感想 - 小説『SSSS.DYNAZENON CHRONICLE』ファン待望の展開がミステリー調で描かれる、実質的な「劇場版 SSSS.DYNAZENON」〈ネタバレなし〉

「ノベライズ」と一口に言っても色々な種類がある。そのパターンは、おおよそ下記の4つに分類できるだろうか。

 

①作品の骨子はそのままに、節々調整することで文字通り「小説化(ノベライズ)」したもの。

 

②作品を「小説化」するにあたり、ストーリーなどを大きくアレンジしたもの。

 

③「作品を小説化する」というより「小説という媒体で、その作品の新たなエピソードを構築する」もの。

 

④小説という媒体で作品をリメイクした結果、実質的な「別作品」となったもの。

 

自分はこうした「ノベライズ」の中でも特に③が好き (それはそれとして前述した『小説 ウルトラマンダイナ』と『小説 機動戦士ガンダムAGE』『小説 仮面ライダー555』は本当に傑作なので、特に同作のファンには是非読んでほしい……!) で、面白く、更に小説でしかできないような意外性のある物語が読めると尚良しといったところ。 

問題の小説『SSSS.DYNAZENON CHRONICLE』は、そんな4パターンを引用するなら「③をベースに①を加えた」ような仕上がりで、かつ自分の「これが読みたかった」を満たしてくれる傑作になっていた。 

グリッドマン ユニバース』の更なるヒットを祈願する意味合いも込めて、今回はこの小説の魅力とオススメの所以を、極力ネタバレを控えて伝えていきたい。

 

SSSS.DYNAZENON CHRONICLE

 

《目次》

 

 

『SSSS.DYNAZENON CHRONICLE』って、なに?

 

そもそも、小説『SSSS.DYNAZENON CHRONICLE』とはいったいどういった作品なのか……というと、商品ページ記載のあらすじは下記のようになっている。

 

ダイナゼノンのもう一つの戦いが今始まる! 

ダイナゼノン・グリッドナイト・ゴルドバーン――全員の力を合わせた超合体竜王・カイゼルグリッドナイトは、その圧倒的な力で強敵怪獣・ギブゾーグを撃破。束の間の平和が訪れる。 

一方その裏では、不穏な何かが胎動を始めていた。 

ある日、麻中蓬がガウマに会うと、彼は何故か自分と出逢って以降の記憶が無いような振る舞いを見せてきた。同じく様子のおかしい南夢芽にも遭遇し、蓬はタイムスリップでもしてしまったのではないかと混乱する。 

ところがその直後、全く未知の怪獣が街に出現。蓬は戸惑いながらも再びダイナゼノンに搭乗し、戦いを繰り広げる。さらに蓬は、見たことのない色の謎のダイナソルジャーまで手にしていた。 

それは、さらなる死闘と不思議な日常の序章に過ぎなかった。

引用:『SSSS.DYNAZENON CHRONICLE』商品ページ - 小学館公式ホームページ

 

つまり、その時間軸は『SSSS.DYNAZENON』第9回『重なる気持ちって、なに?』の直後。謂わば「9.5回」にあたるエピソードが本作であり、読み終わってみると、なるほど確かにこれは「本編中にあった」と言われても納得できる仕上がりになっている。 

その物語は(是非皆さんに読んで頂きたいため深い言及は避けるが)大まかには上記あらすじの通り。あくまで主人公は蓬たちガウマ隊の面々であり、怪獣を操るのも本編通り怪獣優生思想の面々。外伝にありがちな新キャラクターが現れることもないため、まさに本編そのままの体感の物語を楽しむことができる。 

しかし、上記あらすじの通り、本作の物語は少し……いや、かなり不気味なものになっており、『SSSS.DYNAZENON』本編よりもミステリー色が強め。不可解な「違和感」の数々が徐々に大きなしこりとなり、それがやがて大きな苦難として立ちはだかる展開は、本編とは少し異なる毛色やその盛り上がり、400ページというボリュームもあって、さながら『劇場版 SSSS.DYNAZENON』のような仕上がりだ。

 

 

『SSSS.DYNAZENON CHRONICLE』の見所って、なに?

