〈ネタバレなし〉感想『蒼穹のファフナー BEHIND THE LINE』儚い日常が描き出す “平和” の意味と、運命の「境界線」

「いい夢だった、多分」

 

一言で表すなら、これだった。 

2023年1月20日に公開される、ファフナーシリーズ最新作『蒼穹のファフナー BEHIND THE LINE』。その先行上映会が、先日12月27日にファフナー恒例の (謎) イベント『総士生誕祭』とセットで開催された。

 

 

ファフナーシリーズ初の「平和なスピンオフ」と銘打たれたこの『BEHIND THE LINE』。公開は来月のため、当然その詳細を口にすることはできない (し、イベント会場でもネタバレNGについては暗に念押しがあった) のだけれど、それでも、是非多くの方に見て頂きたいと感じたこの『BEHIND THE LINE』。 

「平和なスピンオフ」という売り文句に偽りはなかったのか、PVから溢れ出る不穏さは何なのか、結局のところ見に行くべきなのかどうか……。未開示の情報に極限まで配慮しつつ、可能な限り本作の魅力を伝えていきたい。

 

※以下、2022年12月時点で公式解禁されている情報についての言及が含まれます。「全くのネタバレなし」で視聴に臨まれたい方はご注意ください※

 


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引用:「蒼穹のファフナー BEHIND THE LINE」【PV】第2弾 | 2023年1月20日劇場特別先行上映開始 - YouTube

 

《目次》

 

『BEHIND THE LINE』の見所

 

蒼穹のファフナー BEHIND THE LINE』とは、劇場版である『HEAVEN AND EARTH』とTVアニメ第2期『EXODUS』の間に位置する物語にして『ファフナー』初となる「平和なスピンオフ作品」。PVで仄めかされている通り「何事もない」とはいかないけれど、それでも本作は看板に偽りない「平和な作品」に仕上がっていた。 

しかし、本作の魅力は「平和な作品」であっても……もとい「平和な作品」だからこそファフナーシリーズになくてはならない重要な作品になっていたこと。そう、本作は「平和なスピンオフ」という看板を掲げつつも、間違いなく我々の知っている、我々の見たかった『ファフナー』だったのだ。

 

 

この『BEHIND THE LINE』の話が出た時には『THE BEYOND』0話も見たい! という話が数多く叫ばれていたし、自分もそこは全くの同意見。それもそのはず、『THE BEYOND』1話は本当に数多くの話 (マリスの海神島での暮らし、子総士の成長、パイロットの引き継ぎ、一騎の現在等々) をすっ飛ばしていたからだ。 

しかし、そのせいで (?) 自分は『HEAVEN AND EARTH』~『EXODUS』の間も大概話がすっ飛んでいたことをすっかり忘れてしまっていた。

 

 

『EXODUS』1話の舞台は、劇場版『HEAVEN AND EARTH』の2年後。この2年間での変化は非常に大きく、ビジュアル面の変化は勿論、それ以上に衝撃的だったのがメインキャラクターたちの「立場」と「内面」の変化。 

一騎、カノン、剣司、咲良、真矢といった『第1期』から健在だったファフナーパイロットたちはそれぞれ異なる職業に就き、一部は引退に至っていた。カノンはメカニック、剣司は医者、咲良は教師……。そういった彼らの新たな姿は、それぞれしっかりと文脈が乗っているため「なるほど」と頷けるもののばかりだったけれど、それにしてもカノンがバッチリ「先輩」をやっていたり、あの剣司がすっかりドクターとして仕事をこなしていたりといった変化には随分驚かされたし、やはり彼らのそういった「途中経過」を見ることができないのは残念だった。 

そして、更なる問題は一騎。『EXODUS』では早々にその生存限界が「あと2年」と明かされるが、既に一騎と総士はそのことを受け止め達観してしまっており、この生存限界が「明かされる」という壮絶なドラマが本編では丸々削られてしまったのである。 

(勿論、尺の都合や話運びを踏まえるとこれらのくだりをバッサリカットしたのは賢明だったと言えるのだけれども)

 

そこで『BEHIND THE LINE』だ。本作は、第2弾PVでの咲良・剣司の台詞に表れているように「 “重要ではあるが、本編ではカットされてしまった” 箇所、あるいは “おそらく本編で描くに描けなかったであろうエピソードや掘り下げ” が丁寧に描かれる」という、まるで数年越しにファンの夢が叶ったかのような内容になっている。 

それは、史彦たち大人組や芹たち後輩組、そして『EXODUS』で登場したサブキャラクターたちも例外ではなく、この点においてはまさしく「理想的なスピンオフ」そのもの。ファフナー、特に『EXODUS』を楽しむにあたって欠かせない作品になっていると言えるだろう。

 

 

 

「平和なスピンオフ」が描くもの

 

「平和なスピンオフ」という一報で (自分含め) 多くの人が期待したであろう「日常系のファフナー」という夢が少なからず実現していたのも、本作における大きなトピックだろう。 

曲がりなりにも「平和な時期」の話なため、ちらほらコメディシーンが見られるだけでなく、およそこれまでの『ファフナー』では見られなかったであろう比較的大規模なコメディシーンがあるのも本作の見所。劇場は大きな笑いに包まれていたし、「ファフナーの観客が嗚咽以外でシンクロすることなんてあるんだ……」と驚かされてしまった。

 

