『ルックバック』が刺さらなかった理由を自分に問い詰めてみた。

※以下、劇場アニメ『ルックバック』のネタバレが含まれます、ご注意ください※


ぼく (理性) 「『ルックバック』前情報なしで観れて良かった。“描き続ける” っていうキャッチフレーズが胸に染みるよ、京本が藤野を追いかけているようで、その実ずっと後ろを見ていたのは藤野の方だった。“背中を見る” からタイトルの意味が180°変わって、京本の想いに応える為に描き続ける道を選ぶ藤野の背中には、こちらもそれこそ背中を叩かれるような思いだったよ」 

ぼく (感情) 「そうね……」 

理性「どしたん」 

感情「いや……別に……」 

理性「……え、何? 『ルックバック』、面白くなかった……?」 

感情「刺さってはいないかな……」 

理性「え?」 

感情「だってほら、全然泣けてないし……」 

理性「は? お前曲がりなりにも創作やってる人間でしょ、アレから何も受け取れないとかカスでしょ、人間辞めたら?」 

感情「いや待てって!! 今までだってあったろ、凄く良い作品だったと頭では理解してるのになぜか刺さらないヤツ!!」 

理性「そんなん別に……」 

感情「『すずめの戸締まり』!『アイアンマン』!!『仮面ラ……」 

理性「その辺にしとけバカ野郎!!!!!!!!!!!!」 

感情「……僕だってモヤモヤしてるのよ、好きじゃないから刺さらなかった、なら分かりやすいけど、好きなのに刺さらなかった、ってモヤモヤするじゃん?」 

理性「せやな……。じゃあやりますか、““自己分析”” ……!」 

感情「カスみたいな言い方やめろ」


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引用:劇場アニメ「ルックバック」本予告【6月28日 (金) 全国公開】- YouTube

理性「ルックバック、いつか読もう読もうと思ってたけど読まなかったよな、なんでだっけ」 

感情「絶賛とこき下ろしの賛否両論が凄すぎて気が退けたしハードルがガン上がりした」 

理性「それだ」 

感情「だから映画化の話を聞いて嬉しかったよね、これで逃げ道無くせるねって」 

理性「言い方。まあ、時間を置いたせいでハードルは物凄いことになったけど、実際安心感みたいなものはあったよな」 

感情「『チェンソーマン』のアニメの評判が芳しくないことは聞いてたけど、なんとなく、そのことを踏まえてるんじゃないか……みたいな文言がチラホラとね。いや、チェンソーマンにノータッチだからこの辺はあんまり触れられないけど」 

理性「で、まあ始まってビックリしたよな、学級新聞」 

感情「うん、僕も載せてたもんね、学級新聞に4コマ」 

理性「うんうん」 

感情「でんじゃらすじーさんのパクりみたいなヤツ」 

理性「やめろォ!!!!!!!!!」 

感情「そのせいもあって藤野に凄く感情移入しちゃったけど、すぐに剥ぎ取られたよね、感情移入」 

理性「えっ」 

感情「僕が全然やれなかったヤツだもんね、“本を買って必死に努力する” ってヤツ」 

理性「やめろォ!!!!!!!!!」 

感情「本気で悔しがって、その結果何かに出会えるのは “本気で何かを頑張ったことのあるヤツだけ” って見せ付けられちゃったよね」 

理性「あのちょっとマジでメンヘラやめてもらっていいスかね」 

感情「ところで京本ちゃん可愛かったよね」 

理性「京本くんか京本ちゃんか都会に出るシーンまで分からんかったよな」 

感情「でも」 

理性「どっちでも」 

「「可愛いのでオッケーです」」 

理性「そういうことじゃなくて」 

感情「あの陰キャとしての作り込み凄かったよね」 

理性「デザインとか喋り方とか、“ホンモノ” 感が凄かった。でも嫌なところが全然ないあのバランス、巧かったな」 

感情「バランスって言ったら藤野もだよ、愛嬌って言えるギリギリのラインを攻めてた」 

理性「作画のリアルさもあってある意味ドラマみたいだったな、こないだのスラムダンクを思い出したけど、アレはCGなんかな」 

感情「……じゃない? 最初はその辺考えちゃってたけど、途中から全然気にならなくなったよね」 

理性「最初は構えに構えて戦うつもりで臨んだけど、二人がタッグ組んだところで “思いの外陽性の話かも” って思って、いい意味で肩の力が抜けたな」 

感情「本当に微笑ましかったよね、京本が手を離す辺りまで」 

理性「でもお前、あの辺でちょっと喜んでたろ」 

感情「ウッ」 

理性「書店での光と影とか、木を挟んで向かい合うシーンとか見ながら “キタキタ” とか思ってたろ!!」 

感情「アイカツスターズ!とか2期からのFree!とか蒼穹のファフナーとか好きなんだからしょうがないだろ!!!!!」 

理性「わかる」 

感情「意外だったのはそこからだったよね、藤野が単独で漫画家として成功しちゃってさ。失敗ルートだと思ったよ、自分は本当に漫画を描きたかったのか、自分が本当に欲しかったのは、漫画家としての成功じゃなくて京本とのあの日々だったんじゃないかって」 

