【感想 ダンガンロンパ無印】7年越しで原作ゲームに挑んだアニメ勢は推しが増えて絶望に暮れる

 

ダンガンロンパ1・2 Reload - PSVita

ダンガンロンパ1・2 Reload - PSVita

  • 発売日: 2013/10/10
  • メディア: Video Game
 

 


発売から幾年月、遂にクリアした『ダンガンロンパ1・2 Reload』。作品を終えて、ここまで絶大な「この感想を書き留めておかねばなるまい……!」という使命感と責任感に駆られる作品は、後にも先にもこのダンガンロンパシリーズぐらいなのでは、と思ったり。

 


今から7年も前(嘘でしょ?)になる2013年7月。アニメ『ダンガンロンパ 希望の学園と絶望の高校生 The Animation』が放映された。ストーリーの面白さに惹かれはしたものの、今以上にグロテスクな描写への耐性がなかった当時はあのピンク色の血さえ阿鼻叫喚モノで、そのため物語の記憶は“誰が死んで誰が生き残るか”程度しか残っていなかった。(ゲームをプレイするにあたって)最低の記憶の残り方に思わず頭を抱えた。

 

それから7年、グロテスク描写への耐性とそれなりの覚悟を持って挑んだことで、初めて『ダンガンロンパ』を存分に楽しめたと言えるのが今回の『ダンガンロンパ1・2 Reload』。以下はそんなオタクのコロシアイ生活体験記その1、『(無印)ダンガンロンパ』編になります。作品を知っている方向け+アニメ視聴済のためやや薄味の感想になっていますがご容赦を。

 

 

※以下、ネタバレ全開のため注意!

 

 

 

 

 

 


ダンガンロンパ 希望の学園と絶望の高校生】

 

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ダンガンロンパシリーズは“ハイスピード推理アクション”と銘打たれ、推理ゲームにアクション要素をはじめ様々なゲーム性が加わることで誕生した独自色の強い作品。本作はその1作目だが、とても初作とは思えぬ安定感を誇っており、洗練されたストーリーも相まって抜群の面白さを誇る傑作だ(VITAへの移植にあたって主にインターフェース面へのテコ入れが行われており、不評だった点もその多くが改善されているとのこと)。


その肝は何といっても隔離された学園内における“コロシアイ学園生活”を舞台に繰り広げられるスリルに満ちたストーリーと、各章クライマックスにて行われる“学級裁判”パートのため、上述の通りストーリーの大筋=誰が死に、誰が生き残るかを知っている私は、おそらくそこまでこのゲームを楽しむことはできないだろうとタカをくくっていた……のだが、その予想は1章で早々に覆されてしまう。f:id:kogalent:20200913183309j:image

実際にゲームをプレイして最も痛烈に感じたのは、“自分でプレイすること”と“外から見ている”ことがどれほど違うかということ。要はホラーゲームを自分自身でプレイする場合“感情移入”どころか“感覚移入”まで起こってしまうために、何倍も何十倍も怖くなるアレだ。そのため、アニメを見ていたとしても、ゲームをプレイすることで接する物語は肌触りが全くの別物なのだ。


そのことを今回、最初の殺人(舞園事件)から早速突き付けられることになった。実際に舞園と交流し、アニメでは分からない苗木と舞園のお互いに対する心情を知り、その上で彼女が無惨に命を散らす。この時点でアニメ以上のダメージを負っていたが、何よりも問題だったのは、その死体を“自分自身でまじまじと見つめて、調べる”行為が思っていたよりもずっと深々と心に突き刺さるものだったこと。結果、2つ目の事件が起こった時に心がポッキリ逝ってしまった。

 



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今回のプレイにあたっての最も大きな変化として挙げられるのが、「不二咲くんめっちゃ(可愛)いいやんけ!!!!」という真理に気付けたこと。アニメの時は全く気にならなかっただけに、7年という時間の長さを(色々な意味で)しみじみと実感するなど。

 

純真無垢な小動物系良心としての存在感、重いコンプレックス、“超高校級のプログラマー”らしいオタクぶり、分厚い殻に閉じ込められた彼なりの信念、それらに散りばめられた凄まじい数のギャップによる圧倒的可愛さなど、その魅力を挙げるとキリがない。

 

故に、ええ、死にましたよね……(筆者の心も)。

 

死ぬ、というか“無惨に殺される”ことを知っている上でキャラクターに惚れ込むことほど参ることはない。こんなに悲痛な気持ちで推しが増えるのは初めてだった。


だがそれは好機でもある。死ぬと分かっているからこそ通信簿(個別イベント)収集で早々に彼へ舵を切れる訳ですよ~~!!! などと息巻いたものの、後一歩という所でコンプリートならず死亡。ただでさえ“自分の推しの死体を何度も、まじまじと見なければならない”というショックが大きい上に、この末路を知っていながら交流を深めきれなかったというとんでもない敗北感が重なり、結果ゲームを放置。ふて寝……圧倒的ふて寝……!!

