『ウルトラマンデッカー』に壊してほしい “3つの壁” 

時に2022年3月31日。多くの人が布団の中か電車の中にいるであろうド平日の早朝から「それ」はやってきた。

 

 

2022年に到来する新たなる光、その名はウルトラマンデッカー! 

賛否両論だった前作『ウルトラマントリガー NEW GENERATION TIGA』の流れを汲む続編とあってタイムラインは正直微妙なムードだったのだけれど、今回解禁された一連の情報は期待値を大いに高めてくれるものばかり。

 

ウルトラマンダイナ』が初めてのウルトラマンで、前作『トリガー』に (清濁併せて) 並々ならぬ思いを持ったファンとして『デッカー』には是非とも大ヒットしてほしい……のは勿論として、その上で、ある「3つの壁」を壊してほしいと願うところ。 

その3つの壁とは何なのか。『デッカー』初報に対する自分自身の感想を含めて、以下に記していきたい。

 


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デッカーに壊してほしい3つの壁。その一つ目は「続編ものは不遇」というジンクスだ。

 

これはアニメなどではあまり聞かない話だが、こと特撮となると途端に「よくある話」になり、他ならぬ『ウルトラマンダイナ』がその不遇な作品の一つだったりする。

 

 

『ダイナ』はティガの7年後を描いた直系の続編であり、ウルトラマンダイナのデザインや世界観など、多くの面で『ティガ』を継いだ作品。その作風の変化などから賛否両論あったものの、総じて高いクオリティや熱いドラマもあって人気を博していた。 

しかし、放送当時の好評に反して、その後ダイナは一転して「不遇のウルトラマン」となっていく。

 

『ティガ』『ダイナ』『ガイア』の3部作、通称「平成3部作/TDG」は非常に高い人気を獲得し、平成ウルトラシリーズの幕開けとなった記念碑的作品群。 

彼らは何かとセットで活躍することが多かったが、『ティガ・ダイナ&ウルトラマンガイア 超時空の大決戦』でも『大決戦! 超ウルトラ8兄弟』でもダイナが3人の中心に立つことはなかった。 (前者はガイア、後者はティガが主役なので仕方のないことなのだけれど) 

更に、2005年にPlaystation2専用ソフトとして発売された対戦格闘ゲームウルトラマン Fighting Evolution Rebirth』ではティガ、ガイアはいるのにダイナはおらず、近年人気のプライズフィギュアシリーズ『英雄勇像』でも、ティガ・ガイアに比べダイナのリリースのみ大幅に遅れたり……など、ダイナは今も昔もティガ・ガイアに比べると冷遇されることが多く、様々な形で「ダイナはTDGの不遇枠」という事実がファン界隈に浸透していってしまった。

 

 

とはいえ、それも(悔しいけれども)仕方のないことではある。というのも、大きい理由として「ダイナはティガを汲んだ作品」という前提がある。要は色々と被っているのだ。 

『ダイナ』は作風も物語も、ウルトラヒーローとしても特有の魅力を持っているし、自分のようなシリーズファンからすれば、ダイナは何から何までティガとは別物だ。しかし、そのデザインや「赤と青へのタイプチェンジ」という基本骨子はどうしても「ティガ」に準じており、見る人によっては「どちらがどちらか分からない」もの。結果的に、ダイナのアイデンティティー強度は「新時代の初代ウルトラマン」であるティガにも、「平成3部作のトリを飾る+画期的なウルトラマン」のガイアにも一歩及ばず、結果、「ダイナを差し置いてティガ・ガイアを採用する理由ならあるが、その逆はない」という悲しい現実が確立され、ダイナは彼ら2人に比べて活躍し辛いウルトラマンとなってしまった。 

ダイナは後にアスカ・シン役、つるの剛士氏のブレイクもあって『大怪獣バトル ウルトラ銀河伝説 THE MOVIE』にゲスト出演し『ウルトラマンサーガ』では準主役となるなど破格の待遇を受け、以前よりは商品化の機会などに恵まれるようになったが、それでも2021年時点では「比較的人気のあるウルトラマン」程度のポジションに甘んじてしまっている印象だ。
(『帰ってきたウルトラマン』のウルトラマンジャックも然り、ある作品ありきで誕生したヒーローはその“元”を越えられず「不遇枠」になってしまう……というのは、理屈こそ分かっても非常に口惜しいものがある)

