ウルトラマンZ『最後の勇者』でぼくらのエースが語った48年越しの真実について語りたい

 

本日放映されたウルトラマンZ 第19話『最後の勇者』見ましたか皆さん。

 

いやぁ素晴らしかったですね今回!!!!最高だった!!!!!ウルトラマンZで何回言ってるか分からないけど最高でしたね!!!!!!昭和2期のウルトラマンが大好きなんですよもう!!!辻本監督ありがとう!!!!根元歳三さんありがとう!!!!!!!!高峰圭二さん…………!!!!!ありがとうございます!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 

スゥ……(深呼吸)

 

 


今回のような“過去の主役ウルトラマンをフィーチャーしたエピソード”の歴史は古く、まるで主役であるかのような熱い演出が振る舞われたり、本編のエピローグになっていたりとベクトルは多種多様ながら、そのいずれもが多くのファンを魅了してきた。

 

過去作のファンは勿論、そのエピソードをきっかけに新規のファンが増えることも少なくなく、それこそ『ウルトラマンZ』をきっかけに『オーブ』『ジード』を視聴し虜になってしまう新規ファンが大量に生まれていることはその好例だ。これまでもそういったムーブメントを引き起こしてきた良質な客演エピソードの数々は、現在までの長きに渡ってウルトラマンシリーズが愛されている大きな要因の一つと言って差し支えないだろう。


そして今回の『最後の勇者』もまた、その例に漏れず『A』リアルタイム世代でない自分もボロボロと泣いてしまうくらいには素晴らしい客演回だった。

その“素晴らしい点”は挙げればキリがなく、それら全てについて小一時間ずつ語りたいのは山々なのだが、大きな所はエース専門家の方々に任せるとして、この記事では今回のとある台詞にスポットを当ててみたい。


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「どんな生き物も、攻撃を受ければ痛みを感じ、恐怖を覚え隙が生まれる。だが超獣はそんなものは感じない……!」


物語の流れとしては、その後の台詞と合わせて“ゼットに超獣の特性を伝え、容赦をせず畳み掛けるように激励する”台詞である。

 

ただこの台詞、『ウルトラマンエース』というヒーローを語る上であまりにも大きな意味を持っている爆弾、オタクらしく言うならば“エース村を消し飛ばす超時空消滅爆弾”だったのだ。

 


ウルトラマンエースは1972年に放送された『ウルトラマンA』の主役を飾ったヒーローで、ウルトラ6兄弟の1人として根強い人気を誇るウルトラマンだ。主人公の1人である北斗星司を演じたのは、今回もエースの声を演じてくださった高峰圭二氏。

 

そんな彼は他のウルトラ兄弟同様に今でも幅広い層から支持されているが、エースについては一部のファンからやや特殊な形で支持を受けている節がある。
その“支持”がこちら。

 

ギロチン王子 (ぎろちんおうじ)とは【ピクシブ百科事典】


要約すると、エースはその切って斬って伐りまくる異様に殺意の高いファイトぶりから“ギロチン王子”や“切り裂き魔”などの愛称(異名)で親しまれてもいるのだ。

参考までに、その一例がこちら。f:id:kogalent:20201031203801j:image

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(うわぁ…………)

 


とまあこのように“ギロチン王子”や“切り裂き魔”という呼称は誇張でも何でもなく、実際にエースがTV本編でぶった切った敵はなんと14体。エースの代名詞“メタリウム光線”で仕留めた敵が22体であることを考えるとこれがいかに異常な数かがよく分かる。
(ラスボスであるジャンボキングを仕留めたのも切断技というのだから驚きだ)

 

こうなった理由については諸説あるが、最も大きな理由としては“他ヒーローとの差別化”が挙げられるだろう。

 

ウルトラヒーローシリーズ 05 ウルトラマンエース

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『A』が放映された1972年は、あの初代『仮面ライダー』など多くのヒーロー番組が放送されていたヒーロー戦国時代。『A』はそれらに負けない魅力を備えたヒーロー番組として産み出された作品であり、“男女合体変身”や“怪獣を越えた超獣”など、作品に挑戦的な要素が多いのはそのためである。

 

そして当のエースにもまた他のヒーローに負けない個性と魅力が求められた結果、彼は『ウルトラマン』特有の魅力である“光線技”に長けた戦士となった。その技数はなんと40以上、しかもジャックのように武器を用いる訳でもなく己の身一つでこの数であり、結果彼は今も光の国で“光線技の名手”と讃えられている。

 

そんな“光線技の名手”ことウルトラマンエースだが、他ヒーローとの差別化だけでなく絵面のマンネリを打破する狙いもあってかその技は色も多彩、形も多彩なら、怪獣の仕留め方もまた多彩。中でもギロチン技は見た目も敵の仕留め方も他の技と根本的に異なるため印象に残りやすく、エースの背負った“他ヒーローとの差別化/マンネリ打破”という命題にうってつけだったためか、何度も形を変えて使われることになった。

 

……と、そういった背景から生まれたのがエースのギロチン技の数々。イカれたメンバー(ギロチン)を紹介するぜ!