先輩プレイヤーのエールもあり1週間で立ち直れたものの、それがなければ本当にそこで終わっていた可能性さえある。推しがいるオタクはこういう時に弱いが、それでも推してしまうのがオタクの性なのだからしょうがない。辛い。

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しかし、そこから更に驚かされたのは、不二咲事件における学級裁判でのこと。あれだけ惚れ込んだ不二咲を殺した大和田が処刑されることの辛さもまた、アニメの時とは比較にならないものだったことだ。

 

死体に向き合うのもプレイヤー自身なら、犯人を指名すること=自分の仲間を殺すのもプレイヤー自身。彼らの希望を打ち砕き、死に追いやることの責任とその重みがそのままプレイヤーの肩に乗っているのである。ここで初めて、自分は苗木が味わっている残酷な現実にプレイヤーなりにしっかりと寄り添うことができたのだなと思い、血を吐いた。血を吐いて、それからこのゲームの素晴らしい(くらいに人の心をぐちゃぐちゃにするシナリオの)出来に心底ひれ伏した。

 

 

そんな不二咲の一件も含め、今回のプレイを通して味わった大きな感動の一つが「ダンガンロンパのストーリーはこんなにも良くできていたのか」と気付けたこと。『ダンガンロンパ』には、この手の推理ものでは欠かせない数々の奇抜な展開は元より、“キャラクターへの感情移入のさせ方”については特に他の追随を許さない圧倒的な魅力があると感じている。


というのも、ダンガンロンパは“多くのキャラクターが物語中に脱落していく”ので、それらのキャラクターに対する描写できる部分は否応なしに少なくなる。にも関わらず彼ら彼女らの死にはショックがなければいけないし、犯人に死を突き付ける(た)ことにも相応の躊躇いを生まれさせなければならない。つまりそれほどに深い感情移入をプレイヤーにさせなければならない。その上“過剰に特定個人を描写すると怪しまれる”というジンクスまで付いて回るがんじがらめぶり。自分がライターだったら匙を投げるか妥協するかの二択まっしぐらだ。f:id:kogalent:20200913185532j:image

しかしそこを妥協しないのがダンガンロンパチュートリアルボス的なポジションの桑田は(おそらく意図的に)感情移入をさせるような掘り下げや誘導がされないので例外だが他は違う。舞園は裁判の中でその隠されたキャラクター性が露になっていくし、不二咲は舞園が死んだことを受けて“一同の良心”的なポジションを早々に確立し、プレイヤーを惹き付ける。大和田はそんな不二咲と友情を深めていくが、当の彼こそが不二咲を殺めてしまう……。特に描写の手際の良さが際立つのは序盤で脱落するこの三人だが、その後も殺人の被害者や犯人となるキャラクターたちはいずれも(わざとらしくない程度に)絶妙な流れとタイミングを持って舞台から退いていくため、その掘り下げや関連するプレイヤー心理の誘導は見事の一言。


そんな、アニメ視聴時とは全く異なるストーリー体験と心を抉る物語に振り回されつつ、更なる二つの事件を乗り越えていく。その最後に待っていた不二咲の写し身“アルターエゴ”の突然の処刑という傷口に塩を塗りたくった後に中濃ソースをぶちまけるような、およそ人間の所業とは思えぬ最低最悪のサプライズ(絶対に許さない)に心を再び擦り潰されたことで再起に時間を取られるというアクシデントもあったが、この辺りになってくると流石に経験値が積まれたからか心も頑強になり、これまで目につかなかった“殺人トリック”周りの要素も冷静に振り返ることができるようになってくる。

 


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ダンガンロンパは“サイコポップ”を謳うだけあって、ビジュアルも世界観も現実と解離しすぎない程度に全力でズラした不可思議なものになっているが、殺人周りについては驚くほど生真面目で周到な仕上がりになっているように思う。いかにも“学園内で起こる殺人”風味でありながら、加害者性を逆転させることで意表を突いてくる桑田の殺人、殺人周りのトリックはオーソドックスなものの、不二咲の性別というゲームならではの派手な仕掛けによって難易度が大幅に向上する大和田の殺人。セレスの殺人以降も同じで、きちんと推理に挑もうにも(犯人は知ってるのに)トリックが解けず難儀することが多かった。そこ、ただプレイヤーが下手なだけとか言わない。


キャラクター描写も然り、破天荒なゲーム性ながらもこういった“丁寧にすべきところ”をある種極端なほど律儀に押さえている点は、ダンガンロンパというゲームが広く受け入れられている大きなポイントなのではないかと思う(それだけに、随所に突如挟まれるショッキングな展開が心をよりデタラメに抉り取っていくのだが)。

 


そうしてどんどん溜まっていく黒幕への怒りが爆発する頃合いで、まるでその感情の推移さえもスタッフの思うままだと言わんばかりに、最後の殺人では一気にストーリーの核心へ踏み込んでいく。個人的に『ダンガンロンパ』のストーリーで特に上手いのはこの最終章だと感じていて、これまでほとんど触れられることがなかった“16人目” “黒幕(モノクマ)の正体” “コロシアイ学園生活の真相” “霧切の正体“といった数々のトピックが満遍なく織り込まれた謎解きは“説明”感が0と言っていいほどに薄く、“真相を暴いていく楽しさ”が加わった分、むしろこれまでの推理で最もカタルシスに満ちたものだった。f:id:kogalent:20200913183856j:image