しかし、そのようなシーンは繰り返すが「ちらほら」程度であり決して多い訳ではないし、ましてや本作の主軸にはなっていない。では「本作が語る “平和なスピンオフ” とは何なのか」という話になってくるのだけれど、それは一言で表すなら「平和になる」ことそのものに『ファフナー』の文脈で真摯に向き合った物語だった。

 

 

思えば、本シリーズは「平和になった」姿は何度も描かれてきたものの「平和になる」流れが描かれたことはなかった。そのタイミングがあるとすれば最終回になってしまうが、尺を考えればそのくだりを丁寧に描くことは極めて困難。そのため、これはまさしく『BEHIND THE LINE』というスピンオフならではの偉業と言えるかもしれない。 

しかし、本作の真の魅力は単に「平和」を描いたことではなく、「平和になるということが、一騎たちに何をもたらすのか」を徹底的に追求してみせたこと。それを端的に表しているのが、第2弾PVにおける総士と真矢のこのやり取りだろう。

 

「機体に乗る時の自分を逃げ場にするな! 元の自分に戻れ!!」
「もう必要ないからって、簡単に戻れる訳ないじゃない!!」

 

詳細は伏せるけれど、平和な世界に身を置くこと、パイロットから離れること……。それらを巡る彼らの葛藤はまさしくファフナー、とりわけ『第1期』のそれを色濃く継ぐものであったように思う。 

作中では「第1期の、ある “回収されなかった” 要素 (ドラマ) が回収される」という展開も見られるため、『HEAVEN AND EARTH』から『EXODUS』までの間だけでなく、実質的に『第1期』をフォローしているとさえ言える本作は、まさにシリーズファンであればあるほど必見の作品と言えるだろう。

 

 

 

『BEHIND THE LINE』のタイトルに秘められた意味

 

『BEHIND THE LINE』とは何を指すのだろう。 

直訳すると「線を背にする」という意味になるが、「総士とカノンが座っており、一騎と真矢が立っている」というメインビジュアルも加味するなら「LINE」とは「存在と無の境界線」と読むことができ、実際の作品からも少なからずそのようなニュアンスが見て取れた。 

しかし、このタイトルが意味するところ=一騎たちが背にする (越えていく) 「線」とは、それ以上に「大人と子どもの境界線」であるように思える。

 

 

『HEAVEN AND EARTH』までの一騎たちが「子ども」『EXODUS』以降が「大人」……という印象になっているのは、おそらく気のせいではなく明確な意図と演出によるものだろう。そして、この『BEHIND THE LINE』では、まさしく彼らが「子どもから大人になる」姿が描かれる。 

(それは第2弾PV冒頭にある「パイロットの任を解かれる」ことや「新しい進路を見付ける」という形式的な意味でもあり、彼ら自身の精神的な意味でもある)

 

「平和になる」とはどういうことなのか、それに付随して描かれる「大人になる」ということとその意味。大人と子どもという立場・存在の違いが印象的な『ファフナー』シリーズで意外にも描かれてこなかったこの要素は、まさにシリーズを完成させる「画竜点睛」とさえ言えるものになっていたし、個人的にはシリーズ中でも『EXODUS』や『THE BEYOND』を見るにあたって特に大きな意味を持っていたように思えてならない。

 

 

 

おわりに

 

「僕たちは常に、誰かが勝ち取った平和を譲ってもらっているんだ。 たとえそれが一日限りの平和だったとしても……僕は、その価値に感謝する」

 

シリーズを通して「平和」を描き続けてきた『蒼穹のファフナー』。その最新作として「平和なスピンオフ」が製作されると聞いた時、そして実際に公開された第1弾PVが不穏さを隠そうともしていなかった時は、てっきり「平和なスピンオフ」とは名ばかりの生き地獄になるものだと思い込んでいた……けれど、本作を見た今となっては、そんな自分の認識がとても浅はかだったと思う。
 
ファフナー』は、どの作品でも常に我々の予想を越えるものを見せてくれていた。それは決して「予想を裏切る」のではなく、「我々ファンの見たいものをしっかり押さえた上で、それ以上のものを見せる」という神業で、それを毎回のようにお出しできたのは、他ならぬスタッフ・キャストの皆様が我々以上に『ファフナー』を愛してくれているから。そんな方々が「平和なスピンオフを作る」と言ったのだ、その予想が裏切られることも、その作品が「我々の見たかったものでない」こともあり得ないし、そんなシリーズだからこそ、私たち島民はどれだけの地獄を味わっても『ファフナー』を愛してやまないのだろう。 

そうして生まれた本作『BEHIND THE LINE』は、上記の通り「平和なスピンオフ」の名に恥じないものであると同時に、我々の想像以上に「シリーズにおいて欠かすことのできない重要な作品」になっている。 

ファフナー』に何を求めているかは人それぞれだと思うけれど、一騎たちの平和な日常を求めている人でも、ハードでシリアスなドラマを求めている人でも楽しめる内容になっているので、どうか一人でも多くの島民がこの『BEHIND THE LINE』を信じて飛び込んでくれることを願っています。


…………え、同日に行われた『総士生誕祭』はどうだったのかって?  それは……えっと……

 

君は (アーカイブ配信で) 知るだろう。本当の悲劇は、絶望によって生まれるのではないことを。(弄られる) 運命に抗うことで見出される希望。それが、キャスト一同を犠牲へと駆り立てた――。