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最もメジャーなギロチン技とされ、漫画『ULTRAMAN』でもエーススーツの技として採用された“バーチカルギロチン”。相手は死ぬ。


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ウルトラ兄弟のエールを受けて誕生した本編初のギロチン技であり、連続八つ裂き光輪というエグい技“ウルトラギロチン”。相手は死ぬ。


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最後にして最強の敵、ジャンボキングを屠った技“ギロチンショット”。相手は問答無用で死ぬ。

 

他にも『最後の勇者』でゼットに刺さらんとするバラバの剣を吹き飛ばしたX字の“サーキュラーギロチン”。敵の首を吹っ飛ばす、横一文字のカッター“ホリゾンタルギロチン”。多くのナイフ型光線で敵を切り裂く“マルチギロチン”。更に伝統の八つ裂き光輪こと“ウルトラスラッシュ”に、どこからともなく現れるシンプルな(のでかえって殺意が感じられる)剣“エースブレード”………………。

 

多いわ!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 

背景がどうあれ、前述の異様な撃破率に加えこれほどのバリエーションを誇るギロチン技は“光線技の名手”ことエースを語るにおいては欠かせないトピックであり、リアルタイム世代にしろ後続世代にしろ『A』を視聴したらこれらの技が印象に残るのは当然だ。

 

やがて時が経ち、そうした『A』ファンがウルトラを撮る側になった結果、エースが新たなギロチン伝説を刻んでいくのは自明の理であった。

ウルトラマンメビウス&ウルトラ兄弟 [DVD]

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平成における初の本格客演となった映画『ウルトラマンメビウス&ウルトラ兄弟』では強敵Uキラーザウルス・ネオを相手にウルトラギロチンを披露し、後年の映画『大決戦! 超ウルトラ8兄弟』『ウルトラ銀河伝説』では2年連続でバーチカルギロチンが登場。そしてエースがフィーチャーされた『ウルトラファイトビクトリー』ではバーチカルギロチンとウルトラギロチンが『A』当時の楽曲と共に使われてファンを湧かせた……と、平成における客演のおよそ半分かそれ以上はエースがギロチン技を用いているのである。みんなギロチン大好きかよ……(物騒)


また、映像作品外でもエースのギロチン旋風は止まらない。『ウルトラマンフェスティバル』などの舞台やゲーム作品でもエースはギロチン技を頻繁に使用しており、特にファン人気の高い伝説の作品『ウルトラマン Fighting Evolution 3』でのエースは必殺技として5つものギロチン技+エースブレードが使えるというファン感涙ものの仕様となっていた。そういうところだぞFighting Evolution。


こうしてウルトラマンエースは昭和から平成にかけて、長い長い期間をかけてギロチン使いとしてのアイデンティティーを構築していき、そこにニコニコ動画を初めとしたネットやSNSが拍車をかける形で、エースは“ギロチン王子”や“切り裂き魔”としての名声(?)を不動のものとしていくこととなった。

Twitterを中心に(なぜか)大人気となった同じ円谷発の特撮ヒーロー『レッドマン』が、怪獣を通り魔的に(主にナイフや槍といった武器で)仕留めていくことから“赤い通り魔”として話題になったことも無関係ではないだろう。

(ネットを中心に構築されたイメージにはゾフィーの“ファイヤーヘッド”など過剰にネタ寄りで好き嫌いが分かれるものも多いが、エースは本編時点で幾度となく殺意の高いファイトを展開しているからか“エース=ギロチン王子/切り裂き魔”はむしろ語り草として好意的に語られることの方が多い印象だ)

 

 

そして“エース=ギロチン王子/切り裂き魔”というイメージが定着して久しい令和の時代、まさかまさかのTVシリーズにエースが降臨したのが今回、ウルトラマンZ 第19話『最後の勇者』。

メビウス』44話以来実に13年振りの、しかも今年がアニバーサリーとなる他のウルトラマンを差し置いての客演に各所で話題となった本エピソードは、長らくニュージェネレーションシリーズのウルトラマンたちを支えてきた辻本監督×根元脚本の初タッグが遺憾無く力を発揮した傑作に仕上がっていた。f:id:kogalent:20201031205208j:image

敵は初の復活となる隠れた名超獣ことバラバ。『A』では放射能の雨というトンデモ武装を引っ提げエースを圧倒したが、今回は“ヤプールの怨念の集合体”という『A』後半の超獣やUキラーザウルスを思わせる設定で登場、ウインダムやキングジョーストレイジカスタムのみならず、現行の最強フォームことデルタライズクローを、異次元バリアという新兵器や鎌・鉄球・剣といった数々の武器を使いこなして完封してみせた(ラスボスを除くと、ニュージェネシリーズではファイブキング、グルジオレギーナといった準ラスボスクラスの怪獣しか成し遂げていない偉業?だ)。