 

 

更に「続編もの故の不遇」は時に「売上が振るわない」という結果まで連れてきてしまう。

 

ダイナは『ティガ』以上の売上を記録していたが、ウルトラマンシリーズでは『ウルトラマンギンガS』がニュージェネレーションシリーズワーストの売上を記録していたり、他シリーズではあるが『仮面ライダーアギト』が前作『仮面ライダークウガ』から大きく売上を落としていたりする。 

続編ものは当然ながら「前作を汲んでいる」ため、その商材(玩具)も何かと似ることが多い。『ギンガS』はメイン商材が前作『ギンガ』と同じスパークドールズであったし、『アギト』はアギトそのもののデザインがクウガと似ており、そのベルトや武器もかなり近い形で作られていた。おそらく、その類似性が「子どもが親に買ってもらえない」などの事態に繋がり、売上を落とす結果になったのだろうと思われる。 

勿論、この結果には (ギンガSの場合はその放送期間など)  他の理由も考えられるが、2作とも「前作の続編である」という点は決して無関係ではないだろう。

(クウガとアギトが似ているという問題は、ティガとダイナの関係に様々な意味合いで通じているように思える)


そのポジションや売上に「不遇」という影を纏いがちな続編もの。その影響からか、昨今の特撮ヒーローでは「続編もの」は非常に希で、過去作と関わりの深い『ウルトラマンジード』や『ウルトラマンR/B』も半ば恣意的にその繋がりが廃され、全くの別作品として製作されていた。 

そんな中、久方ぶりに「続編もの」として登場した『ウルトラマンデッカー』。その報せを聞いた時はどうしても「ダイナのように “トリガーの影に隠れる存在” になってしまわないか」「せっかくトリガーで爆発した売上を下げてしまうのでは」と心配してしまったのだけれど、そんな懸念は「筆者のような一介のオタクに言われるまでもなく製作サイドにもあった」らしいことが、今回解禁された情報からは伝わってきた。

 

 

まずはそのデザイン。 

ダイナは謂わばティガのマイナーチェンジのようなデザインになっており、そのことがダイナ自身のアイデンティティーを弱め、それが彼の不遇さにも繋がっていた……のだけれど、デッカーはそのことを踏まえたかのようなデザインのウルトラマン。 

ティガをオマージュしたトリガーに対し、ダイナをオマージュしたデッカー。しかし、両者のオマージュの方向性はまさに真逆で、デッカーのデザインはトリガーと全く異なる方向性で組み立てられたものになっていた。

 

 

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トリガーは、そのシャープなシルエットこそティガをストレートに継承したものだったが、特徴的な点として「カラーリングを反転させる」という大胆な試みが行われていた。 

赤と紫の配置を逆転させ、プロテクターも銀色>金色だった比率を大胆にも金色メインにチェンジ。この絶妙なアレンジによって、トリガーは見事に「ティガであってティガでない」新たなヒーローに仕上がっていたと言えるだろう。

 


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一方、問題のダイナとデッカー。 

第一印象は「ダイナだ!」の一言。デッカーは、そのカラーリングやライン取りが限りなくダイナに近く、トリガーよりもストレートに原点=ダイナを取り入れている。 

しかしその最たる特徴は、大胆にも額と胸部に宇宙 (?) のようなデザインが取り入れられていること。全体的な雰囲気はダイナらしいが、そのこれまでにないデザインが一気に「見たことのないウルトラマン」感を生み出しており、更に胸部プロテクターそのものも、これまでのウルトラマンとは異なる左右非対称・剣闘士風の独特な意匠を持っている。 

つまり、「ティガのデザインを継承しつつ、カラーリングを反転させて差別化した」トリガーに対し、「ダイナのカラーリングを継承しつつ、全く異なるデザインを取り込んだ」ものになっているのがデッカー。その結果、デッカーのデザインはダイナを感じさせこそすれ、トリガーとは似ても似つかないものになっている。 