理性「こういうこと考えながら映画見ちゃう癖ホントやめたい」 

感情「だからさ」 

理性「うん」 

感情「キツかったよね……」 

理性「正直死ぬとは思わなかった」 

感情「二人に凄く入れ込んじゃってたし、二人の仲睦まじいシーンが本当に良かったからさ、二人に仲直りしてほしかったんだよね……」 

理性「 (慟哭) 」 

感情「ショックすぎたっていうか信じられなかったよね、こういう時って涙出ないの」 

理性「それにここからが本番みたいな所あるもんな、ここから何を見せてくれるのか、ここにこの作品の真価が問われる気がしたんだ」 

感情「で、どうだった?」 

理性「……」 

感情「ん?」 

理性「ちと付いていけなかった……」 

感情「わかる」 

理性「もし藤野が京本を連れ出さなかったら、っていうイフがあそこから始まるのはビックリしたし、興味深かった。ああ、この世界でも二人は出会うんだなって、藤野は漫画を辞めちゃってたけど、京本はそれでも彼女の背中を見て強くなるんだなって。感動したよな」 

感情「……」 

理性「ん?」 

感情「ここかもしれん」 

理性「え?」 

感情「だって、藤野が漫画を辞めてたルートってハッピーエンドじゃない? 確かに藤野は漫画を辞めてしまっていたけれど、二人は知り合いになれたし、これから仲良くなれる未来はあるでしょ」 

理性「でも、漫画っていう接点を無くした二人があんな風に仲良くなれるか? 電話番号を交換しただけじゃその後の関係には繋がらないだろ」 

感情「じゃあ、京本が死んでも二人が漫画で繋がった方が良かったっていうん?」 

理性「そうは言ってないけど……」 

感情「その二者択一じゃない? 二人はお互いに無関係なまま生きて、それぞれの夢を追う。二人は素敵な絆を結んで、藤野は京本の想いと共に漫画を描き続けるけど、京本は死んでしまう。自分は前者の方が良かったと思うし、藤野の “漫画なんて描かなければ” という言葉への反証を自分の中に作れなかった。だからその後もノレなかった。感動ではなく、藤野の背中が戻らない後悔を背負って進む呪われた背中に見えたんだ。それでも進み続けるしかない、というある種の諦観や悲哀こそが本懐だったのかもしれないけど、それにしては演出がエモーションに寄っていた気がする」 

理性「……いかにも感動、で締められるのにそう思ってたら、そりゃあ気持ちの置き所に困るよな」 

感情「だから、この作品の主張も結果的に汲み取れなかったんだ。何かを見落としているか、何かを理解できていないのかもしれないし、それを人間的な欠陥と言われたらそれまでだけど」 

理性「ストップ!!!メンヘラ出てる!!!!」 

感情「でもスッキリしたよ、自分がなんで泣けなかったのか分かった」 

理性「個人的には京本の4コマの出現に戸惑ったのもあった」 

感情「あれ、本当に描かれたものなのかどうかはボカされてたように見えたけど、仮に白紙だったとしたら、藤野は何に心を動かされたんだろうってなっちゃうよね」 

理性「そうなんだよな、作品としての主張に戸惑ってたら、作品の構造や藤野の心情を追いかけるのに必死になってた。その辺もっと柔軟に飲み込めたら良かったんだけど、頭が固い人間はこういう時に損なんだ」 

感情「意外と刺さらなかった理由はハッキリしたね」 

理性「漫画で読んだら違ったのかな、藤野が遂に振り返るシーン、その目の前に例のサインが出てくるシーン、あの辺りの感動は実際漫画の方が大きいだろうな、漫画っていう媒体の強みだよ」 

感情「当たり前の話かもしれないけれど、漫画として出されたものはまず漫画として読むのが一番ってことなんだろうね。そういう学びを得られたのは間違いないし、作画や演出にキャラクター、どれも本当に良かったよ。だからこそ悔しいな」 

理性「でも、そういう要素要素の魅力だけの作品だったら “刺さらなかった” で終わるだけだろうよ。そうならなかったし、こうして長々と自問自答してるのは、それ自体がこの作品に何か特別なものが満ちている証拠なんじゃないかな」  

感情「読まなきゃね、原作」

 

※同日深夜 追記 

この作品が生まれた背景を原作読者の友人から伺い (ありがとうございます……!)  、遅ればせながらこの作品の構造や描写の意図するものが掴めてきたように思います。いつか、原作漫画を通してこの作品に今一度向き合います。