れんとの転職活動レポート【前編】~インドアオタク、転職活動に挑む~

 

あなたは知っているだろうか。
2017年2月。Twitterの片隅に、妙に文字が読み辛いノンフィクションの就活レポート漫画が投稿されたことを……。

 

 

2017年度卒業生として就活を行った際の体験に基づく、就職活動のノンフィクションレポート漫画『虎賀れんとの就活レッドファイッ!』。
なんとなくハッピーエンドで終わった雰囲気を醸し出しているこの漫画だが、物語はそこで終わっていなかった。

 

舞台は数年後。
すっかり社会に疲れた虎賀れんとは、営業職からの逃亡を図って転職活動に励んでいた。しかし、紆余曲折の果てに待ち受けていたのは、転職活動を阻む最悪の敵、某ウイルスによるパンデミックだった――!

 


今回の記事は、2年間に渡る激動の転職活動を書き記した実録レポート3部作。

転職活動中の方もそうでない方も、ノンフィクションで送る男の戦いをぜひお楽しみください。


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時に2019年、7月末。
社会人3年目の虎賀れんとは心身共にボロボロだった。具体的に言うなら、映画を見ていると腰の違和感で集中できなくなるくらいにはボロボロだった(とてもつらい)。

 

上記のレポート漫画を経て辿り着いた職場はBtoBのメーカー。上場企業の100%子会社であったり、念願の文具や雑貨を扱うメーカーであったり、希にガンダムのような推しコンテンツと関わる機会もあったりと中々に至れり尽くせり……だったのだが、それ以外は中々に修羅。
以下、その一例。


・月の残業は60~80時間。
(原因の一例:回収した大量の不良品を営業自らが毎日検品)

・毎日商品サンプルで満タンのトートバッグ(自社商品)を肩に提げて客先へ直行(腰痛の原因)

パリピだらけの社員(ウイスキー水鉄砲、横行するR-18社内性事情トーク、食べ物で遊ぶ飲み会 etc...)

・取引先「メールで連絡した、って俺が見てなかったら連絡したことにならないだろ!」

・某大手芸能事務所「言われた通り指定日中に連絡したじゃないですか」※深夜3時


…………などなど。
更に3年目と言えばもう新人扱いして貰えない時期。営業件数や予算のノルマも厳しく、日中は商品サンプルの山を抱えて営業、夕方から社内業務、退社は毎日10~11時……といった労働環境は一介のインドアオタクにとってはまさに激務で、身体は整体師に「全身ヤバいです」と言われる有様だった。 ※実話

 

 

仕事に限界を感じ始めていたある夏の営業帰り。道すがらばったり同期(営業仲間)と出くわし、思わずにこやかに談笑(世界への猛烈な愚痴)していたところ、不意に道端の喫茶店に誘われた。

 

「転職活動中なんだ」

 

で、突然のカミングアウト。
驚いたのは、その同期が「同期中トップの営業成績」を持つ天性のスーパー営業だったからだ。
勿体ない、という言葉が口を付いて出てしまったが

「でも、この会社で定年まで働く未来が見えないんだよね」
「わかる~(即堕ち)」

 

かくして、虎賀れんとの転職活動はド唐突に幕を開けた。
なんとなく進○ゼミの漫画みたいで怪しい話だが、本当にその一言がストンと腑に落ちてしまったのだ。いつかは転職することになるだろうし、だったら早いに越したことはないな、と。

 

本来転職は0から始まり路頭に迷うものだが、幸いにして同期には辞めた人や辞める予定の人がわんさか。彼らやネットから学んでいくと、転職活動には大まかに2つのパターンがあることが分かった。

 

①自己応募
文字通り、自分自身で書類を作って応募するパターン。ハローワークのような施設や『マイナビ転職』のような民間企業の運営するサイトを介することが多いが、応募先のホームページなどからの直接応募も可能。
②に比べて選考通過率が全体的に高い反面、とにかく手間がかかるのが難点(書類作成、応募手続きなど)。

 

②仕事紹介
『転職エージェント』と呼ばれる専門家に要望を伝えるなどして、「ここはどうですか」と仕事を紹介して貰うパターン。
メリットとして、自分の専任アドバイザーを得ることができるため、手続きを肩代わりしてくれたり、書類作成や面接対策などに有益なアドバイスを貰うことができる。


「②一択じゃん!!!!!!!!!!!」


あまりの便利さに心を掴まれ(デメリットをしっかりと調べないまま)同期たちに倣う形でエージェントの利用を決断。

 

選んだのは大手転職エージェント会社の『duda』と、20代の転職活動に特化したサポートを行う『マイナビジョブ20s』の2つ。転職活動をどうやって進めていけばいいのかという根本的な所からフォローを行って貰えることもあり、右も左も分からないままそれぞれのスタートアップ面談(現在はWeb面談か電話)に向かう。
在職中の身でいつ行ったのか? トリックさ(すっとぼけ

 