このことは「トリガーと被る」という最も恐れていた事態を回避するだけでなく、その独自性の強いデザインが、ダイナを感じさせつつも歴代ヒーローに埋没しない、という効果をも生んでおり、デザイン作業が相当綿密に進められたことを感じさせる100点満点具合だ。しかも、デッカーのアイデンティティーとなる「宇宙」とは、他ならぬ『ダイナ』のキーとなっていた要素。原点を様々な形から意識しつつも、ウルトラマンの新しいデザインを切り拓くデッカーのデザインは、100点どころか1000点満点と言えるのではないだろうか。

 

(フラッシュタイプ以外の2タイプもその特徴的なプロテクターデザインが際立っている。特にストロングタイプは膝や襟など総じてアーマーチックなデザインになっており、トリガーと上手く差別化されていると言えるだろう)


更に、もう一つの懸念点だった「せっかくトリガーで爆発した売上を下げてしまうのでは」……つまりは「続編もの故に、売上が振るわないのでは?」という点だが、こちらも対策はバッチリ。なんと、ここにきて6年ぶりにカード玩具が投入されることとなったのである。

 


前作『トリガー』の玩具「ガッツハイパーキー」はウルトラシリーズ初となる単体音声収録アイテムだったこともあって、前々作『Z』のメダルよろしく大ヒットとなっていた。 

しかし、当然ながらそのような玩具は生産側にとっても高コストで、とても連発できるものではない。そんな状況下で切られた「カード型アイテム」という一手は、まさに最高のタイミングで切られたエースカードと言えるだろう。

 

カード型アイテムの強みは数多くあるが、まず何より、低コストで一定の売上が確実に見込める点。 

ウルトラマンシリーズでは『ウルトラマンオーブ』でヒットを飛ばしたことが記憶に新しいカード型アイテム。過去にも『ウルトラギャラクシー 大怪獣バトル』『仮面ライダー龍騎』など多くの特撮ドラマでメインアイテムとして用いられたカード型アイテムの人気は不動のもので、ウルトラメダル、ガッツハイパーキーという高すぎるハードルを越え得るものとしては納得の選出だ。 

それでいて、カード型アイテムはあくまで「デバイス側」にギミックが集約される上、カード自体も安価なため非常にローコストで生産することができる。まさに、人気獲得とコストの両面でうってつけのアイテムと言えるだろう。 

無論、カードもカードでおいそれと濫用することはできない切り札的商材。それをここで使うという決断には、企画サイドの「トリガーに負けない」という気概が感じられ、その熱さに思わず頭が下がってしまうところだ。

 

 

更に、カードというアイテムが「番組の顔」として強いアイデンティティーを持つことも見逃せないポイント。 

カード型アイテムは、他のアイテムに比べて唯一無二なキャッチーさを持つためか「番組のイメージ」に直結することが多い。要は「カードのウルトラマン」という強い前提イメージが生まれる訳だ。そのことが『デッカー』に、作品としても/一人のウルトラヒーローとしても「トリガーありき」「ダイナありき」ではない独立したものとして成立し得るだけの強固なアイデンティティーを持たせてくれるのである。

 

これらの効果を一挙にもたらしてくれる新アイテム「ウルトラディメンションカード」。最大の問題は劇中でどう活かされるか……なのだけれど、その存在自体が既に「続編もの故に、売上が振るわないのでは?」というジンクスを払拭してくれている。 

これらの要素を備えて発進する『デッカー』が「続編ものは不遇」というジンクス/ウルトラシリーズにおける一つの壁を壊し、大きく羽ばたいてくれると信じたい。



デッカーに壊してほしい3つの壁。二つ目は、昨今のウルトラシリーズで生まれてしまった「坂本・田口神話」という壁。

 

ウルトラマンギンガ』に始まった新世代のウルトラTV作品群、通称「ニュージェネレーションシリーズ」は、その強い個性と魅力によって、いずれも大きな反響を持って迎えられてきた。 

そして『デッカー』を持って同シリーズは遂に10作目を迎えることとなるのだが、その約10年の中で醸成されてきたのが、問題の「坂本・田口神話」だ。

 

 

ニュージェネレーションシリーズの作品群は、前述の通りいずれも大きな反響を持って迎えられてきた。しかし、その中にはいくつか特別なターニングポイントとなった作品が存在する。 

「列伝」の冠を廃し、個性的なキャラクター像と共にウルトラマンシリーズの認知度を大きく高めた『ウルトラマンオーブ』 

『オーブ』から更に高い玩具売上を叩き出し、今尚新規コンテンツが作られている人気作『ウルトラマンジード』 

パンデミックを吹き飛ばすが如く、爆発的な人気と売上を記録した令和の超新星ウルトラマンZ』 

そして「NEW GENERATION TIGA」に課せられたミッションを果たし、ウルトラシリーズの再興を確たるものとした立役者『トリガー』 

私見ではあるが、これら4作品がその「特別なターニングポイント」に該当する作品で、ウルトラシリーズの今後に大きな影響を与えたと言える作品群だ。そして、これら4作はいずれもメイン監督が坂本浩一監督 (ジード、トリガー)、そして田口清隆監督 (オーブ、Z) なのである。

 

 

もはや説明不要とは思うが、まず坂本浩一監督は『大怪獣バトル ウルトラ銀河伝説 THE MOVIE』や『ウルトラマンギンガS』を手掛け、ウルトラシリーズに新風を吹き込むことに定評のある監督。そして田口清隆監督は生粋の怪獣映画ファンとして知られ、『オーブ』以前にも『ウルトラマンX』を手掛けて高い人気を博した監督だ。 

坂本監督はケレン味のあるアクション、田口監督は緻密な巨大特撮をそれぞれ軸とした驚愕の映像を毎回のように送り出し、それらが優れた脚本と化学反応を起こしてきたことで、ウルトラシリーズはその作品クオリティとシリーズ人気を格段に引き上げてきた。 

更に、坂本監督は新シリーズの『ウルトラギャラクシーファイト』が大ヒット中で、田口監督は『Z』がネット流行語大賞で6位を獲得。製作サイド=円谷プロダクション側からすれば、まさに神か救世主かと呼べる方々だろう。

 


しかし、そのことは決して良いことばかりではない。 

坂本監督も田口監督も『仮面ライダー』や『スーパー戦隊』など他シリーズを手掛けて多忙を極める方々。正直、いつウルトラに携われなくなってもおかしくない大物なのである。 

そうでなくても、坂本監督・田口監督にも「引き出しの限界」はある。ウルトラシリーズは作風に比較的メイン監督の意向が反映されやすいこともあり、このままお二方に頼りきってしまうことは、いつかウルトラシリーズのマンネリ化に繋がってしまうのではないだろうか。同時に「メインは坂本監督か田口監督でないとダメだ」という固定観念円谷プロダクション上層部に出来上がり、参加監督の幅が大きく狭められてしまうのではないだろうか……と、一ファンながらに不安を抱かずにはいられない。

 

そんな不安の中、『デッカー』のメイン監督として抜擢されたのはなんと武居正能監督!『オーブ』第18話『ハードボイルド・リバー』で本格的な監督デビューを果たして以降、『ジード』から『トリガー』まで全作品に参加、ニュージェネ作品群を支え続けている新進気鋭の監督だ。

 

   

 

そんな武居監督の魅力は、そのドラマの魅せ方。この点は田口監督も得意とするところだが、ともすればそれ以上に、武居監督は「感情の乗った画」の撮影に長けている。 

最近では『Z』第11話『守るべきもの』/第12話『叫ぶ命』の2編を任されていたことが印象的で、作中でも重要エピソードとなるこの2編を田口監督自ら託した点に、武居監督の実力が伺えるだろう。 

特に『叫ぶ命』においては、グルジオライデンを前に戦意喪失するハルキや、その力の危険性を暗喩するかのように炎を纏うキングジョーストレイジカスタム……といった、視聴者の心を揺さぶる名シーンを無数に排出。見事にその大役を果たしていた。

 

叫ぶ命

叫ぶ命

  • 平野宏周
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この点に鑑みると、武居監督が「脱 坂本・田口神話」のために抜擢された (であろう) ことには何の不思議も不安もない。しかし、武居監督には大きな弱点もある。それは「特撮面におけるパンチの弱さ」だ。

 

武居監督は、監督デビュー当初から前述した「ドラマ」面では高い実力を発揮していたものの、一方でその特撮パート=主にウルトラマンと怪獣の戦闘が地味になりがちという欠点も抱えていた。 

リクとケイの同時変身がピークになってしまった『ジード』第23話『ストルムの光』や、ドラマ面・CGバトルで高い評価を得ているものの、戦闘のもっさり感が否めない『劇場版ウルトラマンR/B セレクト!絆のクリスタル』などが特に顕著だが、より突っ込むなら、武居監督がメイン監督を務めた『ウルトラマンR/B』は節々に同様の問題が散見され、全体的に地味な印象が拭えない作品となってしまっていた。

 

しかし、この点は『ウルトラマンタイガ』において改善の兆しを見せ、前述の『Z』そして『トリガー』においては遂に坂本・田口両監督もかくやという大迫力の特撮を披露するまでに至る。 

特に『トリガー』第6話『一時間の悪魔』での対サタンデロス・ヒュドラム戦は、イグニスのサタンデロス爆破、マルチソードでヒュドラムに挑むスカイタイプ、ランバルト光弾によるフィニッシュ……など、武居監督の進化を感じさせる名シーンが満載で、「ただでさえドラマの強い武居監督が、とうとう特撮監督としても強固な実力をものにした……!」 と、シリーズを追ってきたファンとしては大きな感慨に耽ってしまう名編となっていた。

 


ならやっぱり『デッカー』も安心じゃないか! ……と思いたかったのだけれど、そんな安心を切り崩す作品がある。先日公開されたウルトラマントリガー エピソードZ』だ。

 

 

ツブラヤイマジネーションと全国劇場にて3月18日に同時公開され、大きな話題を呼んだ『エピソードZ』。同作でも武居監督はその「ドラマに強い」点を存分に発揮されており、特に作中終盤のあるシーンにおいては、そのBGMやケンゴ役、寺坂頼我氏らの名演など全てが結実し、ドラマとしては歴代のニュージェネレーションシリーズ長編作品でも屈指と言えるほどの大きなカタルシスを呼んでいた。 

しかし、その一方で同作は「画が非常に地味」という欠点も抱えていた。ゼットの登場シーンやパゴス周りの特撮などハッとさせられる画もあるものの、総じて全体的に「もっさり」してしまっている。つまり、どういう訳か以前の武居監督に戻ってしまっていたのだ。 

おそらく、このことは予算や時間不足、公開形態や (明言こそされていないが) 後から加わったZ要素の回収など、『エピソードZ』製作上の様々な困難が引き起こした「一時的なもの」だろうとは思うのだが……。

 

『Z』から『トリガー』と非常に好調な流れを経て武居監督に渡されたバトン。『トリガー』で見せた力量を監督が発揮してくれれば、『デッカー』は「坂本・田口神話」という、ウルトラシリーズに立ちはだかっている大きな壁を崩し、シリーズの幅を広げる歴史的なブレイクスルーを見せてくれることだろう。しかし、もし『エピソードZ』のあれこれが「一時的なもの」でないのなら……。 

ともあれ、今は、そんな不安を拭ってくれる新PVの解禁を心待ちにしていたい。

 

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(武居監督だけでなく、初めてウルトラのシリーズ構成を担当される根元歳三氏にも期待がかかる。『エピソードZ』のイーヴィルトリガーや『Z』のウルトラマンエースなどで見せた、原点の見事な再解釈を今回も見せてくれると願いたい……!)