 

極力ネタバレのないように言うならば、本作の見所は大きく分けると2つ。1つは「本作ならではの貴重なシチュエーション」が満載であることだ。

 

 

例えば、上記ツイート内の画像は『SSSS.DYNAZENON』と言えば、なよもゆめシーン……なのだけれど、注目して頂きたいのは左の画像。前述の通り、本作の時系列は「第9回の後」。にも関わらずこの夢芽の様子は明らかに「異常」であるし、蓬が困惑しているのが何よりの証拠。まさに、本作でしか拝めない「異常よもゆめ」とでも呼ぶべきシーンだろう。   

(勿論、本作にはスタンダードなよもゆめも満載であるし、本編でのよもゆめがテキストに起こされている箇所もある。よもゆめ優生思想のお歴々にとっては賛否別れるシーンの可能性もあるが、個人的にはオススメだ)

 

他にも、本作は暦とちせ、ガウマ、ムジナにもスポットライトが当てられており、4人それぞれに「本作ならでは」のシーンが用意されている。残る3人の怪獣優生思想やナイト、2代目については多少見せ場は少なめだが、ナイトと2代目は非常に美味しい立ち回りを見せてくれるため、2人のファンも必読の内容と言える。

 

2つ目の見所は、先程も触れた「終盤の盛り上がり」。 

当然詳しく言うことはできないのだけれど、本作終盤の展開は、自分が『SSSS.DYNAZENON』という作品においてずっと引っ掛かっていて、現在全国で上映中の大傑作映画『グリッドマン ユニバース』でさえ回収されなかった「ある要素」を最高の形で回収し、間違いなく本編の時系列では見られないであろう凄まじいシチュエーションに昇華させるというとんでもないもの。正直、この展開を見るためだけに本作を購入する価値はあるし、読んでいる電車の中でそのあまりの感動に涙してしまったほど。 

そこに至るまでの流れも (少し引っ掛かるところこそあれ) 、リアルタイム視聴時から「こういう展開が見たかった」が具現化したものであるため、『SSSS.DYNAZENON』が好きな方は、是非本作でその「凄まじいシチュエーション」を確かめてみてほしい。

 

 

『SSSS.DYNAZENON CHRONICLE』の欠点って、なに?

 

べた褒めにべた褒めを重ねてしまった本作だけれど、少々欠点もある。 

まずは、本作が「ライトノベル」であること。「欠点」という言葉は似つかわしくないかもしれないけれど、ジャンルの常として本作は文章が些か「緩い」のだ。

 

「アクセスモード、蓬くん」
 軽く手を挙げる仕草をしながら、吹き出しぎみに冗談めかす夢芽。
「ぷはっ、何すか、それ……!」
 ちせは妙にツボに入ってしまったようで、お腹を押さえて震えている。
 席に戻り、涼しげに微笑する蓬だったが――内心滅茶苦茶ぐっときていた。
 何か……上手く言葉には表せないが……何かいい。

-引用:『SSSS.DYNAZENON CHRONICLE』131ページ - 水沢夢

 

本作の執筆を手がけたのは、『俺、ツインテールになります。』などで知られるライトノベル作家水沢夢氏。経験豊富なこともあってか非常に読みやすく、メリハリのある文章が魅力的 (特に戦闘シーンの文章は非常にスピード感があり、的確な語彙と合わせて盛り上がること請け合い!) ……なのだが、ライトノベルの性として、時折 (特にコメディシーンでは) 軟派なテキストが顔を出してくる。上記のやり取りは中でも極端な例ではあるけれど、全体的にこのような「緩さ」があるため、そういったものに極端なアレルギー反応がある方は注意されたい。 

(シリアスなシーンなどはいい文章で魅せてくれるし、“ゾッとする” シーンでは特に見事なお手前を披露してくれるので、個人的には±で大きくプラスに傾いた印象)

 

また、もう一つの欠点が「若干の謎が残る」こと。 

本作は非常に複雑な背景を持っているのだけれど、それに対して少々説明不足感があるため、自分なりに解釈して「これはおそらくこういうことなんだろうな」と余白を埋めていく必要があり、更に一部とあるスピンオフ作品が絡んでいると思われるシーンもあるため、人によっては消化不良感を覚えてしまう可能性もあるだろう。 

(自分はそのスピンオフ作品に触れていないため少しモヤっとしはしたけれど、そこまで気にならなかった)

 

ストロボメモリー

ストロボメモリー

 

『SSSS.DYNAZENON CHRONICLE』の購入方法って、なに?

 

自分がこの小説に出会ったのはつい先日の2023年3月11日。友人の付き添いで立ち寄った池袋の書店だった。 

この本が出ていることも知らなかったし、名前からして本編をそのままノベライズしたものかな、と思ってスルーしようかとも思ったけど買って大正解だったと思う。こういうことがあるからリアル書店はやめられない。 

なので、是非皆さんにもリアル書店でこの本を購入してほしい……のだけれども、本書の発行は今から約1年前。流石に通販や取り寄せでお求め頂く方が現実的だろう。

 

 

幸い、Amazonをはじめ各種通販サイトはまだまだ在庫がある様子。『SSSS.DYNAZENON』の履修が前提とはなってしまうけれど、同作も各配信サイトやレンタルショップでお手軽に見ることができる。『グリッドマン ユニバース』でダイナゼノン再燃しているそこのあなたもそうでないあなたも、是非本書でまだ見ぬ『SSSS.DYNAZENON』にバトルゴーーー!! してみてはいかがだろうか。