正体不明の被害者というまさかの切り口で展開される難事件を通して追い詰められる苗木と霧切、そこからの再起による逆転劇といった大筋は“これまで行ってきた裁判のアップグレード版”とも言える。その過程で徐々に全ての謎が解けていき、そのまま黒幕との決戦に突入するという流れには作中屈指の熱量があり、アニメの記憶がなければ……と凄まじい後悔に襲われた。


かくして迎えた最終決戦において、遂に明かされる苗木の真の存在意義。“超高校級の学級”という狼の群れに1人入ってしまった羊も同然の彼が、自分の唯一の取り柄としていた“前向きさ”を最強の武器として最後の絶望に立ち向かっていくクライマックス。皆の絶望をこれまで行ってきたコトダマアクションで論破していくという爽快さは、これまでの鬱憤を晴らすような痛快さに満ちており、ダンガンロンパという作品の本懐のようでもあった。

この“プレイしてきたゲーム体験”をメタ的に捉えて活用する手法は後発の傑作ゲーム『undertale』などにも通ずるものがあるが、『ダンガンロンパ』のクライマックスが持つハイテンションさには、元々このゲームが備えていた圧倒的なテンポ感もあって独自の熱量が感じられる。f:id:kogalent:20200913184013j:image

また、そんな苗木というキャラクターを語る上で欠かせないのが“プレイヤーの写し身”としての造形の素晴らしさだ。彼はその運で希望ヶ峰学園への入学を勝ち取った“超高校級の幸運”とされており、つまるところ単なる一般市民に過ぎない。彼はそういった自分の平凡さを気にしていたり、舞園に恋い焦がれたりと度々その“普通ぶり”が印象的に描かれることで、あくまで平凡な少年というキャラクター性をどこまでも貫いていく。


そんな彼がただ一点非凡であったのが“仲間の死を乗り越えず、引き擦っていく”ことができるほどに“強く前向きな心”を持っていたことだ。その一点が非凡で、かつその一点に苗木誠というキャラクターの力と魅力が集約されていることで、プレイヤーは彼に自身を投影させつつも、彼の道行きを見守りたい、応援していきたい、ついていきたいという気持ちに駆られる。彼がいつしか“超高校級”の面々の精神的な支柱のようになっていったのも、この点による所が大きいだろう。


だからこそ、苗木が自らの唯一の取り柄だとする“前向きさ”で皆を絶望から救っていき、その流れで彼の本当の“超高校級”が明かされるという終盤の流れには、彼と共に歩んできたプレイヤーならば手に汗を握らずにはいられない圧倒的な説得力がある。また、この“困難に折れず立ち向かう前向きさ”をこそ最高の武器なんだと肯定するストーリーは、どこかここまでプレイしたプレイヤーに対する熱いメッセージのようにも思える節がある(“Reload”のクリア後にプレイできるおまけモードにおいては、あるEDの台詞でやはり“プレイヤーのここまでの健闘に対する感謝”とも取れるものがあるので、これを少なからずスタッフからのメッセージ/作品テーマの一つと見るのは間違いではないだろう)。


激しい問答の末、打ち出される最後の言葉「希望は前に進むんだ!」はまさしく上述した苗木の在り方、そしてこのダンガンロンパの物語を象徴する一言で、最高の盛り上がりを持って黒幕を葬る一手になる。そうして、驚くほど爽やかな達成感のままに『ダンガンロンパ』の物語は幕を閉じる。

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陰鬱な世界観からは想像もできない、絶望的だが救いも感じられ“諦めない心こそが希望”/“希望があるから諦めずに前を向ける」を地で行くラストシーンは、エンディングとしてあまりにも美しかった。それはおそらく、苗木の前向きさと“皆の死を乗り越えず、引き擦っていく”という愚直なまでに真っ直ぐな歩みが手繰り寄せたグッドエンドであり、この美しいエンディングこそ『ダンガンロンパ』が本当に描きたかったものなのだろうと思わずにはいられない。

 



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こうして“ゲームとしての面白さ”という土台の上で展開するその緻密なストーリーの魅力を7年越しに痛感したのが、私の『(無印)ダンガンロンパ』体験でした。そして舞台は、完全初見となる“本番”こと『スーパーダンガンロンパ2』へ。こちらもネタバレ満載のため、閲覧にはご注意を……。

 

 


余談だが、上でも少し触れた『ダンガンロンパ1・2 Reload』での新規コンテンツであり、無印ダンガンロンパのおまけモードにあたる“スクールモード”では、所謂恋愛ゲームの要領で各キャラクターとの個別エンディングを見ることができるが、舞園、江ノ島(戦刃)、不二咲の3人については特にファン必見の内容に仕上がっているため、ダンガンロンパ無印のファンであるなら是非プレイを勧めたい。