 

 

デッカーに壊してほしい「壁」として、「続編ものは不遇」というジンクス、そして
「坂本・田口神話」の2つを挙げてきた。その上で、筆者が一番「壊してほしい」と願う3つ目の壁。それは、未だ根強く存在している「世界を包んでいる閉塞感」である。

 

 

かつて『ウルトラマンティガ』が現れた1996年は、阪神・淡路大震災の爪痕が未だ深く残っていたり、ノストラダムスの大予言などに端を発する「世紀末」概念が跋扈していたり……など、今と形は違えど、人々を暗い影が覆う時代だった。 

そんな時代だからこそ、ウルトラマンティガ、そして主人公=マドカ・ダイゴは、誰もが光になれるという暖かなメッセージをその時代の人々に伝えていったのである。

 

そして、その光を継ぐ作品こと『ウルトラマンダイナ』で描かれたのは、人々が輝くための鍵=「可能性」という光と、その不安定・不完全さを良しとしないスフィアとの戦いの物語だった。 

誰もが光になれると手を差し伸べたのが『ティガ』ならば、手を掴み、光溢れる未来へ共に走り出してくれたのが『ダイナ』。「新たなる光」ことダイナ、そしてスーパーGUTSが築いた物語は、その世界観やビジュアルだけでなく、何より大切な「テーマ」をティガから受け継ぎ、更に推し進めた作品になっていたと言えるだろう。

 

 

そして、それから25年が経った2022年現在。 

これまでよりは先行きが見えてきたとはいえパンデミックの脅威は健在で、更には、ロシアによるウクライナ侵攻という悲劇が今こうしている瞬間も続いてしまっており、世界は今また重苦しい閉塞感に包まれていると言えるだろう。 

 

そんなほの暗い令和の世に現れたウルトラマンの一人=トリガーは、「光であり、人であり、闇でもある」ウルトラマンとして人々に寄り添い、その心に数え切れない笑顔を届けてきた。 

そんなトリガーの光を継ぐものである『ウルトラマンデッカー』。『ダイナ』に胸を打たれたファンの一人としては、デッカーには作品として、ウルトラマンとして『ダイナ』を継いだ要素を見せてほしいという気持ちは勿論ある。クラーコフとダイナの共闘のような画を見たい、宇宙に飛び出してほしい、『ダイナ』怪獣の復活や『トリガー』とのコラボが見たい……等々、希望を言えばキリがない。

 

けれど、それ以上に『デッカー』に望むのは『トリガー』が寄り添った人々に、その先の明るい未来を見せてほしいということ。 

物語でもいいし、作風でもいい。この閉塞した世の中にも希望や未来はあるし、何より人間の中にはいつの時代も無限の可能性がある。そういった明るく熱いメッセージを、今を生きる人々、とりわけ子どもたちに届けて欲しい。かつて『ティガ』を継ぐものとして『ダイナ』がそうしたように。 

もし『デッカー』がそんな輝きを見せてくれたなら、この世の中の閉塞感を打ち破るような、そんな眩しい人の可能性/未来を示してくれたのなら、それだけで同作は『トリガー』を継ぐものとして、そして『ダイナ』を継ぐものとして最高のヒーローなのではないだろうか。それこそが、筆者が心から『デッカー』に期待することである。


 

いつかの「冬の時代」はどこへやら、7月にはウルトラマンデッカーが放送開始となるだけでなく、4月末には『ウルトラギャラクシーファイト 運命の衝突』が、来月の5月13日には『シン・ウルトラマン』がそれぞれ配信/公開開始となる。それだけウルトラシリーズが世界に受け入れられ、安定した土壌を手に入れられたことは、ファンとして何より嬉しいことだ。   

しかしそれでも、「いつシリーズに暗雲が立ち込めるか」は誰にも予測できない。
『タロウ』の次作でシリーズが打ち止めになることも、『メビウス』から『ギンガ』まで7年もの歳月がかかってしまうことも、当時は誰も予想していなかっただろうから。 

 

だからこそ、最も重要なコンテンツと言える最新TVシリーズ=デッカーには、高く高く、「続編ものは不遇」というジンクスなどどこ吹く風か、と言わんばかりに高く羽ばたき、ニュージェネレーションシリーズが作ってしまった「坂本・田口神話」という壁を壊してほしい。そして何より、この時代の閉塞感を壊すような、そんな眩しい作品として人々……とりわけ、今を生きる子どもたちに暖かい光を届けてほしい。 

「輝け、弾けろ、飛び出せ、デッカー!!」 

2022年に到来する新たなる光が、そんなフレーズ通りの熱く輝くウルトラヒーローでありますように。


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