担当者によって対応にムラがあるハローワークとは異なり、両者とも対応は非常に丁寧。転職エージェントにとっては『求職者と企業をマッチングさせる=求職者の転職を成功させること』が個人の成績評価に繋がるので、当然と言えば当然だろう。だからこそこちらの相談にも親身になってくれるし、アドバイスも的確なものをくれる。些かドライな話だが、この事情を踏まえると転職エージェントという存在への信頼度がグッと上がるのではないだろうか。

 

 

面談の内容は2社ともほぼ同じ。実際にアドバイザーを担当してくれるエージェントと顔を合わせ、情報の登録を行い、これからの展望について相談する。

 

打ち合わせ(というより実質カウンセリング)はどちらも1時間ほど。一方的でなく、こちらの経験や意見をしっかりと汲んだ上で提案をしてくれるため、納得のいく形で話がまとまっていく。そうして、目標スケジュールは【8月に転職先決定→9月に退社→10月=勤務開始】とざっくり定まった。

 

時期が決まったら次は応募先。
「営業は無理、趣味の時間を安定して確保できれば職種は問わない」という清々しいほど情けない前提に加えて、資格の保有状況や職業経験を伝えると、真っ先に帰ってきたのが「厳しいですね」の一言。知ってた。

 

出身は法学系、目の病気で免許が取れないのに特段の資格を取ってもいない。そんなやる気の感じられない社会人経験2年半の若造(絶望的)にとって、転職上の『武器』になるのは営業と事務の経験のみ。そこから営業という選択肢を取り除くと残るのは事務経験。しかし、事務職とは

・そもそも人気が高い

・離職者(=欠員)が少ない

・むしろ人員削減の傾向にある

と3拍子揃っている難関職種。その希少な枠に量産型営業マンの素人を入れてくれるほど世の中甘くはないのだ。
(事務に類するものとしてはバックオフィス業務(総務/労務/人事/運営/経営など)があるが、こちらは会社の中核に関わってくることもあって、殊更経験や実績が重視される。無理)

 

そういった状況を鑑みて、希望職種には事務職と(未経験歓迎の会社が多く、手に職を付けることができる)エンジニアを据えることに。センター試験で数学を使わないために法学部に入ったような自分が理系職種でいいのかという不安はあったが、当時の状況に『安定した休日』という希望を加えると、選択肢がもうそれしか残っていなかった。

 

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(買ったはいいけど最後まで使わなかった紙の履歴書。時代は変わりましたね……)


こうして展望が固まったところで面談は終了。必須書類となる『履歴書』『職務経歴書(これまで行ってきた仕事の内容を説明する書類)』をPCで作成・提出すれば本格的に転職活動がスタートすることになる。


以降の大まかな流れは下記の通り。

①エージェントが企業をピックアップ
②ピックアップされた企業の中で応募する/しないものを回答
③エージェントが書類などを送付して応募手続き
④書類選考の結果連絡、合格したら面接(基本2回。希に適性検査もあり、ごく希だがSPIのような試験も)

 

スタートは8月頭。月内の転職を目標として、営業活動の傍らで上記の活動を繰り返す。信頼の持てる転職エージェントを2人も頼っているのだから、となんとなく上手くいくような気がしていた……のだが。

 

そんなに世の中甘くなかった。

 

メールで落選、LINEで落選。次から次へと落選通知。エージェントの方から電話が来た時は流石に受かっていたが、書類選考の通過率はおおよそ1/3~1/4。月内転職という目標を思うとかなり不安になる数字だった。

 

そして、仮に書類選考に通ったとしても問題は面接。これもまあ落ちる落ちる。

転職の面接には特殊なもの(集団面接、グループディスカッションなど)が存在しないようで、1次面接はいずれも企業の人事担当者や課長クラスとの個別面接形式。基本的に先方担当者は1~3人ほどで、内容も気をてらうようなものではない。むしろ新卒時の面接よりもフランクなものが多い印象さえ受けた。

が、そもそもの問題として面接はコミュ障にとってキツすぎるのだ。

 

「肩肘張らないでリラックスしてください」
「楽にしてください」
「緊張してます?」

と何度言われたことか分からないが、インドア陰キャオタクは面接であまりに多くのことを要求される。例を挙げるなら

・口癖を封印する
・インドア派だとバレないようにする
・明るい好青年オーラを出す
・志望動機とズレた発言をしない
・誰とでも仲良くできるコミュ強を演じる
・これらを全て踏まえた上であらゆる質問にスムーズに答える

 

誰ですかあなた。
これだけのことに基づいて全ての質問への回答を準備するのはとてもじゃないが不可能で、やれることは『これらのことを意識しつつ、その場でアドリブを利かせていく』ことのみ。
「そんなの楽勝じゃん」と思う方もいるかもしれないが、少なくとも虎賀れんとという男はアドリブが(元演劇部なのに)大の苦手。更に、気分がすぐ表情に出る=嘘がバレやすいというおまけ付き。要は絶望的に面接が苦手な人間だったのである。

 

