦うことだった。

 

Wake up Decker!

Wake up Decker!


カナタが、ウルトラマンとして新たなステージへ踏み出す「最初の一歩」が、彼が最初に自分の意思で変身した「今、やるしかねぇ!」そのものだったこと、そのことを世界に宣言するかのような彼の叫びが

 

「俺の本当の戦いは、ここからだぁぁッ!!」

 

だったこと……。まだ8話という序盤だとしても、これら全てをひっくるめたそのカタルシスは『ティガ&ダイナ』というレジェンドを前に決して引けを取らないものになったのではないだろうか。


そして、カナタの尽力に、消えたはずのユザレの力 (服装が変わらない辺り、ユザレの人格はエピソードZで消えてしまったからか、ユザレそのものを呼んだのではなく、ユナ自身の中にある力が目覚めたとも取れる演出なのが見事……!) を目覚めさせたユナの助力。 

『エピソードZ』から8年が経ち、英雄として成長したであろうトリガーもあくまで人間。「どんなに強い光も、一人では輝けない」ことを体現するように、トリガー、デッカー、ユナ、GUTS-SELECT、皆の繋いだ光が届き、遂に救出されるカルミラ……! 

カルミラはあくまで暴走する闇 (メガロゾーアの外殻) に囚われていたのだと安堵できるような暖かいやり取りを経て、なんと並び立つカルミラ、トリガー、デッカー!そしてカルミラの「さあ、情熱的に行くよ!」を合図に流れ出す『♪Trigger』!!

 

Trigger

Trigger

  • 佐久間貴生
  • アニメ
  • ¥255

 

『ティガ&ダイナ』へも限りなくリスペクトを送るけれど、あくまで今ここで戦っているのはトリガーとデッカーなのだと、トリガーはティガではないけれど、だからこそ『トリガー』には唯一無二の魅力があるのだと、それらを全力で叫ぶかのような、異質だけど眩しい3人のドリームチーム。その戦いはもう一挙手一投足が涙ものだったし、実際この戦いは見ながらずっと涙が溢れて止まらなかった。 

自分の罪を清算するかのように、迷いなく戦うカルミラ。そんなカルミラとトリガーの見事な連携には、ずっと見たかった「2人の間にある本物の絆」が見えてくるし、そんな歴戦の強者2人に一歩も引かないデッカーの成長ぶりにも心を動かされてしまう。『トリガー』の後日談としても、『トリガー&デッカー』としても涙なしには見られない、こんなに完璧なファイナルバトルがあるだろうか。



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引用:『ウルトラマンデッカー』第8話「光と闇、ふたたび」-公式配信-  -YouTube

 

そしてフィニッシュは、しっかりとデッカーがセンターを取っての (ちゃんと“回避で並びが替わる”というワンクッションを入れているのが細かい!) 光線同時発射! (おそらく)トゥルースの力は不要なのでスフィアメガロゾーアは完全消滅し、ミラクルタイプとユザレの力もあってか、カルミラの肉体もきちんと存続。 

あまりにも美しい、言うことなし、完全無欠、最高最善、拍手喝采のフィナーレだった。ありがとう坂本監督、ありがとうハヤシナオキさん、ありがとう、ウルトラマントリガー&デッカー……!!


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(このラストカットが『ティガ&ダイナ』のそれにそっくりなのは、きっと気のせいじゃないはず……!)

 

カナタトオク

カナタトオク

  • provided courtesy of iTunes

 

また逢う日まで

まさかまさかの完全復活を遂げたカルミラ。彼女が宇宙へ帰っていったことに反発の声を見かけたりもしたけど、カルミラがエタニティコアを狙っていたのは、世界を闇で塗り潰すこと。しかし、今の世界は愛するトリガーが守ろうとした世界であるし、世界を闇に塗り潰さなくても、自分達には居場所があることを分かっている今のカルミラが悪事を働くことはないと思う。 

ヒュドラムは限りなく怪しいけれど、一緒にいるダーゴン、そして、今もどこかを旅しているであろうイグニスがきっちり手綱を握ってくれると信じたい。それを我々以上に理解し、信じているからこそ、ケンゴもユナも、彼女の旅立ちを止めなかったのだろうと思う。

 

そして、カナタは「自分だけの答え」を伝えることをケンゴに誓う。 

その答えが果たされるのは、果たして『デッカー』作中なのか、それとも『エピソードZ』のような長編作品なのか。それは分からないけれど、既にして彼らの再会を見届けたい気持ちでいっぱいだし、自分が『トリガー』そして『デッカー』のことが大好きなのだと、そう気付かせてくれる、本当に見事な客演編だったと思う。

 

 

こうして『デッカー』熱が留まるところを知らない中、なんと次回はあのグレゴール人を『ダイナ』などの筆頭スーツアクター=中村浩二氏が演じるという既にしてとんでもないエピソード。   

ソフビが発売されるニセダイナは画面に映るのか、グレゴール人はスフィアレッドキングとの戦いでちゃんと生き延びてくれるのか……。 カナタの更なる成長、そしてやたら不穏な存在が見え隠れする今後のデッカーを、これからも楽しみに見守っていきたい。