そんなバラバに苦戦するゼットたちの前に、『A』本編のBGMを引っ提げて登場したぼくらのエース。新造されたのかいつも以上に美しいエースだったがその戦い方は健在で、サーキュラーギロチン、パンチレーザーに始まりバーチカルギロチン、ウルトラネオバリヤー、スラッシュ光線、メタリウム光線、タイマーショット、アロー光線、エースブレードにストップリング(こんな技あったっけ……)といった数々の光線技を披露し、超強化されたバラバを楽々圧倒してみせるレジェンドぶりを見せてくれた。格闘が妙に泥臭いのも実にエースらしい。

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そこに参戦するは“エースの力で変身する” “ギロチン技を使う” “レッドマンみたいな見た目” “よりにもよって槍使い”と謎の作為(粋な計らいとも)を感じてしょうがないウルトラマンゼット ベータスマッシュ。

 

エースはそんなゼットに助言を送り“ウルトラホールを持つ”という自身のポテンシャルに気付かせることで、まさかの合体技“スペースZ”を発動。劇場版のような特大演出で放たれたスペースZでバラバを撃破せしめ、最後にエースがゼットの“名付け親”だという、ウルトラの父の養子というエースの(半公式?)設定を思うと妄想が捗る関係性と、ゼットの名前に込められた願いが語られ〆。

 

……と、そんな一連の中でさりげなくエースが語ったのが、問題の「どんな生き物も、攻撃を受ければ痛みを感じ、恐怖を覚え隙が生まれる。だが超獣はそんなものは感じない……!」という台詞だ。


“ギロチン王子”というエースのアイデンティティーと、そこに至る流れを踏まえた上で改めてこの台詞を見てほしい。

そう、実はこの台詞によって“彼がなぜギロチン技を初めとする殺意の高い技で戦ってきたのか”という、誰もが漠然と「そういうものだ」と思っていた命題に、48年という長い年月を越えて、初めて公式からその理由が与えられたのである。


エース以外のウルトラマンたちが主に戦ってきた“怪獣”はただの生き物。だからこそウルトラマンたちは(一部例外もあったが)決して過剰に怪獣を叩きのめすことはなかった、というより“その必要がなかった”。

 

しかしエースが相手としていた“超獣”はヤプールの作り出した生物兵器、或いはその怨念が産み出した怪物であり、恐怖など感じない殺戮兵器。だからこそエースはギロチン技のような殺傷力の高い技を駆使して超獣を“確実に”葬り続け、いつしかそういった技を得意とする戦士になった。彼の過激な戦いはお遊びでも何でもなく、それこそがエースのウルトラ戦士としての使命そのものだったのだ。

 

漫画『ウルトラマンSTORY0』ではエースがギロチン技を産み出した経緯が語られたが、今回はそれ以上の“ウルトラマンエースアイデンティティー”そのものの理由が(後付けではあるが)明かされた。それも決してわざとらしくなく自然に、ウルトラマンZとしての流れに水を差すこともなく、更には“怪獣を倒すことへの向き合い方”という『Z』のテーマにもそれとなく触れる形で。

 

演出上の都合から与えられたギロチン技が番組の一つの目玉となり、ファンに愛される語り草に転化し、いつしかそれがアイデンティティーに昇華していったというウルトラマンエース48年の歴史。その歴史に対する公式からのアンサーが、この令和の世にウルトラマンエース/北斗星司こと高峰圭二氏の台詞というこの上ない最高の形で紡がれた。

たった1フレーズの台詞でしかないが、そのたった1フレーズによって、『ウルトラマンエース』という戦士はここに今一度完成したとさえ言って良いのではないだろうか。


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ヒーロー客演の最高傑作の一つとさえ称される『ウルトラマンメビウス』44話『エースの願い』は『ウルトラマンA』という作品、あるいは主人公こと北斗星司と南夕子にとっての完結編となっていた。それから13年経った『最後の勇者』において、エースは『ウルトラマンエース』という己の存在に一つの決着を見せてくれた。

 

それは前述の台詞による所がある……かもしれないが、やはりそれ以上に、己の平和への願いを託せる相手『ウルトラマンゼット』とのクロスタッチが何よりの証だろう。f:id:kogalent:20201031210321j:imagef:id:kogalent:20201031210552j:image

ヤプールという怨念との“終わりなき戦い”を背負い続け、ある種の象徴となってしまったウルトラマンエース。そんな『A』から『Z』の手に、平和への祈り、戦いの終結という願いは託された。

 

ヤプールとの因縁を背負いながら進む戦士。世界を担っていく新世代に平和への願いを伝え続ける勇者。50年もの長い時を越えて尚変わらぬ信念を持ち続けるヒーローであり、後輩ウルトラマンからは慕われ、ファンやスタッフからも愛され続ける“ぼくらのエース”。

そんな彼の願いを継ぐゼットがどこへ向かい誰と戦うのか、間もなく訪れるであろうクライマックスを心して見届けていきたい。


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