実際に面接はズタボロで、志望動機を突き詰められてボロが出たり、ついうっかり「趣味は絵を描くことです」と言って「どういう絵を描くの?」と訊かれて詰んだり、「横浜(勤務地)は物価が高いよ、独り暮らしなんてやってけないと思うけどなぁ」というどう答えるのが正解なのかよく分からない質問にフリーズしてしまったり……そういうアクシデントが起きた面接は漏れなく落ちていた。

 

書類選考がハード。その先の面接もハード。分かってはいたが非常に厳しい転職活動の世界に辟易しながらも、愚直なまでに面接の振り返り→エージェントとの相談→企業の研究というルーチンを繰り返す。ここで本を読むなり状況を客観的に分析するなりすれば良かったのだが、日に日に募る焦りがそういった柔軟な考えを奪っていった。

絶対内定2023 面接の質問

絶対内定2023 面接の質問

 


勿論、中には非常に上手くいった面接もある。
8月下旬に受けたとある企業(duda経由で応募)の面接では、訊ねられることがこちらの準備してきたものとピッタリはまり、詰まることのない受け答えができた。そしてなんと、その企業から(1回しか面接をしていないのに)内定が――!

 

……怪しいな……?

 

面接が人事担当者の1回だけ、というのは、それだけ評価されている可能性もあるがそれ以上に『質を問わず社員を大量に確保したい』という可能性もある。だからこそ最低限の質問しかしてこなかった、だからこそ詰まることなく答えきれた……と考えると、悲しいかな合点がいってしまう。提示された条件を見ると労働条件もかなり(数字だけは良かったが)怪しいもので、ここは冷静に辞退することとした。

 

そして内定数が1から0に戻った時、既に時期は8月末。この時点で既に『8月内に内定獲得』という目標の達成は絶望的だった。
流石に危機感を持ち、ダメ元で転職サイト『マイナビ転職』『リクナビNEXT』から事務職の法人・団体に応募し始めるが、営業は嫌だという恐怖だけの志望動機で上手くいくはずもなく、結果、転職活動は9月に食い込んでしまうことに。

 


○  ○  ○

 


中途採用の求人募集は年中行われているものの、そのピークは『4月入社』と『10月入社』の2つ。
活動が9月に食い込んだことで焦りも大きくなり、ようやく数が増えてきた面接も通らず仕舞い(ここに来て通過した面接は内定が出た前述の1回のみ)で、それが更なる不安を招くという負のスパイラルに突入してしまった。

そして成果が出ないままとうとう9月中旬、有給消化を残して会社を退社。
エージェントからの応募も振るわず、自己応募も振るわず、本来なら全く異なる手段を試すなり書籍などを参考に抜本的な改善をするなりすべきところだが、追い詰められた実質無職はどういう訳かマイナビ転職などのサイトを介さない『法人ホームページからの応募』を始めた。

 

違う、そうじゃない 

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……まさか、この発狂ムーブが明暗を分かつことになろうとは。

 


応募したのは文科省関連のとある特殊法人マイナビからの応募が春時点で締め切られていたものの、『規模』『待遇』『勤務地』『勤務内容』などあらゆる点で文句なしの職場だったため。ついホームページに飛んでみたところ『非常勤職員(契約職員)』での採用は行っているという状況だった。『正職員への登用制度』はあるものの詳細は不明、しかし実質無職にとっては藁にもすがりたい状況で、ダメ元で応募したところ妙にあっさり書類選考を通過。

 

そして2019年9月中旬、面接当日。
面接官は明らかに課長~部長レベルの方々が3人。だだっ広い部屋の中心に裁判の被告人のように座らされ、ガタガタと震えながら笑顔で質問に答えていく。


最後の逆質問で正職員への登用試験について訊ねたところ「公務員試験に近いものだが難易度・倍率共に高くなく、よほどのことがなければ大丈夫」という嬉しい情報が手に入ったが、面接の感触はいつも通り。また落ちた、9月内の転職さえできないのでは――と精神がどん底に落ち込んだ、その日の夕方。


合格、そして内定の通知が電話で舞い込んだ。


どうやら非常勤だから面接は1回だったらしい――だとか、そんなことを考えることもなく当日中に内定を承諾。
2019年9月中旬、虎賀れんと初の転職はギリギリの滑り込みセーフで終わりを告げたのであった。


結果、総応募数は約50社、書類選考通過は16社。(仕事や他面接との兼ね合いから)辞退せず受けた面接は8社。合格した面接=内定は2社。自身の低スペックを突きつけられる凄惨な結果だったが、終わりよければ全て良し。
転職エージェントの方々に一通り『活動終了』の旨と謝罪を伝え、「こんな自分でも必要としてくれる所があるのか……」と翌日までゆっくり感慨に耽りつつ、TSUTAYAに行き、恐竜戦隊ジュウレンジャーを見始めた。

 

 

ようやく戦いが終わった解放感に浸る中、不安がなかったと言えば嘘になる。ただ、この時は思っていたのだ。


面接官の言う通り『よほどのこと』がなければ大丈夫だろう